十八~クローゼの自信……取り巻くは人智の力~
魔王を迎え撃つ状況を作り上げた、ユーベン攻略戦を終えて一応の静寂が出来ている。
そこに至る過程で他方に目を向けるなら、相応な状況が進んでいた。
パルデギアード領内では、反攻の準備が整ったノエリアが魔族の情報を精査して的確に行動していた。
占領された各都市にばらけた魔族らを各個に撃破して解放をもたらし、それを継続させる軍を振り向ける。
そして、自身は亜人の軍の助力と最精鋭を率い、軍としての体裁を辛うじて保つ暗黒の兵団を中心とした魔族の軍と対峙していく。いや、既に戦端は開かれて結果に至っていた。
「これ程の軍。私がする事は無さそうだな」
ノエリアが側近に漏らした声になる。……正攻法の正面攻勢。奇策などを用いるまでも無く、将帥の責任を全うするだけで良い。そんな光景だった。
戦力は魔族の凡そ二倍。強力な突破力をみせるドワーフに、的確な精度の矢を放つエルフが連なる布陣である。
それに、パルデギアード帝国の残存兵力では最精鋭を集めて、レオン・イールギア・デル=ソルが戦場を駆けていた。
そして、言葉通りの戦場を後方で見る女傑ノエリア・パルデギアード・デ・テルセーラが、言葉とは裏腹に混成の軍を的確に連動をさせていた。
対して攻勢を受ける魔族の主力は、暗黒兵団の主軸だった、フィール配下の魔道衆二千とドレッドの魔闘衆三千――魔獣騎兵――になる。
ただ、五万程いた魔王軍は各都市に散り、今や三分の一となり攻勢を支える事が出来なかった。
「ドレッドに伝令して、あの『フンフン』言ってる奴ら何とかして貰って……あいつら魔力効かないんかだからこっちじゃどうにも出来ないよ」
「フィール様、逆にドレッド様からエルフどもの矢を何とかするようにと伝令が……」
「さっきの遠吠え……それなのか……」
混戦の中で的確に敵だけを射ぬくエルフの矢に、レオンとやり合うドレッドは打つ手を無くしていた。
「くそっ、一方的か」
「気持ちが散漫だな! 剣を交える相手がいるのを忘れるな――」
レオンが走らせる剣で、ドレッドの意識を自身に促していく。
「調子にのるなよ、一対一なら負けぬわ」
「ここは戦場だぞ魔族!」
彼らの周りでは、魔獣騎兵とパルデギアードの精鋭――魔王軍との初戦を最前線で戦った者達の生き残り――が剣を交えていた。
勿論、エルフの引く弓の支援がある。ただ、レオンと同様にあの場面を経ても戦場に立つ者達だった。
剣を交える場景に写し出される結果は、ドレッドが出した「一方的か」の言葉通りになる。
結果が見える場の中心で交錯する二者。
一方は、魔王の強さを知り何かを振り切ったレオン。もう一方は、死黒の兵団長に届くかの力を持つドレッド。
ただ、クローゼの領域を知るヘルミーネと互角を見せたレオンの剣勢はドレッドを凌駕する。
激しく重なる剣擊の音が続いて、その終着は……ドレッドの肢体をレオンが斬り裂く剣だった。
断末魔が響き、攻勢は人智の側に明確に振れた。
その振れは中央にいたフィールの元に波及する。ドワーフの突破に戦力を向けて、正にエルフの一団に魔導衆による魔力発動をする直前だった。
一陣の風が場を切り裂いて、一角獣の馬体が唐突に現れる。
フィールの驚愕が、先頭のラルフ=ガンド・アールヴの姿を捉えていた。
「エルフ? 魔法か……何だよその魔力!」
フィールが見たラルフの魔力は、新たに契りを交わした第九階層の極烈風の精霊の魔力を精霊の弓ガンドストラック乗せて引き絞る姿による。
六階層の雄風の精霊の力で風陣の走破をし、戦力が移動した間隙を抜き、采配をするフィールをラルフは捉えていた。
「ノエリア殿の言った通りだな」
全体の動きから「戦列に間隙が出来る」と呟いたノエリアの言葉に、ラルフはこの動きを進言し実行した。
そして、思惑通りに突き抜けてガンドストラックを一閃する。
――天空に向けて飛び出した矢が無数の軌道に別れ魔導衆の一団に降り注ぐ――
一閃は致命傷を与え場を制圧した。そし て、続く引く弓が初射を魔力で防いだフィールに向けられていた。
「これも言葉通りだな」
「何だよお前! 魔力の動きがへ――ぐはぁっ」
「この辺りが敵の中心」と言うノエリア見解をラルフの初擊を防いだフィールの存在が裏打ちした。
認識を持ったラルフの呟いたままな烈風の一矢が、フィールに届く。今度は一矢に全力が乗り、魔力の防壁を突き抜けていた。
「痛ったいぃぃって――」
辛うじて断末魔では無いフィールの声。だが、有無を言わさぬラルフの二射目がフィールの口を塞ぐ。
「『そりゃ痛いだろう』彼ならそう言うな」
崩れ落ちるフィールを冷静に見るラルフが、「彼」と言ったのはクローゼである。
「男だろう使ってみせろ」と渡されたガンドストラックが彼を変えた。「認めて貰う」を欲した彼が、父王たるアルフ=ガンドに認められ、後ろ向きな感情を捨て本来の力を出した様である。
精霊の王たるエルフの王を継ぐ者が、パルデギアードの戦線で存在感を示した。
あからさまな打撃で魔族の戦線を崩したレェグルら氏族の戦士達と共に、ラルフもパルデギアードにその名を刻んだだろう。
彼の一撃で楔を失った魔族の軍は崩壊する。部衆はそれなりいたが、集団を統率出来る程ではなかった……
……決着を告げるノエリアの言葉に、残りの各都市の解放に向かう彼女の決意が出てくる。
「依然として、抑圧された民がいる。これで終わりでは無い、今一度気持ちを整えよ。……方々も今暫くの助力を願いたい……」
ノエリアの向ける気持ち先は、勝手に占領域で拠点を持った魔族らになる。伯や候と言った魔族も魔王軍に参加していた。彼らは、サバルの死で各々に理由を付け占領域に散っていた。
ただ、魔解の王に届く者は居ない。それ故に、ノエリアの行動を阻める者はいないようにみえる。
パルデギアード領内に、魔解の王が居ないのは帝国にとって幸運であったのだろう。
しかし、魔王軍に参加した……いや、魔王の下についた魔解の王ら二人の現状は、幸運であるとは言い難かった。
暗黒のサバルの意向で北に向かい、結果的に人智の軍に敗れ敗走し追撃を受けていた。
度重なる追撃で南へ向かい小高い丘を越えた辺りで、マリス=マグナとデースペアは顔を見合わせる。彼らの周りにテンバスはおろか、他の魔族に魔獣や魔物の影も無かった。
「あの女どもしつこいな。……傷が治る隙もない」
「俺も魔力の回復が追い付かない。ここより先は怪しい処だ」
彼ら自身の状態を互いに見て納得の顔をする。
「直ぐ来るぞ。……俺も魔力が尽きかけている。これまでか?」
「エクプリスの王が弱気だな……まあ、確かに後は行ける所まで斬り倒すだな」
魔解では敵対関係だったマリス=マグナとデースペアは、現状で双方に背中を預ける形になっていた。
「途中で魔解に戻った方が良かったか?」
「それを言ったら、傍観している他の王らの選択が正しかった事になるぞ」
「そうだな……足掻くか……ユーベンまで戻れば何とかなるか」
弱気を見せたマリス=マグナに、デースペアの言葉が向けられる。思い直しが出た所で、丘の上に駆け上がった騎影が見えてきた。
「いたぞ――」
丘の上の騎兵が彼らを発見して声を出した。その様子にマリス=マグナはデースペアを見る。
「逃げ切れるか」
「まともなら造作もないが……仕方ない」
「お前とこうなるとはな」
「いがみ合っていた頃からは想像も出来んなマリス=マグナ……」
「デースペア……俺もそう思う」
丘の上から駆け降りる騎影に視線を向けて、会話を交わす魔解の王達。二者に覚悟が見えて相応の体制を作っていた……。
……駆け降りる一軍は、竜装騎士団と白牙騎士団である。僅か二者の魔族に数千の騎兵が追撃をかけていた。
「ここでとどめを刺す、全力でかかれ!」
「竜装騎士団に遅れをとるな! 私に続け!」
シオンとテレーゼの声が、駆け降りる丘に続いていく。彼女達の声に呼応して、各々の集団から騎兵が飛び出し襲いかかる。
「副団長の仇だ!」
「逃げ切れると思うなよ」
何度かの戦闘で削り現状を作りあげていた彼らは、魔解の王をものともせず突撃を仕掛け、突き出す剣先から竜硬弾を放った。
飛び出したのはクレーヴレストに連なる者達。無論相応の騎士達である。
僅かばかりにマリス=マグナとデースペアを捉えた竜硬弾の返しは、振り絞る魔力の波であった。
魔力発動をまともに食らう彼らの後ろから、防御術式の刻みを飽和しダメージを与える流れをシオンの真力の波動が、馬体ごと包み消し去っていく。
――治癒の力を促す魔術では無く、根本的に回復させる神聖魔法になる――
「あの女!」
「マリス=マグナ来るぞ!」
一瞬の流れを当たり前に受け入れて、駆け抜ける竜装騎士。突き出した剣は斬り抜けるに変わっていた。
「見せなさい王国騎士の力を――」
シオンの声に重なり何騎もの弾ける光景が起きる。しかし、マリス=マグナもデースペアも肢体から無数の鮮血を出していた。
「くそっ、デースペア無事か?」
「取り敢え――うぐっ」
抜けた竜装騎兵に呼応する様に、ボルトがデースペアに無数に突き立っていた。その出先は、側面から回り込んだ白牙騎士団の先駆けた一団が、旋回するように走る場景からだった。
そして、テレーゼはシオンの動きを見て、白牙の一団に声を上げる。
「正面の邪魔をするな――」
「ヴェッツェル殿感謝する」
交錯を避ける白牙の先頭を促したテレーゼに、シオンの返す言葉に乗り、正面の竜装騎士が魔解の王らを馬蹄て踏み潰す勢いで襲い掛かっていた。
その前方で銀白乃剣が輝きを放つ。
――慈愛なる刃――
聖騎士シオン・クレーヴレストの美しい騎乗姿勢で突き出された剣先から、純白の刃がデースペアを突き抜けていた。
「ぐふぅ」
「デースペア!」
光が重なる隣を見て上げた、マリス=マグナの声に無数の馬蹄が重なっていく。
「貴様は直接この手で斬る!」
「人ごときが――」
突き抜けた純白の刃が、シオンの返す剣の動きでデースペアを切り裂いていた。雪崩れるような集団が崩れるデースペアと怒気を見せるマリス=マグナと交錯する。
シオンを先んじて加速した馬体は、マリス=マグナの奮う剣で弾けたが、シオンのかわす馬体の捌きは美しさすら魅せていた。
そして、全身全霊を向けたシオンの剣はそのままマリス=マグナの首筋に届く。
「なっ、おん――」
言葉を投げ放つ途中で、マリス=マグナの視線が宙を舞う。回転する彼の視界は、駆け抜けるシオンの後ろ姿を捉えていた。
――ばかなっ……僅かに残る思考には、馬蹄に踏みにじられる自身の身体が刻まれていた。
マリス=マグナの視界を置き去りに、駆ける六剱の騎士の美しい騎乗姿勢が場景を抜けていく。
魔解の王を追い詰めて、まとめて斬り棄てたシオンは行きなりの勢いを殺して手綱を絞った。分け行く騎士達が彼女の横を通り抜けていく……。
そこには、踵を返す者や隊列を指示する声が場には出ていた。そして、斬り裂いた場景の中心にあった屍をシオンは見つめている。
そこに近付く騎乗の白い黒の六楯。
「お姉様大丈夫ですか?」
「ヴェッツエルど……テレーゼ、それはやめてほしいと言った筈だ……」
「何か思いつめた顔をしていたのでつい」
悪びれる感じも無く話すテレーゼに、僅かにシオンの肩の力が抜けていく。
――追撃を担った前衛の先陣で、シオンが見せた采配にテレーゼは感嘆を向けていた。そして、尊敬の眼差しで掛けた呼び名で、激怒された経緯があった――
「私はそんな顔をしていたか?」
「今は大丈夫で……素敵です。あっ、えっと、一応付近は警戒させています。目的は成したのですよね。父上の……いえ、本軍に戻りましょう」
シオンには難しい表情に至る経緯がある。ただ、テレーゼの雰囲気が戦場を駆けるそれとは違っているのに若干の戸惑いを持っていた。
悪い意味ではなく何か違った感じではあるが……。
「そうだな」……とシオンはテレーゼに呟いて、続いて全体に「隊列を組み直せ本隊に合流する」と声を出していた。それにテレーゼも答えていく。
「では我らも……カミル準備をして」
頷きを向けたカミル・フェヒナーは、テレーゼの相変わらずの雰囲気に困った様子を隠していた……。
そんな様子もお構い無しなテレーゼの言葉通り、目的は果たされている。選択肢もそれで正しい。
ユーベンでの結果如何にか関わらず、北部の各都市の解放が先決であるの判断で、統べる者達は動いていた。
一応に動き出した人智の軍は、最終的に打倒魔王に集約していく。それは、ユーベンを遠巻きにしてその結果を見る事になる……
……クローゼが当然の様に魔王はユーベンに至ると思っているのが前提であるが、彼の明確で絶対的な自信がその選択を容認させていた。
「根拠は?」の部分で当然議論を呼んだ。しかし、ウルジェラの百眼が魔王の動きを捉えているのを含めて、自身の王と皇帝に自分が魔王の魔力を持つと告げて「自分ならそうする」と言い切ったのをアーヴェントが丸呑みにした結果であった。
そして、ユーベンにおいて、魔族の動向に過剰な制限を与えず、オルゼクスにわたる情報を遮断していなかったのも彼の自信に拍車を掛けていた。
「魔王を待つ勇者も凄いだろ」
笑いながらアリッサにそう言って、ユーベンの街並みを魔王然とした雰囲気で動き回るクローゼは、フリーダにオルゼクスを呼ぶようにすら言っていた。
呆れた顔でイグシードが「来なかったらどうするんだ?」と告げた時でさえ平然とした顔で言い切っている。
「来るさ、お前と俺がいるんだ。オルゼクスが興味を示さない訳ない」
「どんな自信だ……まあ、俺も借りがあるから来なかったら行くけどな」
しかし、「倒せるのか?」の話にはならない。ユーベンに集まっていた者達も、クローゼの平然とした態度に深く追及していない。ただ淡々と準備をしていた。
真紅乃剱に究極の牙騎士は既にユーベンにあり、セレスタもレイナードも護衛の任が終われば戻る手筈になっている。
ミラナもまた、ニナ=マーリット王女をレニエに託し、ヴァリアントに送り届けたアレックスと共に戻って来る事になっていた。
当然、強襲部隊も竜擊機動歩兵もいる。それに加えて、エルフにドワーフの戦士も何人かユーベンにあった。
クローゼが考え付く者たちが往々に集っていたと言う事になる……。
そして、 魔族がある街並みに彼が思う精鋭がいるという異質な雰囲気の中で、クローゼはアリッサを伴いフリーダと共に、イグシードを連れてヴォルグの屋敷にいた。
当たり前にヴォルグに会う為である。
ただ、出迎えたメイド長のルヘルに、クローゼは何度目かの困った顔をした。
「ルヘルさん、何度も聞くが良いのか?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、お仕えする主が御二人ともあの様な御身体ですので、私が御屋敷を離れる訳には参りません。それに、ビアンカ様の事もありますので」
「そうか、貴女が良いならそれでいいが、何か有れば転送の魔装具を使ってくれ」
「御配慮感謝します」
簡単な会話の後にクローゼ達が通された部屋には、中々の顔ぶれがあった。
著実に向けられる殺気にイグシードが反応する。
「やる気満々だな」
「イグシード様御配慮願います」
思わず出たであろう勇者の言葉に、アリッサが声かけをしていた。
彼女の言葉に「ああ」の雰囲気へイグシードが移り、そこにクローゼは口を挟む。
「アリッサ。『様』なんか付けなくていい」――と言うか何で集まってる? ……ただ、出した声と意識は別の方向に行っている。
そんなクローゼの視線にも、当然に紫黒の兵団の彼らの顔が並んでいた。
「やる気なら相手になるぞ。特にそこの二人」
「クローゼやめよ。『ヴォルグを見舞う』のではないのか? 」
「それはそうだが、勘違いしている奴は倒しておかないと」
レオーガとタイグルは、他の人狼達と違って結果しか知らない。それ故あからさまな態度がでていた。
そのクローゼとフリーダの会話に、不安な表情のビアンカを見てヴォルグが声をだした。
「お前。で、何しに来た」
ベッドに半身を上げてヴォルグはクローゼを見ている。あの後会うのは今回が初めてでは無かったが、流石に状況が良くはなかった。
「見舞いだ。……大分賑やかだから驚いたがな」
「あれだ、で、たまたまだ」
「集まるのは別にいい。こちらの件に協力してくれたのは感謝してるしな……ただ、勘違いしている奴がいるようだから言っておく。ヴォルグより弱い奴は俺のする事に干渉するな。今もこれからもだ」
あからさまにクローゼは、レオーガとタイグルに威圧的な視線を向けていた。
「もし、魔王が来たら『どうにか』と思っているならやめておけ、余計な手を出すなら真っ先にそいつから殺す。何を置いても全力で俺が殺す。……ヴォルグは約束を守ってくれたから俺も約束は守るが、余計な事をする気なら――」
「クローゼ、そのくらいにして。ビアンカが怖がってる」
威圧感が半端では無くなったクローゼに、アリッサが声を出していた。若干本来の目的からずれていたのを止められた形になる。
彼女の声でクローゼは「はっ」となりビアンカの怯えた感じの表情を目にする。
「あっ、ビアンカ……悪い」
「ビアンカ恐れる必要はない妾がここにある。それに皆も手など出す必要もないぞ」
フリーダの当然の顔にビアンカの表情も僅かに落ち着いた。何故かそれに安堵の表情をクローゼは見せる。
「まあ、意味はあれだが……結果が出てから動け」
「意味が、で、分からんなお前」
「ヴォルグ、魔王とやり合った後でどうするか話す。それまで動くなって事だ」
「お前……。で、勝てるのか?」
確信に触れるヴォルグの言葉に、クローゼは真剣な表情をする。
「お前に勝ったんだぞ……負けるつもりはない」
「妾も魔王様が負けるなど思ってもおらぬぞ」
「ああ、そうだな。やる前なら分からないな」
「なんだ。 で、どっちだ?」
「だから、負けるつもりは――」
会話が一回りを見せた辺りで、クローゼの通信機が共鳴の光を発した。
受け入れるクローゼが通した魔力で、向こう側の声がする。
「閣下、至急東門までお越し下さい」
「……わかった」
クローゼは、ユーリの言葉に状況を理解する。フリーダは若干高揚した顔をした。
「魔王様が来たのであろう。……それで飛ぶのか? ならば妾も連れていけ興味がある」
フリーダはクローゼの腕を指してそう言っていた。
「お前な……自由過ぎるだろ」
「そちに言われとうは無いな。クローゼ程自由な男は見た事がないぞ」
緊張感のない感じに、イグシードは「先に行くぞ」と動き出した。
遅れてクローゼも魔装具に魔力を通していた。勿論、アリッサとフリーダを連れてである。
「どんな感じであるのか……アリッサは経験があるのであろう」
魔方陣に消え行く最中に、フリーダはアリッサの困った顔を引き出していく。
当然、クローゼは苦笑いの部類だった……。
残光を残す魔方陣の行く先は恐らく予定調和である。
遅くなりました。次回も遅いような感じです。




