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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
序章 王国の盾と記憶の点
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二十二~正装の後に驚きと~

 窓の外には、優雅とも言える、ロンドベルグの街並みが見える。自分の街並みと比べると流石だが、ヴァリアントに比べると、まあ、それなりだった。


 そんな印象の場所『王都』に着いて、二回目の朝を向かえていた。


 グランザ・ヴァンリーフ子爵の一室で、午後からの謁見の為に、礼服を着せられている。目の前には銀色の長い髪の女性が、俺の服装の乱れを直す仕草をしていた。


 その女性は、レニエと言う。ロンドベルグについた日に、この屋敷で会った。


 昨日の事はあるが、初めて会った日の彼女の印象は余りない。直後に会ったエルマ・クルン子爵。王立魔法院の統括官で、要するに院長な彼女の印象が強すぎたからだと思う。


 あの時、噂のと云われた出所の大半が、アレックスだったのもあって、随分と酷い物だった。それを含めて扱いが、珍獣並みにされたのもあれだったが、兄弟子である導師と気が合うのは「大変宜しい」と言われた。


 まあ、少し違う思う。大体、本人が聞いたら、全力で否定するだろう。


 ――俺は好きなのだが。


 その後の食事の最中も、些か話題にされた。それで、キャロルとシャロンの笑顔が見れたのはよかったが。と、そんな事を思い、少し視線がぼやけていた。


『ハッ』とはしないが、現実に視線を合わせると、彼女。そう、『此』と呼ばれていたレニエが、一歩さがってこちらを見ていた。


 そして、思い返す事から意識が戻る。暫くその視線を感じてから、彼女の柔らかく出された手の先にある、鏡の中の自分を見てみる。

 

 そこに映る、義姉上に頂いたこの服を着ている自分が、少し滑稽に見える。そんな事を思いながら、鏡に映った自分の向こうに、アリッサを見つける。


「昨日は楽しかったか?」

「ありがとうございます。大変勉強になりました」

 

 振り向きもせずに話しかけたが、鏡越しに目があっていたのか返事は早かった。


 ――昨日はそんな事も聞けなかったな、と。


 そう、アレックスと王立魔法院に行っていたアリッサが戻った時に、俺は自分でも思う程、酷い事になっていた。


「それは良かった」


 何となく彼女の言葉に反応した。そのまま、レニエに視線と体を向ける。


「どうだ?」

「宜しゅうございます」


 そう答えたレニエに、昨日は散々目に合った事を改めて思い出す。


 ――まあ、彼女が悪いという訳でない。


 ヴァンリーフ子爵に、屋敷で大人しくするように言われたのだが、子爵に手配を頼み、連れてきた者達には予定通り外出をさせた。そして、大人しく屋敷で留守番をしていた俺は、彼女に今日の謁見の為の所作を習う事になった。


 ――無論、子爵の指示ではある……。


 取り敢えずのところ、レニエの教えは『分かりやすさ、物腰、言葉使いに仕草まで』やさしく丁寧でだった。しかし、何故か、夕刻に皆が帰ってくる頃にはボロボロになっていた。


 そんな事を思い、目の前の彼女に「そうか」答える。彼女はそれに、軽く頷いてみせていた。


 それを切っ掛けに、周りのメイドか退室していくのを感じながら、それらしく振り舞い、振り向いて鏡越し出はないアリッサに見せる。


「どうだ?」

「素敵です、クローゼ様」


 アリッサの言葉は、レニエの存在を感じさせない言い方だったが、今日はそれが心地良かった。確かに、昨日散々愚痴をこぼして醜態を晒した後に、そう言われると流石に嬉しい。


 だからでもないが、それに「そうか」と声をだした。それは、先程とは少し違う、語尾の上がった感じになった。


 ――まあ、身のこなしを含めて、少し変わった気もする。


 ただ、メイド達と入れ違いに入ってきた人影に、それは覆される。


「あっ、クローゼ君。どっかの貴族様みたいだね」


 いつもの口調のアレックスに、言葉を返す事か出来なかった。それは、そこに立つ彼等は、いつもの見慣れた顔だったが、その様子が違っていたからだ。


――何だよ?


 と思うのは、長い髪を器用に纏めた、男装? のアレックスと、恐らく初めて見たで有ろうセレスタのドレス姿。その二人の後ろに、幾分か色男? が増した、ヴァンダリアの軍装ではない、見慣れない軍装を着たブラットが見えたからだ。


「なんだ! それは?」


 付け焼き刃と言うのは、こういう事かと自分で思う。口に出した言葉の向け先に困り、アリッサを見る。その視線に入る彼女は、うつむき加減で目を反らし、軽く握った手を口に当てていた。


 ――知っていたなアリッサ。


 と、気を付けて口には出さず、彼女に怪訝な眼差しを向けておく。



「僕は男だからね。驚いた顔しなくても」


 アレックスの声に、再び彼等に意識を戻す。確かに、『お前はそうだな』とあたり前な事に納得して、青色の、そう、あの竜水晶の色をしたドレスを身につけたセレスタに目を向けていく。


「セレスタ 」


 呼び掛けた声にセレスタは、はにかむ様な仕草をして、遠慮がちに自分の姿をこちらに示していた。


「可笑しくありませんか?」


 自分に向けられたであろう声に、何故か動揺する。可笑しいはずはない、寧ろ美しい。何か返事をしなければと思うが、直ぐには答えることが出来なかった。


「ああ、大丈夫だ」


 笑顔で返してくれるセレスタに、もう少しましな答えをすれば良かったと後悔した。そんな思いも関係無しにヴァンリーフ子爵は、部屋に来るなり彼等を見てこう言った。


「素晴らしい。想像以上だ。セレスタ殿」


 両手を広げ、その後も俺には思いも着かない言葉で、セレスタの姿を誉めていた。次第に顔を赤らめていくセレスタから、彼は俺の後ろに視線を移していく。


「此も、正装ならセレスタ殿にも負けんぞ」


 そう子爵は、俺の方に向けて言い、俺の視線をそちらに促した。振り向いた先には『此』と呼ばれたレニエが立っている。彼女の立ち姿には、気品があって「正装なら」の言葉には、何と無く同意してしまう。


 ただ、彼女に対する子爵の物言いには、ずっと違和感がある。まあ、取り敢えず今はおいておく。


「お前も支度しろ。前室までクローゼ殿に同行だ」


 肩越しに子爵の声が通り抜ける。その声が届く先から意識を少しずらした。そこには、鏡に映るアリッサの顔。そして、レニエの会釈と歩き出そうとする仕草が、俺の視線のなかに同時に見えた。


 それに、「そうだ」と思い「子爵、宜しいか?」と言って彼との距離を詰め「ああ」と答える彼に、耳を貸してほしい、という仕草をして見せる。


 困惑する彼の顔を見て、少し思う。突然思い付くのは、「いつもの事だ」と、彼にと言う訳でもなく俺らしい行動だった。


 その勢いで、お構い無しに近付き耳打ちをする。


『何だ』の顔に、暫く言葉を続けると「なるほど」と呟きが返ってきた。そして、退室しようとするレニエを呼び戻す仕草を子爵は向けていた。


 呼び戻した彼女に、子爵も同じようにそうしていた。それにレニエは、一瞬『あっ』と聞こえそうな顔をする。それを俺は見逃さなかった。


 ――何だ、そんな顔も出来るんじゃないか……。


 まあ、俺の感情の変化などお構い無く、彼女はそのままアリッサに向けて歩きだしていた。自分の立ち位置から、皆の顔に疑問の様子が伺えた。その視線のなかに、レニエに耳打ちされるアリッサの姿が入ってくる。


 話を理解したのか、顔を赤らめて俺の方を見るアリッサが、無言で何かを訴えるのが分かった。それに、軽く頷いて「行ってこい」とそう声を続ける。


 それで、戸惑うアリッサを見て、レニエに向かい「よろしく頼む」と告げていく。


 俺の言葉とレニエに促されて、諦めた様にアリッサは、彼女と共に部屋を後にしていった。アレックスは気が付いたのか、此方を見る目が妙に優しい。


 ――よく分からないが。


とりあえず、一人だけいつもと同じは許さんよ。――とは思っていた。






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