二十三~乱戦。終局に向けて~
閃光に包まれたホールが、一瞬で静寂するのを、その場で乱戦を繰り広げていた全員が感じていた。
そして、ミラナが宙を舞いホールの端の壁にぶつかって、魔王の声が響く。
その声を聞いて、互いに争う手を止めて、それぞれの思惑の場所を見る事になっていた。
そう、アレックスにレニエとカレンも、クローゼに視線を集めていた。単純に大丈夫か? という事では無いのが分かる。
三人の視線に入ったクローゼは、何らかの意思をもって魔王に向けて歩みを始めた。全体がまだ魔王のそれの支配下にある中で、彼だけが抗って見せた様に見えていた。
アレックスやレニエも顔には出さないが、既に余裕は無かった。当たり前に場景が、特種であったのだろう。
紫黒の鎧も動きを止めて、その静寂を甘受しており、それに合わせて余裕が出来たカレンが、彼ら二人の表情や様子を見た時にそう感じたので、間違いない無いだろう。
「ミラナ殿は大丈夫か?」
レニエの援護に詰めていた、エストテアの騎士のが、声に出してその先を見ていた。
「大丈夫だよ。クローゼが、対象防護指定してたから死ぬ事はないよ。助けには行ったほうが良と思うけどね」
「分かった感謝する」
アレックスの答えに、その男はそう言って片手を上げて何か指示を出していた。
ホール内に居たあらかたの衛士を倒して、情勢は彼らに傾いており余裕はあった。だが、カレンが告げた様に徐々に魔族の増援が増えており、それなりの数になったエストテアの騎士達も、それの対応に追われ始めていた。
「暫く、風の精霊はこちらに来れそうもありません」
「僕も、そろそろ魔量切れそう」
紫黒の鎧に距離をおいて、一度二人の元へ戻ったカレンに言葉が向けられる。そう言われたカレンは、クローゼの発する声を聞きながら、彼の意図と現実問題としての脱出について考えていた。
――状況は最悪では? 。クローゼ殿が最善? その剣なら? ……ミラナ殿か?
カレンのそれはほんの一瞬だったが、その一瞬で事態が変わった。
クローゼがステファンから剣を受けとり互いに、何かを確認し合ったのがカレンには見えて、その後の光景は、ステファンの体が崩れ落ちる所だった。
いや、カレンには紫黒の鎧がステファンの首を切るのがハッキリと見えた。
――私が相手をするはずだったのに。
そうカレンの思考は行き着く。
そんな、カレンの意識をとは別に、近くの二人やエストテアの騎士達が、事態に追い付いて声を出すのをカレンは聞いていた……。
『仕方がない、手を貸してやろう』
その声にクローゼは少し驚いたが、彼自身の内側から聞こえてきた声を、取り敢えず受け入れていた。
――なんでもありだな。いや、なんとか出来るならしてほしい。と言うかお前、誰だよ?
『他のものに泣きつかれたから、仕方なく手伝ってやる。自分でも分かっているだろう、自身の力の底が見えているのは?』
得体の知れない声に、底がと言われたのが多分魔力魔量の事で、それの残りは少ないのはクローゼも感じていた。
――そうだな。……と言うかあんた誰なんだよ?
『誰か? 今それが重要か?』
――重要だよ。誰か分からない奴の話なんて、聞ける分けないから。
『お前の知識で言えば、ヴァンダリアだ。詳しい話は得意なものがいる。時間がある時にでも、それに聞け』
――いや、それに聞けって。それは誰よ? 。ますます分からないんですが。とりあえず、ヴァンダリアって? 俺も今はヴァンダリアですが?
クローゼは、自分自身の中で会話をしている変な感覚を、どちらか? というとクロセタケルとして感じていた。
『時間が無かろう。まあ、ここには無いが。とりあえず、お前が中の人と呼んでいる一人だ。まだ上手く使えんようだから、体を借りるぞ。最善? の手でまとめてはやる。お前の思い通りにはならんがな。だが選択肢はないぞ』
――いや、だから…その…最善? て。最悪になったらどうなる。てか今も最悪か? どうしたら……。
『その優柔不断さが、我らに流されて自分が持てぬのだ。それは今は良い。どうするか決めろ』
優柔不断だと言われても、どうするかと言われても。選択肢がないなら頼むしかない。
――お願いします。
『それが良かろう。一度きりだ。……後は自分自身で我を御せ』
心の中でその言葉を聞いて、意識が戻った気がした。かなりの時間が経った様に感じていたが、目の前のそれは、自分が理解できたその時のままだった。
そして、ステファンの体が崩れ落ちる。それと同時に紫黒の騎士が、此方に向かって斬撃を降り下ろしてきていた。
「模造品にしては中々の物だな」
クローゼは自身の声をそう聞いた。握られた龍極剣エスターを、自ら眺めてそう言っていた。死をもたらすであろう、紫黒の騎士の斬撃の合間に。
ただ、先程まで辛うじて見えいたその死の刃は、今はっきりと見える。時折感じていた感覚と同じ様に見えていた。
そして、それが本来なら対物衝撃盾が発揮される領域を越えて迫った時に、その刃をクローゼはかわした、というのか流した。
――尋常で無い紫黒の騎士の剣に、それ以上の動きを合わせてクローゼがすり抜ける――
その抜け様に、紫黒の騎士の剣を持つ手を切り落とし、身体を返して回転斬りで頭を落とす。そのまま……足蹴にして呟いていた。
「一応、動く。鍛練はしておるな」
そして、龍極剣を一閃して、本来着くであろうそれを払う仕草をした。そのまま「最善だ」と誰かに向けて呟いてから、魔王に向けて体を返していく。
「カレン。……いや、全員だ。予定通り脱出しろ。卿らはここで失って良い力ではない。エストテアの騎士達よ、ステファン殿の意識を継げ。彼が王国の英雄であった事をエストテアの民に告げよ。殿は、ヴァンダリアが務める」
そのまま、魔王を見据えてそう声を出した。
確かに、ステファンが最後の結末を無策であるはずがない。そう自分で発した言葉を、クローゼは自分で納得していた。
「戯れ言を。……よくもバーラルを、ヴォルグ何をしておる、殺るのじゃ」
フリーダの奮える声に、ヴォルグか反応してフリーダと挟撃の形をとった。
絶え間なく繰り出される、二人の必殺の一撃を、クローゼは紙一重でかわして反撃をする。それは今までの彼が出していた美しい輝きはなく、熟練した剣のそれだった。
「あれは誰なのだ?」
目の前で繰り広げられる光景に、カレンが呟いた。しかし、恐らくアレックスもレニエも、それは初めて見るものだった。
「クローゼだけど。……誰かわらかないよ」
「初めての感じがします」
その答えを聞いて、カレンは思いを決めていた。
一方で、龍極剣エスターの空気を切る音を、混迷する意識の中で、ミラナ・クライフは聞いていた。そして、目を開きそれを視界におさめる。共鳴する自らの手にある、エスターナを感じながら回りに集まった騎士達に告げていた。
「脱出を……計画通りに。……私は……残っ……」
そう言って彼女は意識を失っていった……。
……眼下で行われているそれを、魔王は沈黙を守り見下ろしている。出血は既に止まり、怒気ともとれる何かを纏っていた。
――飽きさせんな。我の足りぬ力が疎ましい。出来れば、全力で消し去りたかった所だが。
そう魔王たる彼は思い、自身の中で何かが動いたのを感じていた。
魔王の眼下で、ヴァンダリアを名乗るクローゼは、ヴォルグの蹴りをかわしそれに合わせて、自らも蹴撃を放った。――その瞬間に対物衝撃盾を発動して、反動を利用しヴォルグを弾き飛ばす。飛ばされた彼は、かなりの勢いで壁に打ち付けられていた。
それを確認もせずに、クローゼはその勢いのまま龍極剣の本来の使い方である突きを、フリーダに繰り出していく。連撃で出されたそれは、彼女の肢体を貫く。
普通であれば修復されるそれが、龍極剣エスターの力によって彼女に傷を刻こむ。その連撃を受けたその勢いに押される形で、フリーダは後退りながら尻餅をついて倒れていった。
その光景を見る魔王を、クローゼは見上げて声を放っていった。
「まさか、逃げる何て事はないな?」
恐ろしく強気な発言に、クローゼ自身が驚いていた。
――このまま魔王を倒せるのか?
『無理だな』
――えっ?なんて?
『無理だと言った』
その内向きの会話の最中、ホールの入り口で彼は、カレンの剣技が放たれるのを感じた。
『時間を稼いでいるだけだ。皆が逃げれば後は知らん。……とは言わんが、分かるだろう自身の事だ』
――確かに、身体中傷だらけだし最初のあれを食らったら多分駄目だ。
『始めのは来んよ。出来るのならもう終わっている。奴も本来の力ではない』
――なら勝てるんじゃ?
『それでも無理なのは分かるだろう。それから肝心のそれも諦めろ』
――それは無理だ……絶対に。
『一人でぎりぎりだ。それでも、限りなく無理に近い。もう一人など無理に決まっている』
――それでもだ……
「魔王たる我が、逃げるなどあり得んぞ」
会話の途中に、魔王の声がしてクローゼは苛ついた感情をもて余し顕にした。
――うるさいぞ。それどころじゃない。
『なかなか楽しい奴だ。皆もそうだが、お前に代わってから守護する身としは飽きがない。それにそう邪険にするな。こうして我がお前と話せるのも魔王のそれ故なのだからな』
――はっ? 何の事だ?
『まあ良い。それより行くぞ、ここからは出し惜しみ無しだ。あとはなるようになる』
――なるようになるって……俺らしいのか。
そこで、内向きの会話の終えたクローゼは、自身の肉体にシンクロしているそれに身を委ねる。そして、それが発するであろう言葉を口にした。
「それでこそ、魔王だ。失望させるなよ」
そうクローゼは、魔王に向けて言葉を発して、魔王に向けて切っ先を伸ばして――飛んだ。




