十四~ユーベン攻略戦……黒装と獄装~
一幕の舞台上がる魔解の側は、言うまでも無くミールレス……魔解のインジニアムを統べる魔解の大公になる。
彼がクローゼを不本意で帰してから、人智の軍勢がユーベン近郊にやってきた。
選択肢の少ない中で、魔族らしい前降りを終えて戦局は動いていく。その最中でミールレスは、采配など「どうでもいい」との思いに至っていた。
――突き抜ける強さの前には数など関係が無い。その認識だった――
ミールレスは平静な雰囲気で、巡る戦況を無言で捉えていた。
見据える戦局の中で、突然出来上がった砦に至る過程を見て、ミールレスは軍を前面に進める。
意図的な部分を除いても、遠吠えがもたらした結果の上の選択になる。ただ、明らかに無視されたマッシュとロッシュら、紫黒兵団の憤慨な部分が大きかった。
そして、眼前に見覚えのある黒装の男が、敵の布陣と入れ代わりで騎乗姿を晒すのを彼は視認する。
意味合いは別に、ミールレスも相応の様子を出して、自軍から軽い爪音を進ませていた。
「これ見よがしだな」
「ああ、色々ある」
何が色々なのかは、歩み出た互いの認識によるだろう。声を聞いたミールレスは、出したレイナードに「やり返す必要がある」借りがあった。
勿論、レイナードもその認識はあるが、色々の意味は恐らく別である。
「我と一対一を欲するか」
「どうでもいい」
「お前と我だけだ。これでどうでもいいとは些か意味不明だな」
「話すだけでもいいぞ」
ミールレスは自身の状態が余裕を呼び、会話をさせていた。懸念なら些かはあるが、目の前の一人なら遅れを取るとは思っていない。
――前回は『二対一』。雰囲気があからさまに変わった奴がいなければ、目の前のは造作も無いだろう。……そのままの感情だろう。
しかし、造られた腕にはめられた竜水晶が震える様をする。……剣心だった神具の欠片が、共鳴らしきをミールレスに向けていた。
一瞬の揺らぎがミールレスを抜けて、言葉と裏腹にレイナード雰囲気が変わるのが見える。そして、僅かに魔解の大公は声を出した。
「話す必要など無いだろう」
「そうだな」
黒千の感じた中には、ミールレスの強さもあった。しかし、大半が「必要無い」に同意したレイナードの気持ちによる。
跨がるを唯一許した男の覚悟に、不測を感じていた……その辺りだろう。
――戦場で多数に向けて駆けた時ですら、ここまでの覚悟は感じられなかった。馬の彼がそれを理解し、不安を感じていたかはわからない。
ただ、高揚する発汗が黒千の気持ちを表している様だった――
静寂が瞬間を抜けて、レイナードの呼吸が僅かに止まる。交錯する緊張感を愛馬は感じていた。
その刹那、主人の鼓動が黒い馬を動かし、爆発的な飛び出しを映し出す。それが、会話の出来るギリギリの距離感を消していた。
――襲い掛かる黒装槍騎兵の雰囲気が、ミールレスに迫って、その鋭さを露にしている――
愛馬――黒千――に合わせる様に絶妙な間で、レイナードの一閃がミールレスに襲い掛かる。
それに「必要無い」から臨戦で、ミールレスが応じる魔力発動を合わせていた。出しうる最大魔力の発光が伸びて、迫り来るに向かっていく。
光源にレイナードは、魔斬の流槍を一閃のままで斬り流し、分け行く場景の両側で破壊の粉塵を作っていた。
――驚愕が場を通り交錯するは継続をみせる――
当然に、魔力を切った勢いを殺さず、レイナードの切り返す斬撃がミールレスの肢体に迫る。
それをミールレスは間髪でかわし、駆る魔獣の爪で土を掴み、すれ違う様に距離をとっていく。
交錯する場景が流れていた。……斬撃は行きなりで弧を描き、踵を返す黒千の行く気をレイナードが絞る動きをした。
相対の距離が双方の様子を鮮明する。
当たり前に、「かわすのか」を見せるレイナードと偽紫色の魔力の障壁を纏ったミールレスの姿があった。
義手……いや、偽りの右手からは、神具の剣心が魔刃の剣を具現化している。離れ開く距離程には「触発」への間隔は見えない。
ただ、依然として余裕なミールレスが、「斬り捨てた」に疑問を見せていく。
「その槍か?」
「そうかもな」
「大雑把では倒せぬか。……我の手を切り落としたのは紛れでは無いのだな」
「それは知らん――」
短い会話で、ミールレスがある種の納得を見せる。それがレイナードの奮う槍を誘発した。あくまでも騎乗……駆ける愛馬の躍動で、レイナードは槍先をミールレスに向けていく。
鋭く伸び迫る勢いに、手綱らしきを捌くミールレスが魔刃の剣を合わせてくる。……魔獣を駆るというよりは、行く気で引きずる雰囲気だった。
集中と集約の激突が場景に続く勢いをみせる。
出された刃に合わせて、レイナードは突き出す軌道から斬撃に変化していた。槍振る動きを背に、黒千の行く気は魔獣の牙を物ともせず、馬体をぶつけるかの距離を作っている。
馬上では、レイナードの奮う槍が、洗練された剣とは違う荒々しさと力強さをみせる。
その上で黒千との一体感が、ミールレスとの衝撃の重なりを作り、弾ける刃の連続が場景に音を奏でる紙一重を魅せていた。
「付属では無かったのだな」……ミールレスの言葉に、無言で槍の連撃をレイナードは返していた。
単純に、携える武具と騎乗でなら遜色は無い。そんな戦況であった。
ただ、それを越えるなら……掛ける物の向こう側に踏み込む必要がある。至極単純な認識が、レイナードに覚悟をもたらす。
不適な笑みをみせるミールレスに、覚悟の上を踏み越え奮うレイナード槍先――。
王国最強剣士が奮う槍術は、彼らの継がれる剣の美しさとは対象的に豪胆な軌道を走っていた……
……魔動遠眼鏡越しから、肉眼に変わったオスカーとスティルは、本物の戦場で本気の師匠を追っていた。
幼年らには、許容範囲を越える戦場の果てで、純粋に突き抜けた光景が小さな瞳に映り込んでいる。
――行き交う応酬が激しさをまして、双方の肢体に届く光景が出来る。そこに、爪と牙が裂くと馬蹄や馬体を叩き込むが強烈を付け加えていた――
無言で、年齢不相応な毅然ののまま、二人は微かに震える様だった。
大師匠であるジワルド・ファーヴル客子爵からも、「才能に恵まれる」と言われた彼ら。しかし、見たまま年端もいかない子供である。震える感じがそれを現していた。
その様子に、後ろに立つ二人の男女の内、帝国騎士たる彼女が、彼らの肩に手を掛けて安心感を与える雰囲気を出した。
「大丈夫。あなた達の師匠は強いから」
自然で柔らかな笑顔に、見上げる二人の震える感じも落ち着きをみせる。
「そんなの分かってるよ」
「僕もそう……思ってた」
ヘルミーネを見返すオスカーとスティルの言葉に、彼女の掛かる手と表情が、更なる安堵を呼んでいた。
――クローゼと勇者の立ち合いの後、ヘルミーネはいつもの鍛練の流れで「全力でこい」の言葉を聞く。
当たり前の言葉から思いに至り、彼女は吹っ切った感じに「本気の全力」でクローゼに挑んでいた。
その為、相対的に彼女はレイナードの強さを知っている。……無論、試合いはしないが、レイナードとも手合わせを彼女はしていた――
前方に視線を戻すヘルミーネ。彼女は、レイナードの動きを追って思案の表情する。
――意図が変わった? ……軽い疑問は、更なる状況で明確な言葉になる。
「ユーリ、誘導してる様に見える?」
「……ああ、あの場所に誘ってるんだね」
「私にもそう見える。狙いが変わったのだから、引き際の援護には行くべきだ」
クローゼの副官の彼は、雰囲気が柔らかくなった彼女の言葉をセレスタに送り、「機は貴方に任せる」の言葉を受けて準備の指示を出していく。
その過程で、自身を整える暗い金髪の髪色が風に揺れる様に視線を落としていた……。
――待ち人未だ来ず――
状況がレイナードに「倒す気」を見せさせ、ミールレスの高揚感を誘っていた。
魔王然とした、魔解の大公たるの上がる口角に合わさる剣が、槍の刃との激しさを積み重ねていく。
光景では、人馬共に彼ら自身の域を越えていた。
その様相を紫黒兵団の強者達は、固唾を飲んで見守っている。その中で感嘆が漏れてきた。
「す、すげぇ」
「我らはどうする?」
マッシュの声に人豹の女型が僅かに合わせる。
――ヴォルグの超越は、彼女らの体感で尋常ではなかった。その領域をみせるミールレスに只の人が追従している。……単純な驚きだった――
「エルフィア、冷静だ」
「私は冷静だ!」
ロッシュの意味不明に、エルフィアと呼ばれた人豹の女型が憤慨の様子になっていた。その様子に静寂が消えて、各々に声が漏れてざわめきになる。
そこで、マッシュの声が唐突を見せた。
「すげぇ、上がりやがった!」
「マッシュ、冷静だ」
「まだ上があるのか」
最初の言葉はレイナードの槍技の発動による。
流動が駆け巡る雰囲気で、鍛え上げた肉体が躍動していた。一段上がったレイナードに、出血で黒い馬体に深みを増した黒千がその域に追従する。
――正に黒千も何かを発動し、追従するかの様だった。……二騎の競演の舞台に、魔獣を置き去りにして見せていた――
迫り行く、鍛え抜かれた肉体を軋ませる槍技。魔力の流れを全開で合わせ、「繰り出す連続の突き」がミールレスを押し込み……余裕を奪っていく。
恐らくは、人智の者で最強の男。その全身全霊に、槍心「ニグレイドル」が嬉々として連撃を衝くに至る。
――障壁を越えて獄鉱石の鎧を貫き、鮮血が抜き放たれ飛沫を上げていた――
ミールレスの肉体が、受け入れられる傷をつけられて、同様に与える迎撃の剣を見せている。
ただ、余裕が無くなったとしても元々準魔王級。
その上に、魔王の装備と剣心の具現を持つミールレスの一応に、彼の本気を引き出し「魔王然」を浮き立たせただけ見えた。
「人智の者にしてはやる――」
レイナードが、踏み越えた勢いをミールレスの本気が飛び越える。
現状まで、致命打を与える迄にはなかったミールレスの剣が、明確に「より以上」を刻んでいた。
場景は、魔斬の流槍の突き出した刃が空を斬り、ミールレスの魔刃の具現が伸び、そのままのレイナードを襲っていた。
――向けられたレイナードの黒の六循の兜は欠け、肩口には裂き斬れた傷が「魔王然」を認識させる――
交錯の後、認識の距離で静止して、互いの口角が僅かだが上がる。
「何処を見ている?」
ミールレスが確認を向けた言葉は、レイナードの不敵で不明確な表情の先の事だった。
ただ、唐突に向けた意識のままに、ミールレスの視点が下がり崩れる。
「なっ、ぐっ」
僅かな声の先にミールレスが見たのは、第十の牙ヘルミーネ・ファング・フローリッヒが、低く飛ぶ感じに走り魔獣の四足を斬り抜けた背中だった。
「乗れ――」
明確なレイナードの促しが、走り抜ける彼女に掛かる。ミールレスの落馬な光景を置き去りに、ヘルミーネが勢いを返して土を削っていた。
そして、声に答え飛び込む様に手を伸ばし、彼女は自身をレイナードに預ける。
引き上げる様と「行け」と黒千の掛ける声がほぼ同時で、弾丸の様な飛び出しを起こしていく。
レイナードの後ろで、黒千の背にあるヘルミーネが僅かに振り返った、離れ行く光景には起き上がるミールレスがあった。
彼女の視線には、「助かった」……とレイナードの声に被さる様に転位型魔動堡塁 から、ミールレスに向けて、多身式回転連続竜擊筒の破裂音の連続と魔動大筒の黒と新型の号砲が迫り炸裂していく。
全力の火力がミールレスを襲い、場景を弾けさせ視界を遮っている。前方の転位型魔動堡塁で、目を凝らすユーリの号令は、響き渡る音と爆煙に掻き消されていた。
「やったのか?」
状況認識と判断に優れる、遠くを見る目でユーリは誰でなく自身に確認を向ける。視界の隅には黒い弾丸の騎影が映っていた。
一瞬揺らした彼の視線に、下からセレスタの声が届く。
「状況は?」
「視界不良で現状不明です」
「第二射目を準備して、続けて確認はお願い。……今ので敵は動く筈。残る各隊は前方の攻撃に備えます」
セレスタの指示にユーリは答え、その場に命令をする。下側では続く彼女の大きめな声に、槍騎兵と竜撃歩兵が動き出していた。
……継続的にユーリは、視線を交錯した不明な状況に向けて、舞い落ちる破片が収まるのを認識する。
「駄目なのか……」
一応に落胆の表情がユーリに見える。瞳には、立ち有るミールレスの姿が映っていた。僅かばかりの損傷は見れたが、倒す迄には至っていない。
その状況は、踵を返した二人に並ぶセレスタと淫靡なる夢獄にも見えていた。
「流石に無傷ではないが、魔族の域は越えている様だな。仕方ない我も出る。三人であたるぞ、倒せるかは些かゆえ覚悟を決めよ」
レイナードに魔力を通すセレスタを越えて、ウルジェラの視線が戻ってきた二人に向けられていた。
当たり前に不満な顔をセレスタはする。
「私も――」
「来てんぞ、誰が指揮すんだ」
傷口が落ち着いたレイナードが、ユーベンの側を指してセレスタに告げていた。それに、ヘルミーネの「お任せ下さい」が冷静に続いていた。
「クローゼを呼び戻せば――」
「セレスタ落ち着け。あれも恐らく手が離せん」
「それは……」
セレスタの促しで、ウルジェラが百眼を使い見たのは、左翼方向に現れた鉄黒の兵団一万二千だった。
――徒歩兵力で竜相の人型。竜魔の一軍が槍ぶすまの様相で襲い来る状況だった。
それは、クローゼが八本腕を解体して、三体目に掛かる最中になる。
新手に、「後退と再編で迎撃を」とクローゼは連呼して、戦意が落ちた左翼を声を走らせていた――
セレスタも状況は分かっていた。
崩された左翼は不本意だが、大半が傭兵で信念を持つ訳ではない。聖導騎士団は、高い志しを持つものの現状「人外の強さ」の流れに翻弄されていた。
「分かりました」
動き行く戦場にセレスタは、馬の背から降り立つ三人を見て、自身のやるべき事に理解を出した。
送る背中に、視線を合わせて更に声をだす。的確によく届く声で明確な指示を出していた。
「全隊竜撃戦用意。盾の壁を使って、十分に引き付けてから攻撃する。……転位型魔動堡塁隊は前面からの敵に向かう。ユーリ、指揮を任せました」
命令の伝達が連鎖を見せて、ユーリの頷きが続く。
その流れに、後ろから黒装槍騎兵の第二大隊の中隊長の何人かが、セレスタに近付いていた。
それに黒千の嘶きな僅かに漏れて、セレスタは振り返った。
「リーアムの小隊を護衛に残します。今の話なら、強力な個体の何体かは我らが相手をすると言う事でしょう」
実質的に、第二を指揮する壮年手前の元副長のバイロン・サマーフェイズが柔らかい顔をしていた。
「サマーフェイズ……殿」
「本来なら、護衛隊を付けたい所ですが、塔も大事ですからね。まあ、負けぬ所を集めたつもりです」
「それでは……」
「始めのあれよりは楽でしょう。まあ、大丈夫です。まだ、貴女の御父上の小言を受ける気はありませんから、それに我らはヴァンダリアの槍騎兵です。強いですよ」
軽い笑顔をバイロンはセレスタに向けて、頷きを受けていた。そのまま「最初は私が。適宜にご命令を」と続けていた。
安堵なのか、当たり前を向けられて、セレスタは更に落ち着いた雰囲気になる。機動戦には実績は有るが、現状の状況で彼女自身も「指揮」には不安があった。
それを払拭するかの彼らの視線だった。セレスタは、映り行く彼らの視線の先を見る。
そこには、重なる三人の背越しに、恐らく階層――次元――の違うであろう魔族の立ち姿があった……
……次元の違う魔族……勿論ミールレスだった。
唐突な流れで衝撃を受けて、視界が無くなる程の状況に落ちて、気が付けば肢体に痛みを伴う傷が出来ていた。
「何だ今のは?」
軽い呟きに確認を向ける身体には、竜硬弾の抜けた痕が何ヵ所あった。鎧には少なからず傷増えている、その状態をミールレスは認識していた。
そして、幾ばくかの混濁を抜けて前方から来る三人に気が付く。後ろからは、速度を上げて動き出した紫黒兵団の様子が感じられていた。
「あの内の三人か?」――取り敢えず身体は動く。束なら勝てる気か?……迫る三人の雰囲気だけを読み取っていた。
勿論、ミールレスの認識は間違いである。王国最強騎士カレン・ランドールはいない。居るのは、あの時の二人にヘルミーネだった。
不安も不満も無い。淡々とした足どりで続く、誤認された彼女に、ウルジェラは声を掛ける。
「怖いか?」
「いいえ、どちらかが来るまでですから」
ヘルミーネの答えに、僅かに口元を緩ませる 淫靡なる夢獄の容姿が揺れていた。
「我は怖いぞ。神の眷属ゆえその感情は本来分からぬがな」
……若干の驚きを見せるヘルミーネに頷きを返して、こちらも淡々と進むレイナードの背に問い掛け投げていた。
「で、どれ程だった?」
「地に足がついてたら、死なんと倒せんかもな」
「なるほど。ならば二人とも死ぬ前に飛ぶ事だな」
「ああ、あれだ、なんだ。……だとよ」
「承知した。……後、ヘルミーネでかまわない。この状況で言うのもなのだけれど……」
魔王然とした魔族に向かう最中の会話としては、些かおかしい。その雰囲気は、空間を避けて進み来る魔族の一軍の様に合わせて別の場に見える。
そこに向かう三人の先は、恐らく死地。……その舞台に四人が顔を揃えていく。
当然の顔で、ミールレスが声を出してきた。
「中々に覚悟の顔だな。先程のが秘策か? ならば無駄だったな」
「延々と強者を見てきたつもりだったが、見誤っていた様だ。気概だけを欲したお前がこれ程とはな」
「淫靡なる夢獄。お前の評価等どうでもいい。獄属ごときが我の前に出てどうなる」
「外の属は知らぬが、我は勇者に英雄、英傑の知識がある。神の吐息任せな属と――」
ウルジェラの言葉が終わる前に、ミールレスの「純然なる速さ」が現れて瞬間で距離が消えた。
彼にして見れば、「獄属ごとき」の言葉通りの何度目かの体現だった。
ただ、片手を添えてのびる魔刃の剣は、強烈て透き通る金属音を奏でウルジェラの前で止まる。
驚愕が場景を流れるは、純然な領域の刃にヘルミーネが――ガルサスの逸品の――高速の抜剣を合わせていた光景だった。
「我の剣筋が見えるのか?」
「分かるだけだ!」
捌き流すから、つばぜり合いの感じに受けるヘルミーネが「領域の剣は」を知っていると言っていた。
――どちらかと言えば、ミールレスは対個に寄る。二刀を使い武を行使するのが彼である――
力任せに押し込みながら、ウルジェラの飛び退く感じにミールレスは視線を向ける。
その瞬間レイナードが、柄をいっぱいに使った振り下ろす斬撃を見せて「各々に距離を取る」の場景を作り出していた。
場景に挙げる声の最初は、レイナードだった。
最強の領域は『これである』と見る者の眼前に示した男の「やるか?」な言葉。
取り敢えず「やるか?」……で第二幕ではある。




