設定の話【二】魔力と魔法
得意気な雰囲気に続く沈黙から、マーリアとアレックスは顔を見合わせた。そこでアレックスが軽い咳払いをして、ワイトベアの表情を見る。
「兎に角、そのどや顔は置いといて、先生には、続きをお願いした方が良いよね。大体、共有した知識すっきりしないし」
「そうですか? 私は逆にすっきりする部分の方が多いです。話は。そうですね進めましょうか」
「あれが何か言いたげだが、その方が良い。何故か小出しにしていたのが馬鹿らしく思えるぞ」
丸々、ウォルダー・ワイトベアの表情を三人は無視をする。
そして、マーリアは後から現れた魔導師達を見て「改めて皆さんに話すのも」と言葉向け、にこやかにワイトベアをちらりと見て場の視線を魔方陣に促した。それで、場の魔導師達の視線が魔方陣に集まる。
「映るのは、言うまでも無く可視化した魔体流動です。彼は創造主らしき方で、魔力魔量は驚くほどではありませんが、流動の色が赤・青・緑・黄・紫・白と中心が灰色と言うのを除けば魔力属性を語る上で見本の様な方です」
「クローゼ君の灰色版みたいな感じね。魔力魔量は吐くほどじゃないけど。でも私、灰色なのは初めて見たんじゃないかな、多分」
「そうね、私の流動標本でも見直して見つけられるのか? と言う感じがします。それと動きが微動で、彼の様にも見えるけれど少し違う様です。あと、幾つかある点は無視してください」
早熟の天才魔導師ジーア・シップマンが、魔方陣とワイトベア本人を見比べて【魔力 二〇/魔量 二〇〇】が吐くほどではないと言っていた。
その様子にマーリアも同意して、恐らくジーアが口にするのに先手を打っていく。そして、確認を魔導師の彼らに向けた。
「先ず流動の色と系統はおいて、展開した魔方陣中央の数字について改めて説明しておきます」
マーリアが、そう前置きをしてする説明をまとめるとこうなる。数字の意味合いでは――。
【発動魔力の数値換算/総魔力魔量の数値換算】
となり、この場合の発動魔力は一割という事になる。
数字の見方として言えば、人智――人地――側の亜人を除く人の魔力魔量が【魔力 一/魔量 一〇】ほどであるのを基準にしていた。
クローゼを智で守護する『探求せし者』の言葉なら、魔力=真力となり、一人の祈りを一つの魔力としてウォルダー・ワイトベアは、二〇〇人分の魔力魔量が有ることになる。
その為【魔力 一/魔量 一〇】と考えれば基準は同じと言えた。
その前提で魔導師と呼ばれる彼らが、最低限の数字として【魔力 三〇〇/魔量 三〇〇〇】となるのを考えれば、マーリアの驚く程ではないの言葉も納得の範囲である。
補足するなら、人口凡そ 九〇〇万を越える大国であるイグラルードで、魔術師と呼ばれる者が十万余り。また、それに相当する者が八〇万人を越えるのを考えれば、王国認定の魔導師や魔術師がいかに凄いのかが分かる。
勿論、一般的にも単純な魔力発動は、大方の者が簡単な起動呪文や術式と魔装具の補助や魔動器や竜結晶などを使い行えていた。
その点については、マーリアが魔導師らを前に省いた部分について話せば分かりやすいだろう。流動の色による属性と系統の話であるが、普通の人であっても、自身の持つ属性の魔力発動は容易で当たり前あった。
当然、流動の柔軟さや色合い、複数の色属性が必要な高度な魔動術式は難しく、また、魔導師や魔術師を目指すなら別ではある。特に魔法使いと呼ぶに相応し魔力発動をするのであれば、明確に分かる複数の色の流動を纏っているのが必須であった。
魔術として、魔体流動展開術式――後記する剣技もだが――の適正を語るなら、可視化した流動の色、赤・青・緑・黄・紫・白は、魔体流動の基本的な色になる。
古から見える者が残した伝承やそれらを記した文献、又はジーアの様な流動絵師により伝えられた絵画や文字に図形が、この時代にマリオン・アーウィン大魔導師を経て、彼の娘マーリア・ジュエラによって学術的にも昇華されていた。
空間に満たされた魔力を属性で明確に分類し、伝えられた歌や詩の詠唱による魔力発動から、魔動術式に移り行く過程を含めてである。
【魔体流動とは、分かりやすく言えば「オーラ」であり「気」と言ったイメージになる。】
勿論、この世界には確実に存在する極光――第十三階深層を回り、時を刻む如くな至極神の光の流れ――と類似する魔力の動きであり、明確に力としての魔力魔量だった。
至極神 天界を司る起源の・が具現した神々の一部から出来た『人と魔』は前記の通り、魔力を纏い魔体流動を形成する。
その流動を意図的に変えて、魔力の放出や吸収を行い、空間の魔力に干渉して力を具現化する。それが魔法であり、魔法を用いるのに人は魔体流動展開術式――魔術――を使うに至った。
また、いずれの魔力属性を持つ神の躯の破片から生まれ出たか? によって、各々が持つ流動は、赤・青・黄・緑・紫・白を基本にその派生に分類される。
・『赤は火』
・『青は水』
・『緑は然――風、樹木……自然等々』
・『黄は為――土、大地、金、鉱石等』
・『紫は獄――神秘』
・『白は極――神聖』
当然に、竜鉱石の岩盤から絶え間なく放出される魔力も、前記の様な属性を持ち、人や亜人に魔族らはその身体で同じ属性の魔力を受け入れる。
【人智の側は天極に登る魔力、魔解の側は天獄に沈む魔力とされていた。】
また、空間に満たされた魔力が当たり前に世界を成すのは、第十一階層の四大精霊を始めとした、火・風・水・土の四つからなる精霊達の力による。
魔術ではない【精霊魔法】は、精霊魔法を行使する者――精霊術士――と精霊達が『契り』――術士に死が訪れるまで契約により絶対的な関係を築くもの――を結ぶ事によって、階深層を越えて魔力発動を行う物になる。
ただ、イグラルード近郊――この世界の凡そ真ん中辺り――では、大半の術士がエルフやドワーフと言った精霊の眷属になる。
極神 豊穣を司る稔りの・や極神 技能を司る気焔の・から生まれた彼らは宿縁によって、その結び付き――この場合、同属の意味合い――を得ていた。
その為、流動の色は【他の精霊の眷属達】と同様に色濃い赤・青・緑・黄が多くなる。勿論、例外はあった。亜人の彼ら流動にも、人に術士がいると言った事もである。
続いて、魔法の区分によって言うなら、『極神に祈る真力』で発動する神聖魔法を使う者達は、白い色――明確に白と認識出来る――の流動を持つ者が多い。
当たり前に神に対する祈りを続けていれば、相応で本人の流動の色に白だけを混ぜた明清色の様になる。
逆に、獄側の魔解で多くの魔族が紫色の流動を持つが、彼らの魔力発動は、【神秘魔法】――人智では計り知れない、不可思議な獄神の力を借りる物――と言われる。そして、自然に行使される魔族特有の魔力発動も、大きく言えば神秘魔法と言えた。
こちらも当たり前に、人智でも紫色の濃い者もあり、獄神を崇拝すれば逆に紫色が濃くなり黒い色に近くなる。一応に死を操る不可思議な魔法が、畏怖として有名ではある。
しかし、獄神も同等の神故に、その他を具現する魔法もあるが、現状は明確な描写はしていない※。
「ウォルダーさん。途中から、自分で説明してたよね。普通に話してたし」
「はっ! ……確かに」
アレックスの指摘に小芝居をするワイトベア。それに失笑混じりで、ベイカー・シュラクが呆れ顔を見せた。
「茶番だな」
「兎に角、たんたんと口が動いてだだけで、表情が怖かったね。まあ、僕の範疇の話はまだみたいだから良いんだけど。でも、やっぱりジャンコラさんも……ちょび髭、いや、兄弟子二人は来てないんだ。と言うよりも、ウォルダーさんなのかな、貴方が話すならマーリアいらないと思うけどさ、だっ――」
「ユーイン。言が過ぎる、と思いますよ。それに」
ベイカーの言葉を切っ掛けに、ユーイン・ルベールの口が回っていた。若干、マーリアの視線が彼に刺さるのを見たエルマ・クルンは促しを入れていた。
「エルマ、大丈夫です。彼は何時もの感じですから。兎に角、ワイトベア様。私の話の途中から唐突でしたので驚きました。私の説明の最後の魔力魔量の参考資料を準備しますので、一旦休憩にしてはいかがでしょう」
何か、言い忘れ言い間違いが無いかとウォルダー・ワイトベアは恐々とする様子でマーリアの言葉に頷いていた。受け取ったマーリアは、ユーインに向けて「次は魔装術の話に……」と声掛けをしていた。
……と言う事で、次回は魔装術から派生した魔装具に魔動器と物語の風景とか世相に水準の話をしたいと思います。
『特異・』は次回以降に。
――以降参考資料――
魔力魔量
一般男性【魔力 一/魔量一〇】
一般兵士【魔力 三/魔量 三〇】~
騎士相当【魔力 一〇/魔量 一〇〇】~
某六剣の騎士【魔力 三〇〇/魔量 九〇〇】
●魔術師及び相当【魔力 五〇/魔量 三〇〇】~
●王国認定魔術【魔力 一〇〇/魔量 一〇〇〇】
王国最強剣士【魔力 二八九〇/魔量 六二八〇】※王国の盾終了時点で龍装の槍心なし。
王国最強騎士【魔力 三二〇〇/魔量 八〇二〇】※王国の盾終了時点で龍装の剣心なし。
眷属神五体【魔力 一万/魔量 一〇万】
死獄の騎士 【魔力 九〇/魔量 九〇〇】
六本腕【魔力 九九〇/魔量 九九〇〇】
クローゼ【魔力 五〇〇〇/魔量 三六万二〇〇】
内訳。
術式なし【魔力 八〇/魔量 六二〇〇〇】
術式あり【魔力 二四〇〇/魔量 六二〇〇〇】※魔量表示の内、六万は神具の欠片の底上げ。本人の本体のみ。以降の守護者分。
守護者一【魔力 五〇〇〇/魔量 五〇〇〇〇】
守護者六【魔力 五〇〇〇/魔量 三〇万】
※戦闘技術や魔動術式の強さの兼ね合いもありますが、設定上は魔力魔量が大きい方が強いとしています。




