表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第六章 王国の盾は双翼の楯
169/204

二十二~真紅乃剱と黒い鋭利……幕間~

ほぼ、2話的なです。

 クローゼの表情は、ユーベンの王宮がある区画の広場に展開する転位型魔動堡塁(フォートレス)の一つに繋がっていた。

 ただ、一方的に通信を切られたユーリが、声の主を呼ぶ光景を起こしていたのだが……。


「――閣下? え、ちょ、閣下待っ ……」

「ユーリ?」


 王国仕様の「真紅」な黒の六楯(クロージュ)を着たヘルミーネが、複雑な顔をユーリに向けた。また、居並ぶ主だった者達にも、驚きの表情が見える。


「切られたね……ははっ、まあ、指示は……」

「何と無くは聞こえてた? ……」


「副官殿、竜伯は『作戦通りに』の後……支離滅裂だった気がするんだが」


 顔を見合わせるユーリとヘルミーネに、ラファエルが思わずを見せていた。腕を組むギュンターも若干な顔をする。


 ――簡単に言えば、『神具の武器がいるから、レイナードとカレンを寄越せ』と言うのを矢継ぎ早にクローゼは言っていた。当然、思い付きも含めて、諸々もである。

 状況的には、イグシードが作り出す刻の流れに、回復の筒を投げ捨てながらの通信が故だろう。

 また、クローゼの頭の中では、『二刀流に限定する』程にオルゼクスが強かったのではある――


「最初の状況判断から、『多数の選択肢ではない』のは何と無くでしたので、まあ、作戦ですね。閣下の声の感じでは切迫感はまだでしたが、一応打てる手は打つ方向です」

「城壁の指示で、動ける貴殿が言うならそうなのだな。それで、先ほどの通信で竜伯の言っていた支援には誰が行くのだ?」


「閣下の認識だとヘル……いえ、フローリッヒの隊ですね。元々冒険者の上、諜報員ですので応変に動けますから」


 ギュンターの言葉に答えるユーリの表情が微かに動いて、ヘルミーネに向いていく。ヘルミーネの頷きを受けた彼は、続けて対応を補佐官に指示していた。


 息の合う感じが二人見えて、そんな雰囲気に、ラファエルは僅かに何かを思った様であった。


「あー、フローリッヒ。何か雰囲気がやわらかくなったな」


 意向を推し測ってユーリが指示を続ける中で、ヘルミーネは視線を言葉に取られ、ラファエルの表情を伺う感じを見せていく。


「気のせいではないか」

「いや、刺々しさが無くなって……女らしく――」

「――貴様突然何を!」


 掛かる手が、ラファエルの言葉へのヘルミーネの驚きと憤りを表していた。瞬間にギュンターの視線が落ちる。


「止めないか。ラファエルも突然向ける言葉では無いだろう。……それに、私には落ち着きが増した様にしか見えないぞ」

「リッケルト殿、ラファエルの言は……」


 ギュンターの言葉の後の表情に、ヘルミーネも出した言葉を一応に止めていた。


 会話の声と何とも言えない雰囲気に、通信器で「……城壁にはそう伝えて。後、レイナードさんは問で必ず止めて、それと馬を連れて行くと思うから、二十番台の方を……」と指示を出していたユーリが振り返る。


「どうしました?」

「何でもない」

「あ、ああ、何でもない副官殿」


 問い掛けに、困った顔のヘルミーネとよそよそしいラファエルがユーリに怪訝な感じを出させていた。

 続くギュンターの「問題無い」に「そうですか」とユーリは指示を締め括っていく。


 一応に指示の確認を終えたユーリには、謝るラファエルが引きずる雰囲気が見えてくる。


「問題無いなら良いです。正直これ以上は手に余ります……」


 ――手に余るのはクローゼの指示から始まり、城壁からフリーダの我が儘と南に送った転位型魔動堡塁(フォートレス)と入れ替わりで、いきなり飛んで来たレイナードの行動。

 最後に、先ほど通信の曖昧さである――


 対応は、クローゼの言動を繋ぎあわせて行っていたのだが、軽い愚痴な雰囲気で話すユーリに、その場の空気は柔らかくなった。

 そして、落ち着いた様子にユーリも一息着いた辺りで、上からヴィニーの声がする。


「副官殿、良いっすか。……南側から『魔族らしき者』二名が来てるっぽいです」

 

 上への入り口から顔を出すヴィニーに、ユーリは僅かに苦い顔をした。要するに、「またか」の雰囲気である。


「戦闘指揮権は貴方にあると思いますが」


「いや、ちょっと手に余るっすね。何か『借りを返しに来た。あの場の奴に会わせろ』とか言ってるんで、武官の領分越えてると。後、一応警告には従ってるんでどうしたものかと……まあ、あれっす」


 ――察しが良いのは、クローゼに近い者達の特徴であった。そして、ヴィニーの察しの良さはユーリの範疇を越えていた。

 明らかに人魔の二人だった。思い付きなクローゼを考えると、この場合は難しい所になる――


 ヴィニーの認識と見たまま「獅子と虎」だと付け加えられた話に、思い当たる節のあるギュンターが、腰の剣に手を掛けていた。


「それならば私だな。オルムステッド殿がいないのは……仕方ない。ラファエルこい」

「俺ですか?」


 六剱の二人は、転送先の警護をする為に別の場所の転位型魔動堡塁(フォートレス)にあった。

 唐突に話をふられたラファエルは、彼らの事が頭によぎって、自分が行けば良かったと思ってしまい、言葉に出ていた。


「あの場にいた者で、ここにいるのはお前と私しかいないのだから当たり前だろう」

「まあ、そうですが……」


「相手の意図に乗る必要は無いかと。閣下の意向なら排除するだけで足りると思います」

「排除するのは容認して頂けるとして、私では不安ですか副官殿?」


 所謂、矜持の問題なのだろう。ギュンターからすれば、逃がした引いたの部分の話になる。


「相手が二人だからと言って、こちらも二人でする必要は無いと彼は言いたいのだと思います。ただ、騎士としての矜持で言えば、リッケルト殿の考えは正しいと。ラファエルが嫌なら私が代わりに」


「ヘルミーネは準備があるじゃないか」

「自己責任で……。これを着ていてあからさまな挑発に力技で返したら、多分後悔する」


 ギュンターもラファエルも「ああ」と言う表情をした。


「副官殿、何れにしても行かねばならない。ならば、判断は対峙してからでも。支援の準備はラファエルが代わると言う事で。転送も逃げるのに使う為だけに有るわけでもない筈」


 ギュンターのまとめで、展開している転位型魔動堡塁(フォートレス)の外側の一つに移動する事になった。勿論、魔族の二人と対峙の場である……


 ……彼らの眼下に見えるのは、無論、レオーガとタイグルであった。

 明確に彼らも、ここにあの場の敵がいると認識があった訳でも無かった。ただ、妙な確信を持ってやって来ている。


「遅いぞ。待ってやっているのだから、出てこい」


 一応に対峙の場にやって来た彼らは、タイグルの大声を聞いた。それに、協議の認識ユーリが声を出そうとした時、カチューシャに魔力を通したヘルミーネがクロージュヘルムの様相で飛び出していった。


 舞い降りる様にヘルミーネは、幾ばくか踏み出ていたタイグルの前に着陸する。

 ハーフな(ヘルム)から見える顎先の感じには、美しさも出ていた。


「なんだお前は?」

「状況を理解した上での言動か?」

「はぁ? お前女か……状況? それがどうした、殺してやるからあの『男』を出せ」


 声を聞き、侮蔑の雰囲気でタイグルは言葉を出した。そして、踏み出しながらヘルミーネへ進み、掴む様に手を伸ばす。

 それがヘルミーネには合図だった。


 高速の抜剣。目にも止まらぬほどの剣筋が、タイグルの目の前を過ぎていく。


「なんだ。 曲芸か?」


 精悍な雰囲気で、剣先を払う仕草にタイグルの声が乗る。……ヘルミーネは軽く呼吸を整えた。


 ――ずれ落ちるタイグルの伸ばした右腕――


「なっ、がぁっ」……漏れる呻きに鮮血が吹き出していた。後退るタイグルの飛沫をかわすヘルミーネの動きに、彼女思考が乗っていく。


 ――威圧感はそこそこ。ただ、真紅の剱(かのじょ)より強い? 槍使いの従者(かれ)よりも? あの方の領域に届く? いいえ、そんな事ない。


 目を剥き出して、殺意を見せる人虎タイグル。襲い掛かる動きにヘルミーネは剱を合わせる。


 ヘルミーネの放たれる剣に、魔力の煌めきが通って行った。彼女の腕にはめた魔装具も、輝きを見せている。

 それは、紋様の力では無く、武技でも無く明確に「剣技」だった。煌めきを伴う剣筋は、高速の六連撃の列なりを魅せる。


 一息の間に、タイグルは自身に起こった事を認識する。……斬り裂かれた身体に、青色の線が浮かび上がり崩れる様をである。

 恐らくは、認識と絶命は連なっていた。


 その光景を置き去りに、ヘルミーネはレオーガの仕草を捉えていく。

 畏怖では無いが隠せない驚愕。虚勢の言を飲み込み応戦の構えに入る姿をだった……。


「あいつ……あんなに強かったのか……」

「彼女が『常に傍ら』だったのが、不敬にも皇帝陛下の嗜好だと陰口をきいている輩がいたが、それは間違いだと我が師は言っていた」

「私はそんな……逆に蔑まれて……」


 視線を向けたラファエルが、自虐的な表情に見えたギュンターは僅かに笑顔がでていた。

 そして、本来なら自身が行くべきに向かう真紅の黒の六楯(クロージュ)が、獅子たる覇気を削ぎ落とす光景を見る。


「彼女を見出だしたのは我が師だ。たまたまだったと……。嫉妬したさ、才能はずば抜けてると言われたからな。開花したのは環境が良かったのだろう。そこまでの考えで竜伯に付けたのなら、皇帝陛下の御心は計り知れないな」

「才能ですか? ……はははっ、もう倒しましたよ。……私には無理そうな相手を」


 崩れ落ちるレオーガを見ながら、会話する彼らの周りから歓喜が揺れてくる。

 若干の安堵を持つ者もいたが、ギュンターは気にする感じでも無く


「お前も十分才能がある。出し惜しみをせずに全力で努力する事だな。恐らく、レイナード殿と対峙して、お前と同じ事は出来ない。それが根拠だ」


 言葉の終わりに、ギュンターは見上げるヘルミーネの様相に目を止める。視線は恐らく隣であろうとの認識があった。

 それとは別に、王国仕様の「真紅」な黒の六楯(クロージュ)を着たヘルミーネに、師である第一の牙(エーアスト・ファング)の現状に思いをやり、その姿に呟きを見せていく。


「あの光景の真紅乃剱(グリムゾンソード)そのままだな……」


 ヘルミーネは、破損した自身の帝国仕様な黒の六楯(クロージュ)の代わりに、カレン・ランドールの予備を着用していた。

 背格好に多少は付くが、見た目や雰囲気は(まさ)しくである。


 ――気にかけて貰っているは、ヘルミーネ自身も理解している。今回も彼女はカレンの厚意を受けていた――


 そして、ヘルミーネ自身は既に次に気持ちを向けていた。微かに触れた魔王の領域とそれを凌駕する場に向かうであろう、真紅乃剱(グリムゾンソード)カレン・ランドールと槍使いの従者の認識を新たにしたレイナードをであった……



 ……ヘルミーネが思いを向けた二人が行く先では、到着を待つクローゼが、勇者イグシード共に壮絶な光景を作っていた。


 現状をみる限りでは、魔神と言うべきオルゼクスが、勇者イグシードを上回っていた。速さも強さも余裕もである。

 命を繋ぐ「龍翼の奇蹟」と呼ばれる、宝石の様な欠片を宿したイグシード。彼も勇者の領域を越えていた。

 それでも、ミールレス程の剣士然としていない二人は、魔力魔量の差がそのまま力の差だった。


 それを魔王を凌ぐか? のクローゼが盾の様に支えていた。流れを制御する中で、クローゼは「僅かに足らない」の感覚を持った。

 その為に、刃が届く剣と槍を欲したのである。


「イグシード、まだ持つか?」

「――折れそうだ!」


 神の眷属が作りし聖導の極剣 サンクタストも、勇傑なりに言わせれば「模造品」の類いである。

 勇魔相撃つに挟まれて、微かに傷を与える「サンクタスト」が悲鳴を上げていた。それがイグシードの返答に繋がっていた。


 ――くっそ、まだか……イグシードの『折れそう』に焦りが見えるクローゼの思考が続く。

 既に、直前に仕込んだ魔量充填(チャージ)や回復の筒も残り僅かだった。


 決して絶望的ではない。


 すり減った魔力魔量を回復させる高純度な魔量充填(チャージ)がまだある。

 解放していない魔動術式があり、魔力魔量の底上げに宿した神具の欠片もあった。そして、更にその先も「まだ」あるのだ。


 ――魔力の底上げだけでなく、フリーダの変容やフリートヘルムの特殊な力の様な領域に、踏み込む意志が有れば……戻れる事を捨て去る事が出来ればだったが――


 クローゼの僅かな葛藤に、通信器の竜水晶が共鳴を促す。聞こえて来たのは、彼本来の生粋な剣にして、盟友レイナードの「俺が来た」に続く到着の報告だった。


 混線する感じにその声の後ろで、「なのだな」の音が入り、打ち込まれた目印(マーカー)転位型魔動堡塁(フォートレス)が現れる。


「――カレンは?」

「当然だ――」


 後方の状況を支配するの視界で感じて、クローゼは後方に確認を向ける。そこには、空を駆けるかの勢いな真紅乃剱(グリムゾンソード)の赤い黒の六楯(クロージュ)の軍装が見えた。


 通用口が大型な二十番台で、黒千に跨がるレイナードが開くのを待つのを置いて、カレンは上から飛び出していた。


 そして、間近に見えた「勇魔の戦い」に一旦の着陸と同時に勢いを止める。いや、止まってしまった。


 寮友とクローゼを信じて飛び出したカレンは、光景に息を飲む。魔力魔量以上に力ある彼女は、光景を追えていた分だけ身体が反応した。


 ――なぜ? 動けない。……凡そ自覚ある疑問。


 一瞬だったが、包まれる魔力を感じてカレンは息を整える。クローゼの「カレン――」と自身を呼ぶ声を聞いて、覚悟を決めた。


「やるべき事が出来た。例え人智を越えていようともここで死ぬ訳にはいかない。全力で、全身全霊で……」


 決意の最中に、促される様な感覚でカレンはデュールヴァルドを解き放つ。

 共鳴なのか剱心は奮える様を魅せていた。


『良い覚悟だ力を貸してやろう。我を有す極神 武勇を司る戦いの・(ブラーヴラム)と同等を奮ってやる。……濃密な瞬きの流れを共に過ごした、あの男への手向けだ。受けとれ、あの男が思い探し求めた娘よ』


 はっきりとした声では無いが、カレンはデュールヴァルドが確かにそう言ったのを聞いた。全身を駆け巡る魔力を彼女は感じていく。

 そして、『貴女は、モンテーニュ公爵令嬢ジャンヌ=シャレ様です』……微かにローランドの声がした気がした。


 ――ローランド。そう、私はジャンヌ=シャレ。……明確に認める彼女の想いであった。


「カレン行くぞ!」


 一瞬の思いにふけるカレンに掛かる声がした。


 送り行く光景は、黒い弾丸の様な黒千に跨がるレイナードが、既に覚悟の顔で、後ろに乗るレグアンを振り落とす勢いで駆け抜ける様だった。


「ふふっ、彼らしい。ならば私も私らしく。デュールヴァルド力を貸して欲しい。…… 真紅乃剱(グリムゾンソード) カレン・ランドール参る!」


 言葉と共に置き去りされたレイナード達を越える勢いでカレンは飛び出していく。

 クローゼを視界に入れ、イグシードが厳しい表情でオルゼクスの剣を捌く光景に一閃する。


 ――半ば空中の場に、デュールヴァルドの輝きか閃光を刻んでいく――


 右肩を抜ける剣筋が、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)を斬り裂き、(ほとばし)飛沫(しぶき)が鮮血を思わせた。


 その一撃で、オルゼクスは体勢と意識を遠退くカレンに奪われた。そのまま声を上げようとして、クローゼの叫びに遮られる。


「行け――レイナード!」


 名指しのレイナードは、硬化機動楯(マヌーバ)の機動を足掛かりに、天をかけ上がる勢いで黒千を 駆る。あたかも弾道な勢いのままに奮う、 龍装鉾りゅうそうむ魔斬の流槍(ニグレイドル)の連撃がオルゼクスの意識の外から襲い掛かる。


 カレンの一撃とクローゼ大声に気を取られたオルゼクスは、連撃を肢体にまともにくらう。

 強烈なレイナードの槍技は、神具の武具に導かれ龍装甲天獄(アーマード・プリズン)に亀裂を入れる程の威力を出した。


「ぐうがぁっ、おのれ」


 神々しさを見せたオルゼクスが吐いた、魔族の雰囲気。クローゼが操る二刀流の刃はオルゼクスに届いていた。

 落ち行くレイナードと黒千を遠隔で御したクローゼは、崩れるオルゼクスに竜硬弾をあわせていく。


 砕ける竜硬弾。しかし、魔力の揺らぎが更にオルゼクスを揺さぶった。


「くたばれ魔王――」


 圧力の解放からイグシードは体勢を立て直し、ためを作って魔力発動をオルゼクスに叩きつける。

 強力な波動がオルゼクスを地面叩きつけた。


 土を削り勢いが止まったオルゼクスが、半身をあげる。立ち上がる仕草に、間髪を入れずカレンが剣を走らせて、僅かに剣を合わせるオルゼクス。


 神具の剣が重なり、美しさ輝きと音を出した。


 ただ、カレンの剣勢はとどまる事は無かった。デュールヴァルドに引かれる様に、身体を返してオルゼクスの胸元を斬り裂いていく。

 置き去りに抜けるカレンの後には、明確な青色の鮮血が色を見せていた。


 真紅乃剱(グリムゾンソード)の輝きと入れ替り、黒千の牡として自信が漲る発汗の馬体が、突き抜ける勢いでオルゼクスの横を駆けていた。


 通り抜ける様に、龍装鉾りゅうそうむ魔斬の流槍(ニグレイドル)をレイナードは突き当てる。

 かわす動きと砕ける勢いの肩口。

 引きずる衝撃を押し退け、飛び上がるオルゼクスが走り去る黒装の騎兵に視線向けた。


 一瞬の動きに、イグシードが追撃を掛ける。衝撃の音が交錯に起こっていた……


 ……クローゼの魔力を纏う三者の競演が、オルゼクスを追い込んでいた。

 思う通りの展開に、盾を操るクローゼも余裕が見える。

 ――行けるじゃないか。このまま押し込んで動きを止めれば……。


 光景に思考をのせてクローゼは僅かに笑みをこぼす。その意識に、自分で降りたの認識な振り落された感じのレグアンの 龍装斧りゅうそうふ双頭の極斧(ダブルクァイト )を携える姿が入る。


「レグアン、とどめを刺させてやる」

「威力はなのだが、行き足が足らぬのだな」


 極鉱石の全身鎧(フルプレート)がレグアンの瞬発力が足らないの言葉をクローゼに納得させる。

 ただ、推し量るは双翼神乃楯(イージス)のタイミング。止めてしまえば関係なかった。


「大丈夫だ、的は止めてやる」

「応……なのだな」


 既に、敬称の問題でも無くなった。力弱き男のみなぎる自信と続いた光景が、レグアンにクローゼを認めさせていた。


 高速の展開を見るクローゼは、あからさまに確信を持ちはじめている。

 勿論、打倒魔王であり勝利だった。 会話の最中でも、切れる盾と遠隔の盾を巧みに使いオルゼクスを阻害して、彼自身の本領も発揮していた。


 ――行ける! ……明確な好機に行くきを見せたクローゼは、唐突な警鐘を自身の中から感じてくる。


 守護者達が挙って鳴らす言葉の鐘。「不味い逃げろ」の感覚が、常は見守る慈悲ある彼女からも聞こえてくる。


『あれは危険です。皆を逃がしなさい。今の力では及ばぬ領域の深層……』


 意識と景色がクローゼの視界で交錯する。


 瞬間で決着を見せるかの光景をオルゼクスは振り払い飛び上がる。クローゼからも、逃げる様にも見えたが、追撃に飛んだイグシードを見て沸き上がる警鐘を言葉にした。


「逃げろ!」


 今までにない大きく通る声に、三者か一瞬の間を見せる。そこに上空から声がした。


「極上の依り代(よりしろ)……まだ壊される訳にはいかぬ」


 凡そ最下層の音には聞こえない、オルゼクスの声でも無い響きが辺りを突き抜けていった。

 そして、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)は黒く輝きを見せ、無数の黒く細長い鋭利を打ち出した。


 それが、迫る三者とクローゼを目掛けて襲い掛かる。……凡そ、逃げ場の無い場景だとクローゼには映っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ