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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
序章 王国の盾と記憶の点
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二十五~馬車の中で……~

 俺は王宮へ向かう馬車で、昼食時に答えてくれた、ヴァンリーフ子爵の話を確認していた。


「昼食時の子爵の話、特殊で異例の事たが、聞いていたか確認したい。話てもいいか?」


 ――誰がとは言わない。


「はい」と「どうぞ」の声で、目の前のアリッサと隣のセレスタが相槌を打つ。それを聞いて、最後にアレックスが頷いたのを確めてから話を始めた。


「まず、ジルクドヴルムの前の所有者は、オーウェン=ローベルグ殿下と言うこと。殿下は、兄上と同い年で……所謂(いわゆる)あれだ」


 ――所謂(いわゆる)あれだは、子爵の言葉そのままだが。まあ、立場を越えた、友だったと言う事らしい。


 そんな俺に、「親友って事だよね」とアレックスの声に、セレスタが「ご学友でしたから」と合わせていた。


「兄上が亡くなって、殿下は哀しみ、兄上との友情の証しとして変わりに俺を選んだ。と言う事でいいのか?」


「はい、概ねその通りです」

「そんな感じです」


 アリッサとセレスタの答えに、とりあえず聞いていた事は確認出来たと思う。大体、「こぼすなよ」と子爵に何度も言われて、それどころでは無かったのがあれだった。


 何となく思うのは、国王陛下の寵愛を一身に受ける彼が、一連の俺の立場を父親に頼んで無理を押し通した感じなんだろう。


 そんな感じの流れを利用して、今回の冒険者の件をオーウェン殿下に丸投げする。要するに、殿下に密命を承けた俺が、ジルクドヴルムを使ってやったと言う事にするらしい。


「無理が有るよな、密命云々って」


 そう、隣のセレスタを見て言葉にしていた。――至近距離はやばいぞ。と少し思う。そんな俺の様子に「んっ」となりながら、その言葉に彼女は答えてくれた。


「子爵の説明なら、無いとも言えませんから。妥当だとも思わないですけれど」


 俺が、ベルグの名を賜った事。男爵の叙任に、ジルクドヴルム拝領が、オーウェン殿下の私的独断での流れなら、ジルクドヴルムで始まった冒険者の話も、殿下の密命説に繋がる? のか。


「よくある話だが、人は信じたい物を信じる。例え嘘としても。それにだ、陛下がそうだ。と言ったらそれはほんとになるぞ」


 と子爵は言っていた。それはそうだが、まあ普通に考えればセレスタの言う通りだな。彼女の答えを聞いて少し考えたが「そうだな」としか言えなかった。


 ――ただ、子爵の言った通り、普通にまかり通ったので馬車の中な訳だが……。


 国王はオーウェン殿下を王太子にしたいらしい。その思惑を、ヴァンダリア。……いや、グランザ・ヴァンリーフ子爵が使った、と言う事なのだろう。


 ――アベル・デェングルト宮中伯の国王陛下への言葉が、何と無くその流れを作った感じか?


「冒険者の件は、オーウェン殿下の密命よるのですか? 」的な一言に、国王陛下は、暫く考えて「ヴァンダリアは承知か?」と宮中伯に問い、恭しく頭を下げる宮中伯を見て「分かった」と言ったそうだ。


 義姉上の名前が出ているのも有るからか、デェングルト宮中伯は「今回限りだぞ」と協力してくれたそうだ。


 宮内相だか、宮内卿の地位にある彼は、政治的な権限はない。ただ、王宮行事を取り仕切っている訳だから、王に近かい存在で結構すごい人らしい。


 ――まあ、今回限りだそうだから、あれだけども。


 兎に角、冒険者と言うのは、『下手な傭兵制度より優秀ではないか?』と大方が思い始めた今、オーウェン殿下の実績になるなら、わたりに船と言う感じなのかってところか……。


 ――まあ、どっちでもいい。


「折角、噂の~何て言われる様になったのにね」


 セレスタに「そうだな」と答えてから、いつもの感じて、考え事をしていたのをアレックスの声に戻された。


「どっちでもいいよ、別に」


 ――大体、噂の大半お前だろ?


 と。それと子爵にも「名実の名は無しだな」


と言われたが、皆が困るならそんな物には拘らない、と言うか、何でこんな事になってるのか分からない。


「クローゼ様。私が覚えてますから、大丈夫です」


 アリッサがそう言ってくれたが、覚えて置くことがずれてないか少し心配な気もする。


「それに今回は、俺のはおまけだろ? そっちの認定式が本来の話だしな」

 

 元々は、アレックスが王国認定魔術師になる事になったので、彼が王宮で認定を受ける為に来たのだ。そのついでに俺も来た。まあ、ヴァンリーフ子爵に会うまでは、詳しく知らなかったし。


「まあ、そうだけど。それはそれ。これはこれ」


「そうか」と答えて考え中のオーラを出しておく。


 ――アレックス。よくわからんが? それそれこれこれ言われても。

 

 アリッサは何故か? 分かった様子にみえる。普段と見た目が違うけど。 隣のセレスタは、人指し指を伸ばして何もない所をリズムよく指しながら、それはそれ、これはこれ。と確認している様だった。


 ――何してるんだ?


 そう言えば、前の馬車は子爵とレニエが乗っている。


「親子水入らずにして、差し上げれば」


 と、格好いい事を言ったブラットは、この馬車の御者の隣に座っている。外は結構寒い気がするが、あの服装のままだったので大丈夫かと。女性陣の服装からすると、仕方がない所ではあるのだが。


 そう思いアリッサを見ると、今更ながら、少し気になった。鎖骨から首筋にかけて、露になっているそれは見た目としては美しいのだが……


「寒くはないのか?」


 普段のアリッサなら、たぶん、即答な感じで返事がくる。ただ、一旦セレスタを見ていた。そして、セレスタに、何かを求めるでなく声を向けてきた。


「馬車の中は大丈夫です。それに、長くは外を歩かないとの事ですので問題ありません」


「淑女の嗜み……だそうです」


 アリッサの答えに、セレスタの声が続いてきた。何となく、セレスタの言葉が歯切れ悪い気がするので、彼女の方に顔を向ける。

 アリッサと同様に肩は隠れているものの、纏められた髪形のせいか、胸元から背中までの女性として美しく見える線は表に出ている。


「嗜み、ね。寒ければ羽織ればいい」


「嗜みと言うのか、らしさを出すのに痩せ我慢。レニエさんが、屋敷を出る時にそう」


 そんなものか?と答えたつもりで、彼女の胸元に輝くいつもと違うそれに目がいった。


「違うんだ?」と俺のは言葉と視線で、セレスタは理解した様だった。「色が合わなかったので」と心持ち複雑な言葉の感じが返ってきた。


「クローゼ。見えてるよね」


 アレックスの言葉に、彼女と二人で前を見る感じになる。


 俺の前には、自分の胸元片手で軽く押さえて、セレスタを見るアリッサがいた。一方、声を出したアレックスは、自分の胸元を指しながらセレスタを見ていた。


 ――見えてるって? ああ。


 確かに視界には入っていた。女性らしい感じの谷間は。そう考えていると「あっ!」と言うセレスタの声と刺さる視線が向けられた。


 その視線で、反射的にセレスタを見てしまう。そこには、胸元を手で隠し軽く顎上げて、顔を真っ赤にして「ううっ」ってなっている彼女が見えた。


「ごめん、悪気はない」

「知りません」

「悪かった。ごめんなさい。もうしません」

「えっ……あの、大丈夫です。じゃないです。違います。そうではなく――」

「大丈夫……だ。普通に」


 そんな感じのやり取りをしていた時、馬車の前方の小窓が音を出してくる。


 ――まあ、届かないのでアレックスに頼む。


 コンコンと彼が打ち返して、それが開かれ思いの外、外からの大きな音共にブラットの声が「到着致します」と聞こえた。


 馬車の窓を覆ったカーテンを開けて、中の光が増すのを感じに窓から外を見ていく。そこには、先に止まった馬車から、グランザ子爵が降りていた。


 続いて、レニエが子爵に手を借りてそこに降り立った。屋敷を出た時よりも、遥かに自信に満ちた彼女がそこにはあるようだった。


 そして、当たり前に、こっちの馬車も止まる。


「さて、一仕事するか……」


 そう呟いて、扉が開かれる音を聞きながら、グランザ・ヴァンリーフ子爵の「演出に決まってるだろう……自慢したいのもあるが」の言葉を思い出していた。


 ――まあ、男だけでも良いって事なんだな。と少しだけ思った。



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