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王国軍の目的。




「王国軍の目的がわかりました!」


 合流したエルは険しい表情を見せる。その表情はそれこそ王国軍の目的を物語っているも同然であり、ラウルも僅かに身構える。


「王国軍の目的は――殺戮です」

「……っ!」


 ラウルが感じた嫌な予感が、完全に当たっていた。

 『王国軍の目的に気付けなければ、村を守れない』――あまりにも的中していて、背筋に悪寒が走るほどだ。


「王国軍は、何故村を……」

「竜装王具です」


 躊躇うことなくエルはその言葉を口にする。


「リューネ殿が保有していた手甲と同様に、竜王装具に力を、呪いを纏わせるために……王国軍は、同胞を殺して呪いを高めるつもりです……!」


 エルの言葉にラウルは悲痛な表情を見せ、リューネは拳を握りしめた。


「……やっぱ人間は最低だな。戦争に勝つために、民を犠牲にするなんてよ……!」

「リューネ、落ち着け」

「落ち着けるか! 目の前の敵を殺すために、守るべき民を殺して! 最後に何が残るってんだ!!!」


 声を荒げるリューネを止める言葉をラウルは持ち合わせていない。叫び激昂するリューネは、歯を食いしばって咆え続ける。

 それは人間によって人間を奪われ、魔族によって魔族を奪われた――同胞殺しを見てきたリューネだからこその言葉。


「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! そんなにも勝ちたいか!? 守るものを殺してでも勝つことに何の意味がある!!!」

「……同感だ。敵を倒すために同胞を殺すのは、理解出来ない」

「王国軍の陣地は何処だ! 今すぐにでも突っ込んで全員ぶっ殺してやる!」

「……それは、まだ教えられません。ね、ラウル様?」


 リューネを諫めるようにエルが言葉を吐く。エルに詰め寄ろうとするリューネの肩を掴み、ラウルは辛そうな表情を浮かべる。


「なんでだよ! 向こうがこっちを殺しに来るなら、先に殺しても構わねえだろ!?」

「……それでは、王国軍にこちらを攻める理由を与えてしまう」

「そういうことよリューネ殿。奴らは『食料を用意出来ない反乱分子を殲滅』するつもりなのよ」

「……っ!」


 ギリ、とリューネが激情を込めながら歯を食いしばる。

 エルの言葉でラウルは王国軍の真意に気付いていた。

 要求に従えないことを、ジオードは「魔族に与する」と判断していた。

 それはつまり、求められた食料を用意出来なくても同じ判断を下される、と考えられる。


「幸いにも要求通り食料を確保することは出来る。そこはルイン殿が確約してくれた」

「でも、王国軍は素直に引き下がりはしないでしょう」

「そうだな。本来の目的が兵站を補充すること出ないのなら、次に何かしらの無理難題を押しつけてくる可能性の方が高い」


 ラウルは顎に手を当てて思考を巡らせる。

 考えるのだ。こちらから先に手を出せない以上、村を守るためにどうすればいいのか。


 ラウルは人となってから、非力な事を痛感した。自分が弱く、誰かが傍にいないとダメなのだと自覚した。

 だからこそ思考を走らせる。守るためにどうすればいいのか。

 今の自分に出来ることは、戦うことよりも考えることなのだから。


 すぐに答えを出せる訳ではない。思案するラウルの肩を、リューネが軽く小突いた。


「オレが一人で突っ込めばいい。オレは無関係な余所者だ。だから――」

「それは却下だ。リューネ、余はそなたをもう村の一員だと考えている」

「はぁ!?」

「ラウル様!?」

「ルイン殿とも約束したしな。お前一人に罪を被せてのうのうと過ごすことなど、最初から考えていない」


 リューネの提案は現状として一番わかりやすいものであった。

 王国軍とリューネをぶつけ、ラウルたちは知らぬ存ぜぬの一点張りをする。

 王国軍が襲われたことすら知らないのであれば、全ての矛先はリューネ一人に向けられる。


 だがその選択肢はラウルの中で最初からなかった。

 ラウルにとってはリューネももう村の一員なのだ。

 あれほど拒絶ばかりしていたリューネが、ルインとの約束を守ると宣言したから――ラウルとしては、リューネもまた守るべき一人となっている。


「……じゃあ、どうすんだよ」


 渋りつつも食い下がったリューネの態度にエルは違和感を抱いたが、思考を巡らせるラウルの邪魔をするわけにもいかないので言葉を飲み込んだ。


「王国軍が村を攻める理由がないとして――なら、奴らはどう目的を果たす?」


 ぶつぶつと一人言を繰り返すラウルは、ジオードの立場になって考える。

 王国軍が、同胞を殺す。それは決して表沙汰にしてはならないことである。

 そんなことが明るみになれば、王国を裏切る存在がいくらでも出てくる。


 だから、決してバレてはならない。

 つまり、目撃者がいないことが前提となる。

 その上で、真実を知る者は一人としていてはならない。


「領主にすら知られないように隠匿するのであれば……夜襲、が妥当だろう」

「……そうですね。陽の高い内では万が一が有り得ます」

「そしてタイミングだ。領主であるルイン殿に悟られる事を良しとしないのであれば……事態を乗り切った直後が妥当だろう」


 誰しも、越えなくてはならない山場を越えた瞬間には油断するものだ。

 村にとって乗り越えなくてはならない事態が解決したとあれば、確かに村は浮き足立つ。

 そこを一気呵成に強襲すれば、混乱に乗じて殲滅することも不可能ではない。


「日中の警戒はアインスたちに任せよう。夜襲の可能性が高い以上、戦力はそちらに割くべきだ」

「全部殺せばいいわけだな!」


 そして、ここからが肝心だとラウルは言葉を続ける。無視される形となったリューネは駄々っ子のように地団駄を踏むが、エルもそっと目を逸らした。


「……ジオードは、部隊のトップとして、少しばかりプライドが高いと感じた。故に、そこを利用するしかない」

「……どういうことだよ。全部殺しちまえば解決するだろ?」

「それでは憎しみの連鎖が続くだけだ。王国軍は更なる戦力を投入してくるだろうし……そうなった場合、村を守り切れない」


 あらゆる事態を想定しようとするラウルと、目の前の危険をとにかく処理しようとするリューネの意見は悉く噛み合わない。

 だが村を守るため、と言っている以上、リューネはラウルの言葉を待つしかない。


「奴らの竜装王具を、戦いの中で奪う。その上で、取引を持ちかける」

「同胞を手に掛けることを他の村に伝える、ということですね?」

「うむ。王国軍はそれを一番知られたくないはずだ。魔族との戦争を続ける以上、内部からの崩壊は絶対に避けるべきだからな」

「……そんな上手くいくわけねーだろ」


 ぼやくリューネに、ラウルは「だが」と否定の言葉を口にする。


「夜襲に対応し、竜王装具を奪うこと自体もかなりリスクがある。ならばそのリスクをとことん突き詰めようではないか。少なくとも、余たちの手で村を守れるなら」

「はぁ……。わかったよ」


 リューネは渋々頷き、エルはラウルの提案にうんうんと頷いた。

 村への帰路に付いた三人を見送るかの如く、青空を鳥が舞う。

 頬を撫でる柔らかな風と優しげな鳥の鳴き声に、ふとラウルは空を見上げた。


 自由に空を舞う鳥を見て、ラウルはかつての少女を思い出した。

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