表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
序章 王国の盾と記憶の点
28/204

二十七~記憶~

 あの後当たり前に、子爵の屋敷に戻って『なんやかんや』で、今は、グランザ・ヴァンリーフ子爵と差し向かいで蒸留酒を飲んでいた。

 自分が『酒を飲んでいるか? 』と言えば、大半が紅茶なのだから、酒を飲んでいる感覚ではない。


 ――まあ、目の前の彼は、カップではなくグラスで、何処と無く機嫌良さげに飲んでいるので、飲んでいる事にしておこう。


「奥方は出来たお方ですね」


 そう、夕食の場での出来事を思い返して、彼に声と向けていく。彼は、嬉しそうな表情を此方に向けて、グラスに残った無色を飲み干していた。


「ああ、そう思うよ」そう言って、空いたグラスに酒を注いでいる。ヴァンリーフではない彼の顔は、悪く言えば、普通の父親のそれに見える。


 そうあの場。夕食の席で、彼はキャロルとシャロンに向かって唐突な感じで、それを話始めた。


「キャロル、シャロン。二人とも聞いてくれ」


 俺達も同席し皆がいる場所で、「レニエは、お前達の……姉だ」と告げていた。


 緊張した様子のレニエを、双子の彼女達は見た。そして、当たり前の顔で「はい」と答えていた。


 以前からそうだったと、後から聞いた。夫人は、彼女達を自然にそう育ててきていたと。それは、レニエの負担にならないように、彼女と彼女達との関係を築かせていた、と言う事なのだろう。


「御時間が掛かりましたね」

「ああ、ありがとう」


 その夫人の言葉に、彼は感謝を向けていた……。




 そして目の前の彼は、グラスに口をつけてから「レニエを頼む」と言って俺の方を見る。続けて彼は、呟くように「人外。いや、亜人には、ロンドベルグは住みにくい所だからな」と付け加えいた。



「君も早く妻を持つといい」


 その雰囲気からの呟き。その感じで言葉にした、彼の意図する事は流石に分かる。ただ、向けられたそれは彼個人の意志の様に思った。


 ただ、返事を求められて無い気がして、そのまま何も答え無い事にする。あり来たりな会話から始まった彼との時間の本題が、彼女の事ではないのは彼の顔を見るとそう分かる。


 彼はグラスに残った透明を飲み干し、軽く間を置いて俺の目を真っ直ぐに見てこう始めた。


「本題に入ろう。今の君なら知っておいた方が良いと思う。……君の出生の話だ」


 俺の若干の動揺を読み取ったのか、彼は、暫く言葉を止めていた。そして、俺が息を整えるのを待って、彼は話を再開していく。


「龍の神子。……巫女か。それは知っているな」

「名前だけは……」

 

 それは、ドラゴニアードで崇められている、『龍装を纏った神々』の信仰者のなかで、聖人や聖女と言われる人々の名称だと。宗教の話なら、本題からそれている気もするが。俺の答えには構わず彼は話を続けてきた。


「彼らは、何年か毎に天極の地より特別な儀式よって召喚され、龍の巫女として神々に仕える、と言うのが一般的な話になる。形骸化していて、形式だけだが、中には本当に召喚される者がいるのだ」


「仰る意味が分かりません」


「私も分からんよ」そう、少し笑いながら彼は俺の問いに答える。


 ――貴方が分からないなら、尚更、分かりませんけど。


 と、恐らく俺がそんな顔をしたのを、気にも止めない様子で、彼は簡単に言ってのける。


「知ってるだけだ。君の母君がそうだからな」


「んっ?」と彼の唐突な言葉を一瞬考える。


 ――俺の母親は、龍の巫女ということなのか? 向かいに座る彼はそう言っている。ちょっと待ってほしいが。


 と、そんな疑問をそのまま口にする。


「私の母は龍の巫女なのですか?」


「正確には違うな。聞いた話では、捨てられたと言っていた」


「捨てられた?」


「言葉のままだ。目隠しをされ馬車に乗せられて、何処か分からない場所に放置されたという事だ。そこを、君の父上に拾……助けられたのだと」


 彼はその言葉の後に、聞いた話としてこう語っていた。


 母は気が付くと、祭壇の用な場所に立っていたのだと言う。ほんのすこし前まで、普段の生活を送って場所と全く違う景色のその場所に……。


 始めは歓喜を、次第に落胆を。そして、異端と呼ばれて捨てられたと「殺されなかっただけまし」とは母の言葉だそうた。


「天極の地と言うのは、龍翼神聖霊教会でいう所の神々の世界の事だ。君の母上は、そこから来たのではなく別の世界から来たと。結局、言動が異端であるが、儀式で召喚した者を殺す事が出来なかったという事だな」


 そこまで彼の言葉を聞いて、最後の所に疑問を投げ掛ける。


「母上は何処から来たのですか? 」

「ニホンという国だそうだ」


 ――ニホン……ニホン……ニホン? 何か聞いた響きがする。


 頭の中で、その言葉が繰り返される。たぶん、俺の困惑か混乱の頭の中は、彼に届いていないのだろう、彼は自分言葉を確認していた。


「ニポンだったか? いや、ニッポンだった気もするが、そんな名前の所だった」


 そう子爵は、不明瞭な記憶をおいて、母の事を話した。


 ――兄の母を早くに無くして、独り身だった父。そして、俺の母は助けられた事を感謝する。何となく二人は近い仲になり、天寿に関わるであろう病になった父を献身的に介護?する母の様子を――


 あったであろう事実と事情を、前に座る彼は「私しか君の母君が、別の世界から来たということは知らない」と付け加えながら、話をしている。


 もう、その辺りで、彼の言葉は単語としてしか認証出来なく成っていた。そう、頭の中は『ニホン? ニポン? ニッポン?』 と、何かのふたが飽きそうな感じがしている。


「君の母君の名を告げておこう」


 そう、彼の可笑しな声を聞いた。


 ――自分の母親の名前ぐらい分かる。クローディア、そう言う名だ。見たことも、記憶にもないがそう言う名だ。


 ただ、聞こえて来たそれは、別の何かと思う。


 『クロセサキ』とは、彼の言葉だろう。その単語に何かが切れる……。


 クロセ ……クロセ……クロセサキ……黒瀬 咲希……クロセ ……クロセ……クロセ……黒瀬……黒瀬……黒瀬 タケル……タケル……。


 ――黒瀬 武尊――


 そう頭に浮かんだのは、俺の名だった。そう認証した刹那。


――溢れ出る程の、知識・自識・認識・常識…記憶・思い・感情・事情・情報・記憶・記録――


 それで、黒瀬 武尊(クロセタケル)として生きてきた事を思い出す? いや、思い出した。


 思い出した記憶の最後の場面。――バイクに乗る自分。紫色の光。弾ける体。受ける衝撃……。


 そこに見た自分。資材置き場か何か。そこに倒れ込みそうな体を、金属の棒が貫き支えいる。その暗闇の中で、絶え間なく吹き出す温かさを掌で感じ、死を覚悟していた。


 意識が遠退くが分かる。感覚が無くなり視界が入れ替わった。そして、見慣れない景色を見て、信じられない傷みを感じていく。


「ここは……どこ……」


 その言葉を最後に、その場面は終わる。


「クローゼ殿。大丈夫か?」


 グランザ・ヴァンリーフ子爵の声。目の前の彼は、変わらず彼だった。


 今の出来事がなんだったのか分からない。だだ、全く別の何かが自分と重なっているのはわかる。でも、彼に話しても分からないだろう。自分でもまだわかっていないのだから。


「衝撃的だったので」


 俺の言葉に、彼は「そうだろう。突然こんな話をしても……」と話を続けたが、彼との認識は共有出来ていないのだから、本当の意味で噛み合った会話にはならない。


「私が、話さないといけない事はこの位だな」

「ありがとうございます」


 話の流れを締めくくる、彼の言葉に謝意を表す。


 その後の会話は、よく覚えていない。勿論、彼の問題ではなく俺の方話だが。アーヴェント殿下の件の処理。これからのヴァンダリアの話。今後の俺のはなし。その他……何となくこれくらい。


「暫くは、王宮がらみはなしだ。それは、此方の仕事だという認識でいてくれていい。それ以外なら、好きしていいぞ。何かに有れば我々が処理する」


 「時間も時間だ」と、最後に彼はそう締め括った。それに合わせて、形式的な挨拶をして、部屋を後にする旨を伝える……。



 彼と別れて、割り振られた部屋に向かう。


「安っぽい設定だな」と呟き、自分の顔が揺るんて無いかを手で触って確かめる。でも、分からない。部屋をでる前までは、可笑しな顔をしてなかった筈だが、今はきっといつものあの顔だろう。


 ――少し、自分の記憶の整理をしようか。


 クロセサキは、俺『クローゼ』の母で召喚されし者。俺『クローゼ』は、黒瀬 武尊の転生した姿。

『黒瀬 武尊』な俺は、日本に 住 んでいて、その時の母親の名前は……黒瀬 咲希。


 ――時系列無視も甚だしい。


 あり得ないに、あり得ないを重ねても、ただ、あり得ないだけた。『それがどうした?』って感じだな。


 ――楽のしそうじゃないか。


 わくわくしてきた……が、とりあえず寝ようか。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ