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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第一章 王国の盾と魔王の槍
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十~ユーベンの事情と???~

 エストテア王国貴族。ステファン・ヴォルラーフェン子爵は、時勢を読む才に長けた人物であると思われる。


 魔王オルゼクスの王位簒奪からの宣言。それに、北部諸侯では一番早く恭順の意を示し、自身の領地と領民を守った。また、宣言直後の恭順から、魔王に接見できたほどである。


 当然、王国内の評価は、一時裏切る者と呼ばれる事になった。しかし、現状は、北部の諸侯の恭順を仲介して、北部貴族と魔王側から一定の評価を受ける状態にある。


 しかし、ニナ=マーリット王女が王位に就けば間違いなく処刑台行きだろう。彼には彼の事情があるが、そんな事は考慮されない筈だと思われる。


 そんな時に、クローゼの好奇心――魔王を見たい――の件で、ヴァンリーフ子爵からの要請は、彼にとって渡りに舟だった。それを即答で受け入れた事で、とりあえず家名を守る保険を手にいれた……。


 そんな彼から、提供された情報をまとめるとこうなる。


 ――魔王オルゼクスは、残された書物から推測すると本物だと思われる事。その下で魔王の魔族や魔物等が集まって、魔王の軍勢を形成していると言う事であった。


 魔王の軍勢と称するのは、魔王より名を受けた魔族が率いる死黒兵団――魔族の兵が中心で数は多くない――がその中心となる。今のところ、暗黒・紫黒・漆黒・鉄黒の4つある。それと魔獣や魔物を中心とした魔王軍から出来ている、という事であった。


 魔族の個体情報として分かっていることは、暗黒のサバルが幽魔族で、紫黒のフリーダが吸血鬼。漆黒のヒルデが鬼魔族、鉄黒のノーガンが竜魔族の固有種。黒紅のカミラは人魔族の魔獣使い、紫黒の騎士は吸血鬼でフリーダの眷族。……その他、何体か強力な個体も存在する。


 この辺りの情報が、彼の口からでたところで、クローゼが呟いたのに彼が答えていた。


「駄々漏れですね」

「元々彼等には、情報統制と言うものはないのさ」


 その後、ユーベンの情報を絡めた、南部の情勢が続いた。南部で王国軍が王女を擁して、ユーベン奪還に向けて動いて、魔王軍と二度程大きな会戦をしている。


 結果、一度目は王国軍が魔王軍を破ったという事。実際には、統制が取れなかった魔王軍の方が勝手に壊走したというのが、情報元の見解だった。


 それを証明するように、個体上位種の数を増やして兵団が参加したユーベン近郊での会戦は、エストテア王国軍が大敗した。


 以後、エストテア王国軍は、各城塞都市での防衛戦で時間を稼ぎながら、南部最大の都市クーベンで再編を行っている。そんな事情を話ながら、ステファンはユーベンについて語って行く。


「取り敢えず、南部に集中しているから、ユーベン近郊は静かなものだ。衛兵の格好をした人魔がユーベンにいるが、見た目は我々と同じだから表立っては普段と変わらんさ。まあ、無法地帯かもしれないけれど……」


 彼が言った、人魔と呼ばれる魔族は、見た目自体は人と大差はない。人狼や人虎代表される、変身する種や人に擬態する種を人魔とまとめ称していた。


「ユーベンには、紫黒のフリーダとその眷族や衛兵が千程度いるだけだ。今、イグラルードかパルデギアードが軍を動かせば、或いは……いや、叶わぬことだな」


 開示される情報の途中で、彼は呟く様に自分の思いを声にした。その言葉に、クローゼは叶わぬ理由を彼に訊ねる。


「君達の国の事情を私が言うのはあれだが、パルデギアートについては、北部の諸侯の希望だったからね。まあ、実状は酷いものだよ」


 その言葉の後に、彼はため息を挟んで、その事を話していった。それは、簡潔言えばこんな感じになる。


 ――増え続ける魔物や魔獣に、パルデギアードが軍を召集した。その数は数万にのぼったが、その対応だけに奔走して、属国扱いのエストテア王国処ではないと言う事だと。そして、押さえ切れないそれらが、エストテアに流れて魔王軍を増強しているのだと。彼はそう説明していた。


「そのお陰で、北部の諸侯の恭順の取りなしで、裏切り者から救世主扱いさ。君達の国は、クローゼ殿の成果だろう? お陰で北部は平和だよ」


 ステファンは話をそうまとめて、クローゼ達を見ながら……レニエに向けて声をかける。


「レニエ殿にも妻子の事は頼みます。一両日にはヴァンリーフ子爵の元へ向かわせますので」


 彼はそう言って、話をしめる様に「では、予定通り私の発った二日後に出発してくれ。精細はユーベンの屋敷で話す。予断を持たない方が互いの為だ」と言っていた。





 子爵の言葉通りクローゼ達一向は、その二日後。彼の妻子がロンドベルグに立つのを見送って、ユーベンに向けて出発した。


 幾つかの街を経由して、ユーベンにいたったのだが、それぞれの街は魔王の統治下。いや、占領下であるとは思えないほどだった。逆に、普段より平和であったと言える。


 エストテア王国の旧王宮所在地ユーベンは、堅固な城塞都市のイメージはない。無秩序に発展した街の様で、城壁と呼ばれる物に統一性がなかった。


 その街の商会専用の城門。それとは名ばかりの入り口に、隊列をなす荷馬車の中段にクローゼ達の幌馬車があった。――魔装具を着けた御しやすい馬を操る席には、アレックスが座っており隣はアリッサが座っていた。


 その彼等の前方では、衛兵らしき動作をする男達が声をあげている。聞こえてくるのは、投げやりな感じがしていた。


「おっきい武器は駄目だ」

「荷物はなんだ?」


 その声を幌の中の最前列で聞いていた、クローゼがアレックスに声をかける。恐らくそのままの意味であるそれであった。


「見えるか?」

 

 『見えるか?』の問にアレックスは、当然の様に答えていた。


「人狼だね。標本の通りなら」


「ヤバそうなのはいるか?」

「ちょっとまってね」


 クローゼの言葉に、アレックスはそう答えて何かを見る感じで、その方向を探っていた。そして、何かを感じたのか、また、見つけたのか、少し真剣な雰囲気を出した。


「いた。ちょっとヤバそうだね」


 アレックスの言葉に、クローゼが再度何かを言おうした時。唐突に、アリッサが「どれ?」とアレックス聞きながら、探す素振りを見せる。


「あの、なんか臭い嗅いでる感じの奴」


 アリッサの問いに、そうアレックスは答える。そして、暫く声をつぐんでから、幌の中に小声で話かけていた。


「クローゼ君。別の意味でヤバそうだね。あいつ流動分かるっぽい」

「なんで、そんな事分かるんだよ?」


 少し問題がありそうな感じの小声に、クローゼも小さい声で聞き返していた。難しい感じにアレックスは答えを探していた。


「勘だけど、感じてる時の雰囲気が僕っぽいから」


「分かると何か問題が?」


 カレンの声が、アレックスに向けられる。そして、彼は、アリッサに居場所を渡し、中にはいってきた。何となく『本当に?』の様子が、彼にはあった。


「カレンさんが、言っちゃうとあれだけど。ここにまともな流動の人いないからね。クローゼ君とレイナードはなれたけど。……最近のあの人は微妙だけどね。で、カレンさんは物凄く見えちゃう人だし」


「いやだから、カレンは『何が問題か?』って聞いてるから」


 クローゼの言葉に、アレックスは『分からないの』という顔で、その場を見回してこう告げる。


「魔力魔量がお化け見たいな人が、こんなに集まってたら普通おかしいよ。まともなのは、僕だけだからね」


「私もお前も大体あれだと思うぞ」というクローゼの言葉に、被さる「私も?」とセレスタ声。彼を見る彼女と同時に、レニエもアレックスを見ていた。


 二人視線を浴びるアレックスは、両手をやれやれといった感じで上げる。


「セレスタは、魔術と並行して神聖魔法使える変な人。レニエさんは、自分でわかってるか分からないけど、結構見えちゃうよ」


「そんな事より、そろそろそうなった場合どうするか考えるべきでは?」


 カレンが前方の幕を少し開けて、残りすくなくなった荷馬車を確認してそう言っていた。そろそろそんな雰囲気になる。その意味合いだった。


 そのカレンの言葉に、クローゼは考える仕草をしていた。――とりあえず、此処まで来てなんだけどな。みんなに何かあってもまずいし、逃げるか? まあ、ヤバそうなの一人だしな。ここでなら、子爵にも迷惑下がらないと思うから……。


「何かあれば逃げる。ここまできてだけど」


 恐らく、思考でとどまっていたそれを声に出して、クローゼは周りに確認をとっていた。


 彼がアリッサに、逃げる準備をする様に声を出そうとしたその時だった。それより先に、アリッサがクローゼにやる気の感じをみせていく。


「クローゼ様。任せてください」


 その声に「へっ?」と変な声を上げるクローゼ。そのまま、彼の思考は見せた怪訝のそれになる。


 ――アリッサ何を任せろと?


「アレックス君、あの人見えちゃう人狼さんなんだよね」


 ――アリッサ何を言っている?


「多分そうだと思うよ」


 アレックスの答えに、アリッサが「アレックス君の勘信じるよ。……クローゼ様。私に任せてください」と馬車からすらりと降りて、その男に向けて歩きだしていた。それは、まったく躊躇なく美しい感じであった。


 突然の出来事に、カレンが開けるその隙間から、クローゼはそれを眺めている。本当の意味で見ているだけだった。


「クローゼ殿。どうする?」


 そんな、カレンの声は彼の耳にはいっていたが、彼の思考はいつも通り停止していた。


 ――アリッサ???……だった。




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