【ショート】ベイカー・シュラクは戦わない
「さあ、動く的だ。それも魔王級のな。本気でやってもかわまん、全力でやれ!」
飛行魔導兵小隊に、転位型魔動堡塁の上から、通信用魔動機で送られるベイカー・シュラクの声が、ガーナル平原に響いていた。
その響きにクローゼは、通信器越しで叫ぶ。
「動く的って、ベイカー殿!」
ベイカーの『全力で』はそのままに、彼は衝撃盾の弾性で、瞬発に上空へ飛び上がった。
「聞いたか? 各分隊――全力飛空魔動術式。散開包囲する、行くぞ!」
双方の容認な雰囲気で、追撃の指示が小隊長から、魔導兵らに届く。
呼応する魔導兵が一斉に、中空から速度をあげて追走する。そのまま、追撃方向へ魔方陣を展開し、流動待機中の術式を再起発動する。
放たれる多数な魔力の具現に、盾魔方陣の発揮が煌めき、輝く魔力の衝突が美しい場景と衝撃の音を作った。
――新型の竜撃魔動杖、流石にヤバいな。それもだが、目がチカチカするし耳も痛いが、だ。
「流石は魔導兵。だが、まだだ――掛かってこい!」
「各員、高速飛翔中の魔力発動など、滅多に体感出来ない。お言葉に甘えて、限界で行くぞ!第三と第四分隊は障壁で動きを止めろ。残りは、このまま追撃と包囲だ――」
そう答えた小隊長を起点に、彼らはクローゼを追尾し展開する。そして、瞬発で高速な蛇行するクローゼに、続けて魔方陣を展開する。
「準備いいか? 胴衣装甲を狙う。行くぞ――雷光の弾丸」
「なっ、はっ、発揮も無しに、全部かわした? 速いです」
「――なら、今度は私の分隊が。よし、範囲発動で一斉にだ。――火炎の榴弾」
「やはり、範囲攻撃は弾かれます! 動きすら止められません」
飛翔し迫る魔導兵の中を、クローゼは、あたかも飛行するかの動きを魅せる。そのまま、迫る魔力発動を瞬発でかわし、発揮される盾魔方陣の連結で、範囲魔力の具現も防ぐ。
――オープン回線だから、全部聞こえてるぞ。まあ、こっちも移動は全力だ。飛んでは無いが、追い付かれるつもりはない!
と、クローゼは、空間防護と硬化機動楯を巧みに使い、高速の空中戦を演出する。
「止めらぬまでも、俺らが速度を殺す。いいかお前ら、隔壁で押さえる――展開型魔力隔壁」
明確な詠唱で空間に具現化する、複数の四角な遮断と「集約で抜け!」の声。ただ、クローゼは衝撃盾の弾性で、渡る様に移動しすり抜ける。
「かっ、隔壁手前で変化した? 本当に、飛空魔動術式ではないのか?」
「見たままよ。任せて、私達が抑止範囲ごと拘束するから。分隊各員行くわよ――範囲型魔力障壁。よし、閉じ込めっ、えっ――」
――なかなかどうして面白い発動だ。と言うか、術式が、あの二人の合作なら当然か!
と、刹那的思考の後、クローゼは囲まれた四角い障壁に、いつもの双剣を抜き奮い切り裂く。
「――切られた……なんて」
明確な詠唱の魔力発動と、盾魔方陣の煌めく交戦が続く最中。落胆と呆然をみせる分隊長へ、小隊長の激が飛ぶ。
「人智最高峰の剣だ――『当たり前に』思考停止するな、次の一手を体で覚えろ!」
「はい、了解し――うわっ」
呆然と止まるに、強烈な音と光の強制が驚きを起こす。それは、硬化機動楯の盾が襲い掛かり、自動防護式の発揮の相殺による警告と警鐘だった。
――その通りだよ。止まったら、叩き落とすから。
と、クローゼの支配する視界には、精細な状況の変化が捉えられていた。
「各員気を付けて、機動盾の打撃がく――」
分隊長の声を同時に、唐突に出現する小型な空気の硬化機動楯。その見えない打撃に、 自動防護式の発揮が連続で起こり、自動発揮の限界を越えて弾かれる。
――加減したつもりだ。
と、クローゼは、最後の一撃に、対象防護を合わせた。
その流れで彼女は、交戦の音に紛れ機動盾の打撃で落とされる、自身の分隊を瞳におさめた。そして、自身の自動防護式の輝きと音が消えて「動け!」の通信器の声を聞く。
ただ、それと同時に衝撃を受け、飛空魔動術式の制御を失い落下する。
――痛くない? ああ、ロックされたのね。
と、対象防護の魔力発動に、彼女は体を委ねて、起動呪文の詠唱と動き回る僚友を見る。その行きなりで、地上に背中を柔らかく付けた。
そして、暫くその共演を見る事になった。
「流石にヤバいですね飛行魔導兵の部隊。それに、あの、新しい竜撃魔動杖の威力。初歩であれですから、本気の術式なら、もっとでしょう。それに、竜硬弾を使われたら――」
と、クローゼは、勇者イグシードと代わり続く光景を背に、ベイカーに向いていた。
――まあ、あの杖は俺の発案だけど。銃の様に構えるのに変えたのが、意外と格好いい。
との雰囲気に、ベイカーの呆れ顔が見える。
「ご機嫌取な物言いはよして貰いたいな、ガーナル辺境伯。それに、魔装甲楯鱗が、彼らでは抜けないのも、薄々気が付いているのだろう?」
「いえ、そんな。と言うか、クローゼで良いです。いつも通りにして貰った方が、俺も楽ですし」
「全く、相変わらずだな。私にも立場と言うものがある。一応、伯爵の爵位を頂いたが、弟子の前で公私混同するのは些かだ」
確かに、この場にも、先程の分隊長の彼らがいた。
「まあ、そうですね。でも、ここは私の所領ですし、そう固くならなくても。それに、久し振りに思いっきり出来て気分が良いのと、始めのは少し興奮しましたから、物言いは面倒くさいです」
「全く君と言う男は……。それならば、それでだが。それよりも、下のは見なくても良いのか?」
「あっ、ええ、ロックしてありますし、飛ばないらなら。それに、イグシードには加減しろと言ってありますから。それよりも、対魔装貫通術式ですよ」
別の飛行魔導兵の隊が、イグシードを『楯魔王クローゼ』に見立てて、訓練しているのは、先程のものも合わせて、内外的な喧伝だった。
――対抗手段の拡充と相互的な抑止力の発信――
勿論、飛行魔導兵の存在が、外征に向くのでは無いのも併せてになる。その上で、クローゼの興奮を誘った対魔装貫通術式になる。
「御披露目は終わって、こちらの訓練に付き合って貰っているから、聞きたい事があれば答えるが。詳しい事は師伯の積み上げだ。『凄い』程度で終わらせて貰いたいものだ」
「詳しくは、聞いても分からないのであれですが。導師の鎧を突き抜けるのは驚きました」
クローゼの興奮と驚きが単純な事に、ベイカーも表情を柔らかくする。
「まあ、壊れる物を頼んで有ったからな。それに、師伯と魔導技師の二人の兄弟子の関係なら、この先も繰り返す筈だ。あの術式が完成したのも、お互いの協力があったからだ。作ったのはユーインだが」
「壊れる物ですか。どおりで、導師が平然としてた訳だ。おかしいと思ったんですよ。なら、使節団の前では、負けそうな雰囲気を作れと云ったのは、そのあたりの事ですか?」
クローゼの今更な言動に、ベイカーは、彼と自身の後ろに軽く意識を向けた。
「君のその感じが変わらないなら、私も君と対峙しなくて済む」
「また、その話しですか。そんなに信用ないですか。あ、いえ、確かに魔王って云われてますし、暴走する要因も無くは無いですけど」
「君は信用している。ただ、剣と盾だよ」
若干、話を逸らされているのではと、クローゼも思い初めていたが、それを察したのか、ベイカーは別の話を持ち出す。
「まだ、やり足りないなら、竜撃ありでもう一度やってみるか?」
「えっ、流石にそれはちょっと。俺は良いんですが。な、エイブリル?」
僅かに頷く彼女に、ベイカーの「あくまでも、模擬戦だ」の説明が入る。それに続き、更に問題無いの言葉がでる。
「竜硬弾の再利用は不可能だが、ユーインが着弾で砕ける、射出可能な模擬竜硬弾を作ったのだ」
「本とですか? あの雰囲気で凄い人なんですね」
その感じに、ベイカーは当然の顔で答える。
「君の導師の後継は、弟子の彼では無く。ユーインだ。魔装術の継承と言う意味ではそうなる」
「いや、アレックスも凄いですよ。それに本当の意味でも、弟子ですし」
「彼は、そうだな。我らの中では、師であるマリオン・アーウィン大魔導師の後継だろうと言うのが、一致した見解だ。むしろ、土台が有るだけもっと高みに行くように思う」
驚きの表情から、納得に向かうクローゼ。そして、「まあ、そうですね」と呟き、今一度の話に心を向けていた。そう、当然にその後、模擬竜硬弾を身体に受けることになった……。
――それは『王国の盾』の物語が、終劇に向かう最中のある一幕であった――
時系列はそれなりに。書く感じに、あたりをつける意味でも。




