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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第三章 王国の盾と英傑の碑
81/204

参~王立魔法院の一室にて~

 クローゼの目の前には、マリオン・アーウィン大魔導師の弟子達がいる。

 魔導師が五人、テーブルを囲み顔を揃える光景に、クローゼは久しぶりの衝撃を味わっていた。その状況で彼は挨拶もせず、アレックスを掴んで引き寄せる。


「何で、導師とちょび髭が一緒にいるんだ」

「そんな事。僕が知るわけないよね」


 耳元で囁かれた小声に、アレックスは普通な声で答えていた。「ちょび髭」と言われたのをタイランの事であると認識してだと思われる。


「何か、あの二人は険悪な関係じゃないのか」


「だから、知らないって言ってるよね。僕もさっきジルクドヴルムから来たばかりだから、師匠がいたのも今知ったんだからね」


「お前、嫉妬がなんとかと言ってたろ。日記に書いたから間違いない。えっ?」

 

 クローゼは話の途中でおかしな事に気が付いて、言葉が止まる。――さっきてなんだ? ……である。


「とりあえず、挨拶ぐらいしたらどうだ?」


 ジャンの声が、クローゼの思考を引き戻す。だが、状況を理解出来ない彼はそのまま内向きなった。


 ――ちょっとまて。転移魔法なのか? と言うか導師とちょび髭って仲悪いんじゃ……えっ?


「ちょび髭って……まあ、確かに」

「ヴルム卿、彼がどう思っているか分からないが、私からすればそう取られても仕方ないな」


 動揺して漏れた声に、ベイカーとタイランの言葉が向けられて、クローゼは我に返った様に『はっと』した表情で二人を見た。


「タイラン・ベデスだ。君には感謝している」


「ベイカーだ。あの時は助かった。それと、エルマから聞いた。先ほども庇ってくれたそうだな。併せて感謝する」


 クローゼの表情を、彼らは何となく流す様に自身を述べる。それを笑いを堪える様に見ていたユーインも、自ら名乗った。


「……直接話すのは、初めてだね。ユーイン・ルベールです。王国認定の魔装技師と魔装術師の統括をやっている。それと後ろの三人も宜しく」


 ユーインの「宜しく」を皮切りに、初見の者が挨拶を交わして行く。それで、若干取り残された感のクローゼに視線が集まる事になった。

 ただ、彼は、久しぶりに漏れてしまった声に、ばつの悪そうな感じで固まっている。


「思った事を、そのまま口を出すのは良し悪しだ。どうやって来たかなら、転移魔法でだ。聞きたい事が有るなら、考えてから話す事だな」


 そんなジャンの言葉に、クローゼはアレックスを見て何か言いたげな顔をした。当然の疑問というのか、そうなのだろうという感じで彼は視線を送る。

 それを見て、ジャンは当然の様に頷いた。


 それで、そのままアレックスがクローゼの腕を指差しながら口を開く。


「クローゼ達のそれ。僕が手掛けたからね。転位型の魔装具でも装術と装技は、オリジナルが分からないと落とせないからね」


「彼は、優秀ですからね」


 エルマの言葉に、アレックスの「とんでもないです」が合わさって、空気感が少し変わる。

 それでクローゼは暫く考えた感じを見せて、自身の事と謝意を出した。


「クローゼ・ベルグです。方法は分かりました。意図は、この後分かるのでしょう。後は、失礼ながらこの場に、導師とベデス伯が同席されているのが驚きでした。何らかの確執があって、お顔をあわせないものと思っておりましたので」


「私は基本的に人が嫌いだ。兄弟子に限った事ではない。それを確執だと言うならそうだろう。何処を見てそう思ったか知らんがな」


 人嫌いを意見と言うならの答えに、クローゼは次の言葉が見つからないといった感じで黙り込んでしまった。そこでタイランが、クローゼに同意する。


「君の認識は、正しい。単純な嫉妬だよ。私の一方的な。テーブル彼の認識では私は眼中にないのだろうが私の方にはあった。ただ、それだけだ」


「貴方が私に嫉妬? 。逆でしょう。……純粋な魔導師として私が貴方に勝てる要素がない。だから、魔装術にそれを見いだした。それでも事如く乗り越えられたのは事実だ。ここに居た時に作り出したのは、全て貴方を越える為の物。それこそ、自己顕示欲を満たす為だけにやったと言っていい」


 二人の言葉に微妙な空気が流れて、彼らは互いに顔を見合わせる。そこで、タイランは否定の表情をしたがジャンは即答する。


「我らの師が、既に答えたを出している。貴方はしがべき地位にあって、我らの師からより多くを託された。それが全てだと。そして、私に転移の術式を託したのは、自己ではなく見識を広めろと解釈して、あの時そうしたまでです。……クローゼ。お前がなぜそう思ったかは知らんが、ここに居る者と直接的会うの久しい。名指しした相手だけでなく、私がここに居るのが、驚きと言うなら分かるがな」


 いつになく、饒舌なジャンの様子に、クローゼは認識の甘さを理解した様に見えた。そして、クローゼが言葉を出す前にカレンの声がする。


「越えるべき壁があると思えるなら、人は努力できる。魔導技師殿とベデス伯に取って、互いにそうだったと言う事では?」


 彼女の瞳は隣に立つレイナードを見ている。彼女が向けた先の「そうだな」の呟きに、カレン軽く頷きを見せていた。


「私の認識がおかしかったです。失礼しました。後、ベデス伯。ちょび髭なんて言ってしまって、すいません」


 二人の会話にクローゼもタイランに向けて言葉を出し、あからさまな謝罪の表情を見せる。

 謝罪の様子に、二人を交互に見たベイカーの目線には、以前のタイランでは無い様な表情が見てとれた。単純に「事実だから」とその事に拘りを見せなかったタイランの感じを、ベイカーは彼が変わったのだと理解した……。



「じゃあ、クローゼ君。納得したかな。見えてないみたいだけど、本題の方にいきたいね」


 頃合いなユーインの促しが入る。彼の指し示す先には、黒の六循(クロージュ)の装備が二つあった。一つは黒、一つは真紅の物である。


「中々素晴らしいよ。ジルクドヴルムの魔装術の高さが想像以上だった。(しゃく)だから手を加えようと思ったけど、こうなったら仕方ない。……でも、直ってるから大丈夫だ」


「カレンさんのは僕が持ってきたからね。ジワルドさんが、赤は目立つからって言ってたけど、やっぱり赤と思ったんだよね。だから……」


 ユーインに続いて、アレックスがそう言って真紅の黒の六楯クロージュに近づいて軽く触れて呟きをした。それに反応して、真紅の黒の六楯(クロージュ)は黒色に変化する。

 残された色は、真紅の薔薇の模様だけだった。


「どう? 実用的だよね」


 若干の驚きが場に出て、レイナードが怪訝な顔をする。そして、唐突にそれを声にした。


「王国軍だと浮くだろ」


 コントラストの問題を指摘されて、動揺するアレックスに、カレンの笑顔が向けられる。

 そして、クローゼの「凄いなそれ」が続いていった。

 魔導師達は、得意げだったアレックスの落胆を微笑ましく見て、軽い会話を交わす。その後、カレンの「赤で大丈夫では」に「まあ、そうだな」のレイナードの声が合わさっていた。


「アレックス君だったかね。君も転移魔法を使えるのなら、十分、魔導師と言ってもいいのだね」


 その流れでタイランは、決して大きくはないが確実にそう言った。それを聞いて、エルマが彼に同意する。


「宜しいと、思います」


 エルマ声にアレックスは更に動揺をして、「いや、えっと、それは、あの……」となっていく。

 その雰囲気とタイランの言葉に、ベイカーとユーインが驚きの声あげた。


「師伯の代では、初めてじゃなか」

「絶対出ないと思ってました。でも、彼なら十分資格があるよ。女の子みたな格好だけど」


「初めてでは?」と驚かれ、アレックスは益々「ううっ」となっている。その流れで、クローゼもアレックスに向けて言葉をかけた。


「今さらだよ。君は天才だからな」


「落ち着いたら、正式に陛下に具申しよう。……陛下といえば、ヴルム卿、改めて感謝する。陛下より、王命を賜ったよ。残り人生をかけて、自責の念を払拭する機会を頂けた。嬉しい限りだ」


 タイランは、クローゼの言葉やベイカーに師伯と言われた事に触れる事なく、そう言葉まとめて改まった様にカレンを見た。そして、その機会に対する気持ちを彼女にむける。


「カレン殿。陛下は、ローランドを送り返すだけでなく、道を作れと命じられた。それで、貴殿にあらためてお聞きしたい。ローランドは私に嘘をつけない。その彼は、自身の言った事は事実だといった。その上で、カレン殿。彼の言っている事は正しいのかね」


 カレンは向けられた言葉に困惑の表情を見せて、クローゼの方にさりげなく気をやった。それを受けて、クローゼはタイランに言葉を預ける。


「この場だけ……と言うのであれば、カレンも答えれるかと」


 タイランは、クローゼの意味合いに頷きを返して、自身の声を彼女に届ける。


「無論だ。利己的な勘繰りをしてる訳でなく。王命を完遂する為に、何かしらの事が欲しいのだよ。陛下は、道を作れと言われたのだ。それが意味する事を理解した上で、君の意見を聞きたい」


 暫く沈黙した後に、カレンが自身の記憶を語る。


「私の記憶が間違ってなければ、ローランド殿の言は……正しいです。彼が誰かの記憶は、うっすらとですが、話をすれば思い出すのでは……と」


「公爵家って言ったら、王族じゃないか」


 カレンの声に、誰よりも早くクローゼが口を挟んだ。思いの外大きい声に注目が集まる。


「いきなり、大きな声をだすなよ」


 ベイカーの指摘に、またも我を忘れそうになったのをクローゼも気が付いた様で、しおらしく謝罪の言葉を見せていた。それを挟んで、タイランが納得の顔をする。


「まだ手探りではあるが、彼と同郷と言うのであれば、その別の階層と言うのか、その世界とドラコニアードは繋がりが深いやも知れないな」


「異世界ですね」


 また唐突でクローゼは、タイランの見解に口を出した。ただ、出した側から口を押さえて頭を下げていく。


「少し落ち着いたらどうだ? 」


 見かねたジャンが、そう言ってクローゼを睨むような視線を投げる。クローゼは、それに気が付いて「うっ」と声をあげたかのような反応になっていた。


「イグラルードではそうなのだけれど。そこではそう言う訳でもない。どちらかと言えば、公国の縁だったのでは。と」

 

 話が遠回りしたが、カレンがクローゼの言葉に一応を投げたあと、もう一度ローランドの言葉を「間違いでは無い」と肯定した。

 それに、タイランは頷きを返して「残りの人生を費やさねばならない。……やりがいの有る事だ」と呟きを漏らし、カレンに以後の協力と感謝を述べていた……。



「とりあえず、話を進めてもいいですか?」


 とのアレックスの声に、タイランが了承を向けてその場が元の流れに戻る。


「じゃあ、カレンさん。着方を教えるからね……えっと、エルマ女史。手伝い願えますか?」


 アレックスは自分が男だからと、女性の着替えを手伝うのはあれなのでの感じで……カレンとエルマの二人に確認を向けていた。


「これと同じだろ」

「大体は。男女差は多少あるけどね」


 レイナードの唐突の言葉に、軽い返事を返したアレックスが、それを後悔する光景が目に入る。「こんなん一人で着れるだろ」と声を出しながら、レイナードは黒の六楯(クロージュ)を脱ぎ始めた。


 呆気に取られる周りを他所に、レイナードは、手順よく軽やかに……上半身の肉体を露にする。


「下に、何も着てないのかよ」

「そうだな」


 クローゼの問い掛けにも、レイナードは素っ気ななく言葉を飛ばし、足の部分の防具を外していた。


「いきなり、脱がないでよね」

「脱がないと、説明できんぞ」


 レイナードの勢いは、アレックスの釘指しで止まる事なく……そのまま、ズボンに手が掛っていく。


「レイナード、待て。やな予感しかしない。とりあえず、待てって」


「なんだ? 待てばいいのか」


 クローゼが、レイナードの手を掴んで……とりあえずは、ズボンが脱がれるのを防いだ。

 その光景をタイランとジャンは、呆気に取られて見ており、ユーインは既に声を堪えきれずに、お腹を抱える勢いで笑っている。

 その横で、エルマは意外と冷静に、ベイカーに話し掛けていた。また、カレンは顔を背けて視線をそらし、隣のロレッタは、真っ赤な顔を両手覆い。……指の間から彼を見ている。という事態になっていた。


 そして、アレックスはパタパタと慌てて、レイナードに声をぶつける。


「教えるなら、クローゼのがあるよね」


「おう」の声の後に、レイナードは、それもそうだなの雰囲気で、仁王立ちになっていた。

 彼の見るからに鍛え抜いた肉体は、芸術的な様相を見せている。ただ、その胸板にはカレンに削がれた傷があり、その他に傷と思われる傷が肩口と脇腹にも見て取れた。


 状況が収まったのを感じて、視線を戻したカレンの瞳にレイナードの胸板の傷が入った。それを見て、カレンは思わず声を出す。


「それは、あの時の……」


「おっ、ああ、セレスタのが、途中だったからな。……格好いいだろ」


 その答えに複雑な顔するカレン。そんな彼女表情をクローゼは見て、レイナードに近付きの肩口の傷を指差してこう言った。


「気になる? ……この肩やつは、馬に噛まれたんだよな、これは知ってる。で、この脇腹のは……なんだったけ?」


「ああ。……お前、記憶が無いんだっだな」


 そう、レイナードに言われたクローゼは、振り返りロレッタを見る。そこには、駄目ですの顔で手振りをする彼女が見えた。

 クローゼがその仕草に声を掛けようとした時、テーブルの上で大きな音がする。――チャカチャと何かが揺れる音が続いて、ジャンの声がした。


「手順はそっちでやってくれ。クローゼのは、後でまたレイナードが教えてやればいい。兎に角、これが先だ」


 そこには、魔力充填(チャージ)と呼ばれる魔動器が、大量に差し込まれた箱が置かれていた。


「とりあえず、百本ある。この前の倍だ……必要だろうと、ヴァンリーフ卿が連絡を寄越した。だから、わざわざ来てやったのだ。有り難く思え」


「ありがとうございます」


 ――真面目に助かります。無かったらやばかった。……と些か真剣の面持ちのクローゼだった。


 エルマとユーインは、それが何であるか何となく分かっていたが、その量が尋常でない事に驚きを隠せずにいた。そんな二人様子に、タイランとベイカーは怪訝な顔を見せていく。


「ユーイン。あれはなんだ?」


 ベイカーの問いに、ユーインは取り敢えず答えだけは提示する。


魔量充填(チャージ)と言って、まだ試作品の段階のものです。効果としては、流動を作っている魔力魔量を補給するといえばいいのかと……そんな感じです……因みに、彼は、ガンガン使ってますけど、僕らなら、限界まで魔量放出しても、五……いや四本も有れば、お釣きますね」


 あの時流れで、提供されていた)魔量充填チャージを体感したユーインの見解が、彼の言葉には現れていた。当然の話、彼の元でもそれなりの試作が作られていて、それを踏まえてである。


 また、流動転写の術式での感覚的判断から、ベイカーも何となく自分達のそれは分かる。偽物の勇者カイムを自身と比べて、見解をだしたのもそれがあったからだ。


「魔導師の魔力魔量で、その量なら……彼のは一体、どれくらいなんだ」


 彼の言葉は、見るからに二十本近く消費されているのを見て出た言葉だった。

 そして、それは止まる気配なく、カレンが黒の六循(クロージュ)の装備に着替えて来るまで続いていた。

 そして、それが六十に届くかというところで……クローゼの動きが止まる。


「こんなもんです。……助かりました」

「恐ろしいな。ついこの間の倍近いぞ」


 二人の会話を聞いていたベイカーが、それを試したいとジャンに申し出ていた。


「宜しいですか?」


 その言葉にジャンは、魔量充填(チャージ)を数本ベイカーに手渡す。そして、注意をする様に声をだした。


「明確に分からない。感覚で限度探ってくれ」


 ベイカーは、その言葉に頷きを返して、自身の体感を考えていた。

 ――あの日、ほぼ出し切った感じと、日数での自然回復が少ならずあった上で……あたりを付けて――

 それは、ユーインの見解通りに四本目に手が届いたが、使うには至らない感覚だった。


 そして、結論付ける。


「化け物か?」


 そう、ベイカーが思いを向けたクローゼは、黒の六循(クロージュ)の装備を身に付けるのに手間取っていた。

 ただ、その呟きにも似た声をアレックスが拾った。


「彼は、魔王級ですね。流動が特殊ですけどね」

「魔力級? 君は分かるのか」


「何となく、分かりますね……見えちゃう感じですね。僕の場合」


 ベイカーは掛けられた声に、体を向けてアレックスに「魔王級」と尋ねた。そして、その答に乗り過る思い。


 ――魔王級か……なるほど。だだの魔王か。


 しかし、ベイカーの思い先のクローゼは以前として。……格闘中であった。




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