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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第六章 王国の盾は双翼の楯
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二十~特異と勇者と魔王……序幕~

 勇者と魔王の領域に瞬発で飛び上がったクローゼは、オルゼクスな黒竜の前面を突き抜ける勢いで、竜眼に自身を晒していく。

 そして、硬化機動楯(マヌーバ)空間防護(スペース)対物衝撃盾(シールド)の反発を使い姿勢を制御していた。


「先ずはこれだ」


 鋭い竜眼がクローゼに視点を合わせる中で、彼は双剣を奮う。魔装甲楯鱗(スケール)に魔力を通して、ヴォルグの拳を凌駕した剣域を越える速度を狙っていく。


 ――積み重ねた身体を振り絞り、尋常ではない剣速は剣身の残像すら見えぬ程の光景を生んだ――


 激しい金属音と輝きが、黒竜の頭部を彩り際立たせていた。

 それに応じて、掴み取る動きをする龍装甲天獄(アーマード・プリズン)の黒竜な腕をかわす様に、クローゼは首筋から肩に抜けていく。


「捕まるか!」


 僅かに声をクローゼは発し、高速の斬擊を引きずり龍鱗から発揮される無数の魔刃を置き去りにする。

 煌めく光と音は双翼の間を抜けて、龍鱗に剣擊の音と光の道を作っていた。

 そして、続く剣擊の最中で迎撃の尾の動きをかわす瞬発の軌道修正を魅せていく。


 唸る風切り音と圧力から、クローゼは飛び退き着地と同時に瞬発で地面を蹴る様に飛び上がった。空を切った竜の尾は、大地を叩き爆裂の粉塵をあげる。


 ――人智最高峰の剣は欠けること無く健在を示したが、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)にその痕跡は見られなかった――


「斬れないか」――ただ、流石バルサスさんの剣、凄いな。全力だったが行けた……粉塵を浴びオルゼクスから遠ざかるクローゼは、効果が不発な事より自身の剣に感嘆を向けていた。

 そして、何度目かの一撃離脱を見せるイグシードに声を投げた。


「イグシード、俺が盾になってやる」


 投げる言葉と同時に、クローゼは対象防護(ターゲット)でイグシードをロックした。そして、巻き上がる粉塵を硬化機動楯(マヌーバ)で複数の盾に具現化する。

 発した言葉から、クローゼはイグシードの理解が追い付く前に、オルゼクスの発揮される魔刃と追い縋る動きを遠隔の盾でかわし更に声を出した。


「ロックした全力で斬れ」

「あれか!」


 イグシードの理解が、六剱を飛ばした事に行き着く。そして、追い付いた認識で彼は攻めの体制に入った。

 剣先を向けられる形のオルゼクスは、その声に黒竜の首を振りイグシードに向けて竜の息吹き(ドラゴンブレス)の予兆を見せていく。


「何か分からぬが、期待はずれでは無かろうな」

「期待しろオルゼクス、行けイグシード」

「信じるぞクローゼ――」


 ――魔改造を繰り返した操作可能型自動防護式アクティブプロテクション

 増えた術式の六つの楯もそうであるが、派生する各術式も、その都度に修正を加えて底上げが成されていた。


 そう、落として来た「思い残し」は既にない。


 その中でも、守る為の最大の拠り所である対象防護(ターゲット)は、最大でクローゼの対物衝撃盾(シールド)対魔力防壁(ウォール)待機状態(アイドリング)と同等を付与する――


 イグシードは発した言葉のままに、大きく開く竜の口腔に剣を向けて加速していく。

 視認するクローゼは、反応する龍鱗が移りながら追従して発揮する魔刃を煌めきで遮り、上書きでは無い重ねがけの直接防護(ダイレクト)をイグシードに連発する。


 発せられる竜の息吹き(ドラゴンブレス)が、イグシードと交錯して複数の盾魔方陣の輝きと共に四散した。

 散り行く光が大地の場景を変えると同等に、イグシードは開いた口に飛び込み、剣勢をぶつけて後頭部に突き抜ける。


 大きな破裂音と共に、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)な黒い双翼竜ダークドラゴンの後頭部が弾け飛散した。

 空洞が出来た空間を抜けた感じのイグシードは、振り返り「どうだ!」の雰囲気になっている。


「抜けたぞ! これなら――」


 イグシードの声と視界の先では、力無く噛み合う竜の口が音を立てていた。


「なるほど、想像以上だ」

「なっ、再生してやがる」

「イグシード、そのまま追撃だ!」


 オルゼクスの出した余裕の感じに、映像として破壊された頭部が再生を始めていた。

 三者の連続する言葉の最後に、クローゼは全力の魔力を乗せた竜硬弾を再生する竜の後頭部に合わせる。


 ――放たれた竜硬弾が再生最中の後頭部に、破壊の光景を追加して魅せた――


 しかし、それすら再生を一時的に止めるに留まっている。続くイグシードの斬擊も、同様の光景を作ってた。


「反則だろ」

「それは獄神の龍装神具だ。なら、反則なのは当たり前だ」


 勇者に驚愕をもたらした、オルゼクスは余裕な感じに思い返しを呟く。その余裕なのか僅かに静寂が訪れる。


「ブロスの言は正しかったのだな。手間をかけた甲斐があった」


 ――オルゼクスはブロスの言葉で、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)の存在を知り、秘匿していた不死王タトナスを従属させるに至る。その光景の事についてだった――


「何言ってやがる魔王! どうでもいいが、クローゼどうする?」

「どうするも何も実体化してるのが壊せたなら、再生する以上の攻撃をするだけだ――」


 クローゼは勇者の盾となり、振り戻し増大した守護者が纏う魔王の魔力でイグシードを攻撃に専念させるつもりだった。


 ――正に勇者を剣とする様相である――


 そんな相応の様子に、オルゼクスが高圧的な言葉を投げ返してくる。そして、動き出す黒い双翼瞳竜の肢体が起こっていた。


「やれるものならやって見せよ」


「言われるまでもない――イグシード、斬れんなら叩き壊せ! 勇者だろやって見せろ」

「おまっ、なっ、てもう勇者とか関係無い。ライラを殺そうとしたんだぞ、それだけでやる理由に――」


 返答と共に動き出したイグシード。その狙う先の龍鱗に、クローゼは魔動妨害(ジャミング)を叩き付ける様に発動する。

 瞬間の魔力抑制は、イグシードの剣擊を演出した。


 恐らくは「なる」で締め括られたイグシードの言葉。映し出した光景は、龍鱗を破壊する聖導の極剣サンクタストの奮える様子だった。

 くだけ散る黒い竜の鱗が、攻撃集中な剣擊の効果を鮮明にする。流石は勇者と感嘆を出す前に、クローゼはその痕跡に竜硬弾を浴びせていく。


 ――竜硬弾の連続装填の音に、魔力を通すクローゼの動きが併さっていた――


 再生を凌駕する破壊の光景。それをクローゼは、恐ろしい程の集中力で成し、イグシードに連続を要求していく。


「そのまま続けろ―― 守るのは盾の俺がやる!」


 無論、発揮される無数の魔刃と黒い双翼竜(ダークドラゴン)の肢体の攻撃を瞬発と煌めきで、捌き弾きかわし打ち消してだった。

 当然、イグシードに向けられる攻撃もまるごと捌く。

 恐らくは、今までで最高の集中力である。単純な覚悟では無く、三度目の魔王との対峙で決着を付ける気であった。


 ――獄神の龍装神具がなんだ。これで最後だ出しつくすつもりでやってやる……纏いし六つの魔王の魔力の全力が、永劫の欠片の魔力で制御され、クローゼ自身に覚悟を踏み越えての決着を思わせていた。


 決意の思考の最中でも、繰り返される勇者の剣をクローゼは見事に使いこなして魅せる。


 時折、魔量充填(チャージ)を投げ捨て、防げるなら弾き返せると魔力反射(リフレクション) で打撃を与え、魔動妨害(ジャミング)を織り混ぜて勇者の攻撃の負荷を消していた。

 また、すり減る魔量を龍装甲天獄(アーマード・プリズン)が放つ魔刃から魔量吸収(アブソーバ)で奪い取りアンカーになる魔力魔量を補っていく。


 それをオルゼクスが纏う黒い双翼竜(ダークドラゴン)の攻撃を捌きつつ、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)の無尽蔵に見える魔刃を瞬発と盾魔方陣の発揮で防ぎ遠隔の盾で逸らして、イグシードの剣擊の破壊に合わせて竜硬弾を繰り出していた。


 ――領域に入ったクローゼ・ベルグを称するなら、恐るべき集中で感覚を研ぎ澄まし、自身にある守護者の力を駆使した「半笑いな魔術師擬き(もどき)」である。

 そして、彼自身の状況を言うなれば「 疾風迅雷で縦横無尽」に動き同等の思考を魅せていた、となる――


 ユーベンの城壁から数リークの距離で、強烈な戦いの様相に行き着いていた。

 その戦いを制御して魅せるクローゼと絶え間なく動き剣を奮うイグシードに、迎撃のオルゼクスの入り乱れる場景が出来ている。


 続き行く階深層(じげん)を越えた力による景色の強制的な変化は、黒い双翼竜(ダークドラゴン)の龍鱗を砕く閃光の煌めきが、発揮される魔刃の輝きと放たれる竜の息吹き(ドラゴンブレス)の光源とで鮮やかな色彩を(はな)っていた。


 鮮やかな場景の最中で、クローゼはこれまでになく深く冷静な思考をしていた。


 ――再生が十なら、打撃が七、いや、八って所か。少し足らない。後一歩、もう一段、更に一押し。

 手数なら、全力ロックはまだ行ける。が、ここは取り敢えず、壊せたどこに硬化機動楯(マヌーバ)の盾を叩き込んでおくか……


 僅かに、ユーベンの城壁を視界に入れて、クローゼの回した思考である。そのまま、思い通りに集中して、思いの具現を彼は強引に追加した。

 そして、イグシードにも要求する。


「足らないもっと上げろ。見てるぞ俺達の想いの女性(ひと)が、格好つけたいだろ勇者」

「お前な! …… ああっ、当たり前だ、言われるまでもない――」


 上がる感じの会話に、オルゼクスが声を張る。


「小賢しい、戦いの場で女とは勇者も懲りておらぬのだな」


 竜の息吹き(ドラゴンブレス)の初動をユーベンの城壁に向けて、オルゼクスはイグシードに言葉の意味を押し付ける。


「止めておけ、彼処(あそこ)にはフリーダも居るぞ。それに、お前こそそんな余裕みせても良いのか?」

「何? どう――」


 指し示すクローゼの先に、オルゼクスの意識が若干奪われる。その瞬間で、遠隔の盾を「シールドバッシュ」さながらに叩き付け言葉を遮っていた。


「オルゼクス、まだ序の口だ」

「そうだ、余興にもならぬ」


「魔王、下らない事すんな。今の俺はそんな事で動揺などしない」


 至って冷静なイグシードの声に、三者がユーベンの城壁に視線を合わせていた。

 奇しくも、三者供に彼らを見つめる視線が同じ場所にあった……



 ……その場所。ユーベン城壁から、遠く離れた場景を見つめる人智と魔解の者達があった。

 ただ、僅かな静寂に至る過程を理解出来たのは、ウルジェラを除けばカレンとアリッサだけだろう。

 エルフやドワーフの戦士だけでなく、フリーダさえも「階深層が違う」の認識にとどまっていた。


 そんな城壁の上の場景で、(しき)りに状況の説明をアリッサに求めるフリーダがカレンは不快なのか、厳しい表情をみせていた。

 その視界に、当たり前の顔をしたフリートヘルムが入って来る。それで、カレンの表情が僅かに変わる。

 それに気が付いたフリートヘルムは、若干自虐的な表情した。


「流石に、移動した先の街の名を言われても、飛べませんので」


 魔導師擬きですからの雰囲気で、フリートヘルムはユーリが転位型魔動堡塁(フォートレス)を使うと続けていた。


「彼は優秀ですね。フローリッヒが褒めるくらいですから」

「……あの二人は?」


 振り返った感じのカレンの瞳には、カルーラとアルビダが各々の主人に話し掛ける様子が映っていた。


「あの二人の侍女だそうです。下で会いました。竜伯の許可があったそうで、副官殿に言われて戻るついでに連れて来ました」


 カレンの問いにフリートヘルムは複雑な顔をした。それで、カレンも更に厳しい顔をする。


「心情は無視か……多くの民を救ったアリッサの功績は大きいと思いますが、些かですね」

「まあ、目の前事がどうなるか分かりませんが、剣を交えた相手とこう話すのは人も魔族もありませんよ」


 呟きからの会話は、複雑な心境で閉じられる。一応に納得を飲み込む二人があった。

 微妙な雰囲気が流れて、カレンがそれを変えるためか声を出す。


「クローゼ……いや、あれも竜伯爵の許可があるのでしょうか?」

「さあ、まあ、見ているだけなら良いのでしょう」


 二人の視線の先に小高い丘が有った。領域の光景からは死角でカレンからは気になる場所である。距離的に三角形の一角になる所だった。

 そこには、四つの人影があり……いや、人狼の四人がいた。


「頭下げろ」

「すげぇ……あの竜が魔王様?」

「薔薇の大将が殺りあってる。そうじゃねぇか」

「ロッシュ、いきなり立つな!」

「れっ、冷静だ」

 

 勇者の容姿を見て立ち上がったロッシュに、アッシュの忠告が通る。混乱するロッシュが慌てて地面に近付いていた。


「……冷静だが、こんな所に来ても大丈夫か?」

「まあ、ばれなけれは問題無い……と思う。兎に角頭下げてろよ」

「レオーガさんもタイグルも出てったし、良いんじゃないか。……おっ、すげぇ、また始まった」


 落ち着きの無いロッシュは、カルーラに「冷静だ」だと口にする様に言われてそれが口癖になっていた。そんな彼は、あまりの場景に冷静さを無くす。


 そして、確認を……カルーラに叱られないかをアッシュ聞いていた。


「まあ、あの二人はやる気な感じだった、(あね)さん。いや、フリーダ様……と薔薇の大将にも怒られるな」

「薔薇の大将って……まあ、それはそれだ。でも、凄いな」

「だろアッシュ。勇者もすげぇぞ」


 マッシュは嬉々として声を出したが、光景が進むに連れて押し黙った。勿論、その他の彼らもである。


 暫くの沈黙が続く。当然、戦いの音はこだましていた。彼らの見る光景は、クローゼと勇者が黒い竜の鱗を砕き、中枢の魔力が流れる輝きを露にするものだった。


「魔王様、押されてるのか。……冷静に考えたら、加勢するのか」

「冷静に考えなくても、俺達のどうこう出来る事じゃない。ロッシュ、暫く見てるだけにしとこう。……いや、逃げる準備だけはしてた方がいいよな」


 アッシュは至って冷静だった。城壁から見られている事に気が付いてはいなかったが、自分たちがその光景には無力であるのを理解して適切に自制出来ていた。


 ――あの人、あんな感じだったか? あれが全力じゃなかったなら、本当に魔王なのかもしれない……アッシュはヴォルグとの戦いの対比で、今のクローゼを見て素直にそう思った。


 アッシュの思いも含めて、隠れ見る四者はヴォルグから信頼されている強者であった。しかし、彼らが無力に見える光景をクローゼは演出していた。そうその視線の先である……



 ……三角形の二点からの視線が交わる先では、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)に蓄積するダメージをクローゼとイグシードは与えていた。

 それは単純に、再生を凌駕する打撃を続けていたという事になる。


 ――再生を越える攻撃を演出したクローゼは、現状でも、発動魔力六分の一魔王。合算魔量が魔王と同等で魔王級。更に「大幅振り戻し」で凌駕するまで見える特異なる者である。

 そして実際にも、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)単体とは勝負になっていた。

 その上で、イグシードの攻撃集中により、現状の結果と『剥がす』に至る流れを見せていた――


 視線と高速三者が交錯して、戦いの場景を生んでいく。勇者イグシードは手応えを感じていた。


「行けるぞクローゼ」

「楽観するな」


 イグシードの声にクローゼは答えたが、オルゼクスの反応が無いのに若干の疑念を持っていた。


 ――これだけやってるのに単調過ぎる。オルゼクスも無反応だ。捨て台詞の一つでも聞ければ多少でも。それよりも、オルゼクスは何処だ? 龍鱗の奥は空洞に見えるぞ……不安では無いが、違う意味での手応えの無さだった。


 現状を見れば確かに、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)を壊している。再生の最中に遠隔の盾を食い込ませて傷跡を作り出してもいた。


 極剣であるサンクタストも、破壊と傷跡をつけている。確かに、神の眷属が欠片を集め模した龍装の武具ではあるが……である。


「おかしい……」

「何がおかしい? 俺の聖導の極剣は届いているぞ」


 動きを止めず、会話を交わす二人に感覚のずれがでた。そして、続く単調さに警鐘の様な輝きが、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)から放たれる。


 ――紫色の強烈な光を放つ光源に、黒い双翼竜(ダークドラゴン)の様相が変化した――


「無粋だったな」


 低く鋭いオルゼクスの声がした。咄嗟に、クローゼは声を出す。


「イグシード離れろ!」

「なっ、てっ」


 深い冷静さが、いや、自身の内から予感か悪寒がした様にクローゼは感じていた。そして、出した声と同時に瞬発でユーベンの城壁側に飛び退いていく。


 それで、クローゼはイグシードと並び、城壁を後方にオルゼクスを見る形になった。


 その瞬間、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)黒い双翼竜(ダークドラゴン)の姿が破裂する。

 衝撃の魔力が全方位に広がり、一面の光景を破壊の場景に変えていく。

 巻き込まれるクローゼとイグシードの周りには、煌めきが多重と無数を刻んでいた。


「なっ、なんだ?」

「なんだって、魔王が自爆しぞ」


 正にイグシードの見解通りに、オルゼクスは自爆した……かに見えた。しかし、その魔力の衝撃波は、一定に到達すると今度は逆に急速な収縮をする。


 振り戻りの波で更なる煌めきが二人を包んで行く。それを置き去りに収縮は爆発点で集約した。


 ――暫しの静寂に場景は冷たさすら感じられた――


「あれはなんだ?」

「人型だ。魔王か? ……て言うかさっきから、聞いてばかりだぞ」

「イグシード、そんな事言ってる場合じゃ……ないと思うぞ」


 クローゼの「なんだ?」は当然オルゼクスである。

 ……場景の中心で、黒の階調(グラデーション)て映し出された墨色の全身鎧(フルフレート)を身に付け、六枚の翼を広げた様相である。


「希望など与えるのは無粋であった。認めようお前達の力を。それ故我も全力で答えてやる。これが見つけたままの姿で、龍装甲天獄(アーマード・プリズン)と言うらしい。神のみが纏える龍装神具だと……それで分かるな、我の力が」


 オルゼクスは言葉と共に、三連の双翼を広げクローゼ達と視線を合わせる位置まで上がっていく。


 恐らくは僅かな間で、三者が平行の空間を共有するかの光景が出来てきた。その光景を見るクローゼとイグシードは、顔を見合せてからオルゼクスを凝視する。

 そして、たまらずイグシードが声を投げた。


「今までのは余興か魔王?」

「比べてみよ――」


 オルゼクスの言葉終わりと同時にイグシードは弾け飛び、地面に爆発かの土煙をあげる光景の元となった。


「なっ、あっ」――いきなり殴りやがった。イグシード大丈夫か? それもだが、速すぎるだろ……見えはしたが、という辺りのクローゼの思考だった。


「どうだ? 結局は余興であったな、クローゼ・ベルグよ」


 大きく翼を広げたオルゼクスが、クローゼに見せる表情は、僅かに笑っていた。それに、クローゼは口角を上げる。

 ――堕天使かおまえは……些か掴み難いクローゼの思考である。


 彼の心情は別に、一応に開けた幕は凡そ第二幕に向かっていった……。



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