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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
序章 王国の盾と記憶の点
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十九~私室にて1日の終わりを~

 黒を基調とした室内を、魔動器の明かりが照している。室内を見渡すと新しく新調された家具が馴染むまで、暫く時間を必要と思われた。


 ヴァリアントの屋敷の『あの部屋』とは、様相が異なるそこが、俺の新しい私室だった。


 久し振りに騒がしかった日を、日課になったそれに、導師の下りまで書き留めて、ペンをを止める。

 軽く伸びをして、ペンを置きベルを鳴らす。暫くして、扉がノックされる音が聞こえたので「良いぞ」と告げた。


 扉が開きメイドが、前室から部屋に入ってくる。彼女は軽くお辞儀をしてから、こちらを向いて声を向けてきた。


「旦那様、受け承ります」


 そう言った彼女に「紅茶を一つ」と頼んだ。それに「かしこまりました」と声がして、また独りの空間に戻る。暫くの時間、新しくペンを走らせる前にその時の事を思い返していた……。




 導師とドワーフ話は、俺が忘れていただけで、ヴァンダリアでは有名な話だった様だ。父が導師を招き入れた時に、彼と共に彼らはやって来た。と言うより、導師の条件の一つが、彼らの同行だったらしい。


 彼らを初めて見る者は、当然、驚き話題にする。噂がヴァンダリア中に広がり、周知の物となる。始めは、ヴァリアントに住んだ彼らも、結局は、今の居住地に移り今に至ると言う事だ。


 そして、導師が彼らの国に住んでいたのは、兄弟子で魔導師の現在の王国魔術師総監、タイラン・ベデス伯爵との確執によるものだそうだ。


 ――まあ、アレックスが、そんな事を言っていた。


「単純に、師匠の才能に嫉妬したんだよね」


 そんな感じと言う、アレックスの言葉に表れる様に、何となく情況が分かる。まあ、複雑な事情は分からないが、兎に角、導師に対向意識を燃やして色々したのだと言う事だ。


 嫌気がさした導師は、彼の師である マリオン・アーウィン大魔導師が天寿を全うした後、王国を離れ諸国を周り、ドワーフの国に行き着く事になった。


 基本的に、精霊魔法しか扱かわない彼らに、少なからず新しい風を吹き込み、ドワーフの王の信を得る。そして、意気投合したバルサスと、義兄弟の契りを交わす事になったと言う。


 その後、その彼の才能を惜しむ俺の父、ハンネス・ベルグが、その地を自ら度々訪れて、導師を招き入れる事になった。


「なるほど」と、途中から説明してくれたセレスタに言うと、彼女はこう言った。


「ハンネス候は、先見の明あったのだと思います」




 と、扉がノックをされる音で、目の前の景色が戻って来た。「ああ、良いぞ」と言った俺の声に、緩やかに扉が開かれ、儀礼正しい所作で紅茶が運ばれる。「失礼致します」の後に紅茶がおかれて、そのまま、メイドを下がらせてそれに口を付けた。


 一息ついて再度ペンを取り、振り返った事を思い、更に先へそれに向けていく。


「だから、師匠が作ったのは無かった事になるんだよ。どんなにすごい物でもね……」


 その槍を見ながら、アレックスがそう言った。


「理不尽だな……」


「とりあえず、次いくよ」


 俺の言葉には触れず、先に進めるアレックス。


 彼の進められる話をまとめると、筒と呼んだそれは、導師が作った試作品の完成形なのだと言う。

 単純に言うと、装剣していない『単発先込め式』のあの槍だ。俺が、初めに導師に話した時の流れを表したものだ。


 ――因みに、導師は鍛冶職人ではない。


 ただし、耐久性の問題が試作品にはあり、本体構造を本職に頼んだと言うことだ。


 目の前の完成品は、導師達に黒竜鉱水晶とか黒鉱水晶とか呼ばれている黒い球に、破壊術式を当てる部分がミスリルで出来ている。

 クロスボウの出来損ないの様な物は、手筒と言って、馬上で使える様に短くして、複数個の黒い球を入れらるように、あのカチカチ機能が付いている。


「この二つを合わせたのが、この槍なんだって。よく分からないけどね」


 大道芸の域を超えて、武器となったのは、師匠のジワルド・ファーヴル客子爵が、それに参加したからだろうと思う。

 アレックスも言っていたのだが、導師とバルサス氏だけはこうはならないと思う。初めは、規格外の物ができたらしい。――まあいいが。



「今回は、こっちが本命」


 得意気な感じで、アレックスが手に取ったのは、俺専用のではなく魔装具らしき物だった。


「じゃあ、ヴィニー君よろしく」

「了解しました。」


 何故かアレックスに敬礼して、そう言ったヴィニーは、その魔装具を持ち説明された手順を踏む。


「展開で、同調からの……なんかヤバイっす」


 言葉と共に、彼の前方に魔方陣が現れる。いつもの術式が表れるあれだ。そして起動呪文が続き、表示された術式の色が変わり始める。


「なんかヤバイっす」とか聞こえているが、ヴィニーの「フレイム」の声に魔方陣から火の玉飛び出し、盛り土に当たる。威力はそれほどない様に見えていた……。




 そこまでで「ふうっ」と息を吐き、魔動器の明かりを見る。導師が、王国に広めた筈の魔動器に付けられた紺碧竜水晶が、光を放ちながら、僅かに色褪せていっていた。


 ――思い返せばそう言う事か。


 書き綴った文字に目をやり、再び文字を書き込む。少し眠気があるが、今日の事は書いておきたい。


――そんな感じになる。


 ヴィニーは魔法は使えないが、彼が起こした現象は「フレイム」と言う炎系の魔法だ。ヴィニーに実演させたのは、当然、普通だからだ。


 アレックスが持ち込んだ、と言うよりは、彼が考えたそれは、簡単に言うと自動呪文とでも言うものだ。肝になるのは、紺碧竜水晶特有な、魔力魔量を吸収放出する性質を利用する事だ。勿論「紺碧の結晶」につて、本当のところは導師のそれになる。


 紺碧竜水晶に蓄えたそれで、魔動術式を組み込んだ魔方陣を展開して、術者の魔体流動を同調させる。


 ――ここまで一連の魔動術式。


 後は術者の魔体流動が、展開した魔方陣の術式に噛み合えば、最後の起動呪文で魔方陣から魔力が放たれる。と言う仕組みだ、当然、行使される魔力は使用者に影響される。


「師匠の紺碧竜水晶は優秀だから、日に三・四回位は魔方陣が展開出来るね。薄い青色になって透けたら、半日位で元に戻る感じかな」


 アレックスは、そう言って続けて説明していた。


 基本的には、魔術師の養成の為の教材だと言うこと。単純に使用者の適性を見たり、強制的に合わせられる流動を体感して、修得に活かすそうだ。


 また、単発なら一回はその呪文を発動出来る魔動器として使用できる。という素晴らしいものだ。配合竜結晶の様に、使い捨てでないのも色々都合よい。


 ――流石に本命と言うだけはある。


 因みにこの時、俺はアレックスに近付き、唐突に抱き締めて耳元で「君は天才だよ」と呟いていた。「ひぃっ」と言って固まるアレックスが、少しいいにおいがしたのは内緒だ。


 セレスタとアリッサの刺さる様な視線と、皆の生暖かい視線が少し痛かった。


「うっ、クローゼ放してよ。……あっ、ヤバイ顔してるうっ」


 アレックスの声が耳に入ったとき、ジルクドヴルムの魔装技師にも作らせようと思っていたから、だぶん、そんな顔をしていたのだろう。


 とりあえず、アレックスを離して何事もなかった様に振る舞うが、だぶん変なスイッチが入っていたのだろう。力を入れすぎたのかアレックスは、赤い顔をして、下を向いて肩で息していた。


 取り敢えず、「すまない」と彼から離れて、何となく元の立ち位置に戻ろうと振り向いて歩き出すと。そこには、アリッサの「あっ」と言う顔が見えた。

 固まっているアレックスの方に、向かうセレスタとすれ違いそのまま歩き続け……アリッサを。多分抱きしめたと思う。


 ――そうした様な気がする。


 顔を真っ赤にして、うつ向くアリッサに、何か「すごいすごい」と一生懸命話かけてるのを、レイナードの言葉に引き戻されて、はっと気が付いた。


「兄貴みたいな顔してるぞ」


 その声に振り向くと、男連中の視線があれだった、ので確信した。


 アレックスもアリッサも、一応は怒ってはいなかったので、何となく次へとなった。ただ、俺は専用のを「クローゼ、君。のです」とアレックスに言われて終わる。


 ――まあ、怒ってたんだなと。

 

 その後、試し打ちをやり過ぎて、盛り土を掘り返し黒い球を回収する羽目になった。のは以外と楽しかった。


 ――まあ、嫌がらせだったけど。


 その黒い球と言えば、黒竜鉱水晶の黒い球をまじまじと眺めていたブラットが、突然こう言った。


「黒い球では味気ないので、竜硬弾と称するのはどうでしょうか?」


 一番言いそうにない彼が、真顔で言い出したのは少し驚いた。魔衝撃槍の件が、俺の中にはあるので「考えておく」といったが「良いっすね」「そんなもんだろ」「ですな」と言う流れになったので、そう言うことにしておいた。


 ――何故か悔しかったけれど。


 一応、その件は予定を過ぎたので、一旦それぞれのところに戻る事になる。


 ただ、その場を後にする刻に、セレスタに少し意見をされた。特に、衝動的に動かない様念を押される事になる。


 ――普段はそんなでもないと思いたい。気を付けるつもりだけど。


 当然その後、公私問わずジルクドヴルム中の魔装技師や魔装術師を召集したのは、言うまでもない。何故か、アリッサはご機嫌でその後の調整やら手配等してくれた。

 

 指示や作業をする彼女は、いつもにもまして輝いていたように思う……と。




「カチャ」と言う音に目が覚めた。机に向かって寝てしまっていた様で、誰かが、空のカップの置かれた皿に指をかけていた。その手は音共に、暫く止まっていたのだろう。


 時々ある。明かりを付けたまま寝てしまう事。そのままでも、メイドは入ってこない。入って来るのは、アリッサかメイド長のどちらか……。


 ――今日は、アリッサか?


 と、半分寝ている頭で考える。たぶん、少し頭を上げたのだろう。


「失礼しました。クローゼ様」


 そう、アリッサの声が聞こえてきた。


「ベットでお休み下さい、お体にさわります」


 その声に、そのまま頭を上げて体を起こす。肩には暖かい重みを感じた。


「ああ、そうするよ」


と、立ち上がりベットに行く。そして、アリッサに向「おやすみ。アリッサ」と言った。


「お休みなさいませ。クローゼ様」


 彼女の声が聞こえ、眠りにむかいながら。


 ――王宮か『やだな』……と思った。




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