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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第一章 王国の盾と魔王の槍
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二十二~乱戦。救国の騎士~

 ステファン・ヴォルラーフェン子爵は、それなりの騎士である。そして彼の盟友、エバン・クライフは王国最高の騎士であった。


 ――武器ごときで変わるのか?


 アレックスとの会話で、ステファンはそんな事を思った。……というよりもその事について、意識を持たない様にしていたと、今は理解していた。


 彼はこの手に握る龍極剣エスターが、事の始まりに盟友の手に有ればと思った事が無いわけではない。単純な後悔だった。


 彼が、クローゼに従妹と言ったミラナ・クライフは剣の守護者でエバンの妹である。そして、彼女が残っただけ希望が繋がった、と彼の中にはあった。


 ――反逆者でも救世主でもなんでもいい。


 現状、彼は一時的に数的有利を作った。何人かがこの場に集まって来いる。いずれも北部の憂国の騎士達だった。


「ミラナの援護を。魔王の動きを止めてくれているうちに、彼女を魔王の元へ」


 ――目の前の人狼。黒銀のヴォルグも、手負いとはいえ自分の手には余る。先程の力だろう輝きと、龍極剣エスターのお陰で、何とかと押さえているが……。


 それは、単純なステファンの思いである。そして、握る手を見て自問する。


 ――武器ごときで変わるのか?


 その問に彼は自ら答えいた。


 ―― この状況で、この剣を握るのがエバンであれは……変わるだろう。兎に角。今この瞬間にミラナを魔王の元へ、それが残された勝機だ。


 剣を奮う彼は、そう思っていた……。




 思いを向けられたミラナ・クライフは、目の前の女吸血鬼(フリーダ)が恐ろしく強い事を認識していた。

 彼女自身の突きを受け流しながら、多方向からの打突もかわして――その騎士達の腕を、肩を、頭をもぎ取っていた。


「我に触るな家畜(ヒト)風情が……」


 その声と光景を、ミラナは唇を噛んで見る事になる。腕を、肩を、そして頭をもがれてまでも、その女吸血鬼にすがり付く、王国の騎士達の姿をであった。


「ミラナ殿、この場は我らに」

「魔王を倒せば、王女様が後は……」


「すまない。後からいく。天極の地で会おう」


 その光景を後にして、彼女は魔王の元へ向かう。そして相変わらず、クローゼを見据えるそれが彼に何か声をかけた。

 その声を聞き、彼女自分の事を全く見もしない魔王に向けて渾身の突きを入れていく……。




 エストテアの騎士達の動きは、後からきたカレンには想定外であった。紫黒の騎士を弾き飛ばして、一定の距離をとったカレンは、手短に状況を確認する。


「アリッサ殿は? 破られるとは直ぐにか?」

「アリッサはあっちだね」

「今でも、おかしくはありません」


 カレンは、アレックスが指差した方を見て、レニエの言葉を確認する。そして、衛兵や人狼・衛士が集まって来ている事を皆に告げていた。そして、倒れ込んでいるアリッサを、クローゼに託そうと言葉をかけていく。


「クローゼ殿は、アリッサ殿を頼む。私はあの鎧を押さえる」

「……」

「クローゼ殿?」


 カレンに呼び掛けられたクローゼに、最初の勢いはなく、ある意味心が折れていた。それをおいて、この場合、クローゼの術式が発動されている前提でカレンの判断正しい。


 そんなクローゼを見て、カレンは思いを巡らせた。


 ――もう少し時間に余裕が有れば、あの鎧は倒せない相手ではないが、端から魔王と戦う想定はない。それに、アリッサ殿の状況が既にあり得ない。


「クローゼ殿。しっかりしろ。呆けている場合ではないぞ」


「分かった」


 かろうじて答えたクローゼを、一応に納得してカレンは準備する。


 カレンの言葉に動き出そうとして、魔王の視線を感じるクローゼは、その手前で繰り広げられるエストニアの騎士達を見た。

 そこにある、ステファンはまだしも、フリーダに向かっている彼らの光景を見て凝愕する。


 ――リアル過ぎるぞ、それは……。


 そう思い、兎に角足を動かした。魔王の横まで行った所で、ミラナがその光景からこちらと反対側に抜けるのが見える。

 真後ろでは、多分カレンとあの鎧がやり合っているのだろう、そんな気配を彼は感じていた。


 そのまま、階段状の上座の一段目に足をかけた所で、魔王の声がした。アリッサと彼自身、そして魔王との距離はほぼ同じ、クローゼが立つ真ん中の位置でになる。


「中々の余興だった。小賢しい精霊も力尽きたようだな」


 魔王の声が止んで、後ろから何かの声が聞こえて、ミラナが魔王に剣先を走らせるのがクローゼには見えた。


 ――ヤバイ……


 そう思った瞬間。対魔力防壁(ウォール)が全開になるのを感じた。魔王との間に展開されたの魔力防壁が、魔王の放ったそれとぶつかって激しい光を放った。


 眩しさで、一瞬状況が分からなくなる。取り敢えずそれは防いだが、恐ろしいほど魔力魔量を消費した気が……クローゼはしていた。


 視界が戻った時の光景は、ミラナが彼の方に向かって投げられたのか飛ばされて来ていた。何も出来ないまま、クローゼは彼女を見送って、そのまま魔王に視線を向ける。


 右胸から青色の液体、恐らく血であろうを吹き出している魔王が、クローゼは瞳には映っていた。

 ただ、魔王はそんな事をお構い無しで、相変わらすの顔をクローゼに、いや、喜びすら見せる表情を合わせていた。


「それを防ぐか。中々面白い」


 ホールには、魔王の声だけが響いていた。あまりの光景に全体の動きが止まる。こちら側だけてなく、魔王の側もであった。クローゼは、魔王のそれを聞いて、いつもの感じな思考のずれが見えていた。


 ――絶対的な差ではない。力がすべてと軽々しく口にした。いつも通り、やり過ごせると思った。それで、この状況。チートな物語なら、『俺たちは何とかとその場を逃げたした』で終わる筈な、安っぽいシナリオだ。いや、そんな考えに行くなんて、思考停止も甚だしい。


 ただ、この場の支配者が、魔王オルゼクスなのは明白だと思う。物語を作るのは奴だろうな。


 中途半端な覚悟で、どうにかなるものでもない。守る自信はある。片腹痛い。どこから出てきたその言葉? 現実逃避は止めよう。考えろ何かあるはずた。


 そうして、クローゼは口にする。


「もう一度やってみるか?」


 ――それがどうした?


 と、彼は気持ちを奮わせる。


 そして、クローゼはアリッサではなく魔王に向かって歩き出した。優先順位ではなく皆を守る為に。


「お前には、余興かもしれんが今の俺は本気だ」


「なるほど、覇気が戻ったか?」


 クローゼは、魔王の声を聞き、歩みを止めずそのまま魔王に向かう。歩きながら回りの状況を確認して、ヴォルグとやり合っていたステファンに叫ぶ。


「ステファンそれを貸せ!」


「で、なんだてめぇ」


 クローゼの言葉に、その場の雰囲気に飲まれていたヴォルグが反応した。そのヴォルグの行動に、ミラナが飛ばされるのを見たステファンが、呆然としていた意識を戻してクローゼを見ている。


「黙れ、犬野郎」

「なっ」


 ヴォルグの言葉に足を止めて、大胆にもヴォルグとステファンに身体ごと向いていく。魔王に向けた背中にその視線を感じて、ステファンに手を差し出していた。


「ステファン、よこせ」


 子爵である彼をあえてそう呼ぶ。クローゼは心でこう思っていた。


 ――演じている。震える心で、これまで通りに自分が誰かを演じていたように。

 力がすべての相手に、弱気など持てるわけがない。当たり前の様にそれを手にして魔王を切る。と分からせる。

 ミラナの突きが貫いた一撃が、魔王から出血強いている。その事実が頼りだ。


「子爵の切り札は、魔王に届いた。ミラナの剣と対をなすそれなら届く。奴らの刃は俺には届かん。……よこせ」


 その言葉に、ヴォルグがステファンに向かって攻撃する仕草を見せたのに合わせて、直接防護(ダイレクト)を発動する。


 無防備でヴォルグの攻撃を受けたステファンだか、それによってヴォルグを弾き返した。それを見てクローゼは、重ね掛けの発動ができた事に安堵していた。その安堵の顔が、ステファンを現実に戻していく。


「余裕なのだな、貴殿は」


 そう言って、自ら持つその龍極剣エスターをクローゼの足下に向かって投げて、ヴォルグと距離をとる様に飛んで見せた。そして、床に落ちている剣を拾いヴォルグに向ける。その一連の仕草を足早に現していく。


 ――正直。終わったと思ったよ。


 と、ステファンの心の声が自身の中で呟かれて、彼はミラナの安否を確認する為に、その方向に僅に意識をやった。


 そして、クローゼの方に顔を向けて安心した顔をする。その時――彼の頭は地面に落ちた。


 そう、クローゼの目の前で首が落ちたのだ。やったのは紫黒の鎧だと思われる。クローゼは、そいつが目の前にいるから、間違いないと思った。


 そして、その様子をクローゼが見たのは、投げられた剣がクローゼの足元に刺さり、それを彼が手にして引き抜いた時だった。


「え?」


 クローゼは、自身の前で起こったそれを見ていたが、理解出来ていなかった。何となくグロい場面は見ていた。これも、ステファンの首が、目の前の奴に切られたというだけだった。


 目の前の彼が特別な人という訳ではない。――上書きだったのかと何となく彼は思った。


 周囲で、残りの騎士達の声がしていた。無論、クローゼ達一行の面々の声もクローゼに聞こえた。それを聞いて、クローゼはステファンの死を何となく理解する。


 ――ここから、どうすれば良い?


 クローゼの奮い立たせたそれが見えなくなる。


 ――ステファンはヤバイだろ。誰か何とかしてくれ……。


 と、彼がそう思った時であった。


『仕方がない、手を貸してやろう』


 彼自身の内側から、そう声がしてきた。




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