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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
終章 王国の盾はそれなりに
178/204

五~それぞれの価値……錚々たる女性~

 アーヴェントは、クローゼという内なる脅威が名目を立て、列国の同盟を成したと続けていた。


 ただ、周辺の諸国から見れば、その勢力自体が既に脅威である。

 また、革新的な魔装術の昇華と普及のに加え、特種な魔動器や魔動機に魔装具の存在や異質な知識を根幹とした武具や物が、脅威さを際立(きわだ)たせていた。


 当然、魔王降臨の地であり、隔ての上にある世界の『凡そ真ん中辺り』の情勢である。

 周辺諸国は勿論、最果ての地までは些かだが、天極と天獄の間の世界ドラゴニアードで、人智の側の四方でも感心事項ではあった。


 そこには、見聞きする事情の断片から、現実に魔王を倒した力を持つ者が……いや、獄神の干渉すら退けるを成した者が『いる』までの認識が流れていた。

 また、それが人智外の勢力……強力な個体を有する魔族の一団を率いる『人』であるまで至る。


 しかし、列国の同盟が周辺に脅威を向けるかについて言えば、対外的にライムントの言葉に集約されている。当然、平和と繁栄を表す意識であった。


 ――内なる脅威を抱えたまま、外征などには向かわない。当たり前の思考として、周辺に認識を求めていた。その言動の一致を補てんする、楯魔王なる、クローゼの存在が『彼』の価値になる――



 ……『そう言う物なのか』とクローゼは、我が王と認めた男の言葉を聞いていた。

 王たるアーヴェントは、一応の説明の後、クローゼに向けて「彼ら」の話をする。


「……という事だ。平和と繁栄を提唱するのに、お前の存在が有効だとの意見だったな。ただ、その顔を見る限り内容までは知らぬのか。まあ、それは良い。別の話しになるが、ラーベンの件は女王から聞いた。何故その地を口にしたかは私と同じ考えなのだろう。ならば、我が意に従え……で良いか?」


 アーヴェントが「別の話」と口にしたのは、救国の英雄ステファン・ヴォルラーフェン子爵の事だった。


 ――ラーベンは、元々ステファンの所領である。「不測の事後は徹底した恭順を示せ」と彼の残した言葉で、存在は一応に保たれていた。

 そして、クローゼは彼の息子であるスティルが、ヴァンダリアに在るのを知っている。その為、「領地を与えたいのです」のニナ=マーリットの言葉に、考える間も無く答えた経緯があった。


 当然、アーヴェントも「魔王調査の密命」の件でグランザと話し、ステファンに爵領の確約を与えている。その話の流れだった――


「御意のままに」……クローゼは、言葉の意味を理解して、躊躇なく恭順をみせた。

 それに「そうか……」と王たるの頷きが見える。


 ――クローゼの根幹には、承認欲求がある。僅かな頷きだけでも、魔王と対峙できる程に認められる事が彼には重要だった。

 勿論、欲求を満たせるのは、誰でもいいと言う訳ではない。その意味で、彼を理解しようとし、正道を行く「彼の王」アーヴェントは特別だった――


「……ならばクローゼ。拝領の件は別にして、イースティア女王には「竜伯爵」として、我らと同等の忠節を尽くせ。それゆえ、女王を失望させお心を煩わす事の無きよう肝に命じよ。良いな」


 クローゼに言葉を落としたアーヴェントは、続けて「女王陛下、それで宜しいか」と同等と言ったニナ=マーリットにそう確認を向けた。

 オーウェンに促され、話を聞いていた彼女は「その様に願います」と凛として言葉を返していく。


 少女の面持ちを残していた僅か十五才の女王は、同席する王達に認められて「らしさ」も見せ始めている。クローゼの恭しい儀礼を受ける取る様も、相応であった……



 ……その後、歓談を含めて幾つかの話が王らとクローゼの間にあり、会食の時は流れて終わりを告げる。一応に挨拶が交わされて、その場は動き出していた。


 一巡を終えて、クローゼは立ち上がり一礼の上歩き出す。そこには、始めの砕けた感じはなかった。


 彼は、二人の龍の巫女を視界にいれ軽く会釈をして、儀礼をこなす。当然、同席していた彼女達にも同様を向ける。


 あからさまな、真紅の黒の六楯(クロージュ)のカレンに、銀白乃剱(シルヴァーソード)シオン・クレーヴレストの真剣な雰囲気を通り、神聖騎士ミレイユ・リィズ・ド・ラクルテルと颶風の弓士(アルクス)カルデ=エリス・アールグの並ぶ美しいを彼は感じていた。


 そして、白い黒の六楯(クロージュ)のテレーゼの奔放な仕草を抜けて、ヘルミーネの赤を主張する黒の六楯(クロージュ)の様子に、クローゼは挨拶以外の言葉を落とす。


「何で皆軍装なんだ?」

「護衛の任ですので」

「そうか。だけど、ヘルミーネのドレス姿も見たかったな」


 単純に、美しいが続く彼女達の容姿を見て出た言葉で、クローゼはヘルミーネの困った表情を引き出した。彼の言葉でなければ、彼女も即座に反発したのだろう。

 ただ、シオンはそれを軽口と感じて、軍装である目的からクローゼに声を張ろうした。しかし、察したテレーゼが遮りを入れる。


「晩餐会でもないですから、ドレスなんて着る必要は無いかと。それに、軍装でも十分ですよね」


 その「十分」の言葉で、微妙な雰囲気が流れた。恐らく、見たまま美しい感じを主張していた。

 その様子に、レニエが定位置でヘルミーネとシオンに困った表情を向けなければ、シオンは声を上げていたと思われる。


 クローゼはシオンの雰囲気で、何と無くを察していた。


「そうだな。これだけ美女が集まると服装は関係無いな。あ……いや、悪気は無かったヘルミーネ。……そう言う意味では無くて……」


「私個人は問題ありません。ですが、他方は御配慮を願います」

皇帝(カイザー)の護衛は彼女にとって特別ですから。……そうよねヘルミーネ?」

 

 ヘルミーネの立場を踏まえた感じをテレーゼは踏み越えて、咄嗟な指の動きを出させていた。凡そ、掛かる仕草になる。


「――テレーゼ!」

「何よ! 違うの?」

「違わない……けれど」

「じゃあ、怒らないでよ」


「怒っている訳ではない!」のヘルミーネの後ろから、テレーゼを制止するシオンの表情が見えた。


「テレーゼ、止めなさい」

「ヘルミーネもその辺りにしておいては?」


 続けてカレンが、ヘルミーネにも促しを入れていた。……年齢的なものなのか、主君同士が盟友と明言しているからなのか、彼女達にはそんな関係が出来ていた。


 一応にその言葉で、テレーゼとヘルミーネも大人しくなった。それに、カレンのやれやれと言った雰囲気とシオンのクローゼに向く感じが続いていく。


「竜伯爵は時折その様な言を出す。しかし、女が常に男に媚びるなどとは思わぬ事だ。自覚が無くてもそれは気を付けなさい」


「そんなつもりは無かったけど、軽く聞こえたなら謝る。後で、二人にも怒られておくよ」


「私もそこまでは……」


 シオンはセレスタとレニエの柔らかい表情を見て、多少の譲歩の雰囲気になる。テーブルについていた彼女達は、席を立ったままにそれを見ていた。


 そこでクローゼは改めて、ヘルミーネに向いた。彼の基準で言えば、彼女も美しいの部類にはなる。


「ヘルミーネ、すまない。後、君は皇帝(カイザー)の元に戻ったけれど、御父上はまだ俺の代官だ。何かあればいつでも頼ってくれて良い。それと起き抜けの鍛練の調子が悪い。君が相手をしてくれた頃は、そんな事無かったんだけど。大分、君に助けられてたのを実感するよ」


「それは私の方です。……私もクローゼ様の側につかせて頂き、感謝しています」

「ヘルミーネ変わったよね」


 クローゼ達の会話にテレーゼが口を挟み、「何を突然!」と「だから、雰囲気が変わったよねって」の言葉が続いていた。それにクローゼが「ああ」の様子になる。


「テレーゼ殿、また怒られるぞ」


 続く感じの会話がクローゼの言葉で遮られ、テレーゼは唐突に彼に向いていく。


「あっ、はい。でも、今の彼女の感じは好きです」


「だから、止めてほしい」

「私の事嫌いなの?」

「そうでは無い……が。今、その話をしなくても良いと言っている」

「話の流れなんだから良いでしょ」

「そうかも知れないが……」


 テレーゼに好きと言われて、ヘルミーネの顔が赤みを見せて、拒否と承認が波打っていた。そのまま何と無く、彼女達の会話が続いていく。


 それで、周囲も不快では無いが、何とも言えない空気感になる。


「凄いなテレーゼ、思いのままだな。それに、ヘルミーネが振り回されてる」


「ヘルミーネも大変そうですね。でも、始めに会った頃よりは、今の彼女方が宜しいと思います」

「そうね。でも貴方も思いのままだから、彼女も始めは困ってた様だし、きっと直ぐに慣れるわ」


 ヘルミーネの見たままの雰囲気に、始めの固さはない。それは彼らの共通の認識だった。

 また、会話を交わす二人を見るカレンもそんな認識であり、ローランドの死にカレンの前で号泣した、テレーゼにも少なからず思い入れが出来ていた。


 結局、シオンの「陛下を御待たせするな」で彼女達は当たり前に形式に戻っていった。


 ――クローゼとヘルミーネの刻は、然して長くは無いのかも知れない。ただ、クローゼにとって、当たり前になっていたのは確かであり、彼女にとってもそうであった。それは双方にとって有意義であったのは間違いない――


 クローゼが彼女達を見送り、セレスタとレニエに「戻るぞ」と促しを向けたところで、アウロラに呼び止められる。

 ヘルミーネとテレーゼのやり取りに、意識が行っていたクローゼには唐突に感じられた。


「クローゼ・ベルグ様、少し宜しいでしょうか」

「アウロラ様……何か?」


 クローゼは身体を返す感じに声に向いて、アウロラが「ラクルテル様」とミレイユに促すのを見る。

 そこにあったミレイユが、クローゼと視線を交わしたのをきっかけに感謝を出していた。


「公の儀礼は済ませているのだが……命の恩人である卿には、私的にも感謝をしたい。あの刻は助かった。来て貰えなかったら、今ここに私はいないと思う。それには、心から感謝する。……この恩は、何れ何処かで……」


「いえ、気にしないて下さい。あの場で左翼が崩壊しなかったのは貴女達の力ですから。それに、行けと言ったのはセレスタですし、結果的にそうなっただけです。それでもなら、何れ何処かでは……まあ、彼女にしてください」


 クローゼにしてみれば、ミレイユを助けるつもりであれを倒した訳ではない。


 その為か些かな雰囲気を見せるクローゼに、一瞬、ミレイユが困惑を見せる。それを見る、アウロラとその後ろにいるコーデリアもそんな様子になった。


 場には、微妙な空気が流れていた。そこで、気まずい迄に至ったクローゼの後ろから、セレスタがミレイユの様子を感じて声を出した。


「クローゼ、神聖騎士様に失礼です。貴方に話してるのだから私は関係ないでしょ。……ミレイユごめんなさい」


「大丈夫、気にしないでほしい。それにあの場で彼の眼には私が無かったのは分かっていたから。一応に、『英雄に助けられた』との自己満足ゆえ、セレスタに気を使われると私も困る」


 事の流れで、ミレイユも獄神の表情が消えるまでを見ている。その上で、自身の場面の四本腕(シスラ)がクローゼには「ついで」なのだと理解していた。


「神聖騎士様を眼中に無いとか……クローゼそうなの?」

「そんな事は言って無いだろ」

「それは私の勝手な受け取り方なので、彼が言った訳では……」


 セレスタの言葉で、クローゼもミレイユも否定の雰囲気を見せた。ただ、セレスタは何故か断定していく。


「ミレイユがそう感じたなら、そんな様子だった筈です。兎に角、貴方が感謝されたのですから素直に受けなさい」


「いや、そんなに変な答えをしたつもりは無いけど。確かに、セレスタに投げたから『投げやりに』見えたかも知れないが……と言うかいつの間に名前で呼びあってるんだ?」


 クローゼの問いにセレスタとミレイユは顔を見合わせた。


「そう言う所を気にするなら、もっと別の事に……いえ、そうでは無くて……もっと素直に。大体、最近は自由過ぎで……『自由』とは違いますね。……勝手、そう勝手過ぎます。ですから……えっ……」


「分かったセレスタ。俺の負けだ、落ち着け」


 セレスタの続く言葉に、クローゼは彼女に向き両肩を掴んで、真剣な顔を見せた。


「普通にしてる様に見えたから、大丈夫だと思ってたけど、心配掛けてたんだな……許してほしい」


 クローゼの言葉で、セレスタは僅かに下を向いていた。確かに、多くの命のを費やして、獄神に至る一連の流れを考えれば、普通の雰囲気のまま方がおかしかった。


 そんな様子に、別の感じに雰囲気が変わり、それを変えるようにアウロラがセレスタに納得を見せた。


「何か納得致しました。貴女には何処かでお会いした気がしていたのですが、その感じで思い出しました……」


 アウロラは周りを気にする風に、この場にある者達の顔を見て軽く頷いて見せる。そのまま、他の誰かが声を出す前に、恐らくセレスタの疑問の顔に答えを出した。


「『エリスタ』にそっくりなのです。セレスタ様はお分かりですか? ただ、一応にここ場では頷きだけでお願いします。後ろに見える方は、初めてお会いするので」


 アウロラは何故か確信を持って、気配を消しクローゼ達の後ろにあるエイブリルを見てそう言った。この場でアウロラが、神の眷属である極属なのを彼女は知らないからになる。


 ――それは、名前の主がセレスタの曾祖母である為だった。神具の欠片を宿した竜戦の乙女(ヴァルキュアード)。その彼女を知るアウロラが、見たままに若い女性だったからになる。

 エリスタの物語が、ヴァンダリアの地に繋がりセレスタに至ったのはまた別の話であるが、彼女が神具の欠片に干渉出来るのはそれ故でもある――


 セレスタはアウロラに頷きだけを返した。それにアウロラは微笑みを返していた。


「クローゼ・ベルグ様。彼女を大切にして下さい。今の貴方には必要な方です。この縁もまた至極なるの光の思し召し……勿論、貴方が愛する方々も今の貴方には必要な御方ばかりですので……お分かりのようですね。そのお顔を見て安堵致しました」


 当然だの顔をするクローゼを見て、アウロラはそう言葉を閉じた。セレスタもレニエもそのクローゼに視線を向けている。


 ただ、この雰囲気に「エリスタ」の名に引っ掛かるクローゼは続けて額にしわを寄せていく。


「後で聞く。……一応に失礼があったのならお許し頂きたい。些か、『自分』と言うのが自身で分からないのです。情けない話ですが……」


 クローゼの言葉にコーデリアが歩みでて、彼の疑念に声を届けてきた。


「貴方のお声は初めてお会いした刻のまま。自分が分からないとお考えですが、貴方は変わっておりません。それゆえ、お心を穏やかにして下さい」


 帰りがけの立ち話であったが、コーデリアの言葉でその場がおさめられ、彼らはそれぞれに行く先にむかう。


 クローゼも歩きながら、自分自身の事を考えていた。――また、一応、俺は俺なんだな……だった。



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