表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第六章 王国の盾は双翼の楯
171/204

二十四~派生の力と集う者……第四幕~

 クローゼが覚悟を決める前に、セレスタの真力で輝いた場所では、クローゼの剣となっていた三者が苦痛から解放されていた。

 オルゼクスの変容から、決死の連なる流れで、三者のある豹変した大地には静寂が見える。


 回復に向かった人智最高峰の二人が、生に留まれたのは、龍装神具の「剣心と槍心」の故になる。


 ただ、この場にいないユーインとドリーンの負けず嫌いな「切磋琢磨」が多大な貢献をした。 恐らく最悪の状況で「突き破られない繊維」が最善を出したのである。

 その為、打撃で動け無くなってはいたが、致命的な結果には至らなかった。


 ――奇しくも二人とも、ミールレスの為に、着なれた黒の六楯(クロージユ)から最新型の黒の六楯(クロージユ)に変わっていた。

  各々が王国製とヴァンダリア製である。

 ヘルミーネが拘ったのは、カレンが身に着けていた事がある黒の六楯(クロージュ)が故にだった――


 カレンは、自身が回復するのを感じて、激しい流れを無為に見上げていた空に別れを告げる。そして立ち上がり、デュールヴァルドに感謝を向けた。

 その最中に彼女は嘶きを聞く。


 それは、凪ぎ払う様に外される「黒い鋭利の杭」で黒千が上げた物だった。黒千もまた人智の者として真力の恩恵を受けてはいた。


 カレンが嘶きに向いた先では、続く仕草でレイナードが胴衣装甲(ベスト)衣装甲(ウエア)を払いながら、さして遠くない距離で彼女に気が付いた様であった。


 二人が視線を交わした場は、窪んだ場所で無数の杭が膝丈の隔てを作っていた。その為、周りの状況が彼らに把握は難しかったと言える。


 自身を襲った杭を当然に、魔斬の流槍(ニグレイドル)で払いながら進むレイナードが、カレンにばつの悪そうな顔をする。要するに「やられた」感を出していた。


「流石に捌けんな」

「ああ、そう思う……」

「あーあれだ、次は考える」

「ふふっ、ああ、考えよう」


 黒千の鼻息がレイナードに向かい、彼は顔背けていた。それに、笑みを見せるカレンが大事な事に気が付く。


「……あっ! 勇者殿は何処に?」

「そこに寝てる」

「そこに…… 生きているのか?」


 見るからに、突き立つ景色に同化し横たわるイグシード。カレンは、促しで視認し言葉を投げていた。


「ああ、生きてる。俺も龍装甲天獄(あいつ)位は硬くなったらしい……」


 彼の半身竜人の様相が、 至極神 天界を司る起源の・(アーロラウム)の意ならば、ブロスの「予見」の話は正しいのかも知れない。


「ならば立たれよ」

「ちょっと待て、良い話声が聞こえた。ただ、ヤバかったぞ。あいつ、終わる所だった……」

「何と無くの状況は感じていた」


 フリートヘルムの決死の行動で、時計回りに戦いの場が動いていた。衝撃や破片が彼らに過程を感じさせており、一応の状況認識を共有する。


 既に、クローゼの雰囲気を変えた叫びが聞こえていた。その上で追従するのに、カレンは勇者を気にしたのだった。

 勿論、デュールヴァルドは奮い立っていた。その為か、過信では無いがカレンも不安な様子はない。


 それにレイナードの魔斬の流槍(ニグレイドル)も、俄然やる気を見せていた。……魔斬の流槍(ニグレイドル)は、本物の同類な「黒い鋭利」を模造と侮蔑している。


 恐らく「龍装神具の暴走」の懸念は、この当たりも含まれるのだろう……剣心も槍心も、今の「奮う者」を気に入ってはいたが……。


 そして、何と無く聞こえたクローゼの言葉でイグシードは諦める。ままに、無表情な感じで突き立っていた無数の黒い鋭利を払った。


「……聞けたら、突き抜けれそうだったのにな」

「何の事ですか?」


 カレンも足元を払いながら近付いて、手を差し伸べていた。それに肘を着きながら、イグシードも手を返していく。


「何でも――」のイグシード声に、ライラの言葉が乗った。


「イグシード死んでないのだろう。ならば立て。いや、死にそうでも立て。愛してやる……だからやってみせろ!」


 大きな声に、レイナードとカレンは顔を見合わせた。それに、被さる様な衝撃音が聞こえて来る。衝撃の出所に二人は意識が向いて、掻き消されたライラ声と内容……にイグシードは飛び起きる。


「これで、相手が何だろうと今の俺は無敵だ」


 単純に嬉しさがにじみ出る雰囲気で、声の先をイグシードは瞳で追っていた。そして、あからさまに行くぞの感じを二人に向けて行った……



 ……勇者イグシードのやる気を全開にしたライラが、「愛してやる」の言葉に至ってしまったのは、吸血鬼(ヴァンパイア)である彼女達の存在が故にだろう。


 ライラを促した――煽った――彼女達は、セレスタの指示からユーリの手筈で、レイナード達を運んで来た転位型魔動堡塁(フォートレス)にあった。


「ドワーフ、何か言うことはないのか?」


 フリーダはレグアンに、『黒い鋭利の突き刺さりを払ってやった。ここまで運んでやった』の苛立つ雰囲気を向けていた。

 ……どちらも、カルーラがしたのではある。


「お、応。……感謝なのだな」

「ふん、これだから鈍い男は好かぬのだ」


 苛立ちを向けられた彼は、正に困惑をしていた。


 また、アリッサがセレスタと通信する中で、フリーダは、オルゼクスの気配を感じれずに苛立ちを隠せないでいた。

 カルーラも困惑を見せて、嗜める仕草と努力をしている様に見える。ただ、ウルジェラの見解を聞いて、フリーダは益々な感じになる。


 しかし、苛立つ雰囲気が唐突な衝撃音で意識を削がれる事になった。それは、その場の働魔(ドーマ)以外の全ての者にも言えた……


 ……彼女達は、城郭の様相の上部分に出て衝撃音の方向に意識を向ける。遅れて来たライラが通常よりも高い構造の上部に、飛び上がる様に加わった。

 そして、矢継ぎ早に「外にいたのだから」とフリーダに説明を求められていた。


「見たままあれだ」


 その為に残った訳ではないの雰囲気なライラが、指差した先には、互いの距離を見えない何かで隔て押し合う、クローゼと獄神の具現の様子があった。


 どちらが押しているかは分からないが、拮抗はしている様に見えていた。

 ただ、獄神の具現――罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)――の背中から紫色の輝きが見える。


 場景を追う者達の中でアリッサだけは、先程の通信で、紫色の光の原因が何か見当がついていた。

 それは、アレックスがレニエ――恵風の精霊(シルク)――の助けを借り、風と極限なる破壊の力(デストラクション)で包み同時に打ち込んでいた、黒滅竜水晶による。


 黒滅竜水晶は、魔斬の流槍(ニグレイドル)の性質に迫る竜硬弾程の竜水晶で、魔力に干渉して「吸収し消失」させる物だった。

 ミラナ経由で、残り二つが専用の筒に入れられセレスタの元に届けられている。


 それは、魔導技師ジャン=コラードウェルズによって作られた。単に、クローゼに向けて継続的な負けず嫌いの結果なのだろう。


 ――竜硬弾である黒竜鉱水晶が、物質的再現であるのに対して黒滅竜水晶は「只の棒」と彼が言ったあの槍だった物の性質の部分をも再現していた。


 当然に、竜鉱石の岩盤は龍装神具の残骸である。


 その為、希少な『神具の欠片』に満たないが、神の作りし物ではある。それを魔力製錬で単に『借り戻す』のではなく、少なからず変質させた黒滅竜水晶は、ある意味領域だった――


「これなら、魔王も殺せるぞ」


 最終局面に向かう中で、魔導技師がどや顔でアレックスに託した時にそう告げていた。どう使うかは「知らん」だったが、アレックスは使って見せたのである……



 ……確かに状況は最終局面に至る過程だった。そんな緊迫感の中、激突が起こる直前にクローゼは内なるに強要を向けた。自身を鼓舞し進み行く最中にである。


「術式全部を俺の思う通りに強化しろ。今のままでは駄目だ。この場だけでもいいからやれ。――お前が作ったんだろう。出来なかった死ぬだけだ」


 ――明確な独り言の上、向かう先がオルゼクス擬きの認識のまま。周りの動きや思惑と覚悟に、困惑や願いなど知らず踏み出し行く。

 その最中に、強要の上で自身を一段上げていた。

 それは、自身を絶望に落とした、黒い鋭利の先まで見据えている様であった――


 見据える刻と決意のまま「御託はいい。やれ」と言葉で更に明確を内なるに向けて、クローゼは瞬発で獄神の具現に飛び込んでいく。


 そして、周囲が聞いた激突の衝撃を奏でていた。


 続く場景は、解放した淫靡なる夢獄(ウルジェラ)の欠片に凝縮していた魔力をアンカーに、獄神の具現が発動した魔力障壁と対魔力防壁(ウォール)で拮抗を作り出し押し込んでいく。


 それが「見たままだ」の場景を作っていた。


「依り代ってなんだ、オルゼクス――」


 問い掛けたクローゼの言葉には、オルゼクスの反応は無かった。オルゼクスの意識は、既に罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)六体(りゅうたい)に飲まれている。


 しかし、飲み込んだ罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)も、異質な物に魔力を喰われて「大きな障り」を持て余し、大きく動く事が出来ていない。


 ただ、眼前のクローゼの変容には、否が応でも意識を取られでいく。……たかが、人智の人である。それが、獄神にも無視出来ない程の魔力魔量に飛躍していた。


 ――先程までと違う? 突然、魔力魔量が増えたとでも言うのか? ……これも永劫を越えた感情の戻りであったと思われる。


 獄神の見た「膨大な魔力魔量」は、始まりから続く幾重にも興亡繰り返した、濃密な魔力が漂う(いにしえ)の世界経て、淫靡なる夢獄(ウルジェラ)が神具の欠片に込めた物である。


 それが、クローゼの中で解放された様子だった。


 彼は自身の内に、魔力を凝縮した神具の欠片を入れて、自身の魔力魔量の底上げをしていた。それを弾ける様に解放して、有限的で膨大な魔力を纏うに至る。


 彼は魔王と同調する、神具の欠片に影響を受けた召喚者の子である。 その為に、驚愕の魔力を纏う事が出来た。


「……黙りか。まあ、オルゼクスかオルゼクス擬きかはもうどうでも良い。どの道行ける所までやるまでだからな」


 呟きに、獄神の具現から黒い鋭利がクローゼに向かう。刹那でそれをクローゼは受けるイメージをした。

 展開した対物衝撃盾(シールド)はそれを弾き返していく。……魔力に織り込んだ空間の物質が、魔力を無力化する黒い鋭利の性質を凌駕する。


 自身の思考に追い付いた状況で、クローゼは内なるに声に張り上げていた。


「出来るなら、回りくどく他の奴を使うなよ!」

『はっ、二度としないぞ――』


 探求せし者のらしくない言葉に、「そんな風にもなるんだな」と大きな独り言を出してカチカチと音をだす。


「二、三発なら行けるだろ。誰か知らないが、取り敢えず喰らえ!」


 行き当たりばったりな言葉に、続く起動の声であふれる魔力を乗せていく。


 ――バルサスの技量と六人と一人の魔導師の高度な術式が、踏み越えた全力の魔力の受けてその全開を魅せた――


 瞬間で竜硬弾が魔力障壁を貫き、纏う魔力が追従して獄神の具現に激突する。


 突き出した剣身は強震し、衝撃が獄神の具現を吹き飛ばし百メーグ程大地を削り土煙を上げていた。

 轟音の末に行き着いた先で、獄神の具現は静寂に至る刻を経て立ち上がる。


「チッ」


 舌打ちするクローゼの口角があがる。

 平然と立った様に見えた獄神の具現が、戦慄(わなな)く様子に映り変わって行く感じにである。


「効いてるじゃな――」

 

 更にクローゼは余裕の表情を見せた。


 彼の支配する視界には、セレスタの言葉が正しかったのをクローゼにわからせる彼らがいた。


「――やれ、イグシード!」


 クローゼの大声に乗るイグシードの剣撃が、獄神の具現が言葉を発しようとした背中に振り下ろされていた。


「くたばれ!」


 飛び掛かる斬撃で、肩口に食い込む聖導の極剣サンクタスト。衝撃で獄神の具現の肢体が、地面に食い込むかの勢いを見せる。

 ただ、剣先が食い込んだまま折れ、そのままかん高い音共に外装を削り、イグシードは着地して体勢を崩す。


「折れた!」の叫ぶイグシードと斬撃で揺らいだ獄神の具現が、僅かな間を作る。そこにクローゼの促し声がした。


「デカい方だ――」


 獄神の具現が体を返して、イグシードに斬撃を向けた腕に、クローゼの声と同時に烈風の矢が刺さる。

 そして、巻き込む様な強烈な風が飛び退くイグシードの瞬間を作り出した。


「ままにだ――」


 一角獣(ユニコーン)を駆るラルフが、クローゼの言葉の前に極烈風の精霊(ゲール)の魔力を乗せた、ガンドストラックの一矢を放っていた。


 旋回するようにラルフは一角獣(ユニコーン)を駈り、自身は獄神の具現に弓を引く。

 放たれる矢と交錯する複数の黒い鋭利がラルフを襲う。弾かれる矢と雄風の精霊(マール)の風に乗り駆け抜けるラルフの場景。


 それをクローゼの元に来た、剣と剱……いや、槍心と剣心を携える者達が見送る。そこで愛馬黒千が走り去る背を見る、レイナードから呟き漏れた。


「ああ、(はし)ければよかったのか」

「ふふっ、そう……そうすれば良かったな」


 ラルフが風を切り、獄神の具現と領域の応酬する中で、携える二人が顔を見合わせていた。

 それに、クローゼが余裕な雰囲気で怪訝な顔をする。


「何だよ、二人とも」

「ああ、あれだ、さっきの黒い奴だ」

「はあ? 何の……え、避ける話か?」


「そうだな」とレイナードの答えに、「さっきのは無理だろ」と半ば呆れた顔が続いていた。


「クローゼ、随分余裕にみえる。笑った私が言うのもおかしいかもしれないが、流石に避けるのは難しいと」

「ああ、それは乗り越えた。あらかたはロックしたし、それに……」


 カレンの笑顔から真剣に戻ったのに、クローゼは頭上を指差して見せる。

 そこには、数名の空を飛ぶ光景があった。際立つのは、精霊の王とそれなりの存在感な戦闘型魔導師の姿になる。


「凄いのが来るぞ」

「ああ、分かっている」


 クローゼのどや顔にカレンは冷静だった。勿論、彼らの前方に映るラルフ=ガンド・アールヴもだった。

 ラルフが無策で、限界に挑んでいたわけではない。単身で挑んでいる者が、おおよそ何であるかを知っていた。

 ただ、当然に父王、アルフ=ガンド・アールヴの存在を極光風の精霊(シルヴェルスト)が在るのが分かっていた。


 それは、単に感覚の問題では無く、後方の転位型魔動堡塁(フォートレス)で迎え入れたセレスタに時折確認を取り、的確で効率的なユーリの勤勉な行動によって綿密な状況共有が成されていた。


 それ……ユーリの存在があった故に、クローゼの思い通りの光景が、彼の支配する視界には映っていたのだった。


 そして、ラルフがクローゼよりも信じている、父王アルフが詠唱した精霊魔法で、巨大な極光風の精霊(シルヴェルスト)の力が場景に振り下ろされる。


 ――瞬間的な極光風の精霊(シルヴェルスト)の具現とも言うべき力が放たれる光景だった――


 渦巻く様に光風が舞って、巨大な極光風の精霊(シルヴェルスト)の様相を映しだし、重ね合わせた拳が、ラルフの牽制で留まっていた獄神の具現に叩き付けられた。


 叩き付けた勢いのままに、大地がクレーターの様に弾ける。認識のままに飛び退いた、クローゼ達まで爆裂の残骸は届きそうになっていた。

 そして、降り注ぐ間隙からイグシードがクローゼの元に、更にラルフが風陣の走破を解き馬体を寄せていた。


「凄いな。ってか、折れた!」

「いくら神の具現でも、父王の全力だ。流石に倒しただろう」


 剣をかざすイグシードにクローゼは「今それか?」の言葉と難しい顔をしていた。ラルフの言葉は些かで、一応の手応えと相応の懸念である……。



 手応えと言う点で言えば、光景を作り出したアルフ=ガンドがより一層難しい顔をしていた。上空でその様子にベイカーが思わずをだした。


「これで倒れないとは思えませんが、何か懸念がおありの様で……」

「……万全では無かった。しかし、相応の域には届いた筈。それゆえ倒せぬなら本物と言うべきだ」


 驚きの表情で、ベイカーは自身の懐にある黒い竜水晶がはめられた魔動器に意識をやった。


 ――魔王と対峙などしないと決めていたが、流石に託された可能性を無下にも出来ない。ただ、魔王ならいざ知らず、これでは死なずに使える使えないの以前の問題だな。


 ベイカーは若干の思考に続いて、収まる場景に視線を戻していく。そこには、懸念通り原型をとどめたままの獄神の具現があった。


 動きは鈍く、無傷ではないが……ではある。


「魔導師殿、とどめを」

「私がですか?」

「魔術も相当だと私は思う。仮に駄目だとて下にいる彼らの助けにはなる。それとすまないが、魔力を使い過ぎた様だ。保つのがやっとで……」


 アルフの言葉と纏う風の乱れに、ベイカーは察して手で促しをする。そして、随行させた自身の飛行魔導兵に彼を託して下がらせた。


 その一連から彼は呼吸を整えて、眼下の光景を確認した。


 ――彼の後方には乗って来た転位型魔動堡塁(フォートレス)が支援の一基を中心に複数固まっいた。真下辺りにも一基あるが、遅れてきたベイカーには意図は分からない。

 そして、前方に個別の認識は色合いな存在感を出すクローゼ達の一団があった――


「渡しに行くべきか……まあ、魔王用だからな。兎に角やっておくか」


 独り言の後に放ったのは、当然極限なる破壊の力(デストラクション)である。「それしか使えない」訳ではない。当たり前に多種多様の術式を彼は使う。

 ただ、予断なしの全力なら選択肢は一つだった。


 ――貫く・では無く、叩き付ける球体が獄神の具現に届いていた――


 彼の師であるマリオン・アーウィン大魔導師が、『(いにしえ)の魔法』を魔動術式に転換し残した遺産である。


 それが、先程を繰り返す様な場景を作った。


 正統に受け継いだ者の「力」がと言うよりも、戦いで撒き散らされた魔力が渦を巻く様に濃密な空間によって、文字通り、獄神の具現に叩き付ける極限の破壊的威力を見せていた……



 ……後方に下がる術者本人が、引くような衝撃をクローゼ達は見る事になる。

 ただ、それでも獄神の具現は、原型をとどめていた。それをどう見るかは各々になるが、衝撃の連鎖には、クローゼも口角を上げていく。


「凄いな、兎に角もう少し近くで確認するぞ」

「剣が折れたんだが」

「じゃあ、殴れよ。……嫌なら来るな」


 イグシードの嫌な顔に、クローゼは声を投げていた。そのまま、不貞腐れる雰囲気の勇者を置いて、当初の「対魔王戦術」である二刀流な二人を伴ってクレーターの縁まで進んでいく。


 中心には、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)が変質した外装は健在であるが、霧の様に色つく魔力を身体から放出する、獄神の具現があった。

 見たままなら、片手と片膝を着き項垂れる様相で、所々傷跡があり、動きは僅かでぎこちない雰囲気である。


 ――単純に、度重なる衝撃が、依り代であるオルゼクスに影響を与えた事が大きいと思われる――


「行けそうだな。やれるか?」

「槍はやる気だな」

「斬れるなら……いや、斬ると言っている」


 クローゼは、双翼神乃楯(イージス)に至る機会を伺っていた。ただ、現状は「行けそう……」の思考になる。

 そして、クローゼはラルフに「援護してくれ」と言葉だして「行く気」を百メーグ程先の窪みの中心に向けていく。


 ――雰囲気では無く認識では、明確に罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)の表情が出ていた。……ただ、至極神の領域である十三階層を狙う、十二階層の神のそれでは無かったが――


「なら行く……何だ?」


 掛け声の途中で、クローゼは自身の視界を抜ける幻影の揺らぎを認識する。一つは突き抜け前方に出て獄神の具現に至り、追従の二つがクローゼの付近で姿を現す。


 極光の刻の中で、度重なる衝撃の光景に飛び出したフリーダ。オリジナルとその眷族が故の差が、三人の立ち位置になった。


「魔王様!」


 行く気の側が見送ったフリーダは、魔王の名を獄神の具現に向けていた。


 漏れる魔力が、微かにオルゼクスに思わせる。


 フリーダはオルゼクスに悲しげな表情をして、反応が無いのに焦りを見せクローゼに向き直った。


「クローゼ、止めよ。これ以上は妾が許さぬ」


 立ちはだかる雰囲気に、アリッサとカルーラの彼女を呼ぶ声がして、カレンとレイナードが各々の行く気をさえぎった。


「フリーダ!」


 一際大きな声クローゼの声がして、フリーダは彼に背を向ける。フリーダに映る獄神の具現の表情が一瞬、オルゼクスに見えて……激昂の罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)の顔に変わった。


 それと同時に、罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)の剣がフリーダを貫く。

 突き抜ける魔力がフリーダ背から、紫色の色彩を放ち、クローゼの視線に剣先を魅せた。


「最下層風情が、我を憐れみの眼で見るな」


 低く響く罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)の声。


 その瞬間……クローゼの感情が複雑に自身を駆け巡っていた。


「オルゼクス、貴様――」……弾ける音が場景に響き渡っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ