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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第六章 王国の盾は双翼の楯
172/204

二十五~双翼神乃楯……終幕~

「――それでも魔王か」 ……続くクローゼの叫びに、投げつけた言葉と抜き払うが重なる。


 引き抜かれた勢いで、フリーダは舞う様にクローゼと視線を合わせて倒れて行く。

 光景を見る視界には、神とは思えぬ罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)の表情がはっきりとクローゼに見えた。


 その刹那、クローゼは瞬発で罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)の眼前に切っ先を向ける。抱えたフリーダの軽さに、舌打ちをして起動の言葉を発していた。


 ――ふざけるな……の感情が何であるか、クローゼは分からない。


 ただ、何とも言えない感情で放った竜硬弾を余裕な罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)は、仰け反る様にかわして、続く魔力に飛ばされていった。


 恐らく、クローゼにも光景に音が聞こえている。しかし、意識が抱き止めた相手に落ちていた。


「フリーダ!」

「二度目も存外心地好い」

「消えそうだぞ」


 フリーダは、復活の(つな)ぎになっていた神具の欠片を貫かれ、存在そのものが消えようとしていた。


「そうあるな……」

吸血鬼(ヴァンパイア)だろ、何とかしろ」

「……ならぬ事もある」

 

  ……フリーダは、抱かれる胸に軽くなる身体を預けて見上げる。クローゼを見る彼女の表情は安らかで、その眼差しは優しかった。

 そして、フリーダは耳元に囁きを向けて、「……魔王様を」と最後に言葉を残し、紫色の色彩で霧の様にクローゼの腕から消えていった。


 呆然の雰囲気で、クローゼは自らの腕の軽さを感じていく。


 一瞬の間で、上げた視線の先には罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)が肩に食い込んだ剣先を捨て、関節が有らぬ方向に曲がり「背中の障り」を取り出し投げる姿があった。


 瞳を落として、もう一度自身の手を見たクローゼの思考が起こる。


 ――ああ、独占したかったのはそれか。子供かよ俺……くっそ。

 勿論、フリーダが母親ではない。ただ、特別な感覚の答えがそうなのだとクローゼは思い立った。


「魔王……」


 呟きに更に剣を抜き、怒りの表情を罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)に向ける。同調の認識が罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)を魔王と定義した……。


 コロッセオの様なクレーターの中心で、吹き飛ばした先の相手にクローゼは瞬発で瞬間を越える。

 走らせる双剣が罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)を襲い神具の剣と強震する。


 すり鉢状の空間に衝撃音が共鳴し、クローゼの連続剣が獄神の剣と音の連鎖を作り出した。


 双剣がクローゼの膨らんだ魔力で、神の具現の領域に届く鋭さを魅せた。神と人の織り成す領域の剣劇が、その場に視線注ぐ者達の動きを止めている。


「オルゼクス! 自分がやった事の報いを受けろ」

「最下層の(ごみ)ごときが、小賢しい!」

(ごみ)に押されるお前はそれ以下だぞ」


 器は同等、有限な魔力魔量は溢れる程のクローゼが勝り、無尽蔵をみせる魔力の供給で罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)がオルゼクスの肢体で受け止める。


 ――実体の限界がそこにはあった――


 魔力を通した剣が衝撃で空気を揺らし、ひらめくコートの黒は、極光に反射して金銀の色を奏でて行く。

 六楯が煌めきと輝きを魅せる……完全無欠のノープランである。


「黙れ、我は――」

「――うるせぇ、お前こそ黙れ」

(ごみ)が、獄神たるに我に暴言を吐くなど、恐れを知れ」


 奮われる獄神ガイアザークの声が、明確にクローゼに向けられていた。


 ――絶望から引き上げられた、支える力を無にするクローゼの飛び出し。

 ただ、叩き付けるクローゼの力業が、ガイアザークを彼の舞台に引き下ろしていた――


「獄神? だからどうした――」


 クローゼは唸る剣筋に、空間防護(スペース)魔動妨害(ジャミング)織り交ぜ、叩き付ける衝撃を外皮と化した龍装甲天獄(アーマード・プリズン)を突き通すイメージをする。


 しかし、激しく突き放されるガイアザークの肢体が、弾けるのに抵抗をみせる。

 衝撃の反発は双方向に向いて、空間を両者に見せていた。離れる距離にガイアザークの表情が微かに緩む。


「なるほど、そういう事かアーロラウム!」

「くっそ、何言ってる?」

「自覚は無いのか、まあ良い。……それはそうと勢いが無くなって来たぞ(ごみ)


 激闘は僅かだが、クローゼは減り行く魔力魔量を感じていた。そして、距離が冷静さをもたらして、現実を直視させていく。


 ――熱くなり過ぎたか。あれか、力が同じなら魔力魔量が多い方が強い……か。獄神がどうとか言うが、あいつの魔量は減ってる感じがしない……えっ、はぁ?


「お前、獄神ってあれか?」

(ごみ)が、我を誰だと思って向かってきている」

「魔王だろ。大体、俺が先に聞いたんだ。質問に質問で返すな、ク◯野郎!」


 ガイアザークに、激昂の表情を作らせた煽る流れ。にやけた半笑いの表情が、更に怒りを助長した。

 それが、ガイアザークの魔力発動を誘発する。


 合わせたのは、魔量吸収(アブソーバ)。展開する魔方陣が、獄神の魔力を吸収した。


「うぉっ、ぐふっ」――ヤバい、想像以上だ。でも、これなら来ても良いぞ。……視界に感じた動きにクローゼは『敢えて』を踏んだ。


 駆け巡り合わさる高質な魔力に、クローゼの身体が悲鳴を上げる。ただ、垂れる鼻血をぬぐいながら、全力でガイアザークの意識引き寄せる。


「見たか? これでまた元通りだ。何度目だ忘れるなよ、この(ごみ)野郎」


 煽る言葉に、ガイアザークは一瞬で距離を詰めて手に持つ剣を振り上げる。その眼はクローゼの身体で満ちていた。

 その瞬間、デュールヴァルドの一閃がガイアザークの右脇を斬り裂く。


 ――「二度目の躊躇は無い」と獄神の意識の外から、真紅乃剱(グリムゾンソード)の全力で最速な渾身の一擊だった――


「ぐふっ、小賢しい(ごみ)が――」


 一閃に意識を取られたガイアザークは、反射的にクローゼを置き去りにして、剣の軌道を変え半身を返す。そして、勢いのまま振り抜けるカレンに、剣身から魔力の波動を放っていく。


 煌めきの盾魔方陣の反射が、カレンを包んだ。


 衝撃が弾けて破裂音を出す。それで、彼女は声を押し殺し、勢いのままに飛ばされていく。

 だが、クローゼは確信で見送り、カレンとガイアザークとの間に硬化機動楯(マヌーバ)で地面から突き出す盾を作り出し、展開する遠隔の盾を並べた。


「なっ!」の声と驚きがガイアザークに現れて、クローゼに向き直した意識が、自身の左脇に受けた衝撃に落ちる。

 そこには、魔斬の流槍(ニグレイドル)の突き刺さる姿があった。


 ――「まあ、行くだろ」のレイナードが、渾身の投てきで狙い、魔斬の流槍(ニグレイドル)自身が周囲の魔力を取り込み加速し『あの黒い槍の姿』に変容して、高速な衝撃的威力を作り出していた――


「ぐっ、なっ、おのれ――」


 具現の反射的な発揮で、黒い鋭利が複数打ち出され、投げおろしたレイナードを襲う。

 しかし、クローゼ六楯の魔力とレイナードの剣捌きで明確な痛手にはならなかった。


 ――既に、ガイアザークの意識は、クローゼの舞台に引きずり出されていた。所々が邪魔をして、反応が不足なのも手伝い、依り代のオルゼクスの身体をもて余している様にも見える――


 揺さぶられるガイアザークが、もて余すを著実にした。そして、上がるクローゼの口角。

 距離と呼べない程の間合いから潜り込み、剣心と槍心の一閃に追撃する。


 この間僅かで一息に、ガイアザークの右脇に自身の剣を刺し、魔斬の流槍(ニグレイドル)の石突に遠隔の盾を作り叩き付けていく。


 ――当然に放つ、内部で砕けた竜硬弾。「起動」に乗せた魔力が内部を衝撃で揺らし、魔斬の流槍(ニグレイドル)が、獄神から供給される魔力を更に、奪い突き抜ける――


 恐らくは、鮮血がガイアザークの口から「ぐはぁっ」の音と共に出ていた。

 クローゼは、カレンが視線を向けるのを感じ、左手の剣を置き去りに旋回する。そして、「あの槍」感じを引き抜きレイナードに投げ返す。


「いいぞ。任せた」


 クローゼは、崩れを見せるガイアザークに背を向けて呟き、妙な確信を持ち歩きだした。すぐ横をラルフの全力の一矢が抜けた瞬間にである。


 彼の視界には、突きたった矢に押され下がるガイアザーク。そして、ライラが届けた「潔さの男気」の双頭の極斧(ダブルクァイト )を振り下ろすイグシードの姿があった。


 ――行っただろう。流石に……過信なのか、呟きにも似た思考。積み重ねが、ガイアザークに刻みをもたらして、獄神の具現は人智にある姿を崩していた。


 そして、クローゼは衝撃音を聞く。イグシードの覇気に、怒号と呻きが続く。それが、終幕の感じをクローゼにもたらした……


 ……コロッセオの様なクレーターの中心から、クローゼは上に向かい歩いている。その最中に、イグシードが飛び退く様子が入った。


「何だよ突然!」とイグシードの驚きに、クローゼも悪寒が走るのがわかった。

 行く先の二人の視線にも促され、クローゼは振り返る。……そこには、口を大きく開けて上を向き、光の柱を放つガイアザークの姿があった。


「何だ?」と続く追いかける視線が、上空に渦巻く魔力の渦に顔を映し出していた。


 獄神 罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)である。


 その表情は、獄神の実体のままであった。


「至極神 天界を司る起源の・(アーロラウム)よ。此度は退く……何れまた――」


「――黙れ、何言ってんだ!」


 上空に向けた獄神の声に、クローゼの怒号と剣先が向けられた。そこに獄炎の魔力が伸びて、クローゼの術式を越えて剣身を燃やし尽くす勢いを見せる。


 刹那で捨て去る剣が、クローゼに上空の獄神を刻んでいく。……大方は絶句、クローゼも無言である。


「我が名は罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)。黙るのはお前の方だ。外皮(がわ)に囚われなければ最下層ごとき、如何に、至極神の戯れな『勇者に魔王』なれど……。

 誤算はままにだったが、獄神の意に仇成した褒美に、お前に関わったもの全て消し去ってから戻る事にしてやる」


 依り代を捨て抜け出した魔力が、一時的な罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)六体の投影を見せて、繋がる先の魔力の強大さを示していた。


 ――獄神ってあれだよな……『消す』ってどうするんだ? まあ、いきなりやられるよりはましだったのか。 そんな事よりどうする、考えろ、俺。

 兎に角、守るんだろうが。


  ……神の余裕なのか、引きずり出した舞台が故かガイアザークは宣言をした。

 思考する間が出来てクローゼ頭を回し、その最中に同調したかの共鳴の声がする。


獄神(やつ)が、この場に保てなくなるまで、何もさせねば良い。我を止めた程の力だ。今程なら或いはだ……』


 明らかに外側から、頭の中に直接的にである。ただ、クローゼの結論もそうであった。考えるまでも無く、魔力の流れを止めるだった。


「ああ、言われるまでもない。双翼神乃楯(イージス)――起動だ」


 胸当ての位置に具現化する双翼の盾。絶対的――直接的な――範囲内防御力と神をも拘束する、六楯最強の魔動術式。


 ベイカーの「神でも倒すのか?」と彼の知識が知の守護者に誘われ出来た物。実際に、その力が神を捉える事が出来るのか試す場にはなった……


 ――命懸けである。守る命も懸けさせてだった――


 ……投げつけるでは無く、自身に繋ぎ止めるイメージを 獄神 罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)に向けた。


 上空のうねりが鈍化して、徐々に止まる。流石に一瞬の拘束とはいかなかった。

 ただ、クローゼは尋常でない感覚で罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)を……いやその一部の具現を捉えて魅せる。


 それは、紙一重で罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)が「消す」に至る所でだった。


「なっ、何?」

「依り代無しでの具現は辛いだろ。消えるまで大人しくしてろ」


 大きく抜ける声が、一瞬、舞台に戻ったかのガイアザークに、余裕の雰囲気を向けていた。但し、出したクローゼにはそんなものは無かった。


 クローゼは、術式に通して流す魔力で、魔力が目減りするのを実感する。そして、眷属神なら無理だった魔力のみの具現化を見せる、獄神に考えを向けていた。


 ――限界迄なら行けるのか? ……いや、総量の問題じゃなく流す量か。もっとだ、もっと魔力を全力でだ……限界なんか考える余裕はない。


 本当の意味での神の拘束である。


 現実が既に範疇を越えていた。しかし、現状双翼神の楯(イージス)は……クローゼは成している。

 そして、足らないのはどちらもだが、消えるまでに破られたら話にならないに、クローゼは至る。


 その意のまま専用の魔量充填(チャージ)を全て使い叫びを周りに向けた。


「俺が押さえる。一旦距離を取って体制を立て直せ!」


 一瞬の持ち直し、 言葉のあや、レイナードに送る視線に戻り来るカレンとイグシード。

 その流れに、罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)の映し出される表情は、先ほどまでの神々しいさは無かった。


  罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)の魔力魔量を推し量るのは彼らに出来る筈もないが、獄神である。押し付けられた神の言葉に、クローゼの指示が「逃げろ」であるに至るのは容易い。


 しかし、コロッセオの様相の中心を見る、その真上にある禍々しくなった表情を見ても、逃げる者はいなかった。


「と言うか、カレンは逃げろよ……俺がもうヤバい所だ。後――」

「――何処に、『逃げろ』と言うのだ?」

「あー、お前が駄目なら駄目だろ」


 カレンとレイナードに呆れる顔をしたクローゼは、「制御」という点でギリギリだった。


「じゃあ、俺が叩き斬ってやる」

「ただの魔力だ……それに……その内消える……」


 イグシードの自信満々な表情に、「神具の欠片(コア)でもあればな……」とクローゼは、苦笑いを返すのがやっとの様である。


 ――魔動術式で抑え込むに、守護者の纏う魔力以上に、自身の溢れていた有限な魔力を注ぎ込んでいた。

 その上で、相対的にギリギリで、罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)が消える、であろう時すら分からない。

 更に言えば、既に『もっと力を……我に力を……』と自身か定かでない声すら、内側から聞こえて来ていた――


「じゃあ、俺の魔力を吸え」

「今は展開する余裕はない」


「だったら、私達の……ロック? を外しては……」

「それは、絶対駄目だ。強化したからいなくてもある程度は有効だから……」


 言葉の途中で、クローゼはレイナードを見る。「いなくても」に反応したカレンは難しい顔をした。


魔斬の流槍(ニグレイドル)で俺を刺せ」

「クローゼ! 何を言っている……」


 カレンの驚きの声をレイナード平然と見ていた。


「ああ、そうか」

「察しが良くて助かる。抵抗が激しい、それに自身喰われるのも勘弁してほしいからな」


 レイナードは流す仕草で魔斬の流槍(ニグレイドル)を振り、彼と会話をしている様であった。


「やれるらしい……動くなよやばい所ギリギリで行くからな」

「ああ、頼む。なるべく痛く無いような」


「そんなん無理だろ。その黒い槍、神具の槍だよな。俺なら絶対やだね。……大丈夫なのか」


 イグシードは二人の会話を「馬鹿なのか」と思っていた。しかし、二人共に真剣である。


 根拠は、ミールレスと先ほどの獄神の具現にガイアザークと魔斬の流槍(ニグレイドル)は恐らく相当の魔力を貯めている筈だった。


 ――始めにクローゼの命を奪った後、彼の命を戻して、黒瀬武尊(クロセタケル)を呼び込む迄をやった程である――


「やばい早く頼む」


 ある種の切り札。行き当たりばったり……ではないが、賭けではある。

 当たり前に貫く激痛が、クローゼの背中を襲う。ただ、魔斬の流槍(ニグレイドル)か注ぎ込む魔力も感じていた。


 それが、ガイアザークの一段上げるより一瞬先になり、抵抗を抑え込む。そんな、僅かな差がガイアザークを益々苛立たせた。


「忌々しい。保つ以上に出来ぬとは……あれが至極の意で理なのは違い無いのか。だが、このままアーロラウムの思い通りにはさせぬ」


 羽虫以下の最下層な存在に、ガイアザークは現状で最大の力を見せる。留まれるのが、後僅かなのを感じてだった。

 それをクローゼは、一身に受けている。


 ――くっそ、早く帰れって、いや、消えろよ。


 上がり行くガイアザークの魔力に、クローゼは、渡された魔力をも食い潰すのを感じていた。既に、ニグレイドルは出せる全てを渡し、レイナードの手の中にある。


 ただ、光景は静止だった。


 当然に、魔力が渦巻く濃縮な空間に「ゴーゴー」と音は有る。クローゼの必死に抗う感じが緊迫感を出していたが、行き着いた先の光景は「静止画」だった……


 ――静止の中心のクローゼが、上空を見上げ仁王立ちで両方の拳を握りしめ、目を閉じて集中し奮える様である――


 ……双翼神乃楯(イージス)の発動が連続なのかと彼に思える程、要求する魔力は絶え間なくクローゼ圧迫する。アンカーとなる魔力魔量はすり減るばかりだった。

 そして、更には内なるからの声も沸き出て、双方がクローゼの精神を蝕んで行く。


 ――もう、何と戦っているのかも分からない。相手なのか、自分自身なのか。……いや、声は違うな。……そんな気がする。


 混濁に落ちるかの最中に、異なる音をクローゼは感じる。それが、明確声になった。


『……本来なら、我がであった。至極神の神意に割り込むなど……最早、お前は消えろ、クロセよ』


『やはりそういう事か……アーロラウムも全智全解を統べれる訳では無いのだな』

罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)……いや、ガイアザーク。愚かな振る舞いが潰えたお前は、最深層に帰せ』

『神意は成ったのだろう。ならば、己も同様だが。魔動を司る顕現の・(マーギュリム)。……いや、マーギュリム』


 双方共に割り込む様な内なる声が、クローゼに届く。


『ガイアザーク。ここまで勝手が出来たのも、特殊で異質なこれがあった故だ。だが、それでも全ては至極神の神意』

『見苦しいぞ、マーギュリム。実体は魅惑的であろう。所詮お前も――』


 勝手な音の交流をクローゼは甘受していたが、額から通される真力に意識の鮮明を取り戻した。


「ふざけんな!」―― 人の頭の中で訳の分からん事を勝手に話すな……怒りの思考が漏れて、開き落とした視線にはセレスタの顔があった。


「クローゼ、大丈夫?」

「セレスタ……あぶっ」


 セレスタがあてがった手に声を遮られる。背中には槍傷に魔力を通すアリッサがあり、レニエが肩に手を懸けて自身と恵風の精霊(シルク)の魔力をクローゼに注いでいた。


「みんな……」


「 世話が妬ける男だ。……獄神、罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)様に逆らうなど有り得ぬが、今はお前の奴隷だ、仕方ない。セレスタ、しっかり導け、こやつの中の欠片に集中するのだぞ」


  淫靡なる夢獄(ウルジェラ)の中に、クローゼが貯め込んだ「神具の欠片」が幾つも魔力に変わり消滅する。三人がクローゼに触れる光景で、彼の魔力は三度目の弾けをみせる。


 それで、あからさまに光景が変わる。僅かではあるがガイアザークの刻はあった。ただ、その光の様な魔力の流れは、渦巻く表情を縮小させていった。


 一瞬、ガイアザークは悪意を出そうとした。しかし、思い直し別の意味で意を放つ。


「抗うが良いぞ。……覚えておいてやる。特殊で異質な者よ」


 それと共に、クローゼの「どうでも良いぞ」な叫びが起こり、ガイアザークの表情は・に集約されて消えていった。

 そして、空間に渦巻く魔力は集束に向かい、辺りに明るさと静寂の兆しが起こる。


 中心の場景で、クローゼは自身を確かめる様に意識を向ける。


 ――まだ……俺か?……俺に俺って聞くのもあれだけどな。いや、もしかしたらもう喰われてるかも。だけど、そんなに違和感は……って。

 俺って誰だ?

 クローゼか? クロセタケルなのか? クローゼのクロセか? クロセでクローゼなのか?


「元々誰だよ……俺って」……先ほどまでは彼だった。そして、今も彼は彼だった。


「貴方は、私のクローゼ……」

「全部聞こえてたから、いつもクローゼね」

「もう、全部まとめて貴方はクローゼです。私達の……私の」


 四人の状況に、呆れる雰囲気が周囲流れ、クローゼは辛うじて守護者を制する魔力魔量を自身に残した。

 一応に獄神を退けた形に、集まる者らに安堵が見えた所で、ミラナ・クライフがエスターナを抜いた。


「魔王!」


 一瞬で声の先に視線が集まる。そこには、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)は既に無く、元々の装備も身体もボロボロな、オルゼクスの立ち上がる姿があった。


「ヴァンダリアよ……決着を……お前の……」


 龍極剣の守護者の眼前。そこにある魔王は既に寸前であった。ミラナは握る剣に力を込めた辺りで、クローゼの声を聞く。


「ミラナ、すまない。譲ってくれ」

「クローゼ……殿」


 龍極剣エスターを手に立つクローゼに、ミラナは握る力を緩める。そして、出された左手に彼女はクローゼの表情を見直した。


「『最後はミラナかも』と前に言った通りになったけれど譲ってほしい。……それと片手剣だと調子か悪い……」


 驚きから変わり、返される彼女の笑顔に、クローゼは双剣と相当に龍極剣を構える。恐らくは対。共鳴と輝きが美しさ見せていた。

 蛇足かと思われるが、簡単な会話の後クローゼはオルゼクスを見据えて呼吸を整える。


「魔王オルゼクス! ニナ=マーリット・フィーナ・イースティア王女の名において、王国に破壊と恐怖を振り撒いた貴様を倒す。覚悟しろ」


「……相変わらずの男だな。構わぬ……殺れ」

「ああ、言われるまでもない」


 踏み出す足が、ある意味綴られる物語の終いの頁の一つに繋がって行った。

 些か茶番劇であるかも知れないが、クローゼの目的は「それなりに」は成されたと言える……






 ……閉じた綴りに落とした意識に、後ろから大きなものか当てられた。


『至極神!?』

『良く気が付いたな……誉めておこう』

『いっ、あの、えっ』


『喜ばしい事に神意は成った。……特異はあるが後は経過か……と言う所か?』


 ……そう言われてもである。



後はエピローグに……。

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