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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第三章 王国の盾と英傑の碑
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二十一~現れし者。戦いは不毛なり~

 ガーナル平原の西。サーカムの地で行われているイグラルードとゴルダルートの戦は終局に向けて動きを加速している様に見える。


 始めに牙が現れた北側では、クローゼの名の元に彼の護衛隊が決死の遅延を行い、限界まで駆け抜けて後退を始めていた。少なからず、その数を減らし、獣装騎兵も相当数を天極の地へと送り込んでだった。


 次点の騎士 サンディ以下の彼らも、彼自身と半数近くを失いながら、王国騎士の矜持を全うしえた。そして、第十騎士団と諸侯軍の騎乗兵がその彼らを糾合して、奇襲の帝国軍と対峙している。


 三本の牙については、ギルベルトの落馬からラファエルが、開き直りの覚醒でレイナードを振り切って、二本の牙を何とか友軍に導いていた。


 ラファエル・ファング――彼の紋様の力は、大幅な身体強化になる。

 彼自身の思いで、単体部位の限定使用だったものを視覚から感覚へと使い、筋力に伝達する連鎖を具現化してギリギリを通り抜けていた。無論、彼も満身創痍なのは言うまでもない。


 その為、実質的に北側の脅威は落ち着いたと言えた。



 そして、王国軍左翼もヘルベルトの逆擊をくらいながらも、フィリップの絶え間ない伝令とノースフィールの私兵達の応変さによって、戦線の形を留めていた。

 また、王国第一軍団長がそちら側におり、振り向けた兵力も大半が追撃に追い付いていなかったのも幸いしていた。その為、第五第六の両軍の逆擊敗走による混乱の上であっても、再編成の受け皿は辛うじて繋がれているそんな感じにあった。



 もっとも動いたのは、言うまでもなく王国軍右翼である。戦線崩壊を見せた『牙』投入で致命的な結果も顔をのぞかせていたが、クローゼの『何でもアリ』によってそれを防いでいた。

 ここで、ザカリーがその力を見せて的確な指示が出来れば、或いはそのまま決着を見たかもしれない。


 ただ、クローゼの行動自体が両軍に取って想定外であり、彼の指揮能力以前の問題とも言える。仮に、状況を掌握したザカリーその手腕を発揮するとしても、不測をもたらすであろう彼に向けられた第八の牙(アハト・ファング)アルバン・ファング・ジーゲルは、クローゼの登場前に戦線をすり抜けていた。


 そして、クローゼはその事を知らない。


「クアナ。来い」


 クローゼを中心に、戦線の何割かが両軍共に思考停止を見せる中、クローゼはクアナを呼び寄せる。


「なになに?」


 ラーガラル最強の名を持つとは思えない感じで、クアナは剣獣に乗りクローゼの元に駆け寄る。その彼女に、クローゼは回復用の筒を手渡して握らせて親指を動かす仕草をした。


「こうだ。……これは、イーシュットに分かるか」


「なにこれ。すごいすごい。元気でるでる」


 戦場に似つかわしくないその光景に、帝国兵が動きを見せる。それに躊躇なくクローゼは竜硬弾を全開で放った。その到達地点ごと弾き飛ばすその魔力で、再び硬直を呼び込む。


 硬直の空白で、クアナがイーシュットに向かって走るのに合わせて、クローゼは帝国軍の方に向かって声を出した。


「死にたい奴からかかって来い――」


 皇帝の十三の牙(カイザー・ファング)第二の牙(ツヴァイト・ファング)第六の牙(ゼクスト・ファング)をいとも簡単に倒し、魔術なのか分からない威力で、一瞬で隊列を制圧して見せた彼の姿が帝国兵には魔王さながらに見えていた。


 それで、浮き足立つ帝国軍の一角が、徐々に橫陣で連なるに普及している様に見える。


 戦い……(いくさ)の素人であるクローゼも、この瞬間に何かしらの声を上げれば、戦局は動くのではないかと考えていた。

 そして、その声をあげようとして後方からの声に、意識をつかみ取られる。


「敵だ。軍団長を守れ」

「止めろ。敵は一人だぞ」

「護衛、何をしている」


 幾重かの断末魔と怒号。それを見たクローゼの目には、王国軍第七軍団長ザカリー・ウォッシュバーン伯爵が陣取る僅かに小高い場所に、駆け上った騎影が一騎。明らかに『牙』と思われる様相があった。


 ――その辺だって聞いてだけど、叫んだらばれるだろ。飛ぶか。


「戦いはこれからだ。皇帝陛下の御前だぞ。怯むな――かかれ」


 クローゼの思考の瞬間に、この場が戦場であると指揮官らしき男が叫んで、クローゼの呪縛は綻びを見せる。

 そして、小高い場所で断続的な叫びが響きわたった。


 ――僅かな時間と空気が流れて、その場から駆け抜ける様に、先ほど騎兵が飛び出していった――


「皇帝陛下の命により、敵将は討ち取った。後は烏合なり――」


 追撃の騎兵の速度の倍はあるかに見える速度で、南に向かう、その『牙』らしきは声をあげた。

 それに、呼応して動き出した帝国軍により、クローゼの呪縛は完全に消滅する。竜硬弾の衝撃では止まらぬと、彼は二度のそれで理解した。


 各所で、勢いを増して帝国軍の衝撃が当たり、王国軍はじりじりと下がり始める。クローゼ自身は、何とかその場に留まっていたが、半ば思考停止になっている様にみえた。


 剣獣の咆哮で、帝国軍自体が徒歩兵力に移行していた。それをザカリーが、騎兵の突撃を巧みに操り止めていたのだ。そのたがが外れて、ノースフィールの私兵達の穴埋めも間に合わなくなって来ている。


 その状況でクローゼは、孤立を避ける為にやむなく後ろに下がっていた。恐らく、南側の戦線を越えて戻るつもりの牙らしきを見ながらだった。


 ――マジか。どうする。考えろ。考えろ……


 走りながら、クローゼの思考は叫ぶに至る。腹に力を込めて魔力を合せて絞り出すように声を出す。


「踏み留まれ――それでも、王国軍の精兵か――オーウェン殿下の軍旗を汚すな――」


 その言葉と共に装填済みの竜硬弾を全力で、残らず撃ち込んでいった。――既に、後先考える余裕はないような雰囲気になる。

 響きわたるクローゼの声に、弾き飛ばされた帝国兵の呻きと叫び。それで、帝国軍の流れを一旦止めた。


 その瞬間にクローゼは、逃げる騎馬を殺意の目で確認する。遠くなる騎兵の前方に、十数騎の騎兵をクローゼは見つけた。見るからに、黒い軍装の一団だった。


 ――援軍、なのか。展開があれだが助かった。


 しかし、期待とは裏腹に後続の気配はない。派手にやったお陰でクローゼ自身の辺りには、それを見るのに遮る物は無かったが……。



 唐突に現れた黒い軍装を『牙』と思われるそれは、行き駆けの駄賃とばかりに標的と定めた様に見えた。声を届かせるか、とクローゼは迷う仕草を見せる。そこで、彼は自身の足元で地面が弾けるのを感じた。


 ――合図か? 今は戻れないだろ。こっちに撃ったなら、そうだろうけど。


 明らかにその位置。待機状態(アイドリング)のクローゼのそこに到達出来るのは、竜硬弾である。その為の黒の六循(クロージュ)であった。

 そして、この距離はパトリックに持たせたそれになる。「ヤバそうなのが来たら撃て……どっちかは任せる」の流れで、それがクローゼにきたと言う事だった。


「クローゼ。真ん中、やばいやばい。書いてある」


 そこに、イシュットの指示で、王国軍が崩れそうな所の帝国軍を引っ掻き回していたクアナが、猛然とクローゼに近付いて唐突にそういった。

 そして、クローゼは何となく予想して、クアナの言葉の続き「ランガーよめるよめる」で理解する。


 ――ジーアさん。ランガーの文字も分かるのか……でも……カレンが?……えっ……マジか……。


 僅かな時間だった。思考が追い付いていないクローゼは、ハッとした感じで先ほど一団を見る。そこには、斬擊を諸に受けて馬上から叩き落とされるあの牙が見えた。


 ――はっ? ……あっ。……師匠。


 遠目から近付いてくるその雰囲気は、彼の剣の師ジワルド・ファーヴル客子爵のそれであった。

 その瞬間、クローゼは何かを思い付いて、そのまま声を出した。全体に響きかせるそのつもりで。


「王国軍右翼。全軍聞け――クローゼ・ベルグ(・・・)の名において、これより右翼はヴァンダリアが指揮とる。黒装――ヴァンダリアの軍装に従え。異論は認めん。責任は俺が取る――」


 混乱の中で突然の横暴。……だが、ランガー達少数の咆哮に続き第四軍は呼応した。届いた声の場所だけでも応の声が響く。勿論、あの走破の先頭にいたのが、クローゼ・ベルグだと広まっていた。


 近付いてくる一団と開いた穴を埋める様に集まる両軍。当然、指揮官然とした者もクローゼに集まってきた。


「唐突な言。如何にヴァンダリアとは言え……」

「クローゼ・ベルグ殿のお名前は……」

「突然、大軍の指揮と言われてもまだお若い……」


 その最中にジワルドはやってきた。そして、それに続く一団の中には、ジルクドヴルムで見た老師達の顔もみえる。


「なかなか、大きなお声で。本軍は大軍ゆえに足が遅く、老体がうずきましたので、一足先に」


 クローゼの満面の笑みとも取れる表情と「助かりました」の言葉に、ジワルドはそう答えた。

 そのまま、クローゼは思い付いたまま「ヴァンダリアとして、指揮を頼みたい」と告げていた。


「些か、急な事で。ですがそれは、戦場を預かるヴァンダリアとして、クローゼ殿の命ですかな」


「当主様には許可を……時間が……頼みます」


「位禄を賜る身。主命ならですが。そちらの方々か御納得致しておりませんようで……」


 ジワルドは柔な物腰に鋭い眼光で、そこに集まる者を軽く見ていた。先ほどの行き駆けの駄賃にされた牙に本陣を蹂躙された軍監と思われる者もいた。


 僅かに、年配の者が彼に気が付く。


「ジワルド・ファーヴル……殿ですか」


 その言葉に、畳み掛ける様にクローゼは周りに押し付けて、視界に入る位置にいたイーシュットとクアナに声だす。


「俺の剣の師だ。俺より強い。さっきの見ただろ。あれも牙だ。イーシュット、手助けしてくれ。真ん中がやばいやばいだ。だな、クアナ」


「そう、やばいやばい。書いてある」


 怒号と金属音が続いていたが、クローゼはジワルドに一礼して、自らの意識に集中しユーリと回った陣地を頭に描いて、魔装具に魔力を合わせるイメージをしていた。


「展開……同調――」


 そして有無を言わさず、転位型魔装具を起動する。


 そう、ここからは若干確認出来ない。『やばいやばい』な中央に飛ぶ為にであった。


 ジーアの気転。確認したのはラグーンであるが、それは何であったのか――単刀直入に言えば、究極の牙(エントリヒ・ファング)フリートヘルム・ファング・レーヴァンが現れたと言う事になる。


 一連の流れでカレンが、ディートハルトの力も技術も矜持も自信も誇りも……剣すら叩き折り。シオンが、ギュンターを騎乗戦闘の技術で凌駕した場面で、その男は唐突に現れ、カレンの最後の剣に彼自身のそれを合わせた。


「その辺りにして頂きましょうか」


 気配も魔力の流れもなく。文字通り突然現れたそれに、カレンは驚愕の表情で思わず距離を取る様に飛び退く。それを見てもフリートヘルムは、涼しい顔で白髪を風に揺らしていた。


「そんなに、驚かなくても良いでしょう。ギュンター。ディートハルト殿を後方へ。貴方は、馬に乗ったままではその女性にはかなわないでしょう。後は私が引き受けました」


 その言葉に、シオンの純白の閃光が合わさる。鋭く伸びた光の刃を、フリートヘルムは避ける事なく受けたが……彼の体を突き抜けた。


 シオンの放ったのは、慈愛なる刃アフェクションブレイド――所謂(いわゆる)愛である。

 剣技に治癒や回復の真力をのせて放つ。彼女独自の物だった。――生かしなから殺す――カレンに言わせるとよく分からない『駄目』となる。


「幻影か?」


 シオンの呟きに、カレンは竜硬弾を放つ――だが、当たり前の様にそれは突き抜けて……特有の魔力をもぎ取る揺らぎすらなかった。


 ただ、突き抜けたそこをフリートヘルムは軽く払う仕草を見せる。それは、あたかもそこに実体があると見せている様であった。


 シオンの意識がその白髪にいった流れで、ギュンターが死に体の様相のディートハルトに近付く。 そして「フリートヘルム殿頼みます」の言葉を残して、ディートハルトを連れて後方に下がった。


 座して見ていた訳ではないが、その動きで、カレンはフリートヘルムとの距離詰めて神を切り裂く剣(ゴッドスレイヤー)デュールヴァルドを奮う。

 あわせた剣は、弱くは無いがディートハルトの方が格段に……であった。


 そして、それが証明される様に、カレン剣擊がフリートヘルムを捉える。

 しかし、その剣筋も手応えなくすり抜けて、カレンが一瞬のずれを見せる。そこに、フリートヘルムの斬擊が襲い、彼女は脇腹にそれをもろに受けて――飛ばされて転がり、距離を伸ばして片膝をつき止まった。


 そして彼女はフリートヘルムを見やった。


「ほお、なかなか丈夫ですね」


 フリートヘルムの言葉にあわせて、カレンの口から鮮血が(ほとばし)る。


 ――折れたか。


 黒の六循(クロージュ)の成せる技か切れはしなかった。ただ、衝撃はそのままカレンを撃ち抜く。その状況に、簡単なカレンの思考がのって、シオンの真力がカレンを包み……

 


 ……シオンの支援を受けて、時間の経過と共にカレンが何度かその繰り返しを見せる。その都度彼女は、激痛を甘受し……手詰まりの雰囲気が流れて来ていた。


 その時だった。絶妙な位置に魔方陣が展開してクローゼが現れる。ある種、幻想的な雰囲気で、彼は周り状況を確認するかの様に首を動かして見せた。


 その流れる視界には、片膝をついて兜から露になる美しいラインが、真紅の黒の六循(クロージュ)と同化して赤い仮面に見えるカレン。そして、気高さを曇らせる様な、焦りの表情を見せるシオンの姿。


 それに笑みを浮かべる、優男の様相な白い男が見えていた。


 ――両軍の決戦兵力。恐らく双方共に最精鋭の陣地がその両側あった。その場の光景になる――


 ゆっくりとしたその動きで、クローゼはそれを確認して僅かに息を吐いた。そして、帯剣のままの双剣に手をかけて、竜硬弾を交換する動きをした。


「これは、これは。ヴァン――」


 ――フリートヘルムの言葉の途中で、クローゼは双剣の片方を抜いて竜硬弾を全開で放った。魔力の乗った弾道の衝撃がフリートヘルムに届き、ノイズが入る様に姿がずれて通り過ぎていった。


 冷静な顔でそれを見つめて、クローゼは声出す。


「カレン。シオン。殿下の両翼に戻れ。前座は俺が引き受ける」


「クローゼ。本当にすり抜ける。剣も魔力も真力……竜硬弾すら効かない。幻影なのではと思わずには」


「クローゼ・ベルグ。打つ手がない。いくら貴方でも……」


 カレンとシオンの声にクローゼは笑顔を向けて軽い感じて声をかけた。


「幻影なら見えないよ。それに、眷属神倒したんだぞ俺は。と言うか二人にそんな顔させる奴。許せる訳ないだろう。絶対倒す……」


 会話の途中で魔方陣の煌めきが表れる。フリートヘルムの斬擊がクローゼを襲っていた。


「うぜぇな。こっちの話がまだだ。黙ってろ」


 フリートヘルムの斬擊に魔方陣が展開した。対物衝撃盾(シールド)の盾である。話の途中だの流れは、ヴォルグの時の様であった。

 だが、受けたクローゼは話もしていないフリートヘルムに『黙れ』と言って二の句も制して見せる。


「何を小賢しい――」


「黙れ。と。言った。底が見えるぞ。牙だかなんだか知らんが、まとめて三匹瞬殺して来たばかりだ。格好つける時間が欲しいなら、黙ってろ」


 微かにフリートヘルムの表情が歪で見える。この時のクローゼは、魔王の前に飛び出した冷静で怒り心頭な心境だと思われる。ただ、『三匹』については、正確な所、その内の1人は彼の師匠が瞬殺したのだが。


「とりあえず戻れ。あれを倒せば終わりだ。こんなの無理に相手する必要はない。それに俺が凸ピンで倒す」


 そう彼女達に言って、クローゼは帝国軍の軍旗を指さして笑顔を向けた。最後の言葉が伝わっていたか分からないが、二人とも納得の表情をして動き出していた。


「勝手な事を言わないで貰おうか」


 フリートヘルムの剣に煌めきが通り、彼女達に狙いを定めた様に見えた。それに、クローゼは魔量吸収(アブソーバ)をあわせる。魔方陣に吸い込まれるその魔力の刃に、フリートヘルムは怪訝な顔を向ける。


「やはり、ヴァンダリアの魔術師ですか」


「どうでも良いわ」


 その言葉と共に、クローゼは空いていた片手で、発光筒を取り出し投げつける。そして、水平展開する空間防護(スペース)をフリートヘルムの周りにばらまいた。

 投げられた筒に、フリートヘルムが一瞬気を取られる。そして、次の自身の視線で、クローゼが目を閉じているのが彼に入った。


「何をして――」


 言葉の途中で閃光が表れて、フリートヘルムは思わず片手て眼を覆い――微かに後ろに飛んだ。彼は瞬間的で僅かな鮮血の後に水平の空間防護(スペース)をすり抜ける。


「血出てるぞ。――壊れずに残ってるって、どんなペテンだよ」


 ばらまいた空間防護(スペース)は、クローゼ自身で分かる。当たり前であるが、自分の魔力なのだからだ。出した言葉のそのままで、黒い爆裂の筒を取り無造作に投げつけた。


 かわす勢いのフリートヘルムの近くで、それは破裂する。榴弾を模して、トラストに作らせた『黒』――爆裂の筒――は初見のフリートヘルムには分からない。


 破片と爆風がフリートヘルムを襲い――僅かにダメージを与えたかにみえた。だだ、僅かのずれでそれもすり抜ける。フリートヘルムの表情に困惑が見えて、クローゼの表情が崩れる


「何だ。当たるじゃないか。それで、ネタ切れか」


 表情はあれ。あくまでも煽る流れ。カレンを追い込んだ目の前の奴が弱い訳がないのは、クローゼ自身がよく分かっていた。


 ――空間防護(スペース)すり抜けるのかよ。何だ……榴弾だぞ……マジか、どんな力だよ。


 クローゼ自身の力は、自分が臆病であるが為に選択したら訳ではない。しかし、それに頼っている自分はきっと臆病なのだと……その自覚があった。その自覚が毎朝剣を振らせて、勝てぬと分かっていてもレイナードと試合う事をさせている。


 フリートヘルムにも、その力に自信があったのだろう。それに、僅か……微々たる陰りがさした。この事実に、彼の表情が微妙になるのをクローゼは見ていた……



 ……連続の盾魔方陣の輝きと斬擊を素通りさせる不毛な展開が僅かに流れて、両軍の視線に困惑を誘っていた。――呆然と――何が起こっているの分からない微妙な距離感である。


 ――ただ一人を除いては――


「終わらんぞ」


「奇妙な魔術を使うのですね」


「お互い様だろ……お前のは魔術じゃないんだろうがな」


 不毛な泥試合の隙間の会話。クローゼはその力が何かを考えていた。


 ――攻撃は物理。剣技も魔力で瞬間的には当たる。まあ、テレーゼがべた褒めのも分かる。カレンが、かすりもしないなんて……何て言ってたあの子……何かないか、思い出せ俺……思い出せ。あっ、違うか ……階層が違う……レベルが違うのかと思ってたけど、本当に違うのか……いや、でもそこにいる……。


「何を難しい顔をしているのですか。……そろそろ魔量がつきた。と言う辺りでしょうか」


「悪いが、魔力魔量は魔王級だからな。戦が終わるまで処か援軍がくるまで持つな。そしたらこっちの勝ちだ」


 クローゼの言葉には、フリートヘルムは表情を変えなかった。そして、彼が言葉を出す前にクローゼが呟く。


「ペテン師は何処からきた。召喚者か何か?」


「ペテンとは何か分からないが、私はフリートヘルム・ファング・レーヴァンだ。それに、召喚者などではない。竜男爵(フライヘルヴルム)だったかな。君は召喚者なのか?」


「嘘つき。紛い物。……詐欺師。騙す奴だな。……お前の事だよ」


 その言葉に、フリートヘルムが間合いを詰める。それはクローゼ自身もする防御無視の攻撃。互いの能力が成せる技だった。


 ――攻撃の時は実体だろ。本とに凸ピンしてやる。


 考えた挙げ句……完全無考のノープランになる。実に彼らしい。そう、クローゼのままであった。



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