二十四~派生の力と集う者……第四幕~
クローゼが覚悟を決める前に、セレスタの真力で輝いた場所では、クローゼの剣となっていた三者が苦痛から解放されていた。
オルゼクスの変容から、決死の連なる流れで、三者のある豹変した大地には静寂が見える。
回復に向かった人智最高峰の二人が、生に留まれたのは、龍装神具の「剣心と槍心」の故になる。
ただ、この場にいないユーインとドリーンの負けず嫌いな「切磋琢磨」が多大な貢献をした。 恐らく最悪の状況で「突き破られない繊維」が最善を出したのである。
その為、打撃で動け無くなってはいたが、致命的な結果には至らなかった。
――奇しくも二人とも、ミールレスの為に、着なれた黒の六楯から最新型の黒の六楯に変わっていた。
各々が王国製とヴァンダリア製である。
ヘルミーネが拘ったのは、カレンが身に着けていた事がある黒の六楯が故にだった――
カレンは、自身が回復するのを感じて、激しい流れを無為に見上げていた空に別れを告げる。そして立ち上がり、デュールヴァルドに感謝を向けた。
その最中に彼女は嘶きを聞く。
それは、凪ぎ払う様に外される「黒い鋭利の杭」で黒千が上げた物だった。黒千もまた人智の者として真力の恩恵を受けてはいた。
カレンが嘶きに向いた先では、続く仕草でレイナードが胴衣装甲と衣装甲を払いながら、さして遠くない距離で彼女に気が付いた様であった。
二人が視線を交わした場は、窪んだ場所で無数の杭が膝丈の隔てを作っていた。その為、周りの状況が彼らに把握は難しかったと言える。
自身を襲った杭を当然に、魔斬の流槍で払いながら進むレイナードが、カレンにばつの悪そうな顔をする。要するに「やられた」感を出していた。
「流石に捌けんな」
「ああ、そう思う……」
「あーあれだ、次は考える」
「ふふっ、ああ、考えよう」
黒千の鼻息がレイナードに向かい、彼は顔背けていた。それに、笑みを見せるカレンが大事な事に気が付く。
「……あっ! 勇者殿は何処に?」
「そこに寝てる」
「そこに…… 生きているのか?」
見るからに、突き立つ景色に同化し横たわるイグシード。カレンは、促しで視認し言葉を投げていた。
「ああ、生きてる。俺も龍装甲天獄位は硬くなったらしい……」
彼の半身竜人の様相が、 至極神 天界を司る起源の・の意ならば、ブロスの「予見」の話は正しいのかも知れない。
「ならば立たれよ」
「ちょっと待て、良い話声が聞こえた。ただ、ヤバかったぞ。あいつ、終わる所だった……」
「何と無くの状況は感じていた」
フリートヘルムの決死の行動で、時計回りに戦いの場が動いていた。衝撃や破片が彼らに過程を感じさせており、一応の状況認識を共有する。
既に、クローゼの雰囲気を変えた叫びが聞こえていた。その上で追従するのに、カレンは勇者を気にしたのだった。
勿論、デュールヴァルドは奮い立っていた。その為か、過信では無いがカレンも不安な様子はない。
それにレイナードの魔斬の流槍も、俄然やる気を見せていた。……魔斬の流槍は、本物の同類な「黒い鋭利」を模造と侮蔑している。
恐らく「龍装神具の暴走」の懸念は、この当たりも含まれるのだろう……剣心も槍心も、今の「奮う者」を気に入ってはいたが……。
そして、何と無く聞こえたクローゼの言葉でイグシードは諦める。ままに、無表情な感じで突き立っていた無数の黒い鋭利を払った。
「……聞けたら、突き抜けれそうだったのにな」
「何の事ですか?」
カレンも足元を払いながら近付いて、手を差し伸べていた。それに肘を着きながら、イグシードも手を返していく。
「何でも――」のイグシード声に、ライラの言葉が乗った。
「イグシード死んでないのだろう。ならば立て。いや、死にそうでも立て。愛してやる……だからやってみせろ!」
大きな声に、レイナードとカレンは顔を見合わせた。それに、被さる様な衝撃音が聞こえて来る。衝撃の出所に二人は意識が向いて、掻き消されたライラ声と内容……にイグシードは飛び起きる。
「これで、相手が何だろうと今の俺は無敵だ」
単純に嬉しさがにじみ出る雰囲気で、声の先をイグシードは瞳で追っていた。そして、あからさまに行くぞの感じを二人に向けて行った……
……勇者イグシードのやる気を全開にしたライラが、「愛してやる」の言葉に至ってしまったのは、吸血鬼である彼女達の存在が故にだろう。
ライラを促した――煽った――彼女達は、セレスタの指示からユーリの手筈で、レイナード達を運んで来た転位型魔動堡塁にあった。
「ドワーフ、何か言うことはないのか?」
フリーダはレグアンに、『黒い鋭利の突き刺さりを払ってやった。ここまで運んでやった』の苛立つ雰囲気を向けていた。
……どちらも、カルーラがしたのではある。
「お、応。……感謝なのだな」
「ふん、これだから鈍い男は好かぬのだ」
苛立ちを向けられた彼は、正に困惑をしていた。
また、アリッサがセレスタと通信する中で、フリーダは、オルゼクスの気配を感じれずに苛立ちを隠せないでいた。
カルーラも困惑を見せて、嗜める仕草と努力をしている様に見える。ただ、ウルジェラの見解を聞いて、フリーダは益々な感じになる。
しかし、苛立つ雰囲気が唐突な衝撃音で意識を削がれる事になった。それは、その場の働魔以外の全ての者にも言えた……
……彼女達は、城郭の様相の上部分に出て衝撃音の方向に意識を向ける。遅れて来たライラが通常よりも高い構造の上部に、飛び上がる様に加わった。
そして、矢継ぎ早に「外にいたのだから」とフリーダに説明を求められていた。
「見たままあれだ」
その為に残った訳ではないの雰囲気なライラが、指差した先には、互いの距離を見えない何かで隔て押し合う、クローゼと獄神の具現の様子があった。
どちらが押しているかは分からないが、拮抗はしている様に見えていた。
ただ、獄神の具現――罪悪を御す煉獄の・――の背中から紫色の輝きが見える。
場景を追う者達の中でアリッサだけは、先程の通信で、紫色の光の原因が何か見当がついていた。
それは、アレックスがレニエ――恵風の精霊――の助けを借り、風と極限なる破壊の力で包み同時に打ち込んでいた、黒滅竜水晶による。
黒滅竜水晶は、魔斬の流槍の性質に迫る竜硬弾程の竜水晶で、魔力に干渉して「吸収し消失」させる物だった。
ミラナ経由で、残り二つが専用の筒に入れられセレスタの元に届けられている。
それは、魔導技師ジャン=コラードウェルズによって作られた。単に、クローゼに向けて継続的な負けず嫌いの結果なのだろう。
――竜硬弾である黒竜鉱水晶が、物質的再現であるのに対して黒滅竜水晶は「只の棒」と彼が言ったあの槍だった物の性質の部分をも再現していた。
当然に、竜鉱石の岩盤は龍装神具の残骸である。
その為、希少な『神具の欠片』に満たないが、神の作りし物ではある。それを魔力製錬で単に『借り戻す』のではなく、少なからず変質させた黒滅竜水晶は、ある意味領域だった――
「これなら、魔王も殺せるぞ」
最終局面に向かう中で、魔導技師がどや顔でアレックスに託した時にそう告げていた。どう使うかは「知らん」だったが、アレックスは使って見せたのである……
……確かに状況は最終局面に至る過程だった。そんな緊迫感の中、激突が起こる直前にクローゼは内なるに強要を向けた。自身を鼓舞し進み行く最中にである。
「術式全部を俺の思う通りに強化しろ。今のままでは駄目だ。この場だけでもいいからやれ。――お前が作ったんだろう。出来なかった死ぬだけだ」
――明確な独り言の上、向かう先がオルゼクス擬きの認識のまま。周りの動きや思惑と覚悟に、困惑や願いなど知らず踏み出し行く。
その最中に、強要の上で自身を一段上げていた。
それは、自身を絶望に落とした、黒い鋭利の先まで見据えている様であった――
見据える刻と決意のまま「御託はいい。やれ」と言葉で更に明確を内なるに向けて、クローゼは瞬発で獄神の具現に飛び込んでいく。
そして、周囲が聞いた激突の衝撃を奏でていた。
続く場景は、解放した淫靡なる夢獄の欠片に凝縮していた魔力をアンカーに、獄神の具現が発動した魔力障壁と対魔力防壁で拮抗を作り出し押し込んでいく。
それが「見たままだ」の場景を作っていた。
「依り代ってなんだ、オルゼクス――」
問い掛けたクローゼの言葉には、オルゼクスの反応は無かった。オルゼクスの意識は、既に罪悪を御す煉獄の・の六体に飲まれている。
しかし、飲み込んだ罪悪を御す煉獄の・も、異質な物に魔力を喰われて「大きな障り」を持て余し、大きく動く事が出来ていない。
ただ、眼前のクローゼの変容には、否が応でも意識を取られでいく。……たかが、人智の人である。それが、獄神にも無視出来ない程の魔力魔量に飛躍していた。
――先程までと違う? 突然、魔力魔量が増えたとでも言うのか? ……これも永劫を越えた感情の戻りであったと思われる。
獄神の見た「膨大な魔力魔量」は、始まりから続く幾重にも興亡繰り返した、濃密な魔力が漂う古の世界経て、淫靡なる夢獄が神具の欠片に込めた物である。
それが、クローゼの中で解放された様子だった。
彼は自身の内に、魔力を凝縮した神具の欠片を入れて、自身の魔力魔量の底上げをしていた。それを弾ける様に解放して、有限的で膨大な魔力を纏うに至る。
彼は魔王と同調する、神具の欠片に影響を受けた召喚者の子である。 その為に、驚愕の魔力を纏う事が出来た。
「……黙りか。まあ、オルゼクスかオルゼクス擬きかはもうどうでも良い。どの道行ける所までやるまでだからな」
呟きに、獄神の具現から黒い鋭利がクローゼに向かう。刹那でそれをクローゼは受けるイメージをした。
展開した対物衝撃盾はそれを弾き返していく。……魔力に織り込んだ空間の物質が、魔力を無力化する黒い鋭利の性質を凌駕する。
自身の思考に追い付いた状況で、クローゼは内なるに声に張り上げていた。
「出来るなら、回りくどく他の奴を使うなよ!」
『はっ、二度としないぞ――』
探求せし者のらしくない言葉に、「そんな風にもなるんだな」と大きな独り言を出してカチカチと音をだす。
「二、三発なら行けるだろ。誰か知らないが、取り敢えず喰らえ!」
行き当たりばったりな言葉に、続く起動の声であふれる魔力を乗せていく。
――バルサスの技量と六人と一人の魔導師の高度な術式が、踏み越えた全力の魔力の受けてその全開を魅せた――
瞬間で竜硬弾が魔力障壁を貫き、纏う魔力が追従して獄神の具現に激突する。
突き出した剣身は強震し、衝撃が獄神の具現を吹き飛ばし百メーグ程大地を削り土煙を上げていた。
轟音の末に行き着いた先で、獄神の具現は静寂に至る刻を経て立ち上がる。
「チッ」
舌打ちするクローゼの口角があがる。
平然と立った様に見えた獄神の具現が、戦慄く様子に映り変わって行く感じにである。
「効いてるじゃな――」
更にクローゼは余裕の表情を見せた。
彼の支配する視界には、セレスタの言葉が正しかったのをクローゼにわからせる彼らがいた。
「――やれ、イグシード!」
クローゼの大声に乗るイグシードの剣撃が、獄神の具現が言葉を発しようとした背中に振り下ろされていた。
「くたばれ!」
飛び掛かる斬撃で、肩口に食い込む聖導の極剣サンクタスト。衝撃で獄神の具現の肢体が、地面に食い込むかの勢いを見せる。
ただ、剣先が食い込んだまま折れ、そのままかん高い音共に外装を削り、イグシードは着地して体勢を崩す。
「折れた!」の叫ぶイグシードと斬撃で揺らいだ獄神の具現が、僅かな間を作る。そこにクローゼの促し声がした。
「デカい方だ――」
獄神の具現が体を返して、イグシードに斬撃を向けた腕に、クローゼの声と同時に烈風の矢が刺さる。
そして、巻き込む様な強烈な風が飛び退くイグシードの瞬間を作り出した。
「ままにだ――」
一角獣を駆るラルフが、クローゼの言葉の前に極烈風の精霊の魔力を乗せた、ガンドストラックの一矢を放っていた。
旋回するようにラルフは一角獣を駈り、自身は獄神の具現に弓を引く。
放たれる矢と交錯する複数の黒い鋭利がラルフを襲う。弾かれる矢と雄風の精霊の風に乗り駆け抜けるラルフの場景。
それをクローゼの元に来た、剣と剱……いや、槍心と剣心を携える者達が見送る。そこで愛馬黒千が走り去る背を見る、レイナードから呟き漏れた。
「ああ、駆ければよかったのか」
「ふふっ、そう……そうすれば良かったな」
ラルフが風を切り、獄神の具現と領域の応酬する中で、携える二人が顔を見合わせていた。
それに、クローゼが余裕な雰囲気で怪訝な顔をする。
「何だよ、二人とも」
「ああ、あれだ、さっきの黒い奴だ」
「はあ? 何の……え、避ける話か?」
「そうだな」とレイナードの答えに、「さっきのは無理だろ」と半ば呆れた顔が続いていた。
「クローゼ、随分余裕にみえる。笑った私が言うのもおかしいかもしれないが、流石に避けるのは難しいと」
「ああ、それは乗り越えた。あらかたはロックしたし、それに……」
カレンの笑顔から真剣に戻ったのに、クローゼは頭上を指差して見せる。
そこには、数名の空を飛ぶ光景があった。際立つのは、精霊の王とそれなりの存在感な戦闘型魔導師の姿になる。
「凄いのが来るぞ」
「ああ、分かっている」
クローゼのどや顔にカレンは冷静だった。勿論、彼らの前方に映るラルフ=ガンド・アールヴもだった。
ラルフが無策で、限界に挑んでいたわけではない。単身で挑んでいる者が、おおよそ何であるかを知っていた。
ただ、当然に父王、アルフ=ガンド・アールヴの存在を極光風の精霊が在るのが分かっていた。
それは、単に感覚の問題では無く、後方の転位型魔動堡塁で迎え入れたセレスタに時折確認を取り、的確で効率的なユーリの勤勉な行動によって綿密な状況共有が成されていた。
それ……ユーリの存在があった故に、クローゼの思い通りの光景が、彼の支配する視界には映っていたのだった。
そして、ラルフがクローゼよりも信じている、父王アルフが詠唱した精霊魔法で、巨大な極光風の精霊の力が場景に振り下ろされる。
――瞬間的な極光風の精霊の具現とも言うべき力が放たれる光景だった――
渦巻く様に光風が舞って、巨大な極光風の精霊の様相を映しだし、重ね合わせた拳が、ラルフの牽制で留まっていた獄神の具現に叩き付けられた。
叩き付けた勢いのままに、大地がクレーターの様に弾ける。認識のままに飛び退いた、クローゼ達まで爆裂の残骸は届きそうになっていた。
そして、降り注ぐ間隙からイグシードがクローゼの元に、更にラルフが風陣の走破を解き馬体を寄せていた。
「凄いな。ってか、折れた!」
「いくら神の具現でも、父王の全力だ。流石に倒しただろう」
剣をかざすイグシードにクローゼは「今それか?」の言葉と難しい顔をしていた。ラルフの言葉は些かで、一応の手応えと相応の懸念である……。
手応えと言う点で言えば、光景を作り出したアルフ=ガンドがより一層難しい顔をしていた。上空でその様子にベイカーが思わずをだした。
「これで倒れないとは思えませんが、何か懸念がおありの様で……」
「……万全では無かった。しかし、相応の域には届いた筈。それゆえ倒せぬなら本物と言うべきだ」
驚きの表情で、ベイカーは自身の懐にある黒い竜水晶がはめられた魔動器に意識をやった。
――魔王と対峙などしないと決めていたが、流石に託された可能性を無下にも出来ない。ただ、魔王ならいざ知らず、これでは死なずに使える使えないの以前の問題だな。
ベイカーは若干の思考に続いて、収まる場景に視線を戻していく。そこには、懸念通り原型をとどめたままの獄神の具現があった。
動きは鈍く、無傷ではないが……ではある。
「魔導師殿、とどめを」
「私がですか?」
「魔術も相当だと私は思う。仮に駄目だとて下にいる彼らの助けにはなる。それとすまないが、魔力を使い過ぎた様だ。保つのがやっとで……」
アルフの言葉と纏う風の乱れに、ベイカーは察して手で促しをする。そして、随行させた自身の飛行魔導兵に彼を託して下がらせた。
その一連から彼は呼吸を整えて、眼下の光景を確認した。
――彼の後方には乗って来た転位型魔動堡塁が支援の一基を中心に複数固まっいた。真下辺りにも一基あるが、遅れてきたベイカーには意図は分からない。
そして、前方に個別の認識は色合いな存在感を出すクローゼ達の一団があった――
「渡しに行くべきか……まあ、魔王用だからな。兎に角やっておくか」
独り言の後に放ったのは、当然極限なる破壊の力である。「それしか使えない」訳ではない。当たり前に多種多様の術式を彼は使う。
ただ、予断なしの全力なら選択肢は一つだった。
――貫く・では無く、叩き付ける球体が獄神の具現に届いていた――
彼の師であるマリオン・アーウィン大魔導師が、『古の魔法』を魔動術式に転換し残した遺産である。
それが、先程を繰り返す様な場景を作った。
正統に受け継いだ者の「力」がと言うよりも、戦いで撒き散らされた魔力が渦を巻く様に濃密な空間によって、文字通り、獄神の具現に叩き付ける極限の破壊的威力を見せていた……
……後方に下がる術者本人が、引くような衝撃をクローゼ達は見る事になる。
ただ、それでも獄神の具現は、原型をとどめていた。それをどう見るかは各々になるが、衝撃の連鎖には、クローゼも口角を上げていく。
「凄いな、兎に角もう少し近くで確認するぞ」
「剣が折れたんだが」
「じゃあ、殴れよ。……嫌なら来るな」
イグシードの嫌な顔に、クローゼは声を投げていた。そのまま、不貞腐れる雰囲気の勇者を置いて、当初の「対魔王戦術」である二刀流な二人を伴ってクレーターの縁まで進んでいく。
中心には、龍装甲天獄が変質した外装は健在であるが、霧の様に色つく魔力を身体から放出する、獄神の具現があった。
見たままなら、片手と片膝を着き項垂れる様相で、所々傷跡があり、動きは僅かでぎこちない雰囲気である。
――単純に、度重なる衝撃が、依り代であるオルゼクスに影響を与えた事が大きいと思われる――
「行けそうだな。やれるか?」
「槍はやる気だな」
「斬れるなら……いや、斬ると言っている」
クローゼは、双翼神乃楯に至る機会を伺っていた。ただ、現状は「行けそう……」の思考になる。
そして、クローゼはラルフに「援護してくれ」と言葉だして「行く気」を百メーグ程先の窪みの中心に向けていく。
――雰囲気では無く認識では、明確に罪悪を御す煉獄の・の表情が出ていた。……ただ、至極神の領域である十三階層を狙う、十二階層の神のそれでは無かったが――
「なら行く……何だ?」
掛け声の途中で、クローゼは自身の視界を抜ける幻影の揺らぎを認識する。一つは突き抜け前方に出て獄神の具現に至り、追従の二つがクローゼの付近で姿を現す。
極光の刻の中で、度重なる衝撃の光景に飛び出したフリーダ。オリジナルとその眷族が故の差が、三人の立ち位置になった。
「魔王様!」
行く気の側が見送ったフリーダは、魔王の名を獄神の具現に向けていた。
漏れる魔力が、微かにオルゼクスに思わせる。
フリーダはオルゼクスに悲しげな表情をして、反応が無いのに焦りを見せクローゼに向き直った。
「クローゼ、止めよ。これ以上は妾が許さぬ」
立ちはだかる雰囲気に、アリッサとカルーラの彼女を呼ぶ声がして、カレンとレイナードが各々の行く気をさえぎった。
「フリーダ!」
一際大きな声クローゼの声がして、フリーダは彼に背を向ける。フリーダに映る獄神の具現の表情が一瞬、オルゼクスに見えて……激昂の罪悪を御す煉獄の・の顔に変わった。
それと同時に、罪悪を御す煉獄の・の剣がフリーダを貫く。
突き抜ける魔力がフリーダ背から、紫色の色彩を放ち、クローゼの視線に剣先を魅せた。
「最下層風情が、我を憐れみの眼で見るな」
低く響く罪悪を御す煉獄の・の声。
その瞬間……クローゼの感情が複雑に自身を駆け巡っていた。
「オルゼクス、貴様――」……弾ける音が場景に響き渡っていた。




