二十五~双翼神乃楯……終幕~
「――それでも魔王か」 ……続くクローゼの叫びに、投げつけた言葉と抜き払うが重なる。
引き抜かれた勢いで、フリーダは舞う様にクローゼと視線を合わせて倒れて行く。
光景を見る視界には、神とは思えぬ罪悪を御す煉獄の・の表情がはっきりとクローゼに見えた。
その刹那、クローゼは瞬発で罪悪を御す煉獄の・の眼前に切っ先を向ける。抱えたフリーダの軽さに、舌打ちをして起動の言葉を発していた。
――ふざけるな……の感情が何であるか、クローゼは分からない。
ただ、何とも言えない感情で放った竜硬弾を余裕な罪悪を御す煉獄の・は、仰け反る様にかわして、続く魔力に飛ばされていった。
恐らく、クローゼにも光景に音が聞こえている。しかし、意識が抱き止めた相手に落ちていた。
「フリーダ!」
「二度目も存外心地好い」
「消えそうだぞ」
フリーダは、復活の繋ぎになっていた神具の欠片を貫かれ、存在そのものが消えようとしていた。
「そうあるな……」
「吸血鬼だろ、何とかしろ」
「……ならぬ事もある」
……フリーダは、抱かれる胸に軽くなる身体を預けて見上げる。クローゼを見る彼女の表情は安らかで、その眼差しは優しかった。
そして、フリーダは耳元に囁きを向けて、「……魔王様を」と最後に言葉を残し、紫色の色彩で霧の様にクローゼの腕から消えていった。
呆然の雰囲気で、クローゼは自らの腕の軽さを感じていく。
一瞬の間で、上げた視線の先には罪悪を御す煉獄の・が肩に食い込んだ剣先を捨て、関節が有らぬ方向に曲がり「背中の障り」を取り出し投げる姿があった。
瞳を落として、もう一度自身の手を見たクローゼの思考が起こる。
――ああ、独占したかったのはそれか。子供かよ俺……くっそ。
勿論、フリーダが母親ではない。ただ、特別な感覚の答えがそうなのだとクローゼは思い立った。
「魔王……」
呟きに更に剣を抜き、怒りの表情を罪悪を御す煉獄の・に向ける。同調の認識が罪悪を御す煉獄の・を魔王と定義した……。
コロッセオの様なクレーターの中心で、吹き飛ばした先の相手にクローゼは瞬発で瞬間を越える。
走らせる双剣が罪悪を御す煉獄の・を襲い神具の剣と強震する。
すり鉢状の空間に衝撃音が共鳴し、クローゼの連続剣が獄神の剣と音の連鎖を作り出した。
双剣がクローゼの膨らんだ魔力で、神の具現の領域に届く鋭さを魅せた。神と人の織り成す領域の剣劇が、その場に視線注ぐ者達の動きを止めている。
「オルゼクス! 自分がやった事の報いを受けろ」
「最下層の塵ごときが、小賢しい!」
「塵に押されるお前はそれ以下だぞ」
器は同等、有限な魔力魔量は溢れる程のクローゼが勝り、無尽蔵をみせる魔力の供給で罪悪を御す煉獄の・がオルゼクスの肢体で受け止める。
――実体の限界がそこにはあった――
魔力を通した剣が衝撃で空気を揺らし、ひらめくコートの黒は、極光に反射して金銀の色を奏でて行く。
六楯が煌めきと輝きを魅せる……完全無欠のノープランである。
「黙れ、我は――」
「――うるせぇ、お前こそ黙れ」
「塵が、獄神たるに我に暴言を吐くなど、恐れを知れ」
奮われる獄神ガイアザークの声が、明確にクローゼに向けられていた。
――絶望から引き上げられた、支える力を無にするクローゼの飛び出し。
ただ、叩き付けるクローゼの力業が、ガイアザークを彼の舞台に引き下ろしていた――
「獄神? だからどうした――」
クローゼは唸る剣筋に、空間防護と魔動妨害織り交ぜ、叩き付ける衝撃を外皮と化した龍装甲天獄を突き通すイメージをする。
しかし、激しく突き放されるガイアザークの肢体が、弾けるのに抵抗をみせる。
衝撃の反発は双方向に向いて、空間を両者に見せていた。離れる距離にガイアザークの表情が微かに緩む。
「なるほど、そういう事かアーロラウム!」
「くっそ、何言ってる?」
「自覚は無いのか、まあ良い。……それはそうと勢いが無くなって来たぞ塵」
激闘は僅かだが、クローゼは減り行く魔力魔量を感じていた。そして、距離が冷静さをもたらして、現実を直視させていく。
――熱くなり過ぎたか。あれか、力が同じなら魔力魔量が多い方が強い……か。獄神がどうとか言うが、あいつの魔量は減ってる感じがしない……えっ、はぁ?
「お前、獄神ってあれか?」
「塵が、我を誰だと思って向かってきている」
「魔王だろ。大体、俺が先に聞いたんだ。質問に質問で返すな、ク◯野郎!」
ガイアザークに、激昂の表情を作らせた煽る流れ。にやけた半笑いの表情が、更に怒りを助長した。
それが、ガイアザークの魔力発動を誘発する。
合わせたのは、魔量吸収。展開する魔方陣が、獄神の魔力を吸収した。
「うぉっ、ぐふっ」――ヤバい、想像以上だ。でも、これなら来ても良いぞ。……視界に感じた動きにクローゼは『敢えて』を踏んだ。
駆け巡り合わさる高質な魔力に、クローゼの身体が悲鳴を上げる。ただ、垂れる鼻血をぬぐいながら、全力でガイアザークの意識引き寄せる。
「見たか? これでまた元通りだ。何度目だ忘れるなよ、この塵野郎」
煽る言葉に、ガイアザークは一瞬で距離を詰めて手に持つ剣を振り上げる。その眼はクローゼの身体で満ちていた。
その瞬間、デュールヴァルドの一閃がガイアザークの右脇を斬り裂く。
――「二度目の躊躇は無い」と獄神の意識の外から、真紅乃剱の全力で最速な渾身の一擊だった――
「ぐふっ、小賢しい塵が――」
一閃に意識を取られたガイアザークは、反射的にクローゼを置き去りにして、剣の軌道を変え半身を返す。そして、勢いのまま振り抜けるカレンに、剣身から魔力の波動を放っていく。
煌めきの盾魔方陣の反射が、カレンを包んだ。
衝撃が弾けて破裂音を出す。それで、彼女は声を押し殺し、勢いのままに飛ばされていく。
だが、クローゼは確信で見送り、カレンとガイアザークとの間に硬化機動楯で地面から突き出す盾を作り出し、展開する遠隔の盾を並べた。
「なっ!」の声と驚きがガイアザークに現れて、クローゼに向き直した意識が、自身の左脇に受けた衝撃に落ちる。
そこには、魔斬の流槍の突き刺さる姿があった。
――「まあ、行くだろ」のレイナードが、渾身の投てきで狙い、魔斬の流槍自身が周囲の魔力を取り込み加速し『あの黒い槍の姿』に変容して、高速な衝撃的威力を作り出していた――
「ぐっ、なっ、おのれ――」
具現の反射的な発揮で、黒い鋭利が複数打ち出され、投げおろしたレイナードを襲う。
しかし、クローゼ六楯の魔力とレイナードの剣捌きで明確な痛手にはならなかった。
――既に、ガイアザークの意識は、クローゼの舞台に引きずり出されていた。所々が邪魔をして、反応が不足なのも手伝い、依り代のオルゼクスの身体をもて余している様にも見える――
揺さぶられるガイアザークが、もて余すを著実にした。そして、上がるクローゼの口角。
距離と呼べない程の間合いから潜り込み、剣心と槍心の一閃に追撃する。
この間僅かで一息に、ガイアザークの右脇に自身の剣を刺し、魔斬の流槍の石突に遠隔の盾を作り叩き付けていく。
――当然に放つ、内部で砕けた竜硬弾。「起動」に乗せた魔力が内部を衝撃で揺らし、魔斬の流槍が、獄神から供給される魔力を更に、奪い突き抜ける――
恐らくは、鮮血がガイアザークの口から「ぐはぁっ」の音と共に出ていた。
クローゼは、カレンが視線を向けるのを感じ、左手の剣を置き去りに旋回する。そして、「あの槍」感じを引き抜きレイナードに投げ返す。
「いいぞ。任せた」
クローゼは、崩れを見せるガイアザークに背を向けて呟き、妙な確信を持ち歩きだした。すぐ横をラルフの全力の一矢が抜けた瞬間にである。
彼の視界には、突きたった矢に押され下がるガイアザーク。そして、ライラが届けた「潔さの男気」の双頭の極斧を振り下ろすイグシードの姿があった。
――行っただろう。流石に……過信なのか、呟きにも似た思考。積み重ねが、ガイアザークに刻みをもたらして、獄神の具現は人智にある姿を崩していた。
そして、クローゼは衝撃音を聞く。イグシードの覇気に、怒号と呻きが続く。それが、終幕の感じをクローゼにもたらした……
……コロッセオの様なクレーターの中心から、クローゼは上に向かい歩いている。その最中に、イグシードが飛び退く様子が入った。
「何だよ突然!」とイグシードの驚きに、クローゼも悪寒が走るのがわかった。
行く先の二人の視線にも促され、クローゼは振り返る。……そこには、口を大きく開けて上を向き、光の柱を放つガイアザークの姿があった。
「何だ?」と続く追いかける視線が、上空に渦巻く魔力の渦に顔を映し出していた。
獄神 罪悪を御す煉獄の・である。
その表情は、獄神の実体のままであった。
「至極神 天界を司る起源の・よ。此度は退く……何れまた――」
「――黙れ、何言ってんだ!」
上空に向けた獄神の声に、クローゼの怒号と剣先が向けられた。そこに獄炎の魔力が伸びて、クローゼの術式を越えて剣身を燃やし尽くす勢いを見せる。
刹那で捨て去る剣が、クローゼに上空の獄神を刻んでいく。……大方は絶句、クローゼも無言である。
「我が名は罪悪を御す煉獄の・。黙るのはお前の方だ。外皮に囚われなければ最下層ごとき、如何に、至極神の戯れな『勇者に魔王』なれど……。
誤算はままにだったが、獄神の意に仇成した褒美に、お前に関わったもの全て消し去ってから戻る事にしてやる」
依り代を捨て抜け出した魔力が、一時的な罪悪を御す煉獄の・六体の投影を見せて、繋がる先の魔力の強大さを示していた。
――獄神ってあれだよな……『消す』ってどうするんだ? まあ、いきなりやられるよりはましだったのか。 そんな事よりどうする、考えろ、俺。
兎に角、守るんだろうが。
……神の余裕なのか、引きずり出した舞台が故かガイアザークは宣言をした。
思考する間が出来てクローゼ頭を回し、その最中に同調したかの共鳴の声がする。
『獄神が、この場に保てなくなるまで、何もさせねば良い。我を止めた程の力だ。今程なら或いはだ……』
明らかに外側から、頭の中に直接的にである。ただ、クローゼの結論もそうであった。考えるまでも無く、魔力の流れを止めるだった。
「ああ、言われるまでもない。双翼神乃楯――起動だ」
胸当ての位置に具現化する双翼の盾。絶対的――直接的な――範囲内防御力と神をも拘束する、六楯最強の魔動術式。
ベイカーの「神でも倒すのか?」と彼の知識が知の守護者に誘われ出来た物。実際に、その力が神を捉える事が出来るのか試す場にはなった……
――命懸けである。守る命も懸けさせてだった――
……投げつけるでは無く、自身に繋ぎ止めるイメージを 獄神 罪悪を御す煉獄の・に向けた。
上空のうねりが鈍化して、徐々に止まる。流石に一瞬の拘束とはいかなかった。
ただ、クローゼは尋常でない感覚で罪悪を御す煉獄の・を……いやその一部の具現を捉えて魅せる。
それは、紙一重で罪悪を御す煉獄の・が「消す」に至る所でだった。
「なっ、何?」
「依り代無しでの具現は辛いだろ。消えるまで大人しくしてろ」
大きく抜ける声が、一瞬、舞台に戻ったかのガイアザークに、余裕の雰囲気を向けていた。但し、出したクローゼにはそんなものは無かった。
クローゼは、術式に通して流す魔力で、魔力が目減りするのを実感する。そして、眷属神なら無理だった魔力のみの具現化を見せる、獄神に考えを向けていた。
――限界迄なら行けるのか? ……いや、総量の問題じゃなく流す量か。もっとだ、もっと魔力を全力でだ……限界なんか考える余裕はない。
本当の意味での神の拘束である。
現実が既に範疇を越えていた。しかし、現状双翼神の楯は……クローゼは成している。
そして、足らないのはどちらもだが、消えるまでに破られたら話にならないに、クローゼは至る。
その意のまま専用の魔量充填を全て使い叫びを周りに向けた。
「俺が押さえる。一旦距離を取って体制を立て直せ!」
一瞬の持ち直し、 言葉のあや、レイナードに送る視線に戻り来るカレンとイグシード。
その流れに、罪悪を御す煉獄の・の映し出される表情は、先ほどまでの神々しいさは無かった。
罪悪を御す煉獄の・の魔力魔量を推し量るのは彼らに出来る筈もないが、獄神である。押し付けられた神の言葉に、クローゼの指示が「逃げろ」であるに至るのは容易い。
しかし、コロッセオの様相の中心を見る、その真上にある禍々しくなった表情を見ても、逃げる者はいなかった。
「と言うか、カレンは逃げろよ……俺がもうヤバい所だ。後――」
「――何処に、『逃げろ』と言うのだ?」
「あー、お前が駄目なら駄目だろ」
カレンとレイナードに呆れる顔をしたクローゼは、「制御」という点でギリギリだった。
「じゃあ、俺が叩き斬ってやる」
「ただの魔力だ……それに……その内消える……」
イグシードの自信満々な表情に、「神具の欠片でもあればな……」とクローゼは、苦笑いを返すのがやっとの様である。
――魔動術式で抑え込むに、守護者の纏う魔力以上に、自身の溢れていた有限な魔力を注ぎ込んでいた。
その上で、相対的にギリギリで、罪悪を御す煉獄の・が消える、であろう時すら分からない。
更に言えば、既に『もっと力を……我に力を……』と自身か定かでない声すら、内側から聞こえて来ていた――
「じゃあ、俺の魔力を吸え」
「今は展開する余裕はない」
「だったら、私達の……ロック? を外しては……」
「それは、絶対駄目だ。強化したからいなくてもある程度は有効だから……」
言葉の途中で、クローゼはレイナードを見る。「いなくても」に反応したカレンは難しい顔をした。
「魔斬の流槍で俺を刺せ」
「クローゼ! 何を言っている……」
カレンの驚きの声をレイナード平然と見ていた。
「ああ、そうか」
「察しが良くて助かる。抵抗が激しい、それに自身喰われるのも勘弁してほしいからな」
レイナードは流す仕草で魔斬の流槍を振り、彼と会話をしている様であった。
「やれるらしい……動くなよやばい所ギリギリで行くからな」
「ああ、頼む。なるべく痛く無いような」
「そんなん無理だろ。その黒い槍、神具の槍だよな。俺なら絶対やだね。……大丈夫なのか」
イグシードは二人の会話を「馬鹿なのか」と思っていた。しかし、二人共に真剣である。
根拠は、ミールレスと先ほどの獄神の具現にガイアザークと魔斬の流槍は恐らく相当の魔力を貯めている筈だった。
――始めにクローゼの命を奪った後、彼の命を戻して、黒瀬武尊を呼び込む迄をやった程である――
「やばい早く頼む」
ある種の切り札。行き当たりばったり……ではないが、賭けではある。
当たり前に貫く激痛が、クローゼの背中を襲う。ただ、魔斬の流槍か注ぎ込む魔力も感じていた。
それが、ガイアザークの一段上げるより一瞬先になり、抵抗を抑え込む。そんな、僅かな差がガイアザークを益々苛立たせた。
「忌々しい。保つ以上に出来ぬとは……あれが至極の意で理なのは違い無いのか。だが、このままアーロラウムの思い通りにはさせぬ」
羽虫以下の最下層な存在に、ガイアザークは現状で最大の力を見せる。留まれるのが、後僅かなのを感じてだった。
それをクローゼは、一身に受けている。
――くっそ、早く帰れって、いや、消えろよ。
上がり行くガイアザークの魔力に、クローゼは、渡された魔力をも食い潰すのを感じていた。既に、ニグレイドルは出せる全てを渡し、レイナードの手の中にある。
ただ、光景は静止だった。
当然に、魔力が渦巻く濃縮な空間に「ゴーゴー」と音は有る。クローゼの必死に抗う感じが緊迫感を出していたが、行き着いた先の光景は「静止画」だった……
――静止の中心のクローゼが、上空を見上げ仁王立ちで両方の拳を握りしめ、目を閉じて集中し奮える様である――
……双翼神乃楯の発動が連続なのかと彼に思える程、要求する魔力は絶え間なくクローゼ圧迫する。アンカーとなる魔力魔量はすり減るばかりだった。
そして、更には内なるからの声も沸き出て、双方がクローゼの精神を蝕んで行く。
――もう、何と戦っているのかも分からない。相手なのか、自分自身なのか。……いや、声は違うな。……そんな気がする。
混濁に落ちるかの最中に、異なる音をクローゼは感じる。それが、明確声になった。
『……本来なら、我がであった。至極神の神意に割り込むなど……最早、お前は消えろ、クロセよ』
『やはりそういう事か……アーロラウムも全智全解を統べれる訳では無いのだな』
『罪悪を御す煉獄の・……いや、ガイアザーク。愚かな振る舞いが潰えたお前は、最深層に帰せ』
『神意は成ったのだろう。ならば、己も同様だが。魔動を司る顕現の・。……いや、マーギュリム』
双方共に割り込む様な内なる声が、クローゼに届く。
『ガイアザーク。ここまで勝手が出来たのも、特殊で異質なこれがあった故だ。だが、それでも全ては至極神の神意』
『見苦しいぞ、マーギュリム。実体は魅惑的であろう。所詮お前も――』
勝手な音の交流をクローゼは甘受していたが、額から通される真力に意識の鮮明を取り戻した。
「ふざけんな!」―― 人の頭の中で訳の分からん事を勝手に話すな……怒りの思考が漏れて、開き落とした視線にはセレスタの顔があった。
「クローゼ、大丈夫?」
「セレスタ……あぶっ」
セレスタがあてがった手に声を遮られる。背中には槍傷に魔力を通すアリッサがあり、レニエが肩に手を懸けて自身と恵風の精霊の魔力をクローゼに注いでいた。
「みんな……」
「 世話が妬ける男だ。……獄神、罪悪を御す煉獄の・様に逆らうなど有り得ぬが、今はお前の奴隷だ、仕方ない。セレスタ、しっかり導け、こやつの中の欠片に集中するのだぞ」
淫靡なる夢獄の中に、クローゼが貯め込んだ「神具の欠片」が幾つも魔力に変わり消滅する。三人がクローゼに触れる光景で、彼の魔力は三度目の弾けをみせる。
それで、あからさまに光景が変わる。僅かではあるがガイアザークの刻はあった。ただ、その光の様な魔力の流れは、渦巻く表情を縮小させていった。
一瞬、ガイアザークは悪意を出そうとした。しかし、思い直し別の意味で意を放つ。
「抗うが良いぞ。……覚えておいてやる。特殊で異質な者よ」
それと共に、クローゼの「どうでも良いぞ」な叫びが起こり、ガイアザークの表情は・に集約されて消えていった。
そして、空間に渦巻く魔力は集束に向かい、辺りに明るさと静寂の兆しが起こる。
中心の場景で、クローゼは自身を確かめる様に意識を向ける。
――まだ……俺か?……俺に俺って聞くのもあれだけどな。いや、もしかしたらもう喰われてるかも。だけど、そんなに違和感は……って。
俺って誰だ?
クローゼか? クロセタケルなのか? クローゼのクロセか? クロセでクローゼなのか?
「元々誰だよ……俺って」……先ほどまでは彼だった。そして、今も彼は彼だった。
「貴方は、私のクローゼ……」
「全部聞こえてたから、いつもクローゼね」
「もう、全部まとめて貴方はクローゼです。私達の……私の」
四人の状況に、呆れる雰囲気が周囲流れ、クローゼは辛うじて守護者を制する魔力魔量を自身に残した。
一応に獄神を退けた形に、集まる者らに安堵が見えた所で、ミラナ・クライフがエスターナを抜いた。
「魔王!」
一瞬で声の先に視線が集まる。そこには、龍装甲天獄は既に無く、元々の装備も身体もボロボロな、オルゼクスの立ち上がる姿があった。
「ヴァンダリアよ……決着を……お前の……」
龍極剣の守護者の眼前。そこにある魔王は既に寸前であった。ミラナは握る剣に力を込めた辺りで、クローゼの声を聞く。
「ミラナ、すまない。譲ってくれ」
「クローゼ……殿」
龍極剣エスターを手に立つクローゼに、ミラナは握る力を緩める。そして、出された左手に彼女はクローゼの表情を見直した。
「『最後はミラナかも』と前に言った通りになったけれど譲ってほしい。……それと片手剣だと調子か悪い……」
驚きから変わり、返される彼女の笑顔に、クローゼは双剣と相当に龍極剣を構える。恐らくは対。共鳴と輝きが美しさ見せていた。
蛇足かと思われるが、簡単な会話の後クローゼはオルゼクスを見据えて呼吸を整える。
「魔王オルゼクス! ニナ=マーリット・フィーナ・イースティア王女の名において、王国に破壊と恐怖を振り撒いた貴様を倒す。覚悟しろ」
「……相変わらずの男だな。構わぬ……殺れ」
「ああ、言われるまでもない」
踏み出す足が、ある意味綴られる物語の終いの頁の一つに繋がって行った。
些か茶番劇であるかも知れないが、クローゼの目的は「それなりに」は成されたと言える……
……閉じた綴りに落とした意識に、後ろから大きなものか当てられた。
『至極神!?』
『良く気が付いたな……誉めておこう』
『いっ、あの、えっ』
『喜ばしい事に神意は成った。……特異はあるが後は経過か……と言う所か?』
……そう言われてもである。
後はエピローグに……。




