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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
終章 王国の盾はそれなりに
184/204

最終話~王国の盾から双翼の盾へ~

最終回的なです。

可笑しな所はいきなり修正しました。申し訳ありません。

 天極と天獄の間の世界(ドラゴニアード)の凡そ真ん中辺りで、クローゼを綴る「それなりの物語」は、ある種の結末に向け季節を重ねていた。


 景色の移り変わりで、大きな変化の一つは、ガーナル平原の湖の畔に作られた街だろう。

 

「草と戯れる」を含む流れから、約束の戦場の北側に自由都市フリーダムが建設され 、更に湖を挟んで北側の対岸には、魔族らが暮らす魔解都市ゼスシールが作られていた。


 形式上はクローゼの所領である、ガーナル平原領域を領有するイグラルード王国とゴルダルード帝国の辺境を守る、中心都市になる。


 その上で、ガーナル平原領域を辺境伯領と定め、王国と帝国の双方からクローゼに、帝国において侯爵相当の『辺境伯』の爵位を与えられる事になった。

 また、王国領内の街道都市ジルクドヴルムと帝国領ヨルグにある緑樹都市ヨルグガンドを含め、正式に領地として有するに至る。


 それに合わせてクローゼは、ヴァンダリア侯爵家と別れ、同格の分家筋となる『ヴァンガーナル』を家名家門とし、クローゼ・ベルグ・ヴァンガーナル・ヴァンダリア・ヴルム=ヨルグを名乗る事になった。


 ――クローゼが持つ男爵位と当代限りの竜伯爵と竜伯は世襲では無い為、本当の意味で領地を綴る事になる――


 一応に、出生地であるヴァンダリアの地名を残すが、侯爵家の継承権を指す、中間名(ミドルネーム)のベルグと共に、本人に限り名目と形式の事となる。ただし、戦場においてはその限りでは無い。


 ――本来の当主であるフローラが、後見を受ける立場と女子であるのを踏まえ、クローゼの家臣に名を列ねるキーナ・サザーラントが、ヴァンダリアの全権代理執行者であるのを含めて、暫くの間は『戦場でヴァンダリアを統べる』のは、クローゼであると言えた――


 しかし、恒久的平和を望む列国の同盟があり、魔王打倒がなされ繋ぐ穴が集束へ向かい、魔物や魔獣の脅威も些かになった状況である。


 その上、冒険者なる制度が浸透し、王国内でその成果を見せた現状では、クローゼを必要とする様な不測事態は当面は起こらない筈である。


 また、冒険者に関して言えば、魔王降臨の二次的で派生的な結果で、魔物魔獣の被害を受けた周辺諸国も、その有効性の認識から、傭兵団の副次的な認識ではあるが広がりを見せていた。



 ――現状は、正式にパルデギアードの女帝となったノエリアの参加によって、七国同盟となった中央列国の領域で、魔王の余波は脅威とはならない所まで来ている。


 しかし、追いたてられ逃げた魔物や魔獣に、魔解に戻らないや戻れなかった魔族が、それなりに人智に居ることも事実だった。


 また、魔王が倒れた事によって、魔解から魔族等が思わぬ場所の大穴を通って出て来る可能性は否定出来ず、そういった意味で制度自体は普及するのだろう――



 こうした人智の事情もあるが、ガーナル平原領域の地はヴァンガーナル辺境伯領として成立し、ヴァンガーナルの家名をその地に刻んだ。


 また、本流のヴァンダリア侯爵家と別に、ヴァンガーナルの家名家門は、王から「双翼の盾」の称号を受けて、六国同盟の盾としてその繁栄を担う事となる。

 その為、クローゼは、列国の君主からも特別な爵位――竜伯爵(グレイブヴルム)――を賜り、複数の主君を仰ぐ、特別な立場になった……



 ……そんなクローゼは現在、自由都市フリーダムの中心にある屋敷の一室で、近しい者達とあった。

 

 若干疲れの見える彼らは、都市の完成を期に「約定が果たされているか?」を含む、視察に訪れた列国の王ら要人を見送った後と言う事になる。

 視察から、晩餐会の形式を経て開けた極光の登り行く最中だった。


 ――対象となった、自由都市フリーダムと魔解都市ゼスシールについては、結果を言えば特段の指摘は無かった。

 委細の上に言うなら、先ずは、城壁の低さが示すほどの解放的な、自由都市フリーダム。場景は、その名の通りの場所になる。


 イグラルードの民だけで無く、残る六国の民も様々な理由はあるがここに集い、エルフやドワーフにランガーを初めとした亜人らも当然に姿が見える。

 そして、許可を得た魔族すらいると言う、特殊で異質な街になっている。


「重要な施設は、ジルクドヴルムにあるし、転位型魔動堡塁(フォートレス)の運用場所だけ気を付けてれば問題ないさ。戦う為の街じゃないし、何かあれば積むし」


 建設の最中にクローゼがそう言った様に、対岸の

 魔解都市ゼスシールも、戦いとは無縁の無防備さを見せて、蓋をした関所構造の城壁の重厚さと転用不可の竜撃装備に、運用するのが東西の名将となれば、視察時に声をあげる者はいなかった――



 クローゼは、恒久的な平和を望むに正道を示して、列席の王らに、皇帝と女帝や女王と他視察団の面々の相手で疲弊して、長椅子(ソファー)に埋まっていた。


 そして、セレスタを見上げたまま声を出した。


「アリッサは?」

「まだ、産まれてないそうです」


 クローゼは、一瞬視線を落として向き直り、テーブルに着く彼女達に微妙な笑顔を見せる。


「二人とも、間もないのに悪かった。子供達は?」


「皆、奥の部屋で寝かせました。でも、クレスタはお見送りだけにこにこしてて、ずっと寝てたから、寝すぎなかな。クロノスはさっきまでご機嫌で笑っててやっと寝た感じ。それもだけど……」


 王国側の辺境伯夫人になったセレスタは、双子――姉クリスティーナと弟クロノス=シルト――の様子を告げていた。彼女の顔は心配を含んで、レニエに向いていた。


「レウルは、フローラ様に気に入られた様で、彼もずっと笑顔でしたよ。お昼寝には早いですが、彼も奥の部屋で寝てます。侍女達だけ無く、キャロルとシャロンに母上とお母様がついていて下さっているので、三人とも大丈夫です。ですけれど」


「ああ、そうか。そう、アリッサだ。なんか急だったな。心配だけど、でも……立ち会うのは、常識が無いんだよな」


 帝国側の辺境伯夫人のレニエは、自分の息子レウル=ヴィントの話の終わりに、産気付いたアリッサの事をクローゼに促していた。

 そこで、「常識が無い」にお抱え魔導師の彼女が口を出す。


「それはクローゼ君が、前みたいに暴れるからでしょ。さっきも酷かったじゃない。よっぽど彼女の方が冷静だったでしょ」


「まあ、確かに。と言うか、アレックスも大概だったけどな」


「それは私もそう思ったけど。『ジーアさん、僕も産まれそう』とか、もうね。でも、部屋の前で、うろうろしてる彼みたいに、いてもやる事無いじゃない。あの人にウルジェラさんもいるし、女吸血鬼(ヴァンプ)の子達にメイド長もついてるんだから任せなさい」


 ジーアは、両手で「大概な」を作るクローゼに、呆れた顔から真面目な表情への移り変わりを見せていた。

 ただ、女吸血鬼(ヴァンプ)を子供扱いするジーアも呆れられる側かもしれない。


「あー、まあ、そうだな。それよりジーアさん。一応姉上にも『当主たる自覚を持つように』と言われたから、『君』つけはちょっと。ジーアさんにそう呼ばれるのは嫌では無いけれど」


「身内の時だけよ。ねぇ、テレーゼちゃんにエイブリルちゃん?」


 当たり前にクローゼに随行していた彼女達に、ジーアは、公私の区別はつけてるからと押し付けをして、微妙な表情をさせていく。

 それに、構うことなく彼女は、続けてクローゼに話しかける。


「まあ、アレックス君が心配するのは分かるけどね。見せたと思うけど、あっちの子達もクローゼ君の子供らしく凄いけど。ウルジェラさんも言ってたけど、今のクローゼ君の子供だとちょっと大変かもって言ってたから」


流動可視化(ビジュアライズ)だったか。確かに、生まれたばかりであの刻のヴィニーの何百倍とか、騎士越えてるし。数字で見えると驚くよ」


「流動転写の応用ね。基準が『初めて撃った時のヴィニー君』とか、アレックス君も引いてたから。……まあ、発想よりもあれね、クローゼ君の見て私も別の意味で引いたけど。私達が吐きそうなるのも分かるんじゃない」


 驚くと言葉に出したクローゼの表情は、心ここにあらずに見える。ジーアの「引くけど」にも然して反応は無かった。


 ――勿論、自身の引くほどの数字を彼も見たが、術式だけでは確認出来ず、魔導技師の手による、高度な流動可視化魔動器(ビジュアライザー)が必要だった。

 ただ、その数字が中の人である守護者『探求せし者』の見解と一致し、その正確さから、ジャン・コラードウェルズの魔装技術の高さ認識して、ここまでこれたのは彼の力が大きかったのをクローゼは思い至ったのだった――


 一応に、クローゼは「ああ」とジーアの言葉に同意して、姉と呼ぶフェネ=ローラの事を話したのに意識がいった。


「そう言えば、姉上の側にいた人はなんだ? なんかフローラまで笑顔だったし」


 起き上がるほどに前のめりなクローゼの様子。


 彼は、視察と言うよりも、フェネ=ローラとフローラは御披露目の雰囲気で呼んでいた。そこに当たり前の顔をしていた男の事を、唐突に言い出したのだった。


「サースデェイム公爵です。クローゼもジルクドヴルムの屋敷でお会いしたと思いますよ。『なんだ?』と言うのは些かですけれど、その顔なら、そういう事ですね。ならば、父上が『(わきま)えて、お会いされているのは陛下も承知している』との事です」


 エルバート=ローベルグ・サースデェイム公爵。レニエが、クローゼに告げた人物の事である。


 彼は王の再従兄弟またいとこで、公爵家の中では数少ない「ローベルグ」の中間名(ミドルネーム)を持つ王族だった。


「 んっ、 わきまえて会ってる?。承知とか……そう言う事なのか……」


「ヒーゼル様とも旧知の間柄との事。あの(いくさ)以降、時折、ヴァリアントに見えていたそうです。デェングルト宮中伯の件よりは、頻繁に。それで、侯爵夫人も心穏やかになされた様です」


 クローゼは何と無く察して、フェネ=ローラの父、アベルの事が出て納得と僅かな自責を覚えた。

 大切だと思い守ろうとした彼女に、何もしていなかった訳では無いが、当たり前に甘えていたのも事実だった。


 ――そうか。フローラの笑顔を見ると悪い人では無さそうだし。

 ヨルグの碑の前で何を話したかは、結局教えてくれて無いけど、レニエが当然の顔をしてるなら、そういう事なんだけども、あれだ。……当然に、フェネ=ローラも一人の魅力的な女性である。とクローゼも大人の部分では理解した。


 ――私的な部分を除けば、ヴァンダリアの特異性に触れるが、現状王国には、ノーズンリージュ公爵家にヴァンガーナル辺境伯という、王や王権にとって同等の存在があった。


 良い意味でも悪い意味でも。


 それも含め、王の側近らも黙認する、形式上王位継承権を持つ公爵と『王国の盾』たるヴァンダリア次代の当主の母で、侯爵夫人の逢瀬(おうせ)とも取れる繋がりを、秘匿する必要がなくなったとも言える。

 勿論、政治的思惑も含まれていたのだろう。


 余談ではあるが、エルバートは、現王の実兄で、あの事件の首謀者エドウィンの妻子を預かっていた。

 そして、「独身である」を理由に時期を選び、現王の生母で、前王妃の王太后の元に送っている。


 大事の影に隠れた小事であった。


 ただ、アーヴェントの表せない意向を受けて、グランザが暗に促しを向けた事を彼は平然とやっていたとも言える。

 その行動で、彼は多方面から様々な評価を受けた。クローゼの知らぬところではある――


 クローゼの目に止まった、フェネ=ローラとフローラの雰囲気は、その辺りの事になる。


「イケメンは記憶から消す事にしてる。まあ、兄上になるなら、俺を踏み越えて行けって感じだ」


「クローゼ、意味がわからないから」


「まだ、その様な事になるとは決まっておりませんよ。よもやであっても、陛下の『容認がある』に、ヴァンガーナル辺境伯のクローゼが、口を挟むのは些かな事です」


 セレスタとレニエの言葉に、クローゼは長椅子(ソファー)に体を預ける。立場の話は義父であり、この絵図を書いたグランザにされていた。


 聞きあきたの雰囲気程である。


「まあな。……でも、男女の事だからわからないだろ。だって、陛下も急にどっかの国の姫様を王妃にするとか言い出したし。まあ、殿下は予想通りだったけど。なんか、色々面倒臭いんだな。……でも、カレンは可哀想だな」


 そわそわした、落ち着きの無い感じがクローゼにはあった。手持ち無沙汰で、口から思いついた事が出てくる。そんな様子に、レニエも席を立ち凛とした様子になる。


「何を言っても、陛下が許して下さると思っているのですか?」

「そんな事は思ってない」

「思ってもいない事が口を衝くのですか?」


「いや、悪い意味のつもりじゃない」

「でしたら、その様な発言にはならないのではありませんか?」


 その場も姿勢を正す様なレニエの真顔に、クローゼは折れる。何時もの様に、抵抗は無意味だと彼は理解した。


「いや、そういうではなくて……ごめん、悪かったこれから気を付ける……」

「そうして下さい。正直なのも私のクローゼの良い所です。ですが、当主たるの自覚を……散々父上に言われておりましたね。私からはやめておきます」


 そう言ってレニエは席に着き、メイドにクローゼの紅茶の用意を促して「少し落ち着いて下さい」と彼に声を掛けていた。

 その様子と入れ替わる様に、セレスタはクローゼの「どっか」に答えを出して行く。


「『どこか』ではなくて、西方のフェルンホルム公国の公女殿下、リネーア様です。……後、可哀想は、クローゼも聞いた通り『陛下のお子を産むか?と考えたら、そういう意味の好きではないと理解した』のままとだと思うから、違うでしょ」


「まあ、そうだな。……どちらにしても、カレンの事は止めておく。陛下の話は、詮索と憶測は駄目な様だから今は忘れておく。必要になったら、誰か教えてくれ」


 クローゼは、付き従う者に視線を流していた。


 軽い口調で彼女達と話す彼は、時折出す覇気で周囲に威圧的を与える。むしろ、存在自体が恐怖と言えた。

 ただ、執事長のジョセフをはじめ、古参新参に関わらず、屋敷でクローゼをそう見る者はいない。


「ごめんなさいとありがとう」を当たり前に言ってしまう魔王らしきもどうかと思うが、彼は身内には優しい。単純にそうであれは、彼女達に誉められるので、気分が良いのもあったが……。


 今回の件で、ジルクドヴルムや王都から、屋敷の者達の大半をフリーダムに呼んでいた。

 その点を踏まえて、クローゼは労いの言葉を場に出して、「問題無いか?」と当主然と自覚らしきを出していた……



 当主としての自覚と言っても、気持ち問題で実務については今まで通りだった。

 政務についてはレニエが、軍務においてはセレスタがクローゼを支える事が明確になった位だった。


 その上で、クローゼの重要拠点であるジルクドヴルムは、安心感を与える大男グレアムを代官として、辺境伯領行政総監となったニコラスが実質的に取り回している。


 また、竜撃機動歩兵を含む私兵の大半を残し、ブラッドが王国にとっても重要な場所を守っていた。

 その為「王国にとっても」の部分で、シオンが王太子妃となり竜装騎士団が再編され、団長となった六剱の騎士(シックスソード)の二人と共に交代で駐留している。


 そして、本領となったガーナル平原領域は、ニコラスが後継者に選んだヴィニーが行政統括官となり、クローゼに実務を丸投げされて、本当の意味でも影武者になった様に見える。


 また、「存在感が有るのに無い」を演出できるパトリックを警備隊の長にして、自由都市 フリーダムの警備の統括もヴィニーがしていた。

 よって、ヴィニーは、些か多めな責任の押し付けを受け、クローゼの言葉を繋ぐエイブリルの『知的で美しい無表情』を糧に職務に追われていた。


 そしてクランシャ村は、代官にラグーンが就いていた。余談ではあるが、余生は安泰になった。と彼は思っていた。

 それでジーアは、クランシャ村の家をせっせと掃除をした、と言う事もあった。


 些かな余談であったが、現状に戻れば軍務に関して主力はジルクドヴルムあったが、相当の装備の警備兵を除いて、広域な辺境伯を守るのも当然、彼の私兵になる。

 元ヴァンダリア騎兵第二大隊を中心に、駐留していた騎兵と共に新設された『竜撃筒』を装備する竜撃騎兵を中心に二千程で担っていた。


 勿論、ヴァンダリアからの移民と共にクローゼの家名家門に属する者である。


 更に、ヨルグ領にもフローリッヒの家名家門の私兵に、テレーゼと共に皇帝より借り受けた軍が、併せて数千の規模あった。

 それ故か、レイナードとキーナら有能な二人をヴァリアントに預けた上で、領民が少ない中でもクローゼの力を含め、相応の戦力を有する事になる。


 当然、魔族の動員をかければ、不相応な兵力を持つに至っていた。

 公にはしないが、動物に擬態出来る人魔族を警戒に使い、無駄に広い領域をを網羅するという離れ業もやっていた……。



 クローゼの「問題ないか?」に、そういった事情を加味して、エイブリルはセレスタとレニエの表情を見ていた。それにクローゼは当主風な感じになった。


「どうした? 何か問題でもあるのか」

「よろしければ一つ御座います」

「なら、聞こうか」


「南方からの他領民の流入の件です。些か視察団の中で、その辺りの指摘の言が聞こえました。それゆえ、現状のままとはいかないかと存じます」


「ああ、その事か。ケイヒル伯にも言われた。男爵連中から泣きつかれたらしい。元々は人の領地で放牧とかするからだ。それに、領民の管理も出来ない奴が悪い。約定……契約だったか?」


「私も、捕まえた民が可哀想と言われるなら、『ヨルグ領を通りして帝国からの移民にすれば』と言いました。でも、ここまで噂が広がるとは……」


 テレーゼの言葉に、クローゼは「そうだな」と考える仕草をした……


 テレーゼの思い付きが発端で、起こった出来事になる。切っ掛けは過疎な村だったが、現状では、東部の領域からかなりの数の民が、ヨルグ領を通りガーナル辺境伯領に入っていた。


 初めは不法侵入者の泣き声から、合法と不法すれすれで容認された事が、今や大事である。


 始まりは、ガーナル平原に隣接する東部の少領主達が、王国に対する金銭的義務を果たす為の名目に、領民達の「家畜の放牧」を積極的に黙認した事だった。

 それを「全域を網羅する体制」を取った為に、クローゼは、不法侵入の民を捕まえてその事情を知る。


 ――領主が、継承の為の爵位を買のうに余計に課す税で、領民に無理をさせている事実――


 王国において男爵以下は世襲ではない。そして、年月を掛けて分家筋を推奨して、暗にそれが貴族の当然であるという風潮を作っていた。 単に、王族たる公爵家が多いのはその為でもある。


 そして、それに習う諸侯の領地は細分化されて力が削がれる。刻を経て、分家の分家筋の男爵家の様な不確定な領主が多くなった。

 その上で、家名家門を継承するのに、金銭をその筋――宮事を王の代理する公爵家――に送るのが暗になっていた。……クローゼの記憶を借りるなら、賄賂な相続税の様な物である。


 それに関して、テレーゼの伯父マインラート・ヴェッツェル・ブリューム方伯が、彼女に言った言葉がある。


「あの戦の後に気になる彼らを調べたのだ。彼らが先か王国が先か定かではないが、恐らく前者だろう。それ故、帝国で皇帝陛下が諸侯の統制に苦慮し、覇権を成しているのに比べ、王国は効率的に諸侯の力を削ぐ体制を築けているのだと」


 彼らとは、勿論ヴァンダリアだった。


 方伯の言葉は、クローゼの単純な疑問――何故ヴァンダリアに士爵が多いのか? ――の上にある彼らの強さの事になる。

 そして、方伯の予想通りに、王国もヴァンダリアを習い、実力による淘汰を狙った。ただ、多くの貴族が延命を選択し、王権側も受け入れたと言う事なのだろう。


 当然、風潮に流されず、実力がある者は力を残した。ヴァンダリアやノースフィール等の建国の功労者の家名を除いて、諸侯の入れ替わるが往々にして起こりうる為、時世にごとに有力な人材は台頭する。


 クローゼの様な者は特種で異例であるが、王が彼を通して、ヴァンダリア侯爵家に所領を与えた様に、公然と王の意向が行使出来る状況があった。


 また、保護と義務の契約関係――封建的な――であるにも関わらず、フェネ=ローラの言葉通り、契約を一方的に切り「家名断絶」を断行出来る「威光と実力」を王が持ち、それが家臣の家臣の不徳を問えるならば、方伯の「効率的に」の言葉も的を得ていたのだろう……。



 その様な事情で、互いに王国法に触れるのをなし崩しにしてきたが、公に王の耳に入れば流石に、そのままであると言う訳にはいかない。


「なら、今までのは知らないで通すから、今後の不法侵入者は『死刑』でいいか?」


 考えた風に時間を掛けて出したクローゼの言葉に、少なからず、空気が冷たくなった。


「駄目か?……なら、取引か? 対価を払うとか。そうだな、今までの領民の件を不問にするなら……『家畜の放牧』は認めてやる。後、なんだ、ああ、推薦状を書いてやればいい。『なんとか男爵の息子は王国にとって有益で』とか何とか。そうすれば、無駄に賄賂払わなくて良いから、領民も払う税がへるだろ。どうだ?」


 最初の言葉で、その場の雰囲気は「此方で考えます」になっていた。


 ただ、「何なら、こっちみたいに、盾で柵を作ってやってもいいな。いや、税も監視しないとあれか……」と続けて話すクローゼの意見が、まともに感じて、それにも動揺が見えている。


「どうした。それも駄目なら、取り敢えず人手がいるだけだから、出稼ぎ村とかにして税はあっちにするとか。結局、どこに住んでも関係無いだろ。ああ、それをするなら、家畜の卸す先を一括で、暁の商会にさせるでもいいな。……と言うか、何か言ってくれ」


 単なる思い付きであった。クローゼは、ただ、待っている中で「そんな話になったな」という様子にみえる。

 それに、彼女達が返そうとした辺りで、不法侵入かの勢いで部屋の扉が開かれた。


「クローゼ、産まれたか?」


 困りますを押し通した、勇者イグシードが困惑のライラを連れて入って来た。


「おい! イグシード。いい加減勢いで動くなよ」

「いや、アウロラ様に捕まって遅くなったから」


「『いや』じゃなくて、皆驚いてるだろ。常識を考えろよ」

「お、おう。……悪い。と言うかお前に……じゃなくて、まだ、生まれて無いんだな」


 お前に……言われたくない。と続くだろうに、周囲も同意する雰囲気だった。


「まだだ。俺も待ってるんだ。流石に、何と無く話すのは飽きたしな――」


 その言葉の後に、廊下を駆ける音がした。


「――はぁ、はぁ、あっ、産まれました。男の子です。お姉ち、あっ、いえ、男爵夫人も大丈夫です」


 アリッサの妹のエリーナが、開け放たれたままの扉の向こう側から息を切らして報告を投げてきた。

 それに、一瞬でクローゼは飛び上がり、駈けてエリーナの方に両手を当てた。


「家族なんだから『お姉ちゃん』で良いから。行こう。待ちくたびれた。さあ」

「は、はい」


 瞬発かの勢いを見せたクローゼは、言葉のままにエリーナを連れて走り去る。

 呆然の様子が残された部屋に漂い「早っ」とエイブリルのもれる声。続く彼女の咳払いに、二人の夫人の微笑みが向けられていた。


「同じです。この感じ」

「そうですね。セレスタの刻もあのままでした」


 二人が共有する、見たままと聞いた事に全く同じ反応で、三人が対等であると分かるクローゼの様子だった。

 対等である三人目のアリッサが、吸血鬼(ヴァンパイア)のままに宿した命は、それなりの苦悩の決断ではあった……


 ――アーヴェントに「新たな称号は何が良い」と問われたクローゼが、「双翼の盾」と返したのは、格好良いと思ったオーウェンの鷲の絵柄の軍旗にもよるが、人智と魔解を知り理解する為でもある。


 そう、人智と魔解の者を従える特異なる者として。


 王国の盾の称号を手放し、双翼の盾の称号を手にいれたクローゼが、『王国の盾』として、ヴァンダリアを繋ぎ綴る物語はここで区切りとなる――


 別室で、後から来た者達に囲まれて、クローゼは、不安げに抱き上げる何度目かの赤子を見て呟いていた。


「名前は決めてある、君は、アイジス。アイジス=アテルだ。髪色はアリッサみたいになればいいな」


 クローゼは、彼女達と抱かれる我が子に囲まれて、満足げな表情をした。転生者としてクロセのクローゼになり「それなりの到達点」である。

 一応の終焉を迎えた彼の物語は、自身の子供達に受け継ぐまで続くのだろう。


 ただ、それは別の話である。(完)




これで王国の盾での物語は終了になります。

最後までありがとうございます。

力量が無いのを痛感する所です。ここまで到達してくださった方には、感謝したいと思います。


今後について、投稿時点で完結設定はしないで修正をして行く予定です。

修正完了で終わりしたいと思いますので、よろしくお願い致します。


後は、巻末で設定等の投稿はあるかもしれません。その辺りはご了承下さい。


先ずは、フライパンの方を先にと思うので、まだまだ時間は掛かるのではと思いますが……


もっと、色々と必要なものが……まわりくどい。


兎に角、ありがとうございました。


――最終話投稿時点、白髭翁――



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