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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第六章 王国の盾は双翼の楯
173/204

二十六~歓喜への通り道……閉幕~

1話追加?

 綴られる物語は、それなりに結末に向かっていた。それは、竜の背――越えられない頂きの山脈――の裾のを見る黒の六楯(クローゼ)の姿からになる。


「結構いるな……まあ、悪足掻きか?」


「斯様に兵力差は圧倒的かと存じます。それゆえ、お言葉通りに。一応なれば、始めにテンバスを倒したのが大きいかと。忍ばせた者によれば、死獄の騎士(デスナイト)を操る腕輪の一つを持っていたとの事でございます」


 (いにしえ)の遺跡を背に、人智と魔解の会戦するのを小高い丘から見るクローゼが呟いたのに、伏し目がちにベラーヌが答えていた。

 ただ、「答え」以前に、見たままに最終的な掃討戦の様相になる。


 ――多数の国と亜人の連合軍が、転位型魔動堡塁(フォートレス)を多数展開する場景の通り、質、量共に圧倒的であった――


 呟いた彼自身は魔王を倒した後、人魔族らの掌握に刻を割いた為、戦場に立つのは久しぶりになる。


「魔解の女王が、そんなに腰が低くてどうする」

「お止めください。あくまでも自称のみ……自称など魔解には数多(あまた)にありますゆえ」


 魔族の掌握と魔解の見識で助言の為に、「魔解の女王ベルーラ」は、クローゼの補佐についていた。


 ベルーラの恐縮には、クローゼも「冗談だ」と既に魔王然で軽く手を上げていく。その背中に、ザッシュが視線を向けてくる。


「薔薇の大将。俺らがやるまでもねぇと思うんですが……」

「デスナイトだったか? 強いんだろ」

「左様でございます」


 ザッシュの視線が、クローゼの後ろに控える『蛇女の認識』なベルーラに移っていく。つられて、他の人狼の三人もベルーラに向いていた。


「強いと言っても、動き、すげぇ遅いしな」

「そう言う問題じゃないだろ」

「れっ、冷静だ」

「ロッシュいきなり何だよ。……落ちつけよ。でも、まあ、大丈夫だろ。二人に、紫黒と鉄黒だ……相手には漆黒いるけどな……」


 アッシュの複雑な顔に、マッシュが「まあな」と声を掛け表情を思い返す仕草を見せた。


「でもよ。あんなすげぇの見せられて、『やるのか? やらないのか?』って聞かれたらな。俺は、ヒルデさんみたく出来ないな」


「『抵抗か服従か?』な。『嫌なら帰っても良い』と言われても、魔解に行った事もないからな、俺達。それに――」


 アッシュの話を遮る様に、上空からノーガンが彼らの側に降りてきた。唐突に、「あっ、ノーガンさんもいた」とアッシュの声が漏れる。


六楯魔王(じゅんまおう)。あの場所で間違いない」


 魔王と呼ばれたクローゼは、当たり前に視線を落としていく。「そうか」とノーガンに答えて軽く思い返す仕草をする。


 ――呼ばれる名前が多過ぎて、好きにしろとは言ったものの……ついに魔王か。まあ、自分でも名乗ったけどな。


 一応に殴り倒す剣で、ノーガンは天獄の地を踏むことなくクローゼ流な「魔族の法」によってここにいた。


 彼に付き従っていた竜魔族の戦士達も、ユーベンから魔族の追放した折り、高圧的なクローゼの「魔王クローゼ・ベルク・ヴァンダリア・ヴルム=ヨルグだ。……の中から選べ」の言葉に生き残った多くは服従している。


 ――選択を与えたのは、フリーダ故にであった――


 思い返しの後、クローゼは自身の後ろに並ぶ魔族の一軍に目をやり、僅かに表情を変えて前方のヴォルグの背中に……いや、肢体に目を向ける。


「ヴォルグ、調子はどうだ?」

「ああ、で、具合は良い」


 ヴォルグは義足、義手を着けた姿で、腕を組んで振り返らずに答えていた。


「そうだろ。それは特別な物だから大事にしろよ。まあ、お前が行ける所まででも大丈夫だと思うが」

「ああ、そうだな。で、お前は大丈夫なのか?」


 あの『義手と義足」だと告げたヴォルグの返しが、自身の事だったのに、クローゼは僅かに勘繰りをする。


「……アリッサか。余計な、いや、違うな。まあ、そう言う意味なら問題ない。勇者位はやれるぞ」

「そうか、で、なら良い」

「なら良いのか。なんだ、あれだな。じゃあ、そろそろ……」


 特段、意味もない事なのか、ヴォルグの反応は些かだった。それで、クローゼは言葉を切り、僅かに呼吸を整える。


「行くか。……良いか、カミラの『おねだり』を聞いてるんだろ。壊すのだけだ殺すなよ。出来る奴は俺に続け――」


 些か意味不明な号令と共に、クローゼは飛び出した。ただ、戦場に向かう事に意味があるのかは分からない。


 ――既に、魔族の軍を追い込んでいる人智の陣営は、王国と帝国の屈指の将が顔を揃え、彼らに感嘆を出させるヴァンダリアを統べる代行者もあった。


 更に、中央前線では勇者と斧を並べるルーカス王が、齢を感じさせない奮闘と采配を魅せ、それに併せて戦線全体では神具の武具が揃っている。


 その上で、クローゼが導きし「黒い弾」代表される「異質な具現」の威力もあった。


 その為、意味が有るなら本陣を狙う事。または、ある種の「けじめ」だったのだろう――


 意味不明は別にして、クローゼは、獄神を退けたあの領域には届かないが、魔王を凌駕する勢いを魅せる。その領域にこの場で、敵味方によらず、追従出来たのはヴォルグのみだった。……



 ……そして、狙われた魔族の本陣では、アマビリスがある天幕に駆け込むヒルデの姿が見える。


「アマビリス殿、遺跡ま……いや、最早、魔解に退くべきだと」

「それほど悪いのですか?」

「助力と思い参じましたが、私が不甲斐ないばかりに……」


 緊迫した顔で、ヒルデの声を聞いたアマビリスが、カンアとランアに馬車を退かせる指示をした辺りで、「ヒルデ様――お逃げくっ、うっ」と外からヴォルグに意識を飛ばされる、シズナの声がした。


 それと同時に、天幕の入り口辺りの幕が切り裂かれで、驚愕するヒルデとギョウアの声が続いた。


「シズナ、何事だ?」

「アマビリス様、お下がり下さい」


 外の様子を伺うヒルデとアマビリスの前に立つギョウアが、外からの侵入者を認識する。

 それは、平然と当たり前な雰囲気のクローゼだった。


 ――表情すら覆い隠す、『黄色い薔薇』をあしらった黒い仮面に袖無しのコート。黒の六楯(クロージュ)の装備は、漆黒を黙らせる程の存在感を出す、黒一色。

 手に持つのは、名工を継ぐ男の打ちし、二振りの内一本。……露骨な覇気と闘気を振り撒く立ち姿になる――


 平然の侵入者に、咄嗟の判断でギョウアが動く。


 だが、彼の「黒い羽根」の魔力発動をクローゼは、魔動妨害(ジャミング)で瞬殺し、動揺の表情を振り切って前に出たギョウアに剣を走らせる。


 その瞬間、「魔王様お止めください!」とアマビリスの声が光景に刺さる。

 声と体感が、クローゼに術式の消失を認識させた。


 続く交錯は、動揺すら見せぬ、素のままのクローゼが、ギョウアの暗器と自身の仮面で火花を散らす光景になる。

 間髪でれ違い入れ替わる二者だった。

 そして、クローゼは声を出し、アマビリスとの距離を詰める。


「ヴォルグ、殺すなよ」


 発する余裕が、カンアとランアをすり抜ける体捌きの途中出される。後ろでは、ヴォルグがギョウアを殴り倒す光景があった。


 アマビリスとヒルデが呆然とする間で、クローゼは体を返してアマビリスの後ろに回り拘束する。

 首筋には剣の刃が紙一重だつた。


「俺が魔王と(わか)るなら、抵抗させるな」


 クローゼは、耳元で呟く。同時に、戻り行く自身の魔力の流れを感じて、操作可能型自動防護式アクティブプロテクションを再起動する。


 更に、声も出せない「か弱い」を感じ、動揺なのか硬直するヒルデを軽く視線に納めて、クローゼは追従してきた人狼然なアッシュを見た。


「発光筒を上げさせろ!」


「はい! 」と即答の後で、迅速な動きに続き遠吠えが聞こえ連鎖していく。それを切っ掛けに、最初の場所から始めの筒が輝きをはなった。


「降伏しろ。悪い様にはしない」


 クローゼの囁きに、アマビリスは眉間に微かな表情作る。


「……漆黒。我らは降伏致します。……後の手筈をカンアとランアと共に……願います」


 項垂れるヒルデが六刃を落とした辺りで、戦場の転位型魔動堡塁(フォートレス)から打ち出される輝きが連続を見せていた……


 ――輝きが戦場を駆け抜けた刻から、戦局は集束に向かう。予定調和なのかも知れないが、既に手を緩めるだけだった。

 戦局を見れば、坑がう魔族達も自覚していたのかもしれない。復活の魔王が倒れた事により、結果は既に決まっていたのだろう。緩められた手にすがる様子で、彼らも肢体を止めていた。――


 ……戦場の雰囲気が終わりを見せ、天幕に静寂が訪れる。クローゼは、終わり行く雰囲気を感じていた。そこに行き着いたのは、暫くの無言の末になる。


 ――それなりに……か。僅かに何かを思っていた。


 黒い仮面の雰囲気が変わるのを感じた、拘束のままのアマビリスが、自身を抱える腕に視線を落としていく。既に、刃は下ろされていたが、腕は彼女を捕らえたままだった。


「魔王様……黄色い薔薇の方……抵抗は致しません」


 落ち着いた感じの声が、クローゼにと届いた。軽い首を動かす仕草で、彼は現実に戻った。

 

「そうだな……アッシュ、本軍から本陣に繋いで貰え。『捕らえた将らしきが降伏を受け入れた』と」


 アマビリスを離し、指示を出したクローゼが視線を落としていた。アッシュの応じる声を最後に、再びの静寂が訪れる。


 魔王の死と魔王の軍の崩壊で、明確に「見てみたい」からの流れは集束した。黒瀬武尊(クロセタケル)がクローゼとして立って、二年程の刻が流れている。


 成り行きで始まった彼の歩みが行き着いた結末に、彼自身も、また、人智や魔解も大きな代償を払っていた。

「それなりに」で、済まされるものでは無いかもしれない。ただ、それも結果ではあった。


 恐らく、歓喜に続くのはこの後になるだろう。 そう、「格好をつけたい」だけではない渇望の末、目指した者達の喜びと未来の始まりを継げる、歓喜が、である。



一応、クローゼの目指す結果までは至りました。


以降は、エピローグとしてそれなりの結末まで、何話かを投稿する予定です。

その後は、「まわりりくどい」のを何とかしたいです。

……書きかけもですが。


『めんどくさい』に、その他色々あれな。に付き合って頂いている方、有り難うございます。感謝です。

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