表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
終章 王国の盾はそれなりに
183/204

十~追いかけた背中、受け入れる事~

 紫の瞳が示した先では、二人の黒の六楯(クロージュ)が対峙する。一人は二刀の小振りの剣(ショートソード)で、一人は長剣(ロングソード)一振り。


 もちろん、彼らである。


「……盾無し、剣技無しで、発揮も無しだ。まあ、黒の六楯(これ)で刃引きなら死ぬことはないだろうし。後はいつも一緒だ」


「ああ、手は抜かんぞ」


「ふっ、分かってる。それはこっちもだ。……カレン、ギリギリ迄行くからそのつもりで立ち会ってくれ。もう、二人にも止められたから、多分これが最後だし」


「これに掛かりきりだそうだな。なら、そう言われて当たり前ではと思う。まあ、危ないと思ったら今度は躊躇無く止める」


 変わり身の速さをカレンは懸念して、この位置に立った。ただ、単純に集中する雰囲気をクローゼから受けていた。


「ああ、頼む」


 クローゼは、僅かな間に敗けを増やして、引き換えに手応えを得ていた。先程までの思考停止する雰囲気が、逆にクローゼを集中させている。


 彼の戦える武器は、握る二振りに、勇傑なりの目と支配せりの視界。

 膨大に纏う魔力の渦のよどみが、重い厚みと深み与える鍛えた肉体もあった。


 静寂に距離感が絶妙な対峙の二人。その場景が時を刻んでいく。


 ――自然に構えた姿が魔王並みの雰囲気って……な。いい感じだよ。


「ふぅー。行くぞ」


 クローゼの言葉に「おう」の声。カレンは、立ち合う二人の間合いから下がり距離をとる。


「始め!」


 合図と共に仕掛けるのはクローゼ。


 ――それが最近の流れ。大方は、二刀流を受け捌くレイナードの指南雰囲気。

 恐らく「最後」と、何かを賭けている筈も、純粋に、才能を追いかける。の感じだった――


 二刀の左を逆で握り背中に隠し、低い姿勢で飛び込んで、レイナードとの間合いを詰め右の剣を内へ横凪ぎに走らせる。


 当然、奏でる金属音。


 かん高い音をクローゼは、巻く様に身体を(ひるがえ)して左の切っ先を鋭く向ける。


 回転し横に抜ける最中の突き。


 当然捌くレイナードの長剣。背を向けるクローゼの「支配せり者の視界」には、彼の切り返す剣先が自身の背中に(えが)く、一閃が見えていた。


 クローゼは、微かな痛みを押し殺し、回転しながら横に抜ける。その先で、右足を地面押し付け勢いを殺す。

 片足を軸に身体をずらして、追撃のレイナードと視線を交わしていく。


 見つめた先からの連撃を二刀で受けて、散らす火花で距離を詰める。――半身で伸ばした右の突きは、見たままで窮屈そうな距離感をみせた――


 しかし、レイナードはものともせずに、流れる様に剣先を捌く。ただ、クローゼも「当然だ」と息つく間無く、続く剣撃を向けていった……



 ……終始無言の剣劇は、ロレッタとエイブリルが、ここの所見る光景だった。流動が「放出系」同士のカレンとヘルミーネの凄絶さとは、また別の凄さがあった。


 位置取りから距離感を計り、絶え間なくずれ動く(さま)に金属音を奏でる。

 大方は、勢いでクローゼがレイナードに迫る流れ。ただ、僅かに肢体に触れる剣先が、クローゼの「距離と域」でないと見えていた。


 ――激突する剣圧は、膨大魔力を纏うにレイナードが瞬間で合わせるで相殺。行く足は僅かにクローゼが上回る。奮う剣は、動きに併せて流れる流動のレイナードが、流れの少ないクローゼより、勝っていた――


 そして、勢いが頂点になり攻守が代わる。これも素で立ち合うの流れ。周囲には明確になる。


 真剣な表情のテレーゼに、寄り添うヘルミーネには音の動きで終わりが見えていた。受ける動きで、かろうじて追従するクローゼの姿の先が……。


 行き着く過程で、レイナードの繰り出す剣撃を『勇傑なりの目』で捌くクローゼ。金属の擦れ当たる音と風を切るが、多種多様の変化を見せる。


「受ける形」これが本来の彼らしさであった。


 決着は「受け切り返す」を狙うが、素の彼の『結局』の路線。ただ、レイナードの引き出しは、「受け切り返す」を最後には幾度も越えていた。


「――いつものままか?」


 珍しく最中にレイナードの声。一息に変えて、クローゼも「ままと思うな!」と返す。

 術式を使えば、何でも有りなら、過る思いなら別の戦い方になるが、これはこれで相応だった。


 高速での位置取りで体と剣を捌く場景が、互いを高めて行くのが周囲にも伝わる。

 そこで、最後の盾魔方陣の発揮をも捨てた単なるクローゼは、一線を越えるに挑む。


「越える!」


 覚悟一言。深く深く深く……限界を越える極限の集中で、あの対峙よりも更に深く。


 ――この世界に来て、レイナードはクローゼの一番の理解者だった。常にその横で、先で、後ろで。兄で、友で……剣であった。彼の背中はある意味支えで、羨望だった――


 覚悟で足を止めて、相応の距離で繰り出す剣を「勇傑と支配の力」で、映像として空間を掌握し、クローゼは王国最強剣士と六連の応酬を魅せる。


 ――ここから、後三つだろ!


 重い衝撃音に思考を乗せ、軋む肢体を振り絞り迎撃の剣に重さを当てた。三度の鈍い音で、微かにずれるレイナードの剣と息。それをクローゼは感じて、自らの剣を走らせる。


 空間の映像には、僅かな勝利への道筋が見えていた。

 ――行ける!……幾度目かの確信の思考。


 ただ、いつもとは違う筈の手応えが、クローゼに見えていた。それに、美しい流れに戻るレイナードの剣筋が、空間の映像に押し付けられる。


「これで最後だ!」

「まだかよ!? ――」


 十連撃目で、弾かれる左の剣をクローゼは、食い縛り握りしめ泳ぐ体制を堪えた。

 しかし、光景は寸止めの剣が首筋で光るに続く様に見えている。


 当然に来る『筈』の切り返す十一連撃目。恐らく言葉通り、一息では最後だろう。刹那の認識でクローゼはそう感じた。


 ――流石に、才能の差は埋められないのか……いや、考えろ。何かある筈、あっ。……最後の悪足掻き、刹那の思考で至った雰囲気。


「――操作可能型(アクティブ)


 レイナードが最後を決着を(えが)き、カレンが動き始める瞬間のクローゼの声。

 一瞬後には、クローゼは止まる剣先を(かわ)した。


 ――渦巻き淀む膨大な魔力が、クローゼ本体の流れに合わさり流れを作り始めていた――


 対峙する双方共に驚愕は一瞬。カレンもそれに追従して驚きの顔をする。

 彼女にも、終わった筈だとの仕草が見えた。


 そして、レイナードの上がる口角と膨らむ鼻。


 大きく息を吸う仕草から、「ギリギリだな」と呟いた。それに、のけ反り下がったクローゼが「セーフだ」と返して「意味がわからん」とレイナードが前に出た。


 レイナードから繰り出される剣は、連撃では無く連続だった。繰り返し積み上げた流れるような剣では無く、荒々しさが先にある。

 瞬間の剣速が残像を魅せて、別の意味で美しさが場に映えていた。



 ――それは、先代のヴァンダリア最強剣士オーガス・フロックハートに見せたレイナード本質で、本来の姿でもあった――



 それを一段上がったクローゼが、下がりながら剣はを併せ捌いていく。ただ、肢体に届く幾つかが、レイナードの本気の勢いも魅せている。

 最高到達点で、息つく瞬間にクローゼは反撃。反則的に魔体流動を動かした彼の身体は、恐らくレイナードに届いていた。


「どこまで強い!」


 クローゼの声と捨て身な攻撃への自覚が、初めてレイナードの表情を変えた。

 自覚と覚悟が交錯する剣に、双方が必殺を込める。 それが終局に向かう切っ掛けだった。


 クローゼの回る動きに、レイナードの剣が走る。二刀の一つをクローゼは捨てる気で、それに合わせていく。


 横薙ぎの剣筋に、胴と長剣の隔ては剣身の腹一枚。


 ただ、その一撃で剣はあからさまに折れて、勢いを殺し直撃する。だが、その瞬間、クローゼの剣もレイナード首の皮一枚で止まっていた。


「そこまで!」


 カレンが全力で掴んだクローゼの手首は、わなわなと震えていた。


「はっ! あっ、えって?」


「試合うだろ。殺す気か?」


 クローゼはレイナードの声を聞き、彼は脇腹に激痛を覚える。


「ぐっ、痛ったっ。お前もだろ」


 三者が交錯する光景で、クローゼはレイナードを見直した。そこで、レイナードは「見ろ」を聞く。

 そこでは、割って入ったカレンの剣が、長剣と合わさり止まっていた。


「はっ、カレン?」

「二人とも必死過ぎでは。危なかった……」


「ははっ、ああ、笑い事じゃないな」

「そうだな……」


 中央で、交錯を解き立ち並ぶ三者。一応に、拍手と歓声がでていた。そして、歩み寄る者達。


「クローゼ、やり過ぎです! あっ、酷い格好……」


 やりきった雰囲気のクローゼに、セレスタが様相に驚きを向けていた。


 衣装甲(ウェア)は切れていないが、何ヵ所は血で色合いが変わっていた。そして、頬に伝う赤。それをレニエが定位置から指で触れていた。


「兎に角、どっちだ?」


 クローゼは、セレスタに魔力を通され、王と皇帝の視線を感じて、横に立つアリッサに気をやりカレンに問いかける。

 困った感じの向こうから、アーヴェントの裁定が出てきた。


「引き分け。と言うところだろう。なかなか面白い立ち合いだった」


「『魔術師擬き』は、剣も使えると言う意味だったのだな。雰囲気は違うが、あの場の二人を見ている様だった。まあ、余も引き分けだと見る」


 二人の言葉に、クローゼは決着を望んだ。


「引き分け……なら、もう一度――」

「駄目です。我を忘れる程真剣になるなら、もう、試合うと言う話ではないから……」


「そうです。これで十分です。これ以上心配させないで下さい」


 ただ、セレスタとレニエの続く言葉で、クローゼの勢いは止まる。カレンもそれに同意していた。


 ただ、レイナードは仕方ないの雰囲気で。アリッサがクローゼに向ける視線は、嘘をついた子供を諭す様な眼をしていた。


「両陛下。決着は引き分けとなりましたゆえ、この件は、後日改めてと言う事でこの場は如何でしょう。考える刻もまた、必要かと存じます」


 雰囲気から、一旦と、アリッサがアーヴェントとライムントにそう提案をしていた。

 おおよそは、その空気感である。冷静になれば今決める事でもないとの見解に至った……



 ――クローゼベルグのある種の悲願は、一応の到達点にきた。ただ、形式上は引き分けであるが、最戦を望んだのが、結局は答えなのだろう。

 しかし、この先は平和に向かう。それに、これ以上は、試合(しあ)う範疇には収まらない筈ではある――



 結局、「暫くは草と戯れよ」と再びアーヴェントの言葉を受けて、その場は収まった。

 一応に、クローゼもその場を離れ、近しい者達と宛がわれた屋敷に戻る。


 屋敷の一室で、「まあ、あれだ」とレイナードがロレッタらを連れて退室し、部屋にはクローゼと三人だけになった。

 

「本当に無茶はやめて下さい」

「レイナードに引き分けなら老師も誉めて下さいます。……私も誉めて上げますから」


「でも、聞こえたから……それはそれね」

「何だよ? ……ばれてたのか」


 長椅子に埋まるクローゼを見る彼女達に、彼は見上げる視線を通していた。そして、暗に言葉を掛けるアリッサにばつの悪そうな顔をする。


「彼が何も言わなかったから、黙ってました。……それはいいです。セレスタ様、レニエさん。話しておいた方が良いのでは? 私もいつこれるかわからないから」


「今度は何だよ」

「もう、無茶しない為のお守りです。クローゼ様。二人が私もいた方が良いと言ってくれたから……」


 的を得ないアリッサの言葉に、クローゼは困った顔になる。……若干怒られるのかの様子もあった。


「だから、なん――」

「クローゼ! お話があります」


 クローゼの質問を遮り、セレスタはそう切り出した。そのままレニエに視線を向ける。


「クローゼ手を貸して下さい」


 レニエが手をクローゼ手を取り、自身のお腹に触れさせていた。


「私は、一人です。セレスタは……」

「私は、双子だって。コーデリア様が……」


 暫くの沈黙が、クローゼの頭の上を歩いていた。


「クローゼも父親になるんだよ」


「……あ、えっ、そうか。ありがとう。そうなのか? えっ、本当に、ああ、ありがとう、二人とも……」


 アリッサの言葉に、クローゼは何処かに引き戻されて、頭の中で何かが回ってきた。


 ――確かに、あの時にその時と覚えはあるけど……いや、俺、父親か、マジか、ヤバイ、なんか嬉しい。……でも、レニエってそうなのか。いや、どうでもいい。


「母上も驚いてました。私の様な前例は少ないので……駄目でしたか?」


「はっ、聞こえてた? いや、うれしい。そんな事考えてもいなかっから。二人とも本当にありがとう」


 恐らく、クロセがクローゼになって、一番の衝撃だったのだろう。暫く、混乱の様子がクローゼを襲っていた。

 一応に、嬉しさで興奮をみせるクローゼの言動に、僅かな刻で屋敷全体祝福の雰囲気に包まれて行く。


 ただ、先走る様子を押さえられ、クローゼは長椅子に座らされていた。


「陛下に報告もだし、グランザ殿に……えっ、もう言ったのか。なら……えっ、『落ち着いて』って、そうか、ああ、わかった。でも、しっかりしないとだな。兎に角、先ずは何すれば良いんだ?」


 一連の激しさと興奮で、いつもの様に思考停止に至ったクローゼは、考えた風で結論に至る。


「先ずは、草と戯れる」……当然に、それなりの声が上がった。

クローゼ・ベルグのそれなりの物語の区切りである到達点は、その後の礎となるガーナル平原で終着点をみせる事になる。


 ――取り敢えず、壁作るか……である。



次で王国の盾としての話は最後になります。

以後はまた、次回時点でですが、修正と設定の保存の為に完結設定は暫く先になる予定です。


ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ