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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第一章 王国の盾と魔王の槍
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二十七~帰路。南の空を見つめて~

 遠くを見つめるクローゼに、「アリッサの事だよね」とアレックスが声。その言葉に、クローゼは我にかえって、何と無くな雰囲気で、「そうだな」と声を出していた。


 そんな感じで言葉を返したが、アレックスの余裕とも取れる顔を、彼は怪訝な感じた。この感じで、アリッサの顔が見えないなら最悪もあり得る、と思った。――ただ、自身は棚に上げていたのだろう。



「今。アリッサがここにいないなら、まだユーベンに?。もしかして、という事もあり得るのに、何でみんなはそんなに冷静なんだ?」


 あの時、アリッサを気にかけていたアレックスの様子やセレスタにレニエの雰囲気は、それについては大きな落胆を持ってはいない。クローゼには、そんな感じがして言葉にした。


 それに対する返答が聞こえる前に、幌馬車の前方が開かれる。


「二人とも。それに、アリッサ殿も羨ましいかぎりだな」


 そこから顔を覗かせたカレンが、そんな言葉を口にした。特段思いがあった訳ではないが、そんな雰囲気を出していた。


「カレンさんも、叶うといいよね」


 そんなカレンを、アレックスが迎撃? をする。それに合わせる様、微笑みをカレンに向けるセレスタとレニエの二人。


「わっ、私はそんな……」


 顔を赤くするカレンにアレックスは、更に追撃?の一言を出していく。


「クローゼ並みに、殿下もあれだから。カレンさんも大変だよね」


「そっ、そんな、事は……」


 更に、赤面するカレンに、クローゼは何の事か分からずに難しい顔をする。ただ、それは困惑ではなく、苛立ちだった。


「だから、なんでそんなに余裕なんだ?」


 語尾を荒げた感じの声に、カレンは軽く咳払いをして、自分を落ち着かせる仕草をし、改めて言葉出した。


「クローゼ殿。黒銀のヴォルグからの伝言を。そのまま伝えます」


 一旦言葉を切り、クローゼが自分を見るのを確認して、カレンは軽く息を吐いてそれを続けていた。


「アリッサは俺が守る。決着ついてねぇ……」


 ――だそうです。とカレンは、ヴォルグの口調を真似てそう言った。カレンがヴォルグを「黒銀の……」と呼んだのは、ヴォルグに敬意をはらったからで、脱出の経緯を改めてその場で話した。

 

「あいつが、俺達を助けた?」


「そうです。それでアリッサ……殿から私に、大丈夫です。貴方を宜しくと」


「アリッサが?」


 カレンの話を聞いて、アリッサの名前を呟き、クローゼは暫く黙り込む。そんな彼に、アレックスが声をかける。


「あの人狼。アリッサに気があるのまる分かりだったからね。クローゼ。妬けちゃう?」


「茶化すなよ」


 クローゼの呟きに、アレックスの中で何かが弾けた様だった。それまでの『いたって普通の装い』を脱ぎ捨てたように、悲しみを爆発させてクローゼに向かう。


「茶化してもいないと、やってられないよ。なに自分だけ、アリッサを心配してます風な態度してるんだ。みんなが心配してないとでも思ったの? そんな事あるわけないよね。最悪の事、考えないわけないよね」


 ほとんど泣いているアレックスは、悲しみがが収まらないのか更に声を大きくした。


「ちょっとでも、希望が欲しいよね。アリッサは大事な友達だよ。クローゼより僕の方があの子の事分かってるから。何が俺の女だ。散々知らん顔してて。ヴォルグの方がよっぽどアリッサを想ってたよね。セレスタだって、レニエさんだってあの子の立場になったらそうしてたよ。自分がどれだけ思われてるか分からない奴は、馬鹿って言うんだ」


 止まらないアレックスの言葉を、幌馬車の外側で彼の声よりも大きな声がした。


「そんな馬鹿がいるなら、殴ってやろうか」


 レイナードの声に、周りがざわめくのが幌馬車の中にも伝わってきた。それを感じたクローゼは、カレンが 開けている向こう側の様子に気が付く。


 そこには見慣れた、ヴァンダリアの軍装が列をなしていた。それを見たクローゼは、後ろ側に移り閉じられていた幕を開ける。


「馬鹿はお前か? クローゼ」


 そこには騎乗した、ヴァンダリアの正規軍装を纏ったレイナードがいた。


「なんでいるんだ? ……お前」


「クエストだ」


 そう答えて、黒階級(ブラック)のプレートをクローゼに見せる。ただ、彼の後ろにも相当数のヴァンダリア正規兵が、イグラルード王国軍のそれとはとは異なる、黒を基調とした軍装で続いていたのだが。


「クエストって……」


「殴って良いよ。じゃないと分かんないからね」


 アレックスのそれに、クローゼは諦めた様にため息を吐く。そして、そのままを出した。


「今殴られたら……本気で死ぬぞ。アレックス」


「それは駄目です」

「それは困ります」


 セレスタとレニエの言葉に、アレックスが「ちょっとくらい良いじゃん」と返していた。それを見つめて、クローゼは思った。


 ――ヴォルグが……か?


 その人狼の事を考えていたが、聞き慣れた声に意識を戻される。


「領主様。国境が見えました」


 隊列を逆にたどりながら、大きな声でブラットが状況の確認をしていた。


「国境って? いつのまに……」

 

「だいぶたったよね。脱け殻みたいになってたからね。クローゼ。意識もほとんど無かったから、覚えてる分けないよね」


 驚いた顔をするクローゼに、アレックスはそう言った。そうして、続けて話をする。


「はじめの何日かは、セレスタがいなかったら死んでたよ。後の何日かは、順番こで膝枕。二人とも堪能してたよね。……ね? 」


 アレックスのいつもの乗りに、クローゼは、相変わらずの打たれ強さを感じるのだが、それを向けられた二人は赤面する。


「ちっ、違います」

「そっ、そんな事は」


 息の合ったように、またも二人ともに声をあげ、アレックスは、悪戯な顔を二人に見せる。


「流石。同時に愛の告白を受けた二人は、息もピッタリだね」


 たじろく二人を笑顔で見ているアレックスを、クローゼは、何故か愛しく思えた。


 ――そんな趣味はないぞ……俺。でも。


「アレックス。お前の事も好きだぞ」


 その言葉に「えっ」となるアレックス。そして、逃げ場のない幌馬車の中で、驚きの顔を見せるアレックスをクローゼは、思い切り抱きしめる。


 そして、「ううっ」となったアレックスの耳元で、クローゼは囁いた。


「ありがとう、アレックス。アリッサは必ず取り戻す。今は、お前の希望に縋らせてもらう」


 その呟きに、顔を赤くしたアレックスは「クローゼ ……」と彼の名前を口にした。だか、一瞬でその顔は青ざめる。


「クローゼ、やばい、やばい、やばい」


 その声に、彼を抱きしめた手を離しクローゼは振り返った。


「『クローゼ様!』」


 セレスタとレニエの声がシンクロして、少し怒った様な顔をクローゼに向ける。ただ、それに動じる事なくクローゼは、二人に軽い笑顔を見せる。


「クローゼでいい」


 その言葉に「えっ?」となる二人。ただ、彼女達に考える間も与える事なく、クローゼはそのまま言葉を剥けていった。


「二人は特別だ。だから、クローゼと呼んでくれ。もう自分が誰なのか? なんて考えない。俺はクローゼだ。二人にはそう呼んでほしい」


 少なくない沈黙の後に、二人は示し会わせた様に言葉を出した。


「『クローゼ…』」


 二人はクローゼの言葉に、遠慮がちにだが、想いを込めて彼をそう呼んだ。

 彼女達のそれに彼は答える。「ありがとう」の言葉を返して、心の中で愛していると彼女達に告げていた……。


「まる聞こえだぞ」


 空気の読める男。レイナードがそう言うと、何故か周りから拍手が起こっていく。


 しかし、そんな雰囲気はお構いなしに、クローゼは南の空を見つめていた。





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