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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
序章 王国の盾と記憶の点
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二十六~謁見の後で~

 一仕事だった国王陛下との謁見は、何事もなく終わった。――まあ、『こんなかもんか』だった。


 今は、闘技場の様な施設で、国王陛下と王公貴族相手にあの筒の実演を(そで)の天幕で見ている。実演をしているのは、ブラットなんだが、所作が美しいので、そちらの方に感嘆の声が上がっていた。


 大体、謁見の間になった部屋では「大義」としか陛下の言葉は聞いてないし、儀礼所作は問題なく出来たんだろう。同室したヴァンリーフ子爵も、何も言わなかったからそういう事だと思う。


 オーウェン殿下にも、アレックスの件が済んだ後、お声を頂いた。兄上の事ばかりで、献上した上書の件には触れら無かったから知らないのだろうか。


 ――まあ、俺も中身は知らない。


 取り敢えず、拍子抜けな気もするが、子爵に「形は整った」と言われた。追って沙汰があるそうだが、ジルクドヴルムは『冒険者始まりの街』を、俺は『ヴルム』男爵を名乗る事が出来るらしい。


 ――そんな感じだ。


 と、よっぽど、前室までの方があれだったのは言うまでもない。横に並んでいる三人を見ると、確かにそうなっても仕方がないと思う。


 因みに、名前は分からないが、三人共に何かを羽織っている。歩きはしないが、外で待つのを選択したので強制した。


 ――それくらいで陰るでもないしな。


 そんな事を考えながら、天幕から少し出て上を眺める。見おろされるてる感じがあるそちら側に、国王陛下を含めた、王族と有力な貴族が並んでいた。王妃様らしき人は見えなかったが、婦女子や子弟も多いようにみえる。


 顔が何となく確認出来る距離で、分かるのは、陛下とオーウェン殿下。多分その間に居るのが、第二王子のアーヴェント殿下。離れたら所に居るのがエドウィン殿下だろう。


 ――なんか、脳筋なおやじに見える。それもあれだけど、という事は、その隣はノースフィール侯爵か。後は、エルマ女史が陛下達に解説している感じなのか。


 と、ブラットの方を見ると、実演は魔装具の方に移っていた。それで、上の方に視線を戻すと、先程まで無関心だった、偉そうなチョビヒゲの男が見える。


 ――彼が導師の例の兄弟子か? 性格が曲がってそうだが、とりあえずまあ良い。


 若干、それた気持ちの視界に、派手な光や音がしてきた。


 見たままに、ブラットが例の魔装具を使用している。実演とはいえ、近衛の服装のブラットが魔法陣を展開して、火球や氷結を飛ばすのには流石に驚きの声が上がっていた。


 ヴィニーより、威力は充分に出るので派手に見える。それに、剣士は剣技、という頭があるから驚くのだろう。暫くして実演が終わり、観客は退場し始めていた。

 なし崩しだけれど、綺麗な儀礼所作で終わったのが見えていた。ただ、これは大道芸の感じだと、アレックスも言っていた。


 ――そうなんだろうなと思う。


 どうでも良い思考で、アレックスとブラットが戻るのを見た。それに、セレスタとアリッサが「お疲れ様です」的な声を掛ける。


「ご苦労」とそれなりにブラットを労っておく。それに「ありがとうございます」の返事がかえってきた。アレックスの「終わったよ。疲れた」という言葉に「そうだな」と返してみる。


 ――兎に角終わった。……早く帰りたい。


 そう思っていると、ヴァンリーフ子爵が隣に歩いてきた。


「男爵。今晩時間を貰いたいが、宜しいか?」


 固い感じに、別に帰って寝るだけだ等とは言わない。勿論、予定はない。当然「はい」と答えて「夕食後、二人で」と言う子爵の言葉を聞く。


 彼は、俺にそう告げた後に、皆にむかって声を掛けていた。


「それでは、私は別件があるからこれで。君達は、屋敷の方へ戻ってくれたまえ」


 そう言ったあと、レニエに耳打ちして、何かを頼んでいる感じで話をして、彼はその場を後にした。


 ――さあ、あとは帰るだけだ。


 と、その雰囲気を出して、皆で馬車に向かう為に歩き出す。少し気の抜けた感じがする。ブラットとレニエは、普段からそんな感じなのだろうが、他の者よそ行きだから、結構疲れている様子にみえた。


 そんな中で、こちらの行く手を阻んだ人物がいた。それは、まったくの想定外だった。


 施設の出口の通路で、俺達を待ち受けていた人物に気が付いて、(ひざまず)こうとするのをその人に片手で止められた。


「良い。そのままで、ヴァンダリア卿」


 目の前に立つのは、アーヴェント殿下だった。


 遠目には分からなかったが、威圧感が凄い。オーウェン殿下にはない感じだった。直感的にやばい感じする。他の皆もこの状態に、ついてこれない感じだった。取り敢えず、ままに声を出してみる。


「感謝します」


「良いか?」


 低い声で発せられたそれは、有無を言わせぬ物だった。色んな意味で、良いも悪いもない。「はい」としか答え様がない。それを聞いて彼は「そうか」と言って話をしてきた。


「先程の魔衝撃を使用した筒と言うのか、あれの量産は可能なのか? タイランは下らぬ物のと言いったが、存外使える様に思うのだがな」


 俺も使えると思うけど、作り方まで分からないから答えてようがない。頭を下げる様にして、そんな感じて言葉を返していく。


「申し訳ありませんが、製法までは解りかねますので、なんとも申し上げられません」


 こちらの中途半端な答えに「そうか」と言って、こう続けてきた。


「まあ、それは良い。あれには興味を持った。卿の知る範囲で構わんから、話を聞きたい。今宵、私の屋敷で夕食でもどうだ?」


 ――正攻法の正面突破だな。そのまま来るとは……。思考が止まりそうだ。なぜ俺? アレックスもいるのに。大体、もう予定あるし。


 と、それで、何か言葉を出そうとして、背中に誰かの指で『罰点を書かれる』のを感じた。


 ――何となく分かるけど、断れって事だよなきっと。子爵の言っていたのはこんな感じの事か?


「どうした?」


 そんな、アーヴェント殿下の声がする。返事をせずに、少し間が出来たのだろうか。彼が先に言葉をだしてきた。


 ――ちょっと焦る。……まあ、考えてもしかたがない。


「殿下。誠に申し訳ありません。先約が御座いまして……」


 そんな風に、濁す様に逃げる。しかし殿下は、あまりに表情を変えず「そうか」と言って「出来れば、私を優先して貰いたい物のだが?」と続けてきた。

 

 ――困った。どうする? と、然り気無く(さりげなく)刺す指先を背中に感じる。それで――仕方がない、適当にごまかすしかないか? に至る。


「殿下の御申し出、感謝致します。ですが、ヴァンリーフ子爵の屋敷で、御令嬢御二人との先約が有りますので、それを反故にするのは男として……」


 あからさまな、苦しい言い訳を殿下は、最後まで聞くことなく「なるほど」と言って片手を上げた。


 ――『もういい』という事なのか。


 そんな考えで、固まる俺に彼はこう言ってきた。


「男としてか……それは仕方ないな。突然無理を言ってすまなかった。それだけ美女を(はべ)らせて、さらに女を理由するとは。卿は、存外好色なのだな」


「恐縮致します」


 女好きと言われても、取り敢えず、この場をやり過ごせば良いと思った……。


 ――でも、そうなるのか? ただ、殿下の後の奴が、俺の後ろに視線を向けて、ニヤニヤするのは許せんけどな。


「まあ、卿の立場も理解した上で、納得した事にしておく。いずれゆっくりと話をしたものだ」


 そう言われて、わざとらしく殿下の後ろに視線を向けて答えていく。


「その機会を頂けるなら、『取り巻き』なしで殿下と御話したいものです」


 俺が、取り巻きと言った輩が「はっ」とか「殿下の御誘いを……」「分を知れとか」騒ぎだしたが、殿下はいたって冷静にそれを片手で制して、俺にむかってその表情を向けてきた。


「こちらの言が気に触ったのなら、謝意を表さんでもないが。この辺りしておこう。一つ貸しと言うことで納めておくが?」


 殿下に文句があった訳ではない。でも、そう取られても仕方がない。


 ――背中も指どころか、二人に服を掴まれてるし……。脳筋の方なら、切られてたかも知れないな。まあ只ではヤられないけど。


 とりあえず、後ろに分かる様に手を軽く振る。それで、レニエは理解したのだろう。セレスタ達を促して、殿下の対面から逸れていくのを感じる。

 そして、その場で。それも全力で片膝で跪く(ひざまずく)。ブラットも察したのか、俺の後ろで追従していた。


「感謝致します。出過ぎた言、非礼と心得ますので、なにと御容赦の程を御願い致します」


 頭を下げたまま殿下の言葉を待っていると、殿下の低い声が、頭の上から聞こえてきた。


「卿も存外食えん男だな。何れにしても貸しだ、期待しておく」


 そう言って、殿下は振り向いて、そのまま歩きだしていた。そして、取り巻き連中の捨て台詞を、地面を見ながら聞いていた。先程見上げていた場所で見た顔だったから、どこぞの貴族の子弟だろう。


 ――それよりも、何処か気の抜けていた陛下や人の良さそうなオーウェン殿下にはない感じだった。脳筋は、論外だが『王』とはあんな感じなのだろう。


 そう思うと、そこまで考えて、レニエの声に地面を向いたままだと気が付く。


「クローゼ様、もう宜しいかと思います」


 その言葉に立ち上がり、軽く膝の砂を払った。振り向いたそこには、多分怒ってるだろろセレスタの泣きそう顔があった。


「無茶するのはやめてください」


「ごめん」と彼女に泣かれるは困るから謝っておく。


 ――アリッサもそんな顔するなよ。


「でも、クローゼが正しいよ。なんかやらしい目でみんなを見てたしね」


「余計な言葉かとも思いますが、私は言っていだたいてスッキリしました」


 アレックスとブラットが、助け船をだしてくれたようだ。……言葉の問題だが、会話の流れから納めてくれたのを蒸し返した感じだし。そう思いレニエをみる。


 ――良かったのだろうか?


「大丈夫だったか?」


 彼女の事ではないのは、レニエ自身がわかっているのだろう。そんな顔をしていた。


「多少の事は有りますけれど、概ね、問題ないと存じます」


 そう言う彼女の言葉が、その場の事であるのを理解てしていると表していた。


「借りが出来た……が」


「仕方がないかと存じます」

 

 ――仕方がない……か。まあ良いや。さてと、本当に帰るとするか。


「さあ、帰ろうか? キャロルとシャロンも待ってるし」


 兎に角、何故か本当にそう思えていた。――たぶんそうだと思うけど。



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