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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第三章 王国の盾と英傑の碑
83/204

五~帝国の視点…皇帝の牙~

ありがとうごさいます。

伏線回収した感じです。……そんな風でよろしくお願いします。


誤字脱字失礼します。

 この世界において、同時期に派生した人智と魔解はその隔てを挟んでも、どちらかが、極端に力付けて偏る事はない。それは、・を支点に、天秤でバランスをとる様にその均衡を保つ。


 天獄に封じられたと魔解(りかい)する側から魔王が降臨した時に――天極と人智(さとる)側に勇者が現れる事を考えれば、自ずと分かるだろう。


 その点を踏まえて、人地で成した国家も、根幹をなす人智の派生と見れば、ドラゴニアードをなす国々の間でも力の偏りはないといえる。――ただ、特異なる者を除けばではある。


 そんな観点から、綴られる物語の視点と時間を、暫し移して見る。そこは、クローゼとは反対側の視線になった……


 ゴルダルード帝国領――要塞都市ヨルグガルデ。

 その一室で、彼は少なくない覇気を纏い、背もたれに体を預けていた。その男の名は、ライムント・ファング・ゴルダルード――ゴルダルード帝国の皇帝である。


 彼は、あの時に見たイグラルード王国――それが持つ王国の盾――の力を欲して、自身の帝国に、それを得るに足る物を求めた。その結果、五年余の年月を費やして、自らに力を掴む牙を手に入れたのである。

 その室内の差ほど明るくない空間に、ライムントに向かい立つ男に声をかけた。


「かの者の縁……あの男の近況は入っておるか?」


「ユーベンから戻り、更に南方へ赴いた後……あの報告以後は、所在が定まらぬとライナルト・クラッセン伯から。……最近は、暁の冒険者商会なる場所に、姿を現さぬとの事です。だだ、何やら画策しておるとの事の由」


 ライムントは机を挟み、対面する男、グスタフ・レムケ宮中伯のそれを聞いていた。――あの男とは勿論、クローゼの事である。


「よもや、魔王の元から戻るとは。いや、有り得ぬ事ではないな。ところで、ヴァリアントだったかそちらは、どうなっている」


「冒険者の体で、竜男爵(フライヘルヴルム)の所領は存分にではありますが、そちら以前として定着が難しく。だだ、皇帝陛下。今は、それよりもエドモンドを殺した勇者を名乗る者方が先決かと」


「その為の我が皇帝の十三の牙(カイザー・ファング)だ。親征の日時は変わらん。気取られるな」


 ライムントの言葉に、恭順を示したグズタフであったが、やはり懸念が払拭出来ない顔を見せていた。


「良かろう……委細は受ける。その上で余が判断する。話せ」


 その顔を、ライムントは許容した。それに対して、恭しく一礼の後グズタフはそれを述べる。


「ロンドベルグに忍ばしたる間者によれば、その者の名はカイムとの事。その場に居合わせた、六剱の騎士なる者を二名と近衛の騎士を四十ばかり倒したとの事にございます」


「数だけで言えは、第七の牙(ズィープト・ファング) ギルベルト・ファング・ヴィルケでも造作もないぞ。程度の問題だ」


 程度の問題と言われて、グズタフは騎士の強さは、帝国との異さはないとした上で、ライムントにこう言った。


「帝国騎士四十となれば、流石にと言うところでありますが、問題は、六剱の騎士なる者をという事なります。その辺りの事につきまして、クラッセン伯の言にて推し量ります所――」


「――前置きは良い。結論から言え」


 苛立ちを受けた感じのグズタフは、足早にそれを述べる。その内容をまとめるとこんな流れになった。


 ――ライムントも名前を知る、真紅乃剱が試合ったのをクラッセン伯という男が見たという事になる。相対した者は、クラッセンが冒険者として潜り込んだ。その場所で何度か、クエストと呼ばれるそれに同行していた槍使いの男だった。


「六剱の騎士。最強と目される真紅乃剱は、クラッセン伯曰く――人外――であると。それを踏まえて、勇者カイムなる者は、人智の外である可能性が高いかとおもわれます」


究極の牙(エントリヒ・ファング) フリートヘルム・ファング・レーヴァン の域という事か?」


「御意に。また、その槍使いも竜男爵の側近で、これもまた人外との由にございます」


 その話を聞いて、ライムントはあの時の二人を思い出した。自身の目で見て感じた。限りなく人智の外に近い彼らを……


「ライナルトが申していた。竜男爵の不可思議な魔術にその人外なる側近か。武人だったあの男の弟が魔術師とは、異なる事だが、またもヴァンダリアか……と言うところか」


「左様にございます。また、その両者ともに不可解な武具を用いるとの事。槍や剣から『竜硬弾』なる物を飛ばして、魔物を狩るとも」


「奴の人外との見解なら、第三の牙(ドリット・ファング)辺りまでで。いや、第一の牙(エーアスト・ファング) ディートハルト・ファング・ダイムラーだけで事足りるが、出征の日時は戦布告の後、相手出方を見て柔軟にか……」


 この時点での彼の判断が、どうであったかはいずれ分かる事ではある……


 ただ、この話の流れで分かる通り、ライナルト・クラッセン伯とは、ラオンザである。彼は、ライムントの意を受けて、ヴァリアント近郊でヴァンダリアの動向を探っていた。


 しかし、王国建国時よりこの地で脈々と積み上げてきたヴァンダリアとしての歴史が、彼らの一体感を出し、異物を寄せ付けない排他的な環境を作っていたとも言える。それが、彼の目的を阻害していた。

 その意味では、ヴァリアントの諜報に対する堅固さは、歴史的に見ても、王都であるロンドベルグを凌いでいたといえる。


 そんな時に、クローゼによる冒険者のそれが始まり、ラオンザであるクラッセン伯は飛び付いた。そして、冒険者になりすまし、ジルクドウルムに拠点を移す事になった。


 その流れでの――クローゼとの出会い自体は、偶然であった。……まさか偶発的に、ライムントが感心を向ける本人と鉢合わせするとは思わずに、本心から彼は驚きを見せる感じになる。


 それが逆に、不自然さをなくし、あの戦いには参加していなかったが、ライムントに勅命を受ける程の人物である彼は、確実に冒険者を演じる事になる。

 そして、クローゼとの偶発的な出会いを、最大限に生かし、彼に近付く事になった。


 決定的な事実を述べれば、クローゼとの距離感が近しい人物で、ラオンザだけが他者の保証がない。

 例えば、モリス・カークラントの人選や、フェネ=ローラの言葉なり、グランザのそれに、導師と呼ぶジャン=コラードウェルズの関係などである。


 勿論、アーヴェントのそれもである。


 クローゼは、自身に見る目がないのを自覚して、他者の目を通してそれを判断するが、利害関係がない中で、ラオンザだけはそういう事になる。


 逆に言えば、クローゼが彼との距離感をそうすることで、彼に軽口を聞いても、セレスタも咎めないしアリッサも文句を言わない。レイナードは共にクエストをこなし、ロレッタは重要な案件を彼に任せる事を躊躇しない。

 そして、今回はグランザも彼を使った。だだ、この時点では使う事になる――と決まっているだけであるが……


 視点してみれは、ラオンザに何か聞かれれは、クローゼは特に考える事なく答えるし、彼がピクニックと言っていた視察の大半を、予定が会えばラオンザのパーティーを指名していた。勿論、彼らもゴルダルードの手の者であった。


 どれだけの情報が漏れたか明言しないが、ジルクドウルムの街は、彼らの動きを阻害しない……。

 ただ、変わり行くジルクドウルムの街並みや、クローゼの意図する事は、この世界では異質なものであった。

 故に、彼らのパーティー程度の知識では、理解出来なかったのは不幸中の幸いだったかもしれない。



「委細の件皇帝の十三の牙(カイザー・ファング)に申し伝えよ。心してかかれと」


 ライムント・ファング・ゴルダルードの声で、その一幕は終わりを告げた……。


 この時点の視点では、ゴルダルード帝国にとって最大の脅威である。そう認識されていた勇者カイムについて、皇帝の牙と呼ばれる十三人の騎士達それぞれに伝えられる事になった。


 彼らは、当時帝国騎士で最強と称されていたディートハルトが、ライムントの命により国内を巡って皇帝のそれに見合う者を集め、それを中心に作られた。――当然、完全実力主義で、それ以外の条件は無かったのである。


 ライムントのそれ――条件――とは、絶望を与えられた、かの力の事であるのは言うまでもない。


 その彼らの一角が、要塞都市ヨルグガルデの城壁の上で、遥か西方を見る男の横にいた。――ライムントに『奴なら、四十など物の数ではない』と言われた第七の牙(ズィープト・ファング) ギルベルト・ファング・ヴィルケは、その場に立って同じ方角を見ていた。


 彼の隣の男は、マインラート・ヴェッツェル・ブリューム方伯である。帝国で有力な諸侯ある彼は、帝国直轄領にして、最前線のこの街をライムントの親征中に任される事になっていた。その為、自領から手勢を連れてこの地に来ていたという事になる。


 無論、ここに駐留していた第な七軍も親征に参加することとなり、その軍団長が彼の弟である――ヨルグガルデ城伯 ヘルベルト・ヴェッツェルだったのも、この結果に繋がったと言える。当然、彼らは皇帝の積極的な支持者てあったのは言うまでもない。


 通常の城塞都市とは、一線を画すその城壁の高さが感じられる程、頬をさす風が冷たさをだしていた。その彼等を見つめる視線から、疑問が投げられた。


「おじ様。フリートヘルム様程の者が王国あるとの事でしたが、少し信じられません」

 

「その事については定かではないが。あの戦いを見た者達は、もう一つの方が気になる所だと思うのだがな」


「もう一つ。真紅乃剱(グリムゾンソード)ですか、それとも竜男爵(フライヘルヴルム)クローゼ・ベルグ・ヴァンダリアとその従者の槍使いの事ですか?」


「後者だというよりも、ヴァンダリアという名称にだな」


 マインラートの姪である、第九の牙(ノイント・ファング) テレーゼ・ファング・ヴェッツェルは、簡単な疑問に返ってきたそれで、驚きの表情をした。そんな彼女表情にギルベルトは、当たり前の顔をした。


「フリートヘルムとは、何度も手合わせしているが、既に階層が違う。だから、有り無しの問題では無いのだよ。偽物の勇者がでてこれば、本物が切り伏せるだけだ――」


「――まあ、そうですね……」


「話の途中だぞ。相変わらずたな。だから、我々は人外の輩を相手するという事だな。だから、単純に魔王にでもあったら、素直に逃げろ」


「魔王なんか、遥か先です。それにやってみなければ分かりませんから」


 テレーゼの言葉に、マインラートは眉をひそめ、そして、その懸念というのか心配を彼女に向ける。


「父上に、心配をかける様な事を言うと念願の初陣が、不意になりかねないよ。確かに、君も強いと思うがね」


「初陣と言っても、助攻ですから。父のせいで北側に回されたんです。行くなと言われても行きます。それに、ダイムラー様にも一太刀あびせた事もあるんですから」


 ギルベルトの顔が少し歪んだ感じが見えて、テレーゼに向けられた彼の言葉が彼女に届く。


「才能は認める、強くなるだろうね君は。だけどね。最低五年は早いよ……」


 ――僕は、あの時からひたすら剣を振ってきた。才能や強いと言うだけで、皇帝に認められた者に負ける訳にいかないな……


 ギルベルトの思であるそれは、あの戦いの終幕に立ち会った彼らの脳裏に刻まれたそれであり、彼等にとって王国とはそのままヴァンダリアなのだった。


「それじゃあ、フリートヘルム様が魔王を倒してしまうではないですか。何にも残ってないなら、強くなっても仕方ないですね」


 発想の問題なのか、その言葉に彼らは顔を見合わせてやれやれと言った表情をしていた。


「まずは、イグラルードだ。北側も重要だよ。牽制に守備、陽動に挟撃……。それに、新設の軽装騎兵(ヘッツアー)千騎を預かる副将だろう。大任だと思うがね」


「そうですけど。……ドライ将伯。顔が怖くて嫌な感じなんです。それに、ヘルター殿もなんか嫌いで。あれなんです。まあ、騎士団長は良い人だから良いですけど」


 彼女は、あからさまな顔を見せて、第三軍団長、ドライ将伯 ギード・アルニム……隻眼の大男の顔が怖いから、第三の牙(ドリット・ファング) ゲルオーク・ファング・ヘルターに至っては『なんか』という理由で、二人を嫌い、あれだと言っていた。


 そんな感じの思考の彼女は、少し青が混じった金髪を冷た風に揺らせて、自分が辿るである北側のそれを瞳に映していた。彼等とは視線の高さは違うが、見つめる先の広さは同じだったろう。


「クローゼって、女の子みたいな名前……」


 その呟きを、西方に視線を向けて言葉を交わしていた彼等には聞こえなかった。そして、彼女自身もこれから起こることは分からなかっただろう。



 この時点から、それぞれの物語が基点に向かい集約して行くと考えるなら、この時に、ゴルダルード帝国皇帝、ライムント・ファングの掌にあったのは要塞都市ヨルグガルデに、予備兵力も兼ねた一万の兵をおいた上で――


 ――動員数十六万二千、兵力十一万二千――騎兵二万であった。そして、彼が皇帝の十三の牙(カイザー・ファング)と呼ぶそれも、全て引き連れて親征する事になる。


 主力をガーナル平原に進め、北側ルートの帝国領域に四本の牙と兵力一万二千――軽装騎兵(ヘッツアー)二千を配置し、それ相応の動員数が展開されている。


 ライムントの思い直しもあるが、イグラルード王国軍が王国領全域の国境近くに、分散展開しているのを掌握した上で、北側ルートに配置した兵力は、状態に応じて柔軟に対応するのを目的としていた。


 ライムントの当初計画では、王国軍の中央集中運用を前提に、ガーナル平原の会戦で王国軍主力を撃破粉砕する――という至極簡単な物であった。


 しかし、王国が本来の意図でなく、分散配置された為に二万近い兵力を北側ルート封鎖とヨルグガルデ防衛に割くことなった。


 最悪のシナリオは、リルヴァールまで、進軍し包囲戦をする最中に、情報通りに展開している王国が集結して北側ルートを使い――後方より現れるに、対応せざる追えなかったという事になる。


 さて、王国と帝国が、ガーナル平原を隔てて長年に渡って争って来た場所。そこに水源として、両国に恩恵を与えているこの広大な湖が、なぜこんな演出をしているかといえば、その構造にある。


 水深は浅く船等は使えない。逆に言えば、歩いてでも渡れる深さであった。見たままであればである。

 だだし湖底からは、数え切れない槍の様な硬質化した竜水晶が一面に敷き詰められたように、突きでており、本来の深さは思いの外ある。その構造の為、歩く事が出来ない。という事になる。


 そして、その竜水晶から水が湧き出す事によってらその水源を作っていたその形は――あの魔王の槍――に似たそれであった。


 そんな環境と時勢に併せて、帝国の意図と思惑に意志……そして、フィリップ・ケイヒルのでそれであり、モーゼス・ポロネリアのそれであり、また、王国全体の意志と思惑と意図……が合わさってその舞台が整えられて行く事になった。


 ただし、クローゼ自体はそんな事はお構い無しに、いつも通りの……ノープラン――出たとこ勝負――なのは言うまでもないだろう。



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