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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第一章 王国の盾と魔王の槍
33/204

四~騎士と剣士~

2020/04/12 編集改稿

 クローゼの思いとは別に、入れ替わりで、カレンとレイナードは広い場所の中央で対峙する。どちらも、気負い等感じられない様子だった。


「連続だが問題ないか」

「問題ない」


 抑揚のない二人はの会話で、構えられる剣。互いに、呼吸を整えて、合図を待つの雰囲気が流れる。


 その二人を見るクローゼの所に、頭から濡れた布を被ったブラットが戻ってきた。

 それをさりげに、アーヴェントを見てクローゼは、セレスタに合図を送る。観客(ギャラリー)も、先程より緊張しているのが分かる。


 そして、セレスタの開始の合図が、その場に通った。


 それと同時に、レイナードがカレンとの距離を瞬く間に詰める。その勢いのまま彼の剣先が、懐深くから突然現れた様に下からカレンにせまる。


 カレンはその剣撃を柄頭で受けて、「ガッ」っという金属音と共に後ろへ下がる。ただ、 下がるというより、五メーグ――五メートル――程跳んでいた。

 しかし、追い掛けるレイナードの剣先は、彼女を捉えて離さない。行きなりの距離が、僅か数歩で詰まる。


 激しい金属音がして、攻守が入れ替わった。カレンの返しの斬擊を、レイナードは剣身で滑らせ切っ先を逸らし、切り返しの斬撃も半身で避けていた。その流れから、互いに、体勢を立て直す様に距離を取る。そした、次の一手はカレンから……。



 何となく観客(ギャラリー)に分かるのは、そこまでだった。


「二人とも人か?」クローゼの単純な疑問に、答えたのはブラットだった。


「レイナードさんは……人だった気がします」


 答えを聞いて、クローゼは混乱する。目の前の光景は、見る事は出来るが分からない。


 ――時折、鮮血が飛ぶ。止めた方がいいのか? 見た感じレイナードが押している。が、結構な切り傷を付けられているのはあいつだ。だけど、刃引きしてあるのに切れるとか……ただ、演武を見るような美しさもある。でも、流れ的にはあれだ。


 クローゼは自分の中心から戻り、目の前の光景を確認すると魔法の起動に入る。


 魔動術式に魔体流動を合わせて、操作可能型自動防護式アクティブプロテクション――対物衝撃盾(シールド)と起動呪文を唱えた。


 ――彼専用の魔体流動展開術式――


 彼の特殊な魔体流動を利用した、独特の術式になる。自衛魔法で、発動後一定期間は、彼の意思とは無関係に物理攻撃を防御する。また、効果範囲内で有れば、自分以外の対象を任意で防御する魔方陣を展開出来る。それもタイムラグなしで……。



 アレックスに言わせると、流動自体が彼には、複数あるという事だ。本人の流動を取り巻く様に、渦巻いているという事だと言う。


「魔力魔量は、全部あわせたら魔王級だよ。見たことないけどね」


 とはアレックスの言葉である。また、彼は、自身が『中の人』と呼んでいるそれに、複数の術式を合わせる様に調整された、呪文を行使している。


「後は対象を決めるだけだが……」


 クローゼは呟き、視線を離さずに考える。


 ――朝のあれも条件を満たすなら、外す事はないと思うが、これは自信がない。このまま止めるか?


 細心の注意を払う彼の目の前では、二人の間に火花と激しい金属音が見える。そして、厳しい斬撃の応酬が続き、絶え間なく動く剣先が、それを美しく魅せていた。

 その互いに残像を残す様な剣の振りが、周囲に沈黙を強制する。


 体格を比べると明らかに、レイナードに分がある。しかし、速さと力強さでは、カレンが圧倒している様に見える。それを、レイナードは剣と身体の動きで捌き、カレンの剣勢をかわすだけでなく、同じだけ打ち返していた。


 そのレイナードの顔は、真剣だが何処か歓びを浮かべていた。逆に、カレンは動揺している様子が伺える。


 クローゼの視点からは、そう見えた。そして、隣のアーヴェントに『止めますか?』の伺う仕草で、二人から目を離す。その時「あっ、決まる」と突然叫ぶブラットの声を彼は聞く。


 その状況は、一旦距離を取ったカレンが、信じられない速さで、飛ぶように胸元から剣を振りながら距離を詰め、それにレイナードが前に出て、半身を返しながら、カレンの剣先を皮一枚かわす、その光景。

 いや、胸元からの鮮血を見るに、肉を削がれた様な距離感で、レイナードは、一閃をかわしたそれに続く場景だった。


 ――すり抜けるレイナード――


 彼が抜けた先のには、身体を泳がせ、体勢を立て直そうと利き脚で踏ん張るカレンの姿があった。そして、抜けた側の振り上げられた剣は、カレンの剣身とガードの付け根に向けて、振り下ろされようとしていた。


 クローゼが、彼らに視線を戻し見た光景になる。


 彼の「目」には、それを細部まで捉える様に、ゆっくりとした時間の流れで見えていた。

 カレンの身体が流れる様に、レイナードの気づいたそれをクローゼも見た。彼女の肢体にあたる軌道になった、斬撃をレイナードが躊躇する様も見えていた。


 だか、その瞬間にカレンの緋色の目が微かに輝きを見せる。それに併せ剣身が僅かに光を帯びて――意思を持った様に、レイナードに伸び掛かっていた。

 

「カレン殿それは駄目だ」


 と、クローゼは呟きの後、直接防護(ダイレクト)の声をレイナードに向けた……




 その声に続いた光景をレイナードは、鍛練場の屋根のない場所に大の字で、『空として』見ていた。――こんな感じで見えるのか? と彼は思っていたのだろう。そのまま、背中を地面に預けていた。


 最後の剣身の衝撃は、クローゼのあれで身体には届かなかったが、剣圧をもろに受けて吹き飛ばされていた。彼の身体には、あちこち傷が出来ている。彼は、此処彼処(ここかしこ)の傷を感じる仕草をしていた。


 ――最後の胸の傷が以外と痛い。……こんな感覚ははじめてだ。師が言っていた、上には上がというのは、こう言う事か。師も強いが、ここまでは出せない。


 僅かな思考後で、レイナードの視界にはクローゼとセレスタに、ブラットと先程の相手が入って来る。


「大丈夫か?」

「遅いぞ。死ぬとこだった」

「見とれてた」


 クローゼと彼とのいつもの会話。そんな当たり前に、レイナードは思う。


 ――お前がいなかったら、本当に死んでたな。セレスタのおかげか、傷の痛みが引いていく。もう暫く、こうしとこう。案外、気持ちがいいな……


 そんなレイナードを見るカレンは、小さく肩で息をする感じだった。その視線は、先程とは違う形で相手を見下ろしている。 彼女にとっても、はじめての感覚だったと思われる。


 そして、あの試合の瞬間を彼女は思い、彼を見ていた。


 ――ランガーとの闘いでもここまではなかった。それを実戦とするなら、明らかに相手は自分と同等の戦果をあげただろう。

 速さも力も私の方が確かにあると思う。ただ、技量において、彼は自分を凌駕した。


そう、基本的な部分が出来ていれば、今まで問題なかった。いや、そう言う相手しかいなかっただけだ、という事を実感する。上には上がいるという事か。そう思うと自分のした事が悔やまれる。……無意識だった。それでも、それは言い訳にならない。


「試合で剣技を使うなど……」


 カレンは、レイナードに向ける言葉が見付からず、彼とクローゼの会話を聞きながら、思わず呟いた。


「カレン殿、それは流石に駄目です。レイナードも魔装具なして出来ますが、試合ではなしです」


「すまない」


 クローゼのの言葉に、カレンは申し訳なさそうにそう答えた。彼の言葉に、少し負けず嫌いが出ていたのを彼女は気が付かない……それほど余裕がなかったのだろう。


「凄い物を見せて貰ったよ」


 アーヴェントが歩きながら、手をたたいて近づいてきた。それを感じたレイナードは、さっと立ち上がって彼に一礼してセレスタに「ありがとよ」と小声で告げた。それで彼は、カレンに向き頭を掻いていた。


「感謝する。自分が自分で理解出来た。上には上がと師に云われていたが、それも分かった」


 そう言われカレンは、言葉を探したが見つける事が出来ず無言を返す。


 ――負けたのは私だ。死に体になった時点で……。



「レンナント君も、強ち嘘付きではなかったな。レイナード君には悪いが見くびっていたよ。どうだろう。私の騎士として使えてみないか?」


「無理です」


 カレンの無言に、会話に割り込む形のアーヴェントに、即答したのはレイナードではなくらクローゼだった。怪訝な顔をするアーヴェントが、クローゼにそのままをみせる。


「ヴルム卿。私は彼に聞いたのだが。君の家臣かも知れんが……」


「唐突過ぎました、申し訳ありません。殿下のお申し出ではありますが、彼は既に次代のヴァンダリアに剣を捧げておりますので、殿下のお誘いはお受け出来ないかと」


 クローゼは彼にそう説明した。だだ、アーヴェントは、彼のずれた感じに難しい顔をして、カレンを見ていた。そうされたカレンも、困った顔になる。


「次代とは卿の事か?」


「滅相もないです。次代のヴァンダリアは、ヴァンダリア侯爵令嬢フローラ様の事です」


 アーヴェントはそれで思いだし、そうたっだと納得する。――ただ、まだ年端もいかない幼児の筈たと、疑念を持った。だが、そう言われれば、二の句はないとも理解していた様である。


「そうか、失念していた」


「それに、カレン殿がおられるのに、レイナードまでとは些か欲張りかと」


 クローゼの物言いは、些かではあるが、アーヴェントの気質ギリギリの所で止まっているのも、いつもの事である。


「そうだな。王国最強を二人も抱えては、欲張りと言う事だな。レイナード君。君の事は残念だが諦めよう」


 アーヴェントはそれで、何故か得意げなクローゼと、謙遜顔の彼らを見ることになった。


 ――ヴァンダリアとはこれ程かと思う。若くして、近衛に入ったセレスタにしても、少なからず事を成したヴルム卿にしても、カレンを破ったレイナードと言うこの男も、そして先程カレンと試合ったブラットという青年も。その彼の敗れた後の態度だけでも……ヴァンダリアはこれ程かと思う。


 馬鹿らしい理由をつけて、ここに来て良かったと思える。ヴルム卿は、いや、クローゼという男は、なかなか面白い。それに、カレンにとってもここに来たことは良かったのではないかと思う。


 と言葉を発した後、暫く考え事をしたアーヴェントは、カレンの方に向けて話しかけた。


「カレンすまなかった。話の途中で割り込んだな。レイナード君に何か言う事があるだろう。構わんから、会話に戻ってくれ」


 言われたカレンは、考える時間を貰えたことに感謝した様子で、レイナードに向けて姿勢を正した。


「申し訳ない事をした。約束事を守れぬなど自分を恥じる。上には上が……その言葉。私も分かった気がする。これからは精進するつもりだ。此方も感謝する」


 カレンはそう言って、レイナードに敬意を払い頭をさげる。それは、心からそうであると見えた。

 そして、正面に見た、彼の困った様な顔が、どこが達観している様に感じた。


 

「だそうた。どうする? レイナード」

「こちらの努力も大変だな」


「と言う事ですカレン殿。貴方が今以上の努力されると、レイナードはともかく、私の様な非才の輩の嫉妬が量産されますので、程々に願います」


 今度は、クローゼが会話に割り込み、困った顔を量産する。言われたカレンも、隣のアーヴェントでさえ、彼の言葉の意図が分からない。


 他の困った顔は少し違うがのだが……。


 勿論、意図などない。試合を見て、興奮を隠せない彼のいつもの行動だ。多分、そのままそう思ったのだろう。


「意味わからんぞ」

「やめてください。また、いつもの感じです」


「仕方ないだろ、あんなの見たら興奮しない方が可笑しい。ねぇ、カレン殿」


 レイナードやセレスタに言葉を挟まれても、尚もカレンを巻き込もうと彼は続け、こう思っていた。


 ――六剱の騎士(シックスソード)真紅乃剱(グリムゾンソード)なカレンって、要するに、ユニークキャラじゃん。動きが人間離れしてるし。クローゼ的な知識でも、あれはないな。それと互角ってことは、レイナードもそう言うことだよな。やべー。

 英雄とか…ひょっとしたら、勇者系的な。一寸興味がある。それとなく聞けないかな。……決して可愛いとか綺麗とか美しいとか、そう言う訳でない。

多分……きっと。


 カレンには、そのクローゼの顔が、表現が出来ない感じだった。ただ、とんでもなく不快と言うわけではない。寧ろ子供の様に見えた。


「領主様、また顔が……」

「衝動的に、カレン殿に抱きつくとか無しです」


「しないから!」

「やりそうだったぞ」

「してないし!」


 彼らの会話を聞いて、カレンは軽い笑い声をだし、彼女に注目のが集まる。視線を浴びる形になった、彼女はこう思っていた。


 ――私と殿下の関係とは違う。……不思議だ。私のしたことは、もしかしたら取り返しのつかない事になっていたかも知れないのに。彼は、そのことを深く責める分けでもなく。対戦した本人も周りも。不思議だ。

 彼らの距離感は、この世界では感じた事がない。でも、少し羨ましい。



「カレン。君もそんな顔で笑うのだな」と、彼女にアーヴェントの声を聞こえた。「その方が良いです。カレン殿は」と、彼女にクローゼの声も聞こえる。

 

 ――そうなのか?……そう彼女は思っていた。



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