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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第一章 王国の盾と魔王の槍
29/204

壱~物語の始まり。移り行く視点~

2020/04/04 改稿

 感覚が変わったこの世界。その日射しが城壁に反射して、王都ロントベルグの街が、本当にそこにあるのが分かる。 

 それを後にして、高い建物がヴァリアントで見たあれ以外何も無いような場所に、石畳で作られた、先のほうまで続く街道を馬上から眺めていた。


 グランザ・ヴァンリーフ子爵との衝撃的な会話。記憶の点が重なった様な出来事から、何日か王都に滞在して、ジクルドヴルムへの帰路に付いている。


 子爵に少し怒られたが、アーヴェント殿下には借りは返せたし、レニエは、お付きの何人かと少なくない荷物と共に同行して来ていた。


 献上品を降ろして、空になった馬車があったにも関わらず馬車は増えていた。その殆んどが、子爵に渡された物だという事になる。


「どんだけ過保護なんだ? 」と王都を出たところで、呟いたのをレニエに聞かれ困った顔された。 その場面を見られて、セレスタとアリッサに怒られたのはちょっとあれだったな。


 そんな流れで、中世ヨーロッパ風の街。


 そんなイメージの王都ロンドベルグを離れ、この世界での家に向かって街道を進んでいた。街道だけを見れば、ローマ帝国な感じがする。俺の「脳内変換」になるのだが……。


 まあ、どちらも見たこともないので正直わからないが、そんな事よりも重要な点がある。


 ――ここは異世界だと言う事だ――


 何と無く冷静なのは、この世界になれるまで、自分は誰なのか? という問いをしてきた為だと思う。


 と言うか、クローゼはここで生活してたし。


 それはそれで、今の記憶が正しければ、俺の名前は黒瀬 武尊。それで今は、クローゼ・ベルグ・ヴァンダリア。男爵位を持つ貴族だ。上書きされなくて良かった。


 一応・黒瀬 武尊が、事故死して転生したという王道パターンらしい。神様的なのには合ってないから、もう少し優しくしてほしかった。


 でも、転生先の設定としては、俺のストレージ的にもまあ普通かな? 記憶のない村人とかだったら結構苦労したかも。まあ、それもありだけど。


 なんか、余裕だな俺。 


 黒瀬 武尊としては、天涯孤独の独り暮らし、魔法使い手前の工場勤務。リア充爆発しろ、的な生活。


『あるある設定?』自分の事をあるあるもないか。


 今の感覚だと、難しいのはクロセサキと黒瀬 咲希が、同一人物だとして考えると、異世界転移して両方の世界で俺の母親だった事。


 まあ、そうだとは限らないけど。


 黒瀬 武尊の母親は黒瀬 咲希。クロセサキはクローゼの母親で召喚されし者。クローゼは黒瀬 武尊の転生後で、黒瀬 武尊の母親はクロセサキなのか?


 考えても分からないので止めておく。


 どちらにしても、両親の記憶は余りないしな。まあ、レイナードなら、「気にすんな」で終わりそうだし。


 周りを見ると、ファンタジーな世界観の場所が広がっている。剣と魔法の世界的な。


 当然、セレスタとアリッサ。アレックスにブラット。レニエに護衛隊の面々と結構な数がいる。ジクルドヴルムにも、勿論、ヴァンダリアにも沢山大切な人がいる。


 側近の彼らに、フローラと義姉上。まあ、『意地でも』の記憶があるから、もう、フェネ=ローラ様はそれ認定しとく。それに、導師。……彼は『ヤバい』色んな意味で。


 あとは、封建的領主として、それなりの忠誠心と信頼を寄せられているのも感じる。日本人だった記憶を持って見るこの世界は、余り違和感なく当たり前な気がする。


 ここ何日かで、設定という視点が加わった事で、また違った向き合いかたが出来そうだし。

 まさか、知らずに冒険者設定に関わるとは、なんかあれだけどな。



 それもそれで、あまり思い出したくない『前世?』は、結構あれな人生だった気がする。そんなには生きてないけど。


 ただ、今はちょっと幸せだな。物語の中の人としてはなかなかだ。少しだけ、格好良く生きてもいいかもしれない。



――そう、『それなりに』格好良く――



 そう思い馬上で、背筋を伸ばして前を向く。頬を撫でる風が心地よく感じた。景色と感覚に余り違和感はなくなった。――そんな感じだ。


「クローゼ様? 」


 気付かぬうちに、隣に並んだセレスタがこちらを見ていた。白金の様な金髪(プラチナブロンド)が、微かに風に揺れている。


 彼女を見て「綺麗だよ」と呟く様に、そのまま声を出してみた。少しだけ動揺したような彼女から、視線を前にむけていく。


 ――物語は始まったばかりだ。



 そう、神々の一つ(・・の・)の視点の先にある、異質な意識の体。彼が『 自分』に気が付いて、僅かに合わさり、この頁に至った所であった。


 その彼が、物語に綴って行く『それなり』の先を、天なる・は見えていた様である。ただ、この視点には、楽しみではある。


 それ故、この視点からは、暫く見る事にしょう。それでは、続く『彼の頁』を、綴る視点(かみ)に渡とする。


 そう、兎に角、動き出したのだから。――『王国の盾』なる。彼の物語がである。


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