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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
序章 王国の盾と記憶の点
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六~冒険者~

 (つづ)られる物語に、異質な者が混ざると、綴る流れに揺らぎが起こる。それは幾重の(ページ)で、始めも途中も今もある。


 クローゼである彼は、綴る流れに起こす揺らぎが特殊で大きい。それは彼の底にある、異質な記憶によるのだろう。

 その為、(さかのぼ)(ページ)にも、クローゼである彼ほどの揺らぎはない。


 ただ、未だにクローゼ・ベルグである。とは言えないのではある。それ故か、物語は特殊な流れを魅せ始めていた。




 鍛練場と兵の教練場に併設された食堂で、レイナードと向かい合っていた。今の俺には、いつもの昼食の感じになる。


 一応、ヴァンダリアを名乗れる、爵位を持つ貴族だけれど、ある意味『お手上げだから馴れろ』らしい。で、被後見人としての立場のまま、以前と同じ生活をしていた。

 ――まあ、それらしい事をしていない訳ではないし。ここでの食事も、まあ、そうだ。



「サラとトゥバンが、来てるからな」


 と、レイナードに、内向きなったのを戻された。


 彼は、吹かした芋にフォークを刺しながら、別のテーブルに付くアリッサ達に、声と「見ろ」の感じて視線を誘導している。


 見たままにアリッサから、同郷の者が来てると聞いていた。――鍛練場でも見かけたから、常駐の兵士なんだろうけど。


「聞いた」

「そうか」


 俺の間を開けた返事に、レイナードは即答して、刺した芋を丸ごと口に放り込んでいた。


 ――動く口元を見た感じで、結構な大きさな気がする。


 そう思って、何と無く『兵士の彼ら』の事を声に出してみる。


「週がわりで来るから、名まで覚えきれんけどな」


 ここ三ヶ月は週の始まりに教練場で、招集された百何十人かの自己紹介を、師匠や教官らと聞く事になっていた。


 ――あれで覚えれるフローラは、凄いけど。


 と、俺が何の脈絡もない感じを、レイナードは無かった風で、さっき放り込んだ芋を飲み込んで「で?」と会話を促してくる。


 ――そうだ、さっきの話だよ。


「さっき、他の領内がますいのは聞いた」

「ああ」

「他の領主は、どうしてるんだ」


 そう言って先程の話題を、レイナードに振ってみる。「酷い」と言っても、何もしてないという事はないだろう。――そう思うけど。

 と、こっちの抽象的な質問――単なる知識の――に、レイナードは、暫く考える仕草をしていた……。



 大体、ここ半年ほどの知識でも、は。まあ、あれだけど。ヴァンダリアに限って言えば、かなり整備されて豊からしい。兵も精強で、人的資源も教育水準の高さから豊富。それに、整備された動員力もある。 ――これは誰かの受け売りだけど。


 ただ、他の領内はそうでもないようだ。


 まあ、他のといっても、分かるのは、ポロネリア子爵の領地から、ヴァリアントに向かう街道沿いだけ。――正直なところ、子爵の街の城壁なら、屋敷の塀のほうが立派な気がする、と。


 そして、俺の考える雰囲気に、「ああ」の感じでこう言った。


「あれだ、冒険者だ」


 ――冒険者? 何だそれ。


「どうしてる? は、人手の話しだろ」

「まあ。そう言う事だけど、何で冒険するんだ」

「まあ、俺も又聞きだからな……」


 他人事な雰囲気のレイナードの話をまとめると、ここ十数年で、四年半前のあれを除けば、王国を含め大陸は概ね平和だったそうだ。


 ――そう言われても分からないけど。まあ、一回整理だけはしておこう。


 そんな『平和』の中で、常駐兵力は貴族にとっても負担。王国正規騎士団がある以上、戦い毎に貴族諸侯に、動員がかかることはない。

 だから、必要最低限にしたい。勿論、貴族の子弟で騎士団や王国軍の一部が構成されているから当然だろう。――だろうと言われても、あれだ。


 それは、それだけど。最近まで魔獣や魔物類いも、前回の魔王出現から年数が立っているから、目立った動きもない。

 なので、尚更、武力にかける資産を別の何かに、「貴族は金がかかるからな」――って分かりませんが、お金なんて見た事もない。


 まあ、それは良いとして。必要ならば傭兵でも雇えば良い、という楽観的な傾向に行きつく。という事らしい。


 ただ、その傭兵団も主な収入源の戦争がない以上、大規模な人員を維持できず、縮小傾向になるのは仕方ないという事だった。

 確かに、領地も持たず何百人も抱えきれるものでもない。――そう言う事らしい。


 なんか、行き先は……大貴族の専属の私兵、有力商家の小飼いとか、国の衛兵といった所に鞍替え出来ればいい方だと。

 何と無くは分かるけど、潰れて解散する傭兵団から、盗賊や野盗等に行きつく者も少なくないらしい。


 結局、需要と供給の問題に姿を変えていく過程で、あぶれた者も多数いたと。


 ――この辺で頷いてみたけど。『そうか』ってところだ。


 それで、ここからが本題。


 四年半前に、大規模な戦を起こすと国内に通達があった。その時、そう言った者が王都周辺に数千単位で集まったらしい。

 勿論、あぶれた傭兵崩れだけでなく、色々な思惑を持った者も集まったという話だ。――なるほど。


 そこまでの話を頭の中で整理した所で、レイナードが口調変えてきた。

 

「で、エドウィン王子は、仰った――」

「――そんな下賎の者と、馬を並べて戦えるか……と」


 不満そうな顔のレイナードは、四年半前の事に話が行くといつもそんな顔をする。――何故、区切った?


「あれは、あれだが。その辺りからそういう輩が、個人的に、傭兵みたいな仕事を始めたんだと」


「みたいな?」


「まあ、賊や魔獣退治。個人の護衛、衛兵のいない村の警備とか、自警団の剣術指南、用心棒。交易商隊の護衛から、薬草や鉱石の調達。あと手紙の配達とか……」


 レイナードは、声にしながら、指折り数えて言葉を並べていた。そのまま、俺の頷きに併せて続きに話していく。


「うちの商会にも、売り込みによく来る。と」

「何でも屋ってことか」

「基本根なしで、王国中というか、大陸中勝手に動き回るから誰が呼んだか……冒険者」


「冒険者」の言葉の後に、残った昼食を駆け込むように口に入れ、モグモグとしながらレイナード話を続けていく。


「とりあえず、傭兵団、みたいに、契約書だ、保証金だ、違約金だ、などと、面倒が、なくて、安く、使える」


 ――レイナード。話すか食べるかどっちかにしてくれよ。まあ、こっちは食べ終わってるからいいけど。……そして、喉を通した所で締める感じに言葉を出していた。


「実力はピンキリってとこだな。それと最近は仕事の斡旋する奴もいるとか。まあ兄貴なんだが」


 そこで更なる疑問。単純に、イグラルードの王国法では、冒険者などと言う職種は存在しない。

 それに大陸の公用語圏の圏内でも、それに準ずる法的根拠はどこにもない。

 ベットのある書庫に住んでいるから、間違いない。―― これは自信がある。


 当然領民が、領内から勝手に出る事は出来ないし、勝手に自分の身分をを変えるこ事も出来ない。だから、冒険者というのは存在しない人になる。

 ある意味犯罪者で流浪だな。――まあ、領民とかの話は、講義を受けたから分かる。


  それで、犯罪者にならない為に、根拠のあるものが要るのだけど。……例えば、公的な地位による公認や招集の命令。王国や領主公認の商会や傭兵団との契約、といった身分が必要になる。


 ――貴族は関係ないから、俺は良いらしいけど。まあ、領主だし。


 そうでなければ、普通に国内の移動もままならない。抜け道というのか、小さい村なら、流れ者の傭兵としておけば詮索する術がない。

 だから問題ないが、衛兵の居るような町では通用しないだろう。――これは、俺付きのあの人が言ってたな。


 ――まあ、犯罪者というか調べれないか?


「そんな犯罪者みたいな者、公的に使えるわけないと思うが」


「斡旋」の単語に少し引っ掛かるが、俺がそう言うと、レイナードは複雑な顔をした。


「建前は義勇の士。王国の敵から王国を守らんと集まった。集まったのは……四年半も前だがな」


 そう言って、空の食器を重ねてまとめ始める。確かに、有事の際の自主的志願は、なるほど。

 何と無く分かった感じで、頷いて見せるとレイナードは「私的だな」軽い呟きをいれていた。


「まあ、そう言うことだ」


 そこまで言うと、重ねた食器を持って立ち上がり「またな」とその場を離れていく。それで、自分も立ち上がり、レイナードの後ろ姿に話しかける。


「商会にはいつ行けばいい?」

「来週あたりで……とか言ってたぞ」


 レイナードは、振り向く感じもなく。食器を返した辺りでそう言うと、また、鍛練場の方に向かって歩き出していた。


 何と無く、話しの流れは分かった。――ベットのある書庫で寝て、フローラと机を並べて勉強した甲斐があった。そんな感じか。


 取り敢えず、根拠はあるんだな。屁理屈な気もするけど。戦時動員は、女史が言っていたが、領民の言わば義務だそうだ。

 その上の自主的志願の義勇兵は、どんな形でも賞賛すべきものだと。


 ――王族個人で「やだ」とかどうなんだ? きっと王命はなかったのだろう。


 でも、着眼点が凄い。犯罪者紛いの流浪の民に、一時的に身分を与えて冒険者として、必要な時に必要なだけ集める。


 困っている人。今は領内を荒らされている王公貴族なのか。それらに、傭兵団並みの契約と料金で提供して、冒険者の報酬を安く抑えていく。

 それでその利鞘(りざや)を稼ぐと。更に、貸し与えた身分の手数料をとる。


 ――なんか分かる。商売は、分からないけど。


 それで後は、場所。宿とか何かという事だとすると。そこまでは、さすがひどいと思うが。


 それはさておき、実際の身分は傭兵団あたりかな。ウォーベック商会は、何年も前から潰れそうな傭兵団の公的許可書を買い叩いていたのだろうな。

 実体はない。名義だけの傭兵団をいくつも持っているとか。


 ――まあ、聞か無いと分からないけど。


 唐突な「振り」はあれだ。レイナードも一応、ウォーベックなんだな。まあ、言わされた感丸出しだけど。「伝書鳩かよ」レイナードの声が聞こえそうだ。


 ――要するに、そう言う事だな。


「さて、差し当り関係は薄いかな。俺もいつも日課をこなすとしよう。確か、今日あたりあれが形になるらしいから」


 どうなっているか楽しみな所だ。――まあ、そんな感じか。



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