設定の話【壱】
かなり痛いです。
「大体、自作自演を自筆自演と言ってしまうのがあれだよね」
「まあ、独創性に欠ける者の努力と思って頂ければ助かります」
真っ白な部屋で何人かがテーブルに着いている。
「駄目」とアレックスに指摘されたのは筆者の分身ウォルダー・ワイトベアになる。
「それに行き着くのに大分かかったみたいだけど、それよりもやる事あると思うんだよね」
「この格好ですか……。確かに、アレックス君の言う通りだとも。しかし、『設定を投稿する』と言って変な路線に踏み込んでしまったので、筆者の分身が必要かと思いまして」
「それで、そのおじさんの感じに? ……あと、名付けのセンスは、まあ、あれなんだよね」
意味不明な必要性の主張に続く、アレックスの『センスは察する』の雰囲気に、同席した女性が声を出した。
「そろそろ宜しい?」
その女性はマーリア・ジュエラ。高位の魔術師で、イグラルード王国史上最高の魔術師と言われた、マリオン・アーウィン大魔導師の娘になる。
「宜しいもなにも、こやつ何も考えておらぬぞ」
「そうだよね。ウルジェラさんいるのに先生呼ぶとか……大体、設定の覚書なら自分ですれば良いんだよね」
「本編で出番が少なかったので、気を使って頂いているのでしょう。では、先ずは何からお話しましょうか筆者殿……では無く、ワイトベア様で『設定上』は宜しいのですね」
マーリアに「設定上は」と確認をされたワイトベアは、物語の住人の様に頷いて見せた。
「私の扱いはそんな感じにお願いします。取り敢えず、前面に出るとボロが出るので物語風にと言う事で。それでは世界観を軽くで、魔法なり魔力の辺りでお願いします」
「投げやりだよね」
「アレックス、それくらいになさい」
マーリアはアレックスを軽く制して、口をとがらせる彼をそのままに話を始めていった。
「それでは、分かる範囲で話を進めます。勢いで書かれておられる様なので、相違点があれば都度お聞きします……」
この物語の設定と言う世界観について、マーリアは自身の見識を元にこの世界を簡単に話し始める。
「はじまりは、至極神天界を司る起源の・、『・なる天』の誕生でした。それにより、神々が生まれ天界が成され、神々の争いよって天極と天獄の隔ての世界が出来たと言う事です。ここまでは宜しいです?」
「まあ、そう言う事です」
「では、その隔てを成しているのは、神々の五体の亡骸と戦いの為に作られた神々の武具『龍装』の残骸。その上で、私達『人』と表裏な『魔』は、神々の亡骸から生まれた『死ある生』の者となります」
ワイトベアは、マーリアの話に大きく頷いて見せた。全く初めて聞いた風は、中々の茶番に見える。
しかし、マーリアはあからさまの様子を気にする事無く話を続けていく。
些かな雰囲気だが、彼女のキャラ設定で言えば知識欲は旺盛で、対面する筆者の分身はある意味で真理だった。
「大きな意味で、この世界の誕生はこうであると認識されています。その上で始まりの『・』。この世界を成した物であるとされるのが魔力という不可思議な力だと……」
竜鉱石の岩盤から絶え間なく出ている魔力。この世界に充満する不可思議な力の源について言えば、『・なる天』である至極神その物で、続く神々を成したのも『魔力』になる。
「……見解で言えば、魔力がはじまりからの全てを作った物と言う事に成るのでしょうか。この世界の造形から私達も含めて全てを……そう『神々』ですら、と言う事ですね」
神も不可思議な力による創造の産物であると、不遜とも取れる言動を彼女は目の前の不可思議な男に向けていく。
「ただ、私達がある世界は、『隔てがあり階深層ある』と伝わるだけで形すら分からないのです。それ故、この際何らかを提示して頂ければと思います」
「形ですか……設定では、球体の多重構造で中心を水平に区切られた隔てが大地の世界。入れ子というのかそんな感じになってます」
「マトリョーシカ人形か」
ウルジェラが二人の会話に呟きを入れる。クローゼの記憶を元に出した言葉だが、表情はそこまで言って良いのか? の雰囲気になる。
「まあ、入れ子の感じはそんな風ですね」
【多重な球体の一番内側が人智と魔解――人地と魔界――で零層となり、十三の空間が続く構造になる。零層の隔て以外は、至極神 天界を司る起源の・の力によってなされていた】
「そんな風とは……お前の言では無いのか」
「筆者のです。……作者かも。兎に角、私はウォルダー・ワイトベアなので」
「ふっ、下らぬぞ。筆者の分身と言ったか、ならば同じであろう」
ウルジェラの怪訝に、ワイトベアは微妙な答えをする。続いたウルジェラの言葉通り、何が違うのかと言ったところではある。
ただ、呆れるウルジェラを置いて、マーリアは何事無かった様に振る舞っていく。
「この場であれば創造主でしょう。ならば、もう少し開示をお願いしたいところです。例えば……平面に広がる世界の果てはどれ程でしょう?」
「どれ程……あ、設定で言えば、越えられるけれどたどり着けない。勿論、人なり魔なりが在るとこは行けます」
ワイトベアは無表情なまま、ウルジェラに視線をやりそう答えていた。但し筆先一つではある。
「そうですか。なら、父の渇望は無駄だったと言う事ですね」
「無駄……ああ。それは書いていませんが、物語には 彼の存在自体が重要で無駄とは遠いです」
そのままの言葉であれば、王国の盾の物語を綴る上で大魔導師の『この世の果てを見たい』という、見えない設定は重要だった。
「些か計り知れなくありますが、そう理解しておきます」
彼女がアーウィンを名乗らないのは、渇望に対する葛藤もあった。マーリアは僅かに唇を合わせて、自身の話からは本題に戻る。
「それでは話を戻します。……この世界の始まりからここに至るを語る上で、魔力と言う不可思議な力について、先ずは話さなければならないでしょう」
マーリアは、いったん言葉を切り場の雰囲気を見る仕草をする。
彼らがある真っ白な部屋に、徐々に色がつき始め人らしきも見える様子が起こっていた。
「古より興亡を繰り返したこの世界と人々には、発祥すら明確で無いほどの刻から、魔力を動かす術が形を変えて共にあったと言う事になります」
設定として重要である、その術を魔力を動かし操作する方法――魔法――とするならば、何時からあったのかは物語に明確で無くても問題はないと言える。
「そして、私達は死ある生故に、神々と同様に魔力を纏うと伝えられており、その為魔法が自然発生したとしでも可笑しくはありません。恐らく、神の眷属からもれ出た知識で言えば、作られし神々も同様な術を持っていた筈です」
魔力で具現する世界。
「その通りです。今さらですが……」
「筆者の分身。それもお前の……先の意思か?」
ワイトベアの肯定に続いた「それ」とは、知識をばらまいた神の眷属達の行動になる。ウルジェラ自体は理に沿っていたが、そうでない者もいた。
「勢いです……きっと。話の流れを読み返したらそんな風に書いていたと思われます」
「はっ。我は誰と話しているのか。……要するに、適当だったのだな」
「適当とは心外です。妄想の成り行きと……」
「そこは構想って言わないと。……それと、魔力が重要と言っているけど魔術に対する扱いが雜だよね」
ここでアレックスが言った扱いは、術者が直接発動するものについてになる。言われた彼自身に覚えがあるのか直ぐ様反論をした。
「いや、そんな事は無いと……まあ、設定上と言うのか魔法自体を矛と盾の関係にしているのと、主人公の彼があの様な設定なので、補助的な感じになるのは仕方ないと」
主張する部分では、物語を進める上で必要な物は全て魔術の系統によってなされている。
魔装の術――魔装術師と魔装技師や魔装裁師など――は魔術の範疇で、生み出される魔装具や魔動器に魔動機は魔力の具現化の例だった。
「でも、転写に転移と転位に転送。後は転化と転成に……まとめて、転換の術式と。大体、他の系統もだけど、術式どころか呪文すら書いて無いからね」
「そんなでも無いと。大方、起動か無詠唱……」
「それは、文章の視覚化からしたらどうなんだろうね。あと、補助的なのか知らないけど、魔装関係は竜鉱石と竜水晶に竜結晶があって、師匠を煽るか僕を『天才だ』とか言っとけば何でも出来る位端折ってるよね。他に省くとこいっぱいあるのに」
反論らしきを挟んだワイトベアは、よくよく考えれば「他に優先的に省く部分がある」には自覚する雰囲気を出していた。
そして彼は思い立った様に『仕方ないですね』の感じに、やり取りを見るマーリアに視線を送った。
「それでよろしければ、私は構いません」
「文才が無いので、物語風で無くて自筆自演の感じに……ハードルが高かったです」
視線の意味合いは彼女に丸投げする感じになる。物語風に話をさせるのでは無く、彼は丸々代弁させる感じにするつもりになった。
――作品に対してはこの巻末付録は、オフレコを決め込んだと言う事になる。作風として成立するかは別なのだが――
その様子に、マーリアは空間に魔方陣を展開して見せる。扱いが雜な、転換系統の転写魔動術式を使ってだった。
詠唱の表記すらなく、魔方陣に表示されたのは術式の起動に繋がる呪文。所謂魔術の名称と言える物だった。
【魔方陣に表示中】
治癒の力
回復の息吹
魔力防壁
魔力結界
隷属の鎖
爆裂の火焔流弾
極限なる破壊の力
極幻なる幻覚の力
究極な絶零の氷牙
従属の首輪・専用魔法
聖極なる恢復の光・神聖魔法
風陣の束縛・精霊魔法
自動防護式
流動可視化【一】
「確かに少ない……」
「大方拾い出したので全部ではないかもしれません。ただ、発動条件の属性はありますが、魔法自体に単一な属性での使用は少ないので、表現方法の問題だと考えるのも一つです」
ワイトベアの呟きに、マーリアは自身の設定を越えた答えを提示した。
転移系統や浮遊に飛翔。アルフ=ガンド使った精霊の一撃に、風陣の走破なども本来は呪文なり詠唱があった。例えば、流動可視化があって、流動転写を放置とは些かとも思える。
「まあ、雜で端折るの自覚は若干……拘る方向が違うのかもしれない」
「だよね。ワイトベアさん的には魔法は道具の感じが強いしね」
単純に表現として、魔動水で洗うな雰囲気もあったが、魔術=魔装術で魔動器――魔力で動く道具の小さい物――や魔動機の意味合いが多い。
言ってしまうと剣技にも名前がある。声に力を乗せると威力が上がる設定があるので、本来はそうなっていて然るべきだ。
事実、閃光斬なる呼称はあって、純粋な剣技ではないが、魔力と真力――祈りが伴う魔力――を併せる慈愛なる刃【=聖剣技……後付け設定】もあった。
「どちらかと言えば、実戦において術式自体よりも魔力の強さが先にたっていると言う事でしょう」
「確かに、魔力魔量自体は、設定で増幅させる魔術よりも、直線的な魔力発動する魔族の方が大きい的に書いているつもりなので……あと剣技も増幅補助の魔装具を通しているけれど、技と言うより衝撃なイメージになってますね」
マーリアの言葉を呼び水に、ウォルダー・ワイトベアの設定を忘れた筆者の雰囲気が出た。
「何れにしても、結局はキャラクターが魅力的で、ストーリーが面白くテンポ良く進んでいれば関係はありません。当然、文章がきちんと書けているのが必須です」
とマーリアは、ワイトベアの言葉を切り捨て、そこが大事であるとの認識で続く話の内容に触れる。
「続けては、魔力魔量の意味合いになった魔力魔量についてと魔法……魔術・精霊・神聖――その他特種な系統、召喚や死霊等々を含む――と生活様式に密着する魔動器や魔動機と魔装具の話に行きましょうか」
「まあ、そうですね。……設定の話はそれでお願いします」
筆者の分身の認識に戻ったワイトベアの様子にマーリアは、知的で妖艶な年齢不詳の女性という短絡的な設定のままの雰囲気を向ける。
そして、笑顔をワイトベアに向けて、アレックスを促した。
「アレックスお願い」
「『これ』にで良いんだよね。じゃあ、…………流動可視化――」
アレックスが『これ』と向けたのは、ワイトベアである。そして彼は開示の認識で、魔方陣が空間に展開した。
映し出されるのは、魔体流動の色と形に動きと文字や数字になる。個体識別は連結の光が魔方陣に繋がっていた。
流動可視化の術式で映し出された物は、薄い七色の色合いに典型的な人型で微動な流動の絵面。それに幾つかの『・』と中央に文字と数字で、当たり前にウォルダー・ワイトベアの物。読み取るなら次の様になる。
【魔力 二〇/魔量 二〇〇】
「魔力魔量は思った通りそこそこだけど。……ロレッタと同じ『・』が幾つもあるんだね」
「創造主にしては控え目な感じに見えます……。その『・』について彼女と同じ物なら、仮説から相応なのでしょう」
「特異・です」
二人の見解に、唐突に得意気な雰囲気を見せる筆者の分身、ウォルダー・ワイトベアだった。当然、その場のウルジェラと集まった何人かは、怪訝の様子だった……
……大分痛いですが、以降次回にお願いします。
ありがとうございます。
投稿の頻度は察して頂ければと思います。宜しくお願いします。




