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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
序章 王国の盾と記憶の点
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十八~クローゼの……声~

 俺から見ても、中々の光景が起こった。そして、我に帰る彼らの……だった。当然それに、声を投げてみる。


「アレックス、何故あそこで抱き付く」

「勢いで……」


 俺の言葉に両手で顔を覆いながら、此方に歩いてくるアレックスが呟く様に答える。その向こうには、どうにもならない顔のヴィニーが見えた。


 ――アレックスが我にかえって、一瞬見つめ合ってた時は恋人同士に見えたぞ。


「ちょっと、行ってきます」


 そう、セレスタが横から、ヴィニーに向かって歩き出しそう言った。


 ――気が利くなセレスタ。上手く現実に戻れる様にしてやってくれ。あっ、滅茶苦茶怒られてる。確かに、俺は領主だが……まあその方かあれか。


「兎に角、次いこうぜ」


 その場の雰囲気に『お構い無し』なレイナードが、アレックスに声を掛けるのが聞こえた。

 それで、俺も机に向かって歩きだす。何事も無かった様に振る舞うレイナードは、ある意味流石だ。


「それ献上品だから、壊したら駄目だからね」


 アレックスに、そう言われたレイナードが、もう一つの槍の様な物を、先程の魔衝撃槍の要領で上下させてる。


「あのよ、これカチカチならんぞ」

「それ、前から入れるのだからね」

「んっ? それと違うのか?」

「これは筒。それは、最初に槍って言ったよね」

「おう」


 彼らの会話に「んっ?」となって俺も割り込む。


「アレックス、それは『魔衝撃槍』と言う名じゃないのか?」

「えっ、なに?……それ槍だよね」


 ――確かに槍だが、お前、魔衝撃とか対魔装撃とか言ってたぞ。俺の聞き違いか? もう俺の中では、魔衝撃槍だぞ。


「それは、作用とかの話しだよ。槍って言ったのを何ですか? って聞かれたら、そう言うよね」


「魔衝撃槍はあれだな……」

「領主様、流石にそれは……」

「ですな……領主様。」


 レイナードもブラットもグレアムもなんだ。


 ――というか何処から聞こえてた?


「クローゼ様。多分『魔衝撃とか対魔装撃とか』の辺りからかと思います……」

「アリッサ。なんで答える? ……あっ」


 皆にと色々言われ時々指摘される。何故か、思っている事を口に出してしまう癖が出たみたいだ、と気が付く。


 ――その事よりも、魔衝撃槍とか勝手に思ってたのがもうあれだ。


「クローゼってさ。時々そうなるから気を付けた方がいいよね。王宮で、そんな事したらやばいよ」


 愕然としているだろう俺に、アレックスがそんな事を言う。


 ――さっきのあれよりは、ましだろう。


「王宮なんか行かないから、いいんだよ」


 俺の答えに、アレックスとアリッサが「えっ」と同時に声をあげる。更に、アレックスが『本とに?』 という顔で俺に確認を向けてきた。


「僕と献上品持って、王様に謁見するんだよ。フェネ=ローラ様の使者の、丸っこい感じのあの人『肩の荷がおりました』って、ヴァリアントに戻ってったのに」


「えっ、行くの? 」――確かに、会った気がするが。


「私が戻った時、いつも通りされてたのに。フェネ=ローラ様の書状も、お読みになってないのですか?」


 ――今日は護衛だけだったから。元々ヴィニーの分隊の奴だし、余計な事言わないし。アリッサ。とりあえず、封は切ったんだ。いつも後から全部確認して、教えてくれるから。いつもじゃないぞ。


「あの人、クローゼに会うのすごい緊張してたのにね。信じられないよほんとに」


「……不可抗力だ」

「違うだろ」


 意味不明な返答を、レイナードに突っ込まれ、ブラットとグレアムに複雑な顔で見られて。アリッサが、泣目になっている。


 ちょうど、セレスタとヴィニーが戻って来て「それは不味いっすよ」と言った彼の背中を、セレスタが思い切り叩いて、悶える彼を尻目にこう言った。


「ヴィニーの物言いはあれですが、それは駄目です。反省して下さい」


 セレスタは、そのままアリッサの所に行き背中をさすっている。その様子にいたたまれなくなり、レイナードを見たが、彼もそれは駄目だなという顔をしていた。


「反省します」


 結局、アリッサにこれでもかと謝り、仕事が増えた彼女の下に、分隊規模の人員を付けて、従者から副官にする事にした。


 ――呼び方は思い付きだけど、爵位をあげれる訳じゃ無いからな。と言うか、その『特別な』みたいな雰囲気の顔は……。それに、そんな感じで見つめられると困るよ。



「暫く離れませんから」


 アリッサの言葉に、少し考えてさせられる。何を頼んでも、俺の思った通りにやってくれる彼女に、甘えていたのかもしれない。


 と、一応にその場をおさめて、「アレックス、続けてくれ」と彼と目的の物に目をやる。


 ――それもあれだが。アレックス……お前以外と打たれ強いのな。……と。


 改めて見た、机に並べられた物は、先程の槍、とアレックスが筒と言った棒の様な物。あと、竜水晶がはめ込まれた、小さな魔装具らしきに、クロスボウの出来損ないに見えるもの。それと、各種竜結晶が相当数あった。


「じゃ、もう一度始めるよ。まずは、 ジワルド・ファーヴル客子爵監修の槍。レイナードが振り回してるヤツね」


 ――ぶんまわす――


 槍術というのがよく分からないので、そう見える。片手持ちで、それを扱うレイナードはまるで、長剣を振るう様にも見えた。ただ、剣を扱う(さま)には美しさもあるが、今は荒々しさが先にくる。


「これ、俺にくれ。というか剣先長いのないのか」


 最後に、流れる様な動きをして、先に付いた剣を指し、アレックスにそう言っていた。


「それは持ってかないから、クローゼ君に聞いて 」


それで、俺に「三本有るんだから、一本くれ」と、アレックスに「抜き身でいいから、この辺まで剣身付けてくれ」と位置を指してみせている。


 ただ、そんなレイナードの勢いに、『良いとは返事してないんだが』と思ったので、即答は避けておいた。――まあ、だぶんやるよ。


 と、考えていると、勝手に話が進んで行く。


「そんなの無理だよね。僕、鍛冶屋じゃないし」

「なら、魔導技師先生に言ってくれ」

「無理だね。大体それ師匠が作ったの魔衝撃の所だけだしね」


「あ、あれか」


「決まってるよ。ミスリル製で、魔衝撃の術式本体に『なんたらタイト』使ってるからね」


 ――何だよ。さっきも二人の会話に、割り込んだ気がするぞ。


「何の話だよ?」――今度は冷静にいくぞ。


「バルサスさんだよ」

「バルサスのことだろ」


 ――何だよ。バルサスって?人か? 。いや、魔衝撃の流れもあるから、違う物かもしれん。でも、名前か何かなんかだろう? いや、暗号もしれない。……なんか、久し振りにおかしくなってるな。



「クローゼ様、大丈夫ですか?」

「アリッサ、俺なんか言ったか?」


 暫く、固まっていたらしい俺を心配して、声をかけて来たアリッサに確認を口走った。


 驚いた表情で「まだ、大丈夫です」と言ってくれるアリッサが、横に立って俺の背中をさする。目の前には、額に手を当てて、呪文を唱えるセレスタがいた。


「失礼します。顔色が悪い様なので、軽く魔力通しておきます」


 彼女の雰囲気を他所に、頭がすっきりしてくる。精神系の回復魔法か何かだろう。セレスタの顔がはっきり見えてきた。


 ――ちょっと照れる。皆の心配そうな顔も視界に入る。あと、アリッサ。一寸くっつき過ぎだと。

 

 少し冷静になり、話の流れを思い出して、目の前のセレスタに聞いてみる。


「バルサスって?」


 唐突に声を出した俺に、一瞬「んっ? 」となったセレスタ。俺の視線が、自分に向けられていた事をに気がつき「ああっ」となって、それに答えてくれた。


「あっ、あれです。ドワーフの鍛冶屋です。魔導技師様の義兄弟……」


 予想外の答えにも、動揺は差ほどでもない。


 ――魔法ってすごいな。というか、ドワーフって前の魔王をエルフと人と協力して倒したっていう、西方の国のドワーフ?


「ドワーフとは、西北のあそこの国の?」

「いえ、ヴァリアントの東、竜の背のふもとの村のです」


 俺の問に、セレスタはそう答える。何故か俺の額にあてた手を離そうとしない。


 ――だぶんもう大丈夫だと思うよ。


「そんな話聞いてないんだが」

「聞かれてませんので 」


 ――即答かセレスタ……「あっ」そんな事、知らなかったのって顔してるぞ。ちょっと、可愛いから許すが。


 そしてお前達もあれだ。


 ――ブラット、今フッてしたな。グレアム、そんな冷静な目で。ヴィニー「マジっすか」って聞こえてるからな。……何故か、アリッサがどさくさに紛れて、背中に顔を埋めてる気がするが。


「常識だぞ。クローゼ」

「なんでドワーフが、そんなことにいるんだよ」

「師匠が連れて来たんだよね」

「なんでだよ」

「師匠。ドワーフの国に住んでたからね」


 ――セレスタ。もう一回頼む。……中々だなそれ。




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