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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
序章 王国の盾と記憶の点
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八~魔導技師~

 意図して天なる・が、似せた世界を作った訳ではない。ただ、結果的に物語の舞台が『剣と魔法に人と魔の世界』になったと言える。


 クローゼである彼は、剣を持つ手を才能によるでなく、継続の先に見い出した。そして、もう一つ魔法は何れになるだろうか? 『彼の世界』には無かった『魔術』をである。


 しかし、自身の『魔術の適正』が残念なのを、クローゼは理解していた。クローゼである彼になる前の『クローゼ』はである。





 目的の建屋に歩き、奥と言われた何時もの場所に向かう。工房と呼ばれる建物は、どちらか言えば魔術師というより、職人のそれに見える。

 歩き行く先には、背を向けた凡そ魔術師とは思えない格好をした、人物が見えてきた。


 彼は、俺の方を振り向かず、部屋の中空を『遅いぞ』言わんばかりに指差している。

 指し示された先には、空中に浮いた羊皮紙の巻物が二本、縦方向に立ち回転していた。


 その様子で、口元が僅かに緩むのが自分でも分かる。


 ――そんなにあからさまな感じ、流石に見えてますよ。


「申し訳ありません。ありがとうございます」


 背中が、態度と裏腹な雰囲気の彼に、無難な感じで言葉を掛ける。

 その声に「やっとか」と腰を上げて、彼は俺の方に振り返った。壮年を少し過ぎた感じの、いたって普通の中年男性がそこにいる。


「アレックスに調整させた。後は努力しろ」

「御手数掛けました」


「礼なら弟子に言え」


「弟子に」……導師は俺の前だけ、弟子であるアレックスの名前を呼ぶ。本人を呼ぶ時も、例えばアリッサなど他の人が居るときは弟子という。


 ――何故かわからないが、そう言うことらしい。


 アレックス本人に聞いても、名前で呼ばれる事はないそうだ。特に気にならないから、理由は聞かないらしい。


 個人的には気になるので、聞きたいが、取り敢えずやめておこう。と、どうでも良い思考を止め、巻物を手に取る。そのまま一つを開き、前回との違いを確認して「なるほど」呟いてみた。


 それで、視線を感じ顔を上げる。


 顔を上げた先には、『どうだ?』という導師の顔が見えた。明らかに『どんな組み方がしてあるか分かるか?』 と言わんばかりなのは、毎度の事だ。


 毎度もだけれど、一応、頼んでおいた物は所謂(いわゆる)魔動術式――魔法呪文と言うものになる。


 ただ、汎用的な呪文ではなく、個人用に調整された物で、これに関してはなんとなく分かる。以前の俺が骨格を作ったからだ。


 俺自身も魔法――魔動術式について調べるのに、飽きるほどみたから、この二つに関しては解る。


 ――正式には、魔体流動展開術式と言うけれど。


 大体、術式の組み上げが理解出来ないと、使えない物ではないから、それなりなのだけど。

 でも、まあ、初めからこの術式を組むのは、無理だと思う。


 ――勿論、今の俺がだけれど。


 そんな事を考えて、導師の顔を見ながら脇に挟んだままの本を軽く指し、「元々はこれでしたから」と言ってみた。それ聞いて導師は「まあ、そうだな」という顔をする。


 可笑しな話、自分自身について勉強を始めた頃は、流石に魔法というものが何か分からなかった。


 でも、今は知識としてはある。一般的に魔術と呼ばれる魔法は、各個人が保有する魔力と魔量の流れ、『魔体流動』を魔動術式に合わせて動かし、呪文によって起動する。


 簡単に言うと、例えば、天――頭の上の方の力と地――足の裏あたりの力を結び……という感じに魔力と魔量を流動させる。それに続いて、起動呪文で魔法を発動する。


 単純に魔体流動をイメージするのに、歌や詩等の言葉に乗せて行うのが始まりだった。


 ――そう書いてあったのを、読んだ『だけ』だけど。まあ、良いけれど。


 一応、呪文が複雑化してくるにつれ、言葉の数が膨大になる。その為、簡略化された図形や文字に数字等の組合せで『魔体流動の動き』を表した魔動術式が作られた。――これは、女史だったか。


 当たり前だけど、全ての人が魔術師になれる訳ではない。各人の魔体流動の系統によって、発動できる魔法の適正があるし、そもそも絶対量が不足していたらそれ以前の問題だ。

 この魔動術式も魔装具込みで調整されたもので、単純に魔法といいきれない。


「これだけは、とりあえず分かります」

「初めに、それを見せられたときは変人かと思ったものだ」


 クローゼの手帳と、俺が呼んでいる本を、導師はこっちの脇から抜き取り、ペラペラと頁を捲っていく。

 正直、魔装技師でも悲鳴を上げる様な、複雑化した術式を組み上げる貴方に、それは言われたくない所だ。でも、確かに初めはそう思った。


「私も、別の意味でそう思いました」

「以前の君は、独自の視点でそこに行きつくのは変人だと思えるが、それは誉め言葉だ」


 流れの会話で『変人』の言葉が、悪意があるようには見えない。そんな感じの導師は、そう言うと続けざまに俺の話をする。


「それで、今の君を客観的に見て、それに、別の視点を織り込めるのも正に変人だ」


 変人は誉め言葉ではないと思うが、普段は寡黙な導師は、クローゼの手帳が絡むと、毒舌になりがちで舌の滑りよくなる。


「誉め言葉と受け取っておきます」


 嫌味ではなくそう言うと、導師もそう受け取らなかった様で、本を俺の方に差し出してきた。

 手に持った物を、一端近くの机の上に置き、差し出されたそれを手に取る。


「度合いで言えば、今の方が遥かに変人だがな」


 そんな素振りは見せないが、世間の評価を意外と気にしているのも知れない。どうしても、俺を変人認定したい様にみえる。


「自分でも、若干自覚はあったりもします」


 何と無く、嬉しそうな導師の顔が目に入ってくる。まあ、追撃をかわす気もないから、取り敢えず、同意しておこう。

 それが伝わったのか、導師はおもむろに振り向き元の作業戻って行った。


 それを確認して、室内を見回していく。とても魔法が主であるとは思えない。


 ――あの道具箱は、何が入っているんだろう。


 そんな場所で目立った物を言うと、見覚えのある鎧が机の上の置かれていた。あの時に着けていた鎧だった。ただ、開いていた穴が、三つ程増えている。


 その奥に、毎回目がいく例のあれ。彼に言わせると『只の棒』らしい、俺を貫いた『槍』がある。

 床に画かれた魔方陣の中心に、これもまた、縦方向に立ち回転している。


 結局、何か分からないので、便宜上槍と呼んでいる。竜水晶出来た物で、単一構造の最小結晶でかなりの強度を持つらしい。


 ――普通に『竜水晶』まあ、槍と言ってしまうともう槍にしか見えない。


 その槍で特筆するのは、魔力魔量無しという事だそうだ。よく分からないので、あれだけど。要するに『存在自体があり得ない』と導師に言われた。


 魔装具や魔動器に使う竜水晶は、何らかの形で魔力や魔量を失うと炭化してしまう。

 なので、魔力製錬の技術で、その物を造る事は可能だけど、魔力魔量無しでは出来ない。だから、それ意外の方法で作られたらしい。


 俺が槍を見つめる視線に、導師が気付いたのか、こちらに顔を向けて「気になるか?」と問掛けを向けてきた。それに、そのまま答えてみる。


「ええ、それはもう」

「只の棒だぞ」


 素っ気ない言葉の導師は、初めにそれを持ち込んだ時に、事情を聞いて、自分が対魔力防護を施したミスリル製の鎧が、そうなった事に驚きを隠さなかった。


 当然、導師も持ちうる知識で、調べ倒した結果が只の棒という事になる。


 ただし、強力な魔動術式を組み込んだ、高魔力の魔方陣を無力化出来る槍が、只の棒とは、皮肉を通り越して物凄くやばい代物(しろもの)な気がする。


「魔王も殺せるぞ」


 説明の後、笑いながら簡単にそう言った導師の顔が、少し怖かったのを覚えている。

 まあ、具体的な説明は、流石にアレックスがしてくれたのだけど……。


 でも、『只の棒』に至るまでには、鎧に穴が三つ程増えてはいる。それについては、彼も教えてくれなかった。


 ――勿論本人にも聞けていない。


「導師にでも、出来ない物と云われれば、流石に気になりますよ」


 会話の流れで、敢えてそう言ってみる。この言葉を口にするのも、初めてではないし、踏み込んではいけない領域な気もする。


 でも、何ヵ月も通いつめて「ぎりぎりの線」は理解したつもりだ。単純に、空っぽの状態から今に至るので、好奇心が先に出る。


「煽っても仕方ないぞ」


 俺の言葉に、導師はそう言って立ち上がり、棚から小さくない袋を手に取り俺の方に投げてきた。

 その軌道から、軽くは無いように見えるその袋を、胸の辺りで受け止めた。


 ――重たい。なんだこれ。


「なんですか? 」

「見てみろ」


 思わず出た問いに、彼は即答を返してくる。そんなやり取りで、中から取り出したものは,親指の先程の大きさの黒く輝いた丸い玉だった。


「これは?」

「魔力魔量なし、あれと同じ竜水晶だ」


 軽く目眩がする。『どれだけ負けず嫌いなんだ』と、どや顔する導師を見る。


 ――そんな風になるんだこの人。


 と、そんな驚きを、導師に向けていた気がする。


 多分、動揺した顔をしていたのだろう。導師は、言葉を出せない俺に近付いてきた。そして、何と無く俺が持つ袋から、それを取り出して、上に軽く投げて呪文を唱えていく。


 その呟きの様な呪文で、黒く小さな竜水晶が空中で回転しながら風を巻き込み、一旦停止したかと思うと弾かれる様に、高速であの鎧に向けて飛び出していった。


「ガッ、カリーン、カランカランカラン……」


 響く感じは、黒い玉が直線的に飛翔し、鎧の表面側を貫通して、胴体の内部で跳ね返り大きな音をたてたそれだった。


 ――うぉっ。何だそれ。


 と、俺は驚きを隠せなかった。



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