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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第二章 王国の盾と勇者の剣
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六~王座への道筋。それは仕方ない~

「で私が、宣誓式の最中でドカンとでですね。龍の巫女をササッとして、殿下がこうバーンとして頂いて、ジルクドヴルムでドドンと式を、それで、ヴァンダリア騎兵で、ノースフィール候の私兵をサックり退けて。で、殿下にずばっとして頂くと。……そして、私が非道な勇者を倒します」


 これが、雄弁に語っていたクローゼの言葉の感じを表している。その雰囲気だった。


「具体的な計画の立案は誰か?」

「皆でです」


 アーヴェントは、何となく誰が関わっているか分かってはいた。しかし、彼の言葉で納得して任せるとは言えなかった。


 当然、フェネ=ローラに任されたクローゼの発案で、アーヴェントを国王として仰ぐと決まった。ヴァンダリアの総意でである。

 具体的な計画を主導したのは、ジルクドヴルムであり、ヴァリアントで最終的に修正承認をした。


 勿論(もちろん)、すべての場に彼はいた。


 何時もなら、アリッサが後から確認を入れ、その都度、彼女の言葉が入っていた。それを踏まえてこの結果であった。

 彼がどうという訳でなく、そう言う流れだったと思えば、納得の範囲内であると言える。


「もう少し、具体的に説明出来る者はいないのか?」


 困惑顔のアーヴェントを見て、グランザはクローゼが映る魔方陣に視線を送る。残念ながら、彼の後ろに見知らぬ若い男が立っているだけだった。


 その言葉に、クローゼは暫く考えて何かに気が付いた様子で声をだした。


「そうだ、ユーリ。お前もいたよな。聞いてたよな。わかるか?」

 

 ユーリ・ベーリット。クローゼが声を向けた相手。彼は、エストニア王国の騎手見習いであった。

 彼の立場は、特務外交官待遇として、エストテア北部の騎士達に、エストテア王国自体との名目上の窓口であった。


 非公式で、ヴァンダリアの影響下での話になる。


 大層な名前をクローゼに付けられた彼は、何も具体的にする事がない。その為、結果的にクローゼの近くいる事が多く、クローゼも『話相手』位の感覚で彼を容認していた。


 そして、クローゼに問われた彼は、この場にいる事の『場違い』を背中に感じていた……。




 クーベンから彼が戻ると聞いて、ユーリは話を聞こうと付いて来た所が、歴史的な場面だった。考慮が足りなかったかもしれないが、彼はこちらに留まってから、声の主を追従するのが常になっていた。


 彼なりに訳もあるが、今回は少し迂闊だったと、彼自身もそう思っていた。


 ユーリは、この場景を見て気配消した。文字通りにである。動くとかえって目立つの判断は、クローゼの思い付きで「聞いてたよな」までは有効だった。

 その間の彼は、状況を把握すべく頭を回転させていた。微動だにする事なく。僅かに視線揺らして。


 見るもの全てぎ驚きだった。ただ、声の主を通して見ると凄いで終わる。そんな感じを彼は持っていた。


 ――この人自体の方が驚くことが多い。


 そう思い彼は声を出した。


「ヴルム男爵。この場で私は発言出来る立場にありません。『分かる、分からない』で言えば、分かります。とお答します」


「う~ん。じゃ、今から臨時副官代行を兼任で、特務外交官待遇はそのままでいいから」


「ヴルム男爵の副官の代わりをしろ、と言うことですか?」

「そうだな。やる事ないだろ。ユーベン解放まででいいから」


 話の進展をそっちのけで、向き合う二人の会話にグランザが声を出そうとしていた。ユーリにもそれが見えていた。その様子が、音になる前に彼は姿勢を正す。


「失礼致します。ヴルム男爵の命により、男爵に代わりまして副官の私が御説明致します」


 その声に、映像の二者が其々に彼を見る事になる。アーヴェントが「そうか」と答えて、グランザは、『そうなら、始めからそうしろ』と言う顔をしている。


 ユーリは一呼吸おいて、少し前に体を出した。


 彼の思いとしては、エストテア王国の解放は、皆が言うとおりに、この人無しでは成せぬだろうと。単純に、この人は彼の目的でそこに向かうのだが、それでも、エストテア王国の存在を忘れて貰っては困るのだと。


 ――今は良い。あの方が命をとして、それをヴルムの称号を持つ男爵に刻んだから。それを消さない為に、出来る事をやろう。


 アーヴェントとグランザの反応と、クローゼの最終的な促しでユーリ・ベーリットはそれに向かう。


「それでは、始めに……」


 その言葉と共に、彼の説明が始まる。だだ、クローゼの側で何と無く居た、彼の話がである。


「現状の確認ついては、共通認識の前提で、計画の概要のみ述べさせて頂きます」


 その言葉に続く、彼の説明をまとめると以下の様になる。


 本日、王都ロンドベルグで行われる、エドウィン王子の王太子の宣誓式の阻止。

 同日、ヴァリアントにおける南部諸侯に対するアーヴェント殿下の謁見による掌握。

 その上で、龍の巫女を旧王都ジルクドヴルムに招聘(しょうへい)し、アーヴェント殿下の王太子の宣誓式の実施。


「以上の点を踏まえて」とユーリの言葉は続く。


「先攻部隊による王都周辺の牽制を持って、西方域または、南部から一軍にてアーヴェント殿下には王太子として王都ロンドベルグに入城して頂きます。その後、戴冠式を経て正式な国王にと言う流れになります。具体的な…」


 簡単な説明の後に、ユーリは一旦言葉切って魔方陣の向こう人物達を確認して、そのまま続けていく。


「王太子の宣誓式の阻止及び、 西域龍翼神聖霊教会の龍の巫女の招聘については、ヴルム男爵主導で。ヴァリアントにおけるそれは、現状のよような形で行う予定てす」


「先攻部隊については、ジルクドヴルムに騎兵一個連隊約二千が既に待機中てす。曉の冒険者商会に行軍補助を担当させますので、最短二週間で王都周辺に到達可能です。牽制対象は、ヴァンリーフ子爵より情報がありました。王都の北側に駐留するノースフィール候の私兵約四千になります」


「アーヴェント殿下の王太子の宣誓式は、条件付きな為に、計画案が多数ありますので、以後の…」


 軽く間をおいて、話を続けるユーリの説明に、アーヴェントが怪訝な表情で、遮る様に言葉を挟んだ。


「手元に何も無い様にみえるが、行軍の日数が間違っているのでないか。あり得ん数字だぞ?」


「有り得ないとの事。それについては全く御意にございます。恐れながら、この点につきましては確信を持って間違いでは『ない』と思われます」


 問いかけた側のそれを即答で答えたユーリと、自信満々でアーヴェントを見るクローゼの顔に、彼は『出来るのだな』と理解して、次に繋げた。


「仮に出来たとして、倍する兵を相手に牽制など出来ぬと思えぬが?」


「槍撃大隊を主軸に据えておりますので、更に、倍する相手でも十分に成果は期待出来るかと思われます。此につきましては、戦果を視認致しておりますので、明確に断言致します」


 ユーリの返答に、これも即答かとアーヴェントは思いクローゼを見た。その子供の様な顔を視界におさめて、彼に向けて視線を送ってからグランザに聞いた。


「その辺りは期待しておこう。だが、グランザ。クローゼの主導の部分はそう言う事か?」


「御意。秘匿性の高い者を何人か王都に用意してはおります。その辺りは事前に要請が。後はまあ、その言う事だと思われます。残念ながら」


 単純に、クローゼ自身が「行くのか?」という顔のアーヴェントに『そうでしょう』という顔のグランザの頷き。

 クローゼは彼らを見ていたが、何故そんな顔をしているのかは分からず、その思考はそれよりもユーリに向いていた。


 ――話に参加して無かったよな、こいつ。……である。


「凄いな。確かそんな話だった。よく覚えてたなユーリ。意外と頭いいんだな」


 その声は、魔方陣を通して向こう側にも聞こえ、飽きれ顔の二人が見合わせているのが映っている。そして、暫くの沈黙を破り、先にアーヴェントが声を出してきた。


「クローゼは相変わらすだな。先に言っておく、程ほどにしておけ、よいな」

「御意に。今回は単身ゆえ、まずくなれば逃げますのでその辺りは」


 クローゼの答えに余裕を感じたアーヴェントは、程ほどにの顔から「覇気のある」に変わり、声に覇気を乗せクローゼに告げていく。


「良かろう。では、最重要な事を命じる。行方が分からぬという、オーウェンを必ず私の元につれてこい。これは、私がヴァンダリアの意向を受けて王として立つ絶対の条件だ」


 そのまま、アーヴェントは彼等の映る魔方陣を交互に意思を込めて見ていく。


「グランザ。クローゼ。……ヴァンダリアの手が短いとは思わぬ。それ位出来ねば、我が盾になり得ぬと思え。よいか、絶対だ。卿らの(はかり)がそれで滞るなら、私が自らその道を切り開く。王命と心せよ、忠臣にして我が盾よ」


 唐突だった。道を示せと問うた後のその言葉。時間の経過が存命を否定する現実を、彼の言葉は飛び越えてきた。

 クローゼもグランザも。いや、グランザはその意向を既に尽くしていた故に、尚更無理では無いかと思っていた。


 彼等は互いが映るを見やり、その表情を感じていた。簡単に、どちらが言うか? と言う事になる。勿論、懇願の顔はクローゼである。


「殿下。畏れながら申し上げます。確認、公表がされておりませんので、殿下の命と有らば存分にというのは我らに異存ごさいません。ですが、最悪の場合……」


「それでもだ。王命としたのだ、全力を尽くせ。それ以外の言は今は聞かぬ。よいか?」


「御意」


 グランザの言葉を、真っ向からはね除けたアーヴェントの言葉。それに、二人の揃った声がアーヴェントの耳に届いた。

 頷く彼は「仔細は人を残す、時間が来たら呼べ」と言い残して、その場を後にした。


 残された二人は其々にやるべき事をやり、顔見合わせる位置でそこに立つ事になる。


「まさか、オーウェン殿下の御名前が出るとは思いませんでした」


「その報告をした時は、平静な面持ちだったからな。私とて驚いている」


「手がかりは、あるのですか?」


「正直な所ない。既に、王都では実行者の勇者を探すとして、かなりの人が動いている。エドウィン派は、間違いなくオーウェン殿下をさがしている。それに、国王派の側もそうだ。私とて座していたわけではなのだ」


 想定外のやり取りの後に、グランザは考え込む仕草をし、クローゼも同じ様にしていた。

 考える二人に、グランザの後ろからエルマの声がした。


「その状況なら、誰かが匿っているとは考えられませんか?」


「誰か」を聞いた二人の頭によぎる「誰」は、正解なの分からない。可能性の問題として彼らの中にはあった。


「いや、それは、それなら国王派の誰かと思いますが、その形跡は無いのでしょう」


「そうだ。それなら、オーウェン殿下が現状を甘受するとは思えん。まして、匿っているのが彼らなら尚更だ。それに彼らもオーウェン殿下を明らかに探している。……そう言われるなら、エルマ殿は心辺りがお有りなですか?」


 エルマの問いかけに、会話を交わした二人の視線はにエルマに向けられていく。


「私は、そう言った事には疎いですが、一番分かりにくいのは、例えば『(わたくし)』でしょうか?」

「えっ、どういう事ですか?」


「噂のヴァンダリアもわかりませんか。私の立場は、この場にいると言う事で理解していただけると思います。その私が、例えばですよ、そうであれば分かりませんでしょう。勿論(もちろん)そんな事は有りませんけれど」


 何処か意味ありげな、彼女が言葉にグランザは何かにを理解して手を軽く合わせた。クローゼからはそれが見えず、彼女の言葉の意味が彼に分からなあった。


 その確認をとクローゼが、エルマに言おうとした時に、彼の後ろから声がした。


「既に、敵中にあると。それは、積極的な敵ではないまたは、離反者と言うところですか?」


「その様に」

「そうだな」


 ユーリの唐突な言葉に、エルマとグランザは肯定を述べる。その会話をクローゼは、頭の上を通る感じがした。


「ユーリ。分かるように言ってくれ、分からない」


「えっ、とですね。エドウィン派の内(いず)れかに、オーウェン殿下は匿われている。それで、その人物はオーウェン殿下にその状況を納得させる事出来る。なので、積極的なエドウィン王子の側では無い。もしくは、敵の中の敵。離反の意思を持つ人物では無いかと言う事です」


「それは誰だよ?」

「いやっ、私には分かりませんよ。エストテアの者ですから。誰と言われても困ります」


 その会話のクローゼの問いに、グランザに促されたエルマが答える声を見せた。


「私の兄弟子。タイラン・ベデス伯爵ではないでしょうか。と思います」


 その名前を聞いて、クローゼはちょび髭を思い浮かべ、それを口に出しそうになるのを堪えていた。


「タイラン・ベデス伯爵。ですか?」

「そうだな。私としても盲点だった。選択肢としは考えるべきだった」


「でも、何故ですか?」


 エルマとグランザの言葉に、クローゼは疑問を投げた。その声に、エルマが顔を(うつむ)けて返すように話はじめていた。


「勇者を召喚しようとしていたのです。ですが、それは成されなかった。と言う事になりました。後はご承知の通りです。正確な話ではありませんが、その場に私の兄弟子達もいた。と言う事です」


 そう言った後に消える様な声で、「結果的に、黙認したと言うことなのでしょう」とエルマは言葉を結んでいた。


「いずれにせよ、オーウェン殿下の件は、アーヴェント殿下の意だ。可能性があるならよしとするべきだな。まあ、手は打つ。それにオーウェン殿下が存命で、それを取り込む事ができれはあれも片付く」


「あれとは?」


 一人で納得した感のグランザの口調に、クローゼが声を合わせる。それは彼らしい感じだった。


「ああ、そうだな。アーヴェント殿下は、あの御歳で御一人だ。オーウェン殿下もそうだが、継承権を持つ王族は多い方が良い。それに国王派を取り込むのも重要だからな。お前の意に添わぬと言うのでは無いからな、間違えるな」


「何も言って無いです。グランザ殿」


「まあ良い。それよりも、どうするのだ。心づもりもある。教会の方もそれなりにだが、そこまで届いていない。それについては、お前に任せてあると具体的に聞いていないからな」


「具体的にですか?……えっとですね。簡単に言うと、確実に会える場所で来てもらえる様に説得します。えっ、まあ、あれです」


 映し出される様子が、二人だけになって彼等の会話が進んで行く。歯切れの悪くなったクローゼを、グランザは怪訝な顔で見ていた。


「まさか、宣誓式の場にそのまま行く、という訳ではあるまいな」


「まあ、そのつもりです。その場で龍の巫女をお連れすれば、宣誓式も出来ないですし。一石二鳥かなと。ついでに、非道な勇者もぶちのめせれば、もっと良いですが。勿論、エドウィン……は我慢してアーヴェント殿下にお任せしますけど」


 あまりの答えにグランザは当然、エルマも口に手を当てて驚いている。二の句の出せない感じが、グランザからは出ていた。それを見ていたユーリがたまらず声あげる。


「ヴルム男爵。ひょっとして、最悪……誘拐紛いになりませんか? そんな事がよく通りましたね。本当に」


「大丈夫だちゃんと話はするよ。駄目ならとりあえず、来て貰ってから誰かにしてもらうから。あっ、あと、皆には任せろとしか言って無いからな、知らないと思うぞ」


 積み重ねられたクローゼの言葉に、グランザが絶句する。彼は、その感じを振り払うかのように頭を振ってから、クローゼにめがけて感情をぶつける。


「馬鹿かお前は。当日にそれか、何を考えている。どうする気だ……全く何て事だ。で、お前にはヴァンダリアとしての自覚はあるのか?」


「大丈夫です。黒の六循として仮面を着けて行きますから、ばれませんよ」


「なっ、何を……」


 投げつけた感じの言葉を打ち返された、グランザの様子を、エルマが彼の腕に手をかけて、軽く制していた。


「任せましょう、グランザ殿。いずれにしても時間が有りませんでしょう。仕方ありません」


「そう言われても、最もらしく要請までさせておいて、言って無いとは。何なのだ……仕方ないのか」


「そうですね。仕方ないでしょう。と思います」


 エルマに仕方ないと言われて、グランザも葛藤の末、それに目をつぶる形になった。クローゼは、それを形だけの謝意を示して、やり過ごす事になる。


 そのまま、クローゼはユーリとその場で、グランザの憤慨(ふんがい)の表情を映した魔方陣が、閉じるの見送った。


「さて、ユーリ行くぞ」

「何処へでしょうか?」


「取り敢えず、ジルクドヴルムに飛んで、王都ロンドベルグだな」

「えっ、なんでですか?」


「副官だろう。当然だ」


 こうして、特務外交官待遇兼任臨時副官代行のユーリ・ベーリットは、ジルクドヴルムまで飛ぶ事になった。


 その先は、それなりで。と思われる。




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