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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
序章 王国の盾と記憶の点
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十六~アレックス来襲~

 ・からの視点で見るクローゼ・ベルグを、他者の視点で見ると、彼の思いとは別に『この世界では封建的な領主』であり貴族であった。 ただ、その発想は少し違うのである。


 そんな出来事を彼の視点に合わせると、何と無く理解出来なくもない。





 都市区画整理計画の話をし、その他の予定を済ませて、昼食をとるつもりで屋敷に向かっていた。

 ここ、ジルクドヴルムの私邸は、歴代の代官職が使っていた物になる。ただ、築年数の関係なだろう、色々不都合が見えていた。


 だから、都市の区画整理のついでに、全面改装をしている。思い付きで、あれこれ口を出すので、一時出入り禁止なった。まあ、誰がセレスタに言ったか、分からない。それは、詮索しても仕方がない。


 それはそうとニコラスとの面会と後、何人かと話したがちょっと忘れた。


 ――まあ、とりあえず良いだろ、書簡の封は切っておいたから……。


 忘れた事はあれだけど、取り敢えず、殆んど内装は完成した屋敷についた。そのまま、当たり前に中に入ると、執事長のジョセフが何人かと出迎えくれる。一応、帰るって言ってたあったからだけど。


 ――いつからそこに居たんだ? ……とも少し思った。


「お帰りなさいませ。旦那様」

「ああ、御苦労」


 と、ジョセフの言葉に軽く言ってみた。クローゼとしてはセイバインよりも、彼の方が付き合いは長い。


 ――勿論、記憶にはないけれど。


「アレックス様が、御到着されておられます」


 彼から、聞きたい報告を受けて、一寸気分上がる。アリッサもなんとなく嬉しそうだ。その後は、頼んでおいた事を素晴らしく、流れる様に説明してくれた。俺は、ジョセフの方がいいなと思う。


 ――まあ人それぞれだけど。


 そのままホールを抜けて、アレックスが待つ部屋に行くと、セレスタとレイナードはもう来ていた。

 レイナードは相変わらず、レイナードだし、 セレスタは、こっちに来てからずいぶん変わった気がする。


 ――余裕がある彼女は、前にも増して美しい。なんてな。


 部屋に向けた視界から、奥の方に、長身の大男と言う感じのグレアム・キャンロムと、如何にも騎士と言った、優男? 的なブラット・コルトレーンの二人が見える。

 共に士爵家の子弟だ。まだ爵位は無いが、いずれも騎士相等の実力がある。


 何も言わずに入った俺に、皆が一礼たのを見て、こちらに背を向けてセレスタと話していたアレックスが、振り替えった。


「あっ、アリッサお疲れ」


 振り向き(ざま)の笑顔と、それに困惑してるアリッサの気配を感じながら「そっちが先か」と呟いてみる。奥の二人の雰囲気も、初見よりは殺気立ってはいない。


 ――まあそんな感じだ。


「クローゼ君。お疲れ」

「師匠は元気か?」

「師匠って……」


 ――御約束の展開に、あれな感じだと思うが、その呼びはやめてくれ虫酸が走る。


 その雰囲気を出してみたが、アレックスには効かない様なので「相変わらすの格好だな」とアレックスの感じを指差す。


 ただ、これも全く効果はなかったと思う。その反応が「可愛いでしょ」と言って、スカートをふわりとさせながら、くるりと回ってこちらに見せてきたからだ。


 ――セレスタもアリッサも軍装だから、男のアレックスが、一番可愛い感じと言うのはどうなんだ。


 そう思い適当に「ああ」と答えると、彼は唐突を返してきた。


「とりあえず、お腹空いたんだけど」


 アレックスの催促に、「そうだな」とレイナードが同意していた。セレスタは『仕方がないな』といった感じになり、他は苦笑いをしている。

 その後の追撃で、俺が「外出する時くらい……」と話をふっての流れに「服持ってないんだよね」と言った彼を少し心配になる。


 ――君は、いったい何処に向かってるんだ?


 そのまま食事の用意させて、皆でテーブルを囲んでの食事中。レイナードが「そんな格好して盗賊に捕まったら、どこぞの貴族に売られるぞ」とアレックスに言っていた。


 ――俺もそう思う。


 ただ、彼はお構い無しの感じだった。


「大丈夫だよ、運んでた物があれだし、ヴァンダリア正規兵一個小隊、護衛についてるから」


 アレックスは普通にそう答えた。その時、セレスタが飲んでいた水を吹き出しそうになり、慌てて口を押さえて悶えていたのが可愛いかったのは、ここだけの話だ。


 因みにアリッサは、事前に把握したらしく、適切に対処してたらしい。――流石だ。


 続く食事と歓談にふと思う。


 ――どうでも良いが、みんな食べるの遅いと思うのだが。早くいこうよ……。



 目的の『刻と場』の鍛練場に設置された、机の上に何点かの物が置かれていた。


 ――勿論(もちろん)、待っていたのはこれだ。まあ、アレックスに会うのも、楽しみだったのだが。


「さあ、何からいこうか?」


 眺める間もなく、アレックスの声が聞こえて、それと同時に、レイナードが一つを取り上げていたのが、何と無く視界に入る。


「柄が、おかしな所に付いてるぞ?」

「あっ、それクローゼ君のだから、後だね」


 会話につられて、それに意識を合わせる。


 レイナードが(さや)から取り出し、構えた剣身を見て「短いな」と呟やいて、剣を走らせる様に振っていた。彼は、意識していないだろうが、その動きは様になって美しい程だった。


 彼だけでなく、他の誰もが思う「おかしさ」は剣身の短さではない。金属製であろうと思われる、柄の位置の話だと思う。


 簡単言うと、伸びた刀身に対して少し横についている。


 ――柄頭(えがしら)が太く片方に湾曲し、本来、握りの中にある部分が装飾を施され、その湾曲した先にむき出しで刺さり、上に伸びている。

 そして、(つば)……ガードの部分で柄に繋がって、剣身を支えていた――



「悪くはないな」


 美しい動きを魅せていたレイナードが、呟やいて刀身を鞘に収め、机に置いていた。その様子から、聞こえた声に意識が移る。


「とりあえず、こっちかな」


 言葉を出したアレックスが、杖の様な金属製の棒――片側が少し太くなっている――を取り上げていた。そのまま、細くなった側の先端部分に横から添える様にして、短剣を金具で固定して取り付けている。


 その流れでアレックスは、太い側を地面にドンと置いて「槍」と仁王立ちになる。


「えっへん」と聞こえた気もするが、聞かなかった事する。ただ、グレアムが我慢出来なかったようで「槍ですか……」と呟いていた。


 呟きに「そう」と、彼は返事をしながら、剣先を後ろにして、膨らん部分に近い所を肩に担ぐ形で、持ち上げた。


『えっへん辺り』で、地面に着いていた所の窪みに指を引っ掻けて、腕を動かす動作をする。不思議な動作に、瞳がそれを追っているのが、自分でも分かった。


「いくよっ」


 と、アレックスは掛け声を出し、梃子(てこ)の要領で返して、太い部分を脇に抱え剣先を突き出していた。


 突き出された先の方には、鋼鉄製の鎧があった。


 ――とりあえず、的なんだろう。


「起動」あえて声に出した感じに、カン高い金属音と、鎧の後ろの盛土から土煙が上がった。 それで周りからも、一斉に驚きの声が上がっていた。


 ――『あっ』とか『えっ』の感じで……。


「もう一回っ」


 アレックスが先程と同じ動作をして、それを突き出た。今度はそのまま、カン高い金属音と土煙がある。


 沈黙が流れる中、アレックスが先程の仁王立ちの姿勢で『どうよ』という顔をしていた。長い髪を後ろで束ね、可愛らしい格好で、見た目は女の子な彼が滑稽に見える。


「短槍だな」

「アレックス君すごい!」


 冷静を装うレイナードと、驚きをアレックスに向けるアリッサ、二人の声が沈黙を破った。


 ――レイナード、さっき『なっ』てなってたろ。アリッサ、驚く所が違うと思うが……。


 少し後ろでは、セレスタが「わなわな」ってなっていた。


 光景か場景に、グレアムとブラットが、顔を見合わせて互いに譲り合っていた。結局、ブラットが口をひらく。


「アレックス殿。それはなんですか? というか、魔導技師様が作られたのですか?」


 槍と宣言したものを「何ですか?」と聞かれて、こっちをチラチラ見るアレックスに「説明してやってくれ」と促した。


 ――それだけ俺に、どや顔してたらそうなるよ。

 

「師匠達は、魔衝撃とか対魔装撃とか言ってるね」


 アレックスの言葉と視線に、皆が俺の方を見てくる。注目されるのは随分なれた。


 ――まあ、それも、あれだけどな。


「発案者はクローゼ君で、ファーヴル客子爵監修の師匠設計ってとこかな」


 アレックスは話しながら、それを机に立て掛ける。そして、置いてあった袋から、あの黒色の玉を取り出した。


「とりあえず、トラウマ的なのがあるけど、軽く説明するよ」


 彼はそう言って、あの『槍』の事を絡めて『黒い玉が何なのか』と至る経緯を話していた。

 ジルクドヴルムの二人は、その場に居なかったのもあり当事者よりは冷静だった。ただ、あの鎧の件に関しては驚きを隠していない。


 アレックスは話終わると、おもむろに手にした黒い玉を上に放り投げて、そのまま起動呪文を唱えていた。 続く単純な光景。


 ――複雑な術式の重ねて掛けによる、導師した光景の再現――


 狙いもしないのに正確に飛んで、爆音と共に鎧に穴をあけ盛り土の一部を四散させる。

 舞い落ちるに驚くのを他所に、アレックスが場景を指差し、俺を見ながら軽く呆れる顔をする。


「今のを見てね。これを思い付くのは、一寸あれだと思うけどね」


 そう言って、この「槍」といった物が何なのかを説明していた。


 ――アレックス。それが出来る君もあれだと思う。


 後ろでは、パチパチとする仕草のアリッサが「アレックス君すごい」と小さな声を出していた。そして、何度かの驚きの空気が流れる中、セレスタが冷静さを戻して、難しい顔をする。


(いくさ)の様相が変わりそうね。そんな物が普及したら、戦術を根本的に見直さなければいけない……」


 誰に言うでもない彼女の意見に、グレアムとブラットは頷いてを同意を見せている。ただ、アレックスは否定的に言葉を返していた。


「たくさん作るのも大変だけど、一般的な流動の人はこんな風にならないからね」


 声と共に周りを見て、呆れた感じに両手を動かしていた。


「これだけ居てね。普通の流動の人がいないのも、すごい事だけどね」


「なんだ、片手で出来るじゃねえか」


 アレックスの隣で、レイナードが『槍』を縦に持ち上げ、上下に振って「カチカチ」と音をたてていた。それを見たアレックスが、「詰まっちゃうからやめて!」と慌ててレイナードを止めている。


 そのやり取りを周りが、『やれやれ』な感じで見ていた。


 その時、入り口の方から若い男が走ってきた。


「申し訳ありません。遅れました」

「あっ、影武者君!」


 謝る感じに、言葉を発したその男は、皆の注目を浴びて、アレックスの声に固まった。


 ――原因作ってなんだけど、ずっと言われると思うな俺は。……そんな様子だった。



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