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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第一章 王国の盾と魔王の槍
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五~魔王と言うこと~

 カレンの思いとは別に、クローゼの好奇心はアーヴェントを巻き込んで、核心に向かう雰囲気になった。しかし、いつもと違う雰囲気で駆け込んできた、アリッサによって遮られる事になる。


「ク、領主様。火急の御報告が!」


 公務の感じのアリッサに、クローゼも領主の雰囲気に戻る。ただ、息を整えるアリッサ様子が、普段の冷静な感じと違うのに「どうした?」とクローゼも怪訝な顔をした。


 それに、アリッサが動揺を見せる。


「魔っ、魔王が出現しました」


 アリッサの言葉に、その場の全員に緊張が走った。普段は、武術の鍛練を行うその場は、先程の興奮から冷め、ざわめきが起こっていく。

 アリッサのよく通る声が、何人かに聞かれ波及したのだ。


 普段のアリッサなら、百人近い人がいる場で直接言葉にする事は無かったと思われる。本人もその事に気が付いていないのが、彼女の動揺の証だろう。


「アリッサ、落ち着け。たかが魔王だ」


 クローゼに、周囲に聞こえる様な大きめな声で、「落ち着け」と言われて『ハッ』とするアリッサ。その表情は、自身を理解していた。

 ただ、クローゼの言葉で、ざわめきが起こっていた周囲も、沈黙を取り戻していく。


 その場に、ざわめきを起こした魔王の名――魔王と言えば、彼らの歴史の中で、破壊と殺戮の象徴で諸悪の根源にして、想像を絶する力を持つ存在になる。


 それを「たかが」と言ってのけた、クローゼの根拠は、何処にあるのだろうか。いつもの勢いで、と片付けれるほど、軽い言葉や名前ではない。


 その雰囲気を感じたのか、クローゼは、落ち着いた表情で、更に皆に語る様に話をはじめる。


「我々イグラルードの王国は、過去に魔王を打ち破っている。増え続ける魔物や過去の流れから、魔王の誕生は驚く事ではない。対処できる物を過度に恐れる必要ないぞ。俺達は誰だ! そう、ヴァンダリアだ。アーヴェント殿下の御前である。ヴァンダリアの力と矜持示せ。王国最強の騎士と剣士がここにいる。なにも恐れる事はないぞ――」


 そう言い放って、拳を突き上げる。取り敢えず『今はそう言う場面なのか?』という思考の者は、そこにはいなかった。

 それを裏付ける様に、歓喜と怒号がその場を包んでいったのだった。


 また、名前を持ち出されたアーヴェントも、口々に彼の名を叫ぶ彼らに片手を上げ答え――更なる歓喜を呼んだ。

 その場の雰囲気と気勢が最高潮に達し、緩やかに収束に向かったあたりで、クローゼが再び口をひらく。


「余興の時間は終わりだ、それぞれ持ち場に戻れ。早馬の引き継ぎは迅速かつ最速で。他の街道都市に遅れとるな」


 そう締めくくったクローゼの言葉に、彼等は動き出しその場を後にする。残ったのは、中心に陣取った面々だけになった。


 クローゼは、アリッサの後からきた領主代行の部下達に向けて「精細はキーナに」と指示をした後で、萎縮しているようなアリッサに声をかけた。


「アリッサに言ったんじゃないから。そんな風に、ならないでほしい」


 クローゼに掛けられた言葉を、消化できないアリッサを見て、レイナードが何と無くを出した。


「只の魔王だ」

「そうよ、普通の魔王です」

「そう、何処にでもいる魔王」


 レイナードに続いてセレスタが。そして、ブラットまでも。何故か「魔王」と声に出していた。


「だろ? たかが魔王だ。だから、そんなに慌てる事はないから」


 既に問題点が……と言うよりも、何の事か分からなくなったあたりで、アーヴェントが、『やれやれ』と言った感じになる。


「魔王の安売りはその位して、そろそろ本題に入ってくれないか。何を思って私をだしに、たいそうな演説をしたか知らないが。彼女の反応は至極当然だろう。……それに先程までの卿の口から、あれが出てくるとは驚きを通り越して呆れるぞ」


 アーヴェントはそう、事の次第も確認せずに大言を吐いたクローゼを見やる。


 ――結果的に、大きな混乱は無かったと見れば強ち愚策ではないが、意図的にやったとすれば余程の扇動者か策士だ。または、ただの愚か者かもしれんが。



「そうですね。重要なのはそちらでした。アリッサ状況報告を頼む」


 やけに素直な返答をする彼に、アーヴェントも今まで彼との向き合った者が、一度は感じる事を思っていた。――お前は誰だ? ……とその雰囲気に。


 その思考を「まあ、そんな事は良い」と彼は呟き、魔王の事に意識を向けていく。その呟きをカレンだけは聞いていた。

 呟きを見せた、アーヴェントの思いのままに、アリッサの報告、魔王の話がその場に向けられる。


 旧式然とした書簡を転写した物は、政務官舎にあるとして『口頭での連絡を』と前置きした、アリッサの話はこう言う事になる。


 一報をもたらしたのは、エストテア王国との国境を警備する城伯からだった。――エストテア王国の王宮所在地ユーベンが、魔王軍と称する一団によって陥落。国王ルードヴィーグ・ダ・エストテアが、処刑されたという事らしい。


 特筆すべき点を上げるなら、魔王と称する物の名が前回の魔王の名と同じオルゼクスという事だった。

 

 事の経緯に関しては、夜陰に紛れて少数で王宮を強襲して、王以下を人質を駐留していたエーストニア兵を退去させ、魔王軍と称する魔物の一団を招き入れた。という流れだそうだ。


  更に驚くべき事に、 エストテア王国全土に対して、王位に就くと宣言した。また、魔王オルゼクスの王位を承認した者は、生命と財産を魔王の名において保障するとして、それを実行している事だろう。


 これが確認された時点で、ユーベンは至って普通な状況にあった。異形の魔物は、ユーベンに入ってはおらず近くの森にあり、人型の魔族が衛兵の代わりをしていた。それらが通常の警備を行い、商人達の出入りは自由という状態で、この情報もそれによって得られた。


 簡単な経緯を、アリッサが説明し終える。その場で、いち早く声を出したのがクローゼだった。



「また、新型の魔王だな。エストテア国王とか。オルゼクスを名乗るも凄いな。前回のあれだろ?」


 場所と状況を考えない発言はさておき、彼の思考では、もっとあれな考えをしていた。


 ――魔王出現というから、もっと派手だと思ったが意外だな。オルゼクスとか、読んだ本には倒した的に書いてあったから、復活とか無しにしてほしい。

 さっき『打ち破った』とかカッコいい事いって……まあ、倒したとは言ってないからセーフにしとこう。それにしても、やり方があれ臭いな。



  「なかなか面白い話だな。ある意味、エストテア王国を人質に取った形だ。それで、エストテアの王国軍や諸侯は、どうしているのだ?」


 クローゼの問いの途中で、アーヴェントもアリッサに問いかける。殿下の肩書きに気圧(けお)されるかと思いきや、冷静かつ事務的に返答をする。


「精細は転写した書簡にという事になります。軽く目を通したかぎりでは王国軍に関して、南方の都市国家同盟に外遊中だった、ニナ=マーリット王女の帰国を待って、ユーベン奪還に動くのではないかとの見解です。また、周辺部の諸侯は日和見で、辺境部は王国軍よりかと思われます。後、宗主国の帝国は、軍の動員を始めたとの情報もあります」


「パルデギアードも動くのか」


 アリッサの返答を聞いて、若干の感嘆を表情にまぜて、アーヴェントは思っていた。


 ――あの慌てようで、書状の内容をここまで説明できるのは、また驚きだな。立ち話の感じではない。


そう彼が考えたのを見透かした様に、クローゼが彼を見てこう言った。


「殿下。事が事だけに場所を変えて検討を。殿下のご意見も頂きたい」

 

 彼は「ああ」と答えてクローゼをみる。クローゼはアーヴェントをいざなう様に片手を出して歩きだし、そのまま先程の思いに戻る。


 ――設定的に人絡みな気がする。寝返ったか召喚者か或いは俺的な……


 そうだと言わんばかりの表情で、彼は思考を止めて立ち止まる。そして、いつもの感じで後ろを歩くアリッサを見る。


「アリッサ。王都の子爵とモリス殿に連絡を。今日中に話したい。事の次第は、とりあえず子爵とヴァリアントには伝えておいてくれ。後は……」


 クローゼは話しながら、アリッサの表情が変わるのに気が付いた。その彼女の視線を辿る様に、その先に顔をと意識を向けていく。そこには、隣を歩いていたであろう。アーヴェントの姿があった。


「なかなか興味深い話しだな。ロンドベルグまで何日かかる? ヴルム卿……クローゼ君、詳しく聞かせて貰おうか」


 アーヴェント=ローベルグ・イグラルード第二王子が、 クローゼに向けて楽しそうな顔で、問いかけていた。




国名変更していきます。エストニア王国⇒エストテア王国。

色々とあれですが、よろしくお願い致します。2020/04/12

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