二十二~真紅乃剱と黒い鋭利……幕間~
ほぼ、2話的なです。
クローゼの表情は、ユーベンの王宮がある区画の広場に展開する転位型魔動堡塁の一つに繋がっていた。
ただ、一方的に通信を切られたユーリが、声の主を呼ぶ光景を起こしていたのだが……。
「――閣下? え、ちょ、閣下待っ ……」
「ユーリ?」
王国仕様の「真紅」な黒の六楯を着たヘルミーネが、複雑な顔をユーリに向けた。また、居並ぶ主だった者達にも、驚きの表情が見える。
「切られたね……ははっ、まあ、指示は……」
「何と無くは聞こえてた? ……」
「副官殿、竜伯は『作戦通りに』の後……支離滅裂だった気がするんだが」
顔を見合わせるユーリとヘルミーネに、ラファエルが思わずを見せていた。腕を組むギュンターも若干な顔をする。
――簡単に言えば、『神具の武器がいるから、レイナードとカレンを寄越せ』と言うのを矢継ぎ早にクローゼは言っていた。当然、思い付きも含めて、諸々もである。
状況的には、イグシードが作り出す刻の流れに、回復の筒を投げ捨てながらの通信が故だろう。
また、クローゼの頭の中では、『二刀流に限定する』程にオルゼクスが強かったのではある――
「最初の状況判断から、『多数の選択肢ではない』のは何と無くでしたので、まあ、作戦ですね。閣下の声の感じでは切迫感はまだでしたが、一応打てる手は打つ方向です」
「城壁の指示で、動ける貴殿が言うならそうなのだな。それで、先ほどの通信で竜伯の言っていた支援には誰が行くのだ?」
「閣下の認識だとヘル……いえ、フローリッヒの隊ですね。元々冒険者の上、諜報員ですので応変に動けますから」
ギュンターの言葉に答えるユーリの表情が微かに動いて、ヘルミーネに向いていく。ヘルミーネの頷きを受けた彼は、続けて対応を補佐官に指示していた。
息の合う感じが二人見えて、そんな雰囲気に、ラファエルは僅かに何かを思った様であった。
「あー、フローリッヒ。何か雰囲気がやわらかくなったな」
意向を推し測ってユーリが指示を続ける中で、ヘルミーネは視線を言葉に取られ、ラファエルの表情を伺う感じを見せていく。
「気のせいではないか」
「いや、刺々しさが無くなって……女らしく――」
「――貴様突然何を!」
掛かる手が、ラファエルの言葉へのヘルミーネの驚きと憤りを表していた。瞬間にギュンターの視線が落ちる。
「止めないか。ラファエルも突然向ける言葉では無いだろう。……それに、私には落ち着きが増した様にしか見えないぞ」
「リッケルト殿、ラファエルの言は……」
ギュンターの言葉の後の表情に、ヘルミーネも出した言葉を一応に止めていた。
会話の声と何とも言えない雰囲気に、通信器で「……城壁にはそう伝えて。後、レイナードさんは問で必ず止めて、それと馬を連れて行くと思うから、二十番台の方を……」と指示を出していたユーリが振り返る。
「どうしました?」
「何でもない」
「あ、ああ、何でもない副官殿」
問い掛けに、困った顔のヘルミーネとよそよそしいラファエルがユーリに怪訝な感じを出させていた。
続くギュンターの「問題無い」に「そうですか」とユーリは指示を締め括っていく。
一応に指示の確認を終えたユーリには、謝るラファエルが引きずる雰囲気が見えてくる。
「問題無いなら良いです。正直これ以上は手に余ります……」
――手に余るのはクローゼの指示から始まり、城壁からフリーダの我が儘と南に送った転位型魔動堡塁と入れ替わりで、いきなり飛んで来たレイナードの行動。
最後に、先ほど通信の曖昧さである――
対応は、クローゼの言動を繋ぎあわせて行っていたのだが、軽い愚痴な雰囲気で話すユーリに、その場の空気は柔らかくなった。
そして、落ち着いた様子にユーリも一息着いた辺りで、上からヴィニーの声がする。
「副官殿、良いっすか。……南側から『魔族らしき者』二名が来てるっぽいです」
上への入り口から顔を出すヴィニーに、ユーリは僅かに苦い顔をした。要するに、「またか」の雰囲気である。
「戦闘指揮権は貴方にあると思いますが」
「いや、ちょっと手に余るっすね。何か『借りを返しに来た。あの場の奴に会わせろ』とか言ってるんで、武官の領分越えてると。後、一応警告には従ってるんでどうしたものかと……まあ、あれっす」
――察しが良いのは、クローゼに近い者達の特徴であった。そして、ヴィニーの察しの良さはユーリの範疇を越えていた。
明らかに人魔の二人だった。思い付きなクローゼを考えると、この場合は難しい所になる――
ヴィニーの認識と見たまま「獅子と虎」だと付け加えられた話に、思い当たる節のあるギュンターが、腰の剣に手を掛けていた。
「それならば私だな。オルムステッド殿がいないのは……仕方ない。ラファエルこい」
「俺ですか?」
六剱の二人は、転送先の警護をする為に別の場所の転位型魔動堡塁にあった。
唐突に話をふられたラファエルは、彼らの事が頭によぎって、自分が行けば良かったと思ってしまい、言葉に出ていた。
「あの場にいた者で、ここにいるのはお前と私しかいないのだから当たり前だろう」
「まあ、そうですが……」
「相手の意図に乗る必要は無いかと。閣下の意向なら排除するだけで足りると思います」
「排除するのは容認して頂けるとして、私では不安ですか副官殿?」
所謂、矜持の問題なのだろう。ギュンターからすれば、逃がした引いたの部分の話になる。
「相手が二人だからと言って、こちらも二人でする必要は無いと彼は言いたいのだと思います。ただ、騎士としての矜持で言えば、リッケルト殿の考えは正しいと。ラファエルが嫌なら私が代わりに」
「ヘルミーネは準備があるじゃないか」
「自己責任で……。これを着ていてあからさまな挑発に力技で返したら、多分後悔する」
ギュンターもラファエルも「ああ」と言う表情をした。
「副官殿、何れにしても行かねばならない。ならば、判断は対峙してからでも。支援の準備はラファエルが代わると言う事で。転送も逃げるのに使う為だけに有るわけでもない筈」
ギュンターのまとめで、展開している転位型魔動堡塁の外側の一つに移動する事になった。勿論、魔族の二人と対峙の場である……
……彼らの眼下に見えるのは、無論、レオーガとタイグルであった。
明確に彼らも、ここにあの場の敵がいると認識があった訳でも無かった。ただ、妙な確信を持ってやって来ている。
「遅いぞ。待ってやっているのだから、出てこい」
一応に対峙の場にやって来た彼らは、タイグルの大声を聞いた。それに、協議の認識ユーリが声を出そうとした時、カチューシャに魔力を通したヘルミーネがクロージュヘルムの様相で飛び出していった。
舞い降りる様にヘルミーネは、幾ばくか踏み出ていたタイグルの前に着陸する。
ハーフな兜から見える顎先の感じには、美しさも出ていた。
「なんだお前は?」
「状況を理解した上での言動か?」
「はぁ? お前女か……状況? それがどうした、殺してやるからあの『男』を出せ」
声を聞き、侮蔑の雰囲気でタイグルは言葉を出した。そして、踏み出しながらヘルミーネへ進み、掴む様に手を伸ばす。
それがヘルミーネには合図だった。
高速の抜剣。目にも止まらぬほどの剣筋が、タイグルの目の前を過ぎていく。
「なんだ。 曲芸か?」
精悍な雰囲気で、剣先を払う仕草にタイグルの声が乗る。……ヘルミーネは軽く呼吸を整えた。
――ずれ落ちるタイグルの伸ばした右腕――
「なっ、がぁっ」……漏れる呻きに鮮血が吹き出していた。後退るタイグルの飛沫をかわすヘルミーネの動きに、彼女思考が乗っていく。
――威圧感はそこそこ。ただ、真紅の剱より強い? 槍使いの従者よりも? あの方の領域に届く? いいえ、そんな事ない。
目を剥き出して、殺意を見せる人虎タイグル。襲い掛かる動きにヘルミーネは剱を合わせる。
ヘルミーネの放たれる剣に、魔力の煌めきが通って行った。彼女の腕にはめた魔装具も、輝きを見せている。
それは、紋様の力では無く、武技でも無く明確に「剣技」だった。煌めきを伴う剣筋は、高速の六連撃の列なりを魅せる。
一息の間に、タイグルは自身に起こった事を認識する。……斬り裂かれた身体に、青色の線が浮かび上がり崩れる様をである。
恐らくは、認識と絶命は連なっていた。
その光景を置き去りに、ヘルミーネはレオーガの仕草を捉えていく。
畏怖では無いが隠せない驚愕。虚勢の言を飲み込み応戦の構えに入る姿をだった……。
「あいつ……あんなに強かったのか……」
「彼女が『常に傍ら』だったのが、不敬にも皇帝陛下の嗜好だと陰口をきいている輩がいたが、それは間違いだと我が師は言っていた」
「私はそんな……逆に蔑まれて……」
視線を向けたラファエルが、自虐的な表情に見えたギュンターは僅かに笑顔がでていた。
そして、本来なら自身が行くべきに向かう真紅の黒の六楯が、獅子たる覇気を削ぎ落とす光景を見る。
「彼女を見出だしたのは我が師だ。たまたまだったと……。嫉妬したさ、才能はずば抜けてると言われたからな。開花したのは環境が良かったのだろう。そこまでの考えで竜伯に付けたのなら、皇帝陛下の御心は計り知れないな」
「才能ですか? ……はははっ、もう倒しましたよ。……私には無理そうな相手を」
崩れ落ちるレオーガを見ながら、会話する彼らの周りから歓喜が揺れてくる。
若干の安堵を持つ者もいたが、ギュンターは気にする感じでも無く
「お前も十分才能がある。出し惜しみをせずに全力で努力する事だな。恐らく、レイナード殿と対峙して、お前と同じ事は出来ない。それが根拠だ」
言葉の終わりに、ギュンターは見上げるヘルミーネの様相に目を止める。視線は恐らく隣であろうとの認識があった。
それとは別に、王国仕様の「真紅」な黒の六楯を着たヘルミーネに、師である第一の牙の現状に思いをやり、その姿に呟きを見せていく。
「あの光景の真紅乃剱そのままだな……」
ヘルミーネは、破損した自身の帝国仕様な黒の六楯の代わりに、カレン・ランドールの予備を着用していた。
背格好に多少は付くが、見た目や雰囲気は正しくである。
――気にかけて貰っているは、ヘルミーネ自身も理解している。今回も彼女はカレンの厚意を受けていた――
そして、ヘルミーネ自身は既に次に気持ちを向けていた。微かに触れた魔王の領域とそれを凌駕する場に向かうであろう、真紅乃剱カレン・ランドールと槍使いの従者の認識を新たにしたレイナードをであった……
……ヘルミーネが思いを向けた二人が行く先では、到着を待つクローゼが、勇者イグシード共に壮絶な光景を作っていた。
現状をみる限りでは、魔神と言うべきオルゼクスが、勇者イグシードを上回っていた。速さも強さも余裕もである。
命を繋ぐ「龍翼の奇蹟」と呼ばれる、宝石の様な欠片を宿したイグシード。彼も勇者の領域を越えていた。
それでも、ミールレス程の剣士然としていない二人は、魔力魔量の差がそのまま力の差だった。
それを魔王を凌ぐか? のクローゼが盾の様に支えていた。流れを制御する中で、クローゼは「僅かに足らない」の感覚を持った。
その為に、刃が届く剣と槍を欲したのである。
「イグシード、まだ持つか?」
「――折れそうだ!」
神の眷属が作りし聖導の極剣 サンクタストも、勇傑なりに言わせれば「模造品」の類いである。
勇魔相撃つに挟まれて、微かに傷を与える「サンクタスト」が悲鳴を上げていた。それがイグシードの返答に繋がっていた。
――くっそ、まだか……イグシードの『折れそう』に焦りが見えるクローゼの思考が続く。
既に、直前に仕込んだ魔量充填や回復の筒も残り僅かだった。
決して絶望的ではない。
すり減った魔力魔量を回復させる高純度な魔量充填がまだある。
解放していない魔動術式があり、魔力魔量の底上げに宿した神具の欠片もあった。そして、更にその先も「まだ」あるのだ。
――魔力の底上げだけでなく、フリーダの変容やフリートヘルムの特殊な力の様な領域に、踏み込む意志が有れば……戻れる事を捨て去る事が出来ればだったが――
クローゼの僅かな葛藤に、通信器の竜水晶が共鳴を促す。聞こえて来たのは、彼本来の生粋な剣にして、盟友レイナードの「俺が来た」に続く到着の報告だった。
混線する感じにその声の後ろで、「なのだな」の音が入り、打ち込まれた目印に転位型魔動堡塁が現れる。
「――カレンは?」
「当然だ――」
後方の状況を支配するの視界で感じて、クローゼは後方に確認を向ける。そこには、空を駆けるかの勢いな真紅乃剱の赤い黒の六楯の軍装が見えた。
通用口が大型な二十番台で、黒千に跨がるレイナードが開くのを待つのを置いて、カレンは上から飛び出していた。
そして、間近に見えた「勇魔の戦い」に一旦の着陸と同時に勢いを止める。いや、止まってしまった。
寮友とクローゼを信じて飛び出したカレンは、光景に息を飲む。魔力魔量以上に力ある彼女は、光景を追えていた分だけ身体が反応した。
――なぜ? 動けない。……凡そ自覚ある疑問。
一瞬だったが、包まれる魔力を感じてカレンは息を整える。クローゼの「カレン――」と自身を呼ぶ声を聞いて、覚悟を決めた。
「やるべき事が出来た。例え人智を越えていようともここで死ぬ訳にはいかない。全力で、全身全霊で……」
決意の最中に、促される様な感覚でカレンはデュールヴァルドを解き放つ。
共鳴なのか剱心は奮える様を魅せていた。
『良い覚悟だ力を貸してやろう。我を有す極神 武勇を司る戦いの・と同等を奮ってやる。……濃密な瞬きの流れを共に過ごした、あの男への手向けだ。受けとれ、あの男が思い探し求めた娘よ』
はっきりとした声では無いが、カレンはデュールヴァルドが確かにそう言ったのを聞いた。全身を駆け巡る魔力を彼女は感じていく。
そして、『貴女は、モンテーニュ公爵令嬢ジャンヌ=シャレ様です』……微かにローランドの声がした気がした。
――ローランド。そう、私はジャンヌ=シャレ。……明確に認める彼女の想いであった。
「カレン行くぞ!」
一瞬の思いにふけるカレンに掛かる声がした。
送り行く光景は、黒い弾丸の様な黒千に跨がるレイナードが、既に覚悟の顔で、後ろに乗るレグアンを振り落とす勢いで駆け抜ける様だった。
「ふふっ、彼らしい。ならば私も私らしく。デュールヴァルド力を貸して欲しい。…… 真紅乃剱 カレン・ランドール参る!」
言葉と共に置き去りされたレイナード達を越える勢いでカレンは飛び出していく。
クローゼを視界に入れ、イグシードが厳しい表情でオルゼクスの剣を捌く光景に一閃する。
――半ば空中の場に、デュールヴァルドの輝きか閃光を刻んでいく――
右肩を抜ける剣筋が、龍装甲天獄を斬り裂き、迸る飛沫が鮮血を思わせた。
その一撃で、オルゼクスは体勢と意識を遠退くカレンに奪われた。そのまま声を上げようとして、クローゼの叫びに遮られる。
「行け――レイナード!」
名指しのレイナードは、硬化機動楯の機動を足掛かりに、天をかけ上がる勢いで黒千を 駆る。あたかも弾道な勢いのままに奮う、 龍装鉾魔斬の流槍の連撃がオルゼクスの意識の外から襲い掛かる。
カレンの一撃とクローゼ大声に気を取られたオルゼクスは、連撃を肢体にまともにくらう。
強烈なレイナードの槍技は、神具の武具に導かれ龍装甲天獄に亀裂を入れる程の威力を出した。
「ぐうがぁっ、おのれ」
神々しさを見せたオルゼクスが吐いた、魔族の雰囲気。クローゼが操る二刀流の刃はオルゼクスに届いていた。
落ち行くレイナードと黒千を遠隔で御したクローゼは、崩れるオルゼクスに竜硬弾をあわせていく。
砕ける竜硬弾。しかし、魔力の揺らぎが更にオルゼクスを揺さぶった。
「くたばれ魔王――」
圧力の解放からイグシードは体勢を立て直し、ためを作って魔力発動をオルゼクスに叩きつける。
強力な波動がオルゼクスを地面叩きつけた。
土を削り勢いが止まったオルゼクスが、半身をあげる。立ち上がる仕草に、間髪を入れずカレンが剣を走らせて、僅かに剣を合わせるオルゼクス。
神具の剣が重なり、美しさ輝きと音を出した。
ただ、カレンの剣勢はとどまる事は無かった。デュールヴァルドに引かれる様に、身体を返してオルゼクスの胸元を斬り裂いていく。
置き去りに抜けるカレンの後には、明確な青色の鮮血が色を見せていた。
真紅乃剱の輝きと入れ替り、黒千の牡として自信が漲る発汗の馬体が、突き抜ける勢いでオルゼクスの横を駆けていた。
通り抜ける様に、龍装鉾魔斬の流槍をレイナードは突き当てる。
かわす動きと砕ける勢いの肩口。
引きずる衝撃を押し退け、飛び上がるオルゼクスが走り去る黒装の騎兵に視線向けた。
一瞬の動きに、イグシードが追撃を掛ける。衝撃の音が交錯に起こっていた……
……クローゼの魔力を纏う三者の競演が、オルゼクスを追い込んでいた。
思う通りの展開に、盾を操るクローゼも余裕が見える。
――行けるじゃないか。このまま押し込んで動きを止めれば……。
光景に思考をのせてクローゼは僅かに笑みをこぼす。その意識に、自分で降りたの認識な振り落された感じのレグアンの 龍装斧双頭の極斧を携える姿が入る。
「レグアン、とどめを刺させてやる」
「威力はなのだが、行き足が足らぬのだな」
極鉱石の全身鎧がレグアンの瞬発力が足らないの言葉をクローゼに納得させる。
ただ、推し量るは双翼神乃楯のタイミング。止めてしまえば関係なかった。
「大丈夫だ、的は止めてやる」
「応……なのだな」
既に、敬称の問題でも無くなった。力弱き男のみなぎる自信と続いた光景が、レグアンにクローゼを認めさせていた。
高速の展開を見るクローゼは、あからさまに確信を持ちはじめている。
勿論、打倒魔王であり勝利だった。 会話の最中でも、切れる盾と遠隔の盾を巧みに使いオルゼクスを阻害して、彼自身の本領も発揮していた。
――行ける! ……明確な好機に行くきを見せたクローゼは、唐突な警鐘を自身の中から感じてくる。
守護者達が挙って鳴らす言葉の鐘。「不味い逃げろ」の感覚が、常は見守る慈悲ある彼女からも聞こえてくる。
『あれは危険です。皆を逃がしなさい。今の力では及ばぬ領域の深層……』
意識と景色がクローゼの視界で交錯する。
瞬間で決着を見せるかの光景をオルゼクスは振り払い飛び上がる。クローゼからも、逃げる様にも見えたが、追撃に飛んだイグシードを見て沸き上がる警鐘を言葉にした。
「逃げろ!」
今までにない大きく通る声に、三者か一瞬の間を見せる。そこに上空から声がした。
「極上の依り代……まだ壊される訳にはいかぬ」
凡そ最下層の音には聞こえない、オルゼクスの声でも無い響きが辺りを突き抜けていった。
そして、龍装甲天獄は黒く輝きを見せ、無数の黒く細長い鋭利を打ち出した。
それが、迫る三者とクローゼを目掛けて襲い掛かる。……凡そ、逃げ場の無い場景だとクローゼには映っていた。




