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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第六章 王国の盾は双翼の楯
161/204

十四~ユーベン攻略戦……黒装と獄装~

 

 一幕の舞台上がる魔解の側は、言うまでも無くミールレス……魔解のインジニアムを統べる魔解の大公になる。

 彼がクローゼを不本意で帰してから、人智の軍勢がユーベン近郊にやってきた。

 選択肢の少ない中で、魔族らしい前降りを終えて戦局は動いていく。その最中でミールレスは、采配など「どうでもいい」との思いに至っていた。


 ――突き抜ける強さの前には数など関係が無い。その認識だった――


 ミールレスは平静な雰囲気で、巡る戦況を無言で捉えていた。

 見据える戦局の中で、突然出来上がった砦に至る過程を見て、ミールレスは軍を前面に進める。

 意図的な部分を除いても、遠吠えがもたらした結果の上の選択になる。ただ、明らかに無視されたマッシュとロッシュら、紫黒兵団の憤慨な部分が大きかった。


 そして、眼前に見覚えのある黒装の男が、敵の布陣と入れ代わりで騎乗姿を晒すのを彼は視認する。

 意味合いは別に、ミールレスも相応の様子を出して、自軍から軽い爪音を進ませていた。


「これ見よがしだな」

「ああ、色々ある」


 何が色々なのかは、歩み出た互いの認識によるだろう。声を聞いたミールレスは、出したレイナードに「やり返す必要がある」借りがあった。

 勿論、レイナードもその認識はあるが、色々の意味は恐らく別である。


(おれ)と一対一を欲するか」

「どうでもいい」


「お前と(おれ)だけだ。これでどうでもいいとは些か意味不明だな」

「話すだけでもいいぞ」


 ミールレスは自身の状態が余裕を呼び、会話をさせていた。懸念なら些かはあるが、目の前の一人なら遅れを取るとは思っていない。


 ――前回は『二対一』。雰囲気があからさまに変わった奴がいなければ、目の前のは造作も無いだろう。……そのままの感情だろう。


 しかし、造られた腕にはめられた竜水晶が震える(さま)をする。……剣心だった神具の欠片が、共鳴らしきをミールレスに向けていた。

 一瞬の揺らぎがミールレスを抜けて、言葉と裏腹にレイナード雰囲気が変わるのが見える。そして、僅かに魔解の大公は声を出した。


「話す必要など無いだろう」

「そうだな」


 黒千の感じた中には、ミールレスの強さもあった。しかし、大半が「必要無い」に同意したレイナードの気持ちによる。

 跨がるを唯一許した男の覚悟に、不測を感じていた……その辺りだろう。


 ――戦場で多数に向けて駆けた時ですら、ここまでの覚悟は感じられなかった。馬の彼がそれを理解し、不安を感じていたかはわからない。

 ただ、高揚する発汗が黒千(ブラックサウザー)の気持ちを表している様だった――


 静寂が瞬間を抜けて、レイナードの呼吸が僅かに止まる。交錯する緊張感を愛馬は感じていた。

 その刹那、主人(あるじ)の鼓動が黒い馬を動かし、爆発的な飛び出しを映し出す。それが、会話の出来るギリギリの距離感を消していた。


 ――襲い掛かる黒装槍騎兵の雰囲気が、ミールレスに迫って、その鋭さを露にしている――


 愛馬――黒千――に合わせる様に絶妙な間で、レイナードの一閃がミールレスに襲い掛かる。

 それに「必要無い」から臨戦で、ミールレスが応じる魔力発動を合わせていた。出しうる最大魔力の発光が伸びて、迫り来るに向かっていく。


 光源にレイナードは、魔斬の流槍(ニグレイドル)を一閃のままで斬り流し、分け行く場景の両側で破壊の粉塵を作っていた。


 ――驚愕が場を通り交錯するは継続をみせる――


 当然に、魔力を切った勢いを殺さず、レイナードの切り返す斬撃がミールレスの肢体に迫る。

 それをミールレスは間髪でかわし、駆る魔獣の爪で土を掴み、すれ違う様に距離をとっていく。


 交錯する場景が流れていた。……斬撃は行きなりで弧を描き、踵を返す黒千の行く気をレイナードが絞る動きをした。

 相対の距離が双方の様子を鮮明する。


 当たり前に、「かわすのか」を見せるレイナードと偽紫色(フォースパープル)の魔力の障壁を纏ったミールレスの姿があった。

 義手……いや、偽りの右手からは、神具の剣心が魔刃の剣を具現化している。離れ開く距離程には「触発」への間隔は見えない。


 ただ、依然として余裕なミールレスが、「斬り捨てた」に疑問を見せていく。


「その槍か?」

「そうかもな」

「大雑把では倒せぬか。……我の手を切り落としたのは紛れでは無いのだな」

「それは知らん――」


 短い会話で、ミールレスがある種の納得を見せる。それがレイナードの奮う槍を誘発した。あくまでも騎乗……駆ける愛馬の躍動で、レイナードは槍先をミールレスに向けていく。

 鋭く伸び迫る勢いに、手綱らしきを捌くミールレスが魔刃の剣を合わせてくる。……魔獣を駆るというよりは、行く気で引きずる雰囲気だった。


 集中と集約の激突が場景に続く勢いをみせる。


 出された刃に合わせて、レイナードは突き出す軌道から斬撃に変化していた。槍振る動きを背に、黒千の行く気は魔獣の牙を物ともせず、馬体をぶつけるかの距離を作っている。


 馬上では、レイナードの奮う槍が、洗練された剣とは違う荒々しさと力強さをみせる。

 その上で黒千との一体感が、ミールレスとの衝撃の重なりを作り、弾ける刃の連続が場景に音を奏でる紙一重を魅せていた。


「付属では無かったのだな」……ミールレスの言葉に、無言で槍の連撃をレイナードは返していた。


 単純に、携える武具と騎乗でなら遜色は無い。そんな戦況であった。

 ただ、それを越えるなら……掛ける物の向こう側に踏み込む必要がある。至極単純な認識が、レイナードに覚悟をもたらす。

 不適な笑みをみせるミールレスに、覚悟の上を踏み越え奮うレイナード槍先――。


 王国最強剣士が奮う槍術は、彼らの継がれる剣の美しさとは対象的に豪胆な軌道を走っていた……



 ……魔動遠眼鏡(テレスコープ)越しから、肉眼に変わったオスカーとスティルは、本物の戦場で本気の師匠を追っていた。

 幼年らには、許容範囲を越える戦場の果てで、純粋に突き抜けた光景が小さな瞳に映り込んでいる。


 ――行き交う応酬が激しさをまして、双方の肢体に届く光景が出来る。そこに、爪と牙が裂くと馬蹄や馬体を叩き込むが強烈を付け加えていた――


 無言で、年齢不相応な毅然ののまま、二人は微かに震える様だった。

 大師匠であるジワルド・ファーヴル客子爵からも、「才能に恵まれる」と言われた彼ら。しかし、見たまま年端もいかない子供である。震える感じがそれを現していた。


 その様子に、後ろに立つ二人の男女の内、帝国騎士たる彼女が、彼らの肩に手を掛けて安心感を与える雰囲気を出した。


「大丈夫。あなた達の師匠は強いから」


 自然で柔らかな笑顔に、見上げる二人の震える感じも落ち着きをみせる。


「そんなの分かってるよ」

「僕もそう……思ってた」


 ヘルミーネを見返すオスカーとスティルの言葉に、彼女の掛かる手と表情が、更なる安堵を呼んでいた。


 ――クローゼと勇者の立ち合いの後、ヘルミーネはいつもの鍛練の流れで「全力でこい」の言葉を聞く。

 当たり前の言葉から思いに至り、彼女は吹っ切った感じに「本気の全力」でクローゼに挑んでいた。

 その為、相対的に彼女はレイナードの強さを知っている。……無論、試合いはしないが、レイナードとも手合わせを彼女はしていた――


 前方に視線を戻すヘルミーネ。彼女は、レイナードの動きを追って思案の表情する。

 ――意図が変わった? ……軽い疑問は、更なる状況で明確な言葉になる。


「ユーリ、誘導してる様に見える?」

「……ああ、あの場所に誘ってるんだね」

「私にもそう見える。狙いが変わったのだから、引き際の援護には行くべきだ」


 クローゼの副官の彼は、雰囲気が柔らかくなった彼女の言葉をセレスタに送り、「機は貴方に任せる」の言葉を受けて準備の指示を出していく。

 その過程で、自身を整える暗い金髪(ダークブロンド)の髪色が風に揺れる(さま)に視線を落としていた……。


 ――待ち人未だ来ず――


 状況がレイナードに「倒す気」を見せさせ、ミールレスの高揚感を誘っていた。

 魔王然とした、魔解の大公たるの上がる口角に合わさる剣が、槍の刃との激しさを積み重ねていく。

 光景では、人馬共に彼ら自身の域を越えていた。


 その様相を紫黒兵団の強者達は、固唾を飲んで見守っている。その中で感嘆が漏れてきた。


「す、すげぇ」

「我らはどうする?」


 マッシュの声に人豹の女型が僅かに合わせる。


 ――ヴォルグの超越は、彼女らの体感で尋常ではなかった。その領域をみせるミールレスに只の人が追従している。……単純な驚きだった――


「エルフィア、冷静だ」

「私は冷静だ!」


 ロッシュの意味不明に、エルフィアと呼ばれた人豹の女型が憤慨(ふんがい)の様子になっていた。その様子に静寂が消えて、各々に声が漏れてざわめきになる。

 そこで、マッシュの声が唐突を見せた。


「すげぇ、上がりやがった!」

「マッシュ、冷静だ」

「まだ上があるのか」


 最初の言葉はレイナードの槍技の発動による。

 流動が駆け巡る雰囲気で、鍛え上げた肉体が躍動していた。一段上がったレイナードに、出血で黒い馬体に深みを増した黒千がその域に追従する。


 ――正に黒千かれも何かを発動し、追従するかの様だった。……二騎の競演の舞台に、魔獣を置き去りにして見せていた――


 迫り行く、鍛え抜かれた肉体を軋ませる槍技。魔力の流れを全開で合わせ、「繰り出す連続の突き」がミールレスを押し込み……余裕を奪っていく。

 恐らくは、人智の者で最強の男。その全身全霊に、槍心「ニグレイドル」が嬉々として連撃を衝くに至る。


 ――障壁を越えて獄鉱石の鎧を貫き、鮮血が抜き放たれ飛沫を上げていた――


 ミールレスの肉体が、受け入れられる傷をつけられて、同様に与える迎撃の剣を見せている。

 ただ、余裕が無くなったとしても元々準魔王級。

 その上に、魔王の装備と剣心の具現を持つミールレスの一応に、彼の本気を引き出し「魔王然」を浮き立たせただけ見えた。


「人智の者にしてはやる――」


 レイナードが、踏み越えた勢いをミールレスの本気が飛び越える。

 現状まで、致命打を与える迄にはなかったミールレスの剣が、明確に「より以上」を刻んでいた。

 

 場景は、魔斬の流槍(ニグレイドル)の突き出した刃が空を斬り、ミールレスの魔刃の具現が伸び、そのままのレイナードを襲っていた。


 ――向けられたレイナードの黒の六循の兜(クロージュヘルム)は欠け、肩口には裂き斬れた傷が「魔王然」を認識させる――


 交錯の後、認識の距離で静止して、互いの口角が僅かだが上がる。


「何処を見ている?」


 ミールレスが確認を向けた言葉は、レイナードの不敵で不明確な表情の先の事だった。

 ただ、唐突に向けた意識のままに、ミールレスの視点が下がり崩れる。


「なっ、ぐっ」


 僅かな声の先にミールレスが見たのは、第十の牙(ツェーント・ファング)ヘルミーネ・ファング・フローリッヒが、低く飛ぶ感じに走り魔獣の四足を斬り抜けた背中だった。


「乗れ――」


 明確なレイナードの促しが、走り抜ける彼女に掛かる。ミールレスの落馬な光景を置き去りに、ヘルミーネが勢いを返して土を削っていた。

 そして、声に答え飛び込む様に手を伸ばし、彼女は自身をレイナードに預ける。


 引き上げる(さま)と「行け」と黒千の掛ける声がほぼ同時で、弾丸の様な飛び出しを起こしていく。

 レイナードの後ろで、黒千の背にあるヘルミーネが僅かに振り返った、離れ行く光景には起き上がるミールレスがあった。


 彼女の視線には、「助かった」……とレイナードの声に被さる様に転位型魔動堡塁(フォートレス) から、ミールレスに向けて、多身式回転連続竜擊筒(ドラゴンラッシュ)の破裂音の連続と魔動大筒の黒と新型の号砲が迫り炸裂していく。


 全力の火力がミールレスを襲い、場景を弾けさせ視界を遮っている。前方の転位型魔動堡塁(フォートレス)で、目を凝らすユーリの号令は、響き渡る音と爆煙に掻き消されていた。


「やったのか?」


 状況認識と判断に優れる、遠くを見る目でユーリは誰でなく自身に確認を向ける。視界の隅には黒い弾丸の騎影が映っていた。

 一瞬揺らした彼の視線に、下からセレスタの声が届く。

「状況は?」

「視界不良で現状不明です」


「第二射目を準備して、続けて確認はお願い。……今ので敵は動く筈。残る各隊は前方の攻撃に備えます」

 セレスタの指示にユーリは答え、その場に命令をする。下側では続く彼女の大きめな声に、槍騎兵と竜撃歩兵が動き出していた。


 ……継続的にユーリは、視線を交錯した不明な状況に向けて、舞い落ちる破片が収まるのを認識する。


「駄目なのか……」


 一応に落胆の表情がユーリに見える。瞳には、立ち有るミールレスの姿が映っていた。僅かばかりの損傷は見れたが、倒す迄には至っていない。

 その状況は、踵を返した二人に並ぶセレスタと淫靡なる夢獄(ウルジェラ)にも見えていた。


「流石に無傷ではないが、魔族の域は越えている様だな。仕方ない我も出る。三人であたるぞ、倒せるかは些かゆえ覚悟を決めよ」


 レイナードに魔力を通すセレスタを越えて、ウルジェラの視線が戻ってきた二人に向けられていた。

 当たり前に不満な顔をセレスタはする。


「私も――」

「来てんぞ、誰が指揮すんだ」


 傷口が落ち着いたレイナードが、ユーベンの側を指してセレスタに告げていた。それに、ヘルミーネの「お任せ下さい」が冷静に続いていた。


「クローゼを呼び戻せば――」

「セレスタ落ち着け。あれも恐らく手が離せん」

「それは……」


 セレスタの促しで、ウルジェラが百眼(オキュラス)を使い見たのは、左翼方向に現れた鉄黒の兵団一万二千だった。


 ――徒歩兵力で竜相の人型。竜魔の一軍が槍ぶすまの様相で襲い来る状況だった。

 それは、クローゼが八本腕(ヤスラ)を解体して、三体目に掛かる最中になる。

 新手に、「後退と再編で迎撃を」とクローゼは連呼して、戦意が落ちた左翼を声を走らせていた――


 セレスタも状況は分かっていた。


 崩された左翼は不本意だが、大半が傭兵で信念を持つ訳ではない。聖導騎士団は、高い志しを持つものの現状「人外の強さ」の流れに翻弄されていた。


「分かりました」


 動き行く戦場にセレスタは、馬の背から降り立つ三人を見て、自身のやるべき事に理解を出した。

 送る背中に、視線を合わせて更に声をだす。的確によく届く声で明確な指示を出していた。


「全隊竜撃戦用意。盾の壁を使って、十分に引き付けてから攻撃する。……転位型魔動堡塁(フォートレス)隊は前面からの敵に向かう。ユーリ、指揮を任せました」


 命令の伝達が連鎖を見せて、ユーリの頷きが続く。

 その流れに、後ろから黒装槍騎兵の第二大隊の中隊長の何人かが、セレスタに近付いていた。

 それに黒千の嘶きな僅かに漏れて、セレスタは振り返った。


「リーアムの小隊を護衛に残します。今の話なら、強力な個体の何体かは我らが相手をすると言う事でしょう」


 実質的に、第二を指揮する壮年手前の元副長のバイロン・サマーフェイズが柔らかい顔をしていた。


「サマーフェイズ……殿」

「本来なら、護衛隊を付けたい所ですが、塔も大事ですからね。まあ、負けぬ所を集めたつもりです」


「それでは……」

「始めのあれよりは楽でしょう。まあ、大丈夫です。まだ、貴女の御父上の小言を受ける気はありませんから、それに我らはヴァンダリアの槍騎兵です。強いですよ」


 軽い笑顔をバイロンはセレスタに向けて、頷きを受けていた。そのまま「最初は私が。適宜にご命令を」と続けていた。


 安堵なのか、当たり前を向けられて、セレスタは更に落ち着いた雰囲気になる。機動戦には実績は有るが、現状の状況で彼女自身も「指揮」には不安があった。


 それを払拭するかの彼らの視線だった。セレスタは、映り行く彼らの視線の先を見る。

 そこには、重なる三人の背越しに、恐らく階層――次元――の違うであろう魔族の立ち姿があった……



 ……次元の違う魔族……勿論ミールレスだった。

 唐突な流れで衝撃を受けて、視界が無くなる程の状況に落ちて、気が付けば肢体に痛みを伴う傷が出来ていた。


「何だ今のは?」


 軽い呟きに確認を向ける身体には、竜硬弾の抜けた痕が何ヵ所あった。鎧には少なからず傷増えている、その状態をミールレスは認識していた。


 そして、幾ばくかの混濁を抜けて前方から来る三人に気が付く。後ろからは、速度を上げて動き出した紫黒兵団の様子が感じられていた。


「あの内の三人か?」――取り敢えず身体は動く。束なら勝てる気か?……迫る三人の雰囲気だけを読み取っていた。


 勿論、ミールレスの認識は間違いである。王国最強騎士カレン・ランドールはいない。居るのは、あの時の二人にヘルミーネだった。

 不安も不満も無い。淡々とした足どりで続く、誤認された彼女に、ウルジェラは声を掛ける。


「怖いか?」

「いいえ、どちらかが来るまでですから」


 ヘルミーネの答えに、僅かに口元を緩ませる 淫靡なる夢獄(ウルジェラ)の容姿が揺れていた。


「我は怖いぞ。神の眷属ゆえその感情は本来分からぬがな」

 ……若干の驚きを見せるヘルミーネに頷きを返して、こちらも淡々と進むレイナードの背に問い掛け投げていた。


「で、どれ程だった?」

「地に足がついてたら、死なんと倒せんかもな」


「なるほど。ならば二人とも死ぬ前に飛ぶ事だな」

「ああ、あれだ、なんだ。……だとよ」

「承知した。……後、ヘルミーネでかまわない。この状況で言うのもなのだけれど……」


 魔王然とした魔族に向かう最中の会話としては、些かおかしい。その雰囲気は、空間を避けて進み来る魔族の一軍の様に合わせて別の場に見える。


 そこに向かう三人の先は、恐らく死地。……その舞台に四人が顔を揃えていく。

 当然の顔で、ミールレスが声を出してきた。


「中々に覚悟の顔だな。先程のが秘策か? ならば無駄だったな」

「延々と強者を見てきたつもりだったが、見誤っていた様だ。気概だけを欲したお前がこれ程とはな」


淫靡なる夢獄(ウルジェラ)。お前の評価等どうでもいい。獄属ごときが我の前に出てどうなる」

「外の属は知らぬが、我は勇者に英雄、英傑の知識がある。神の吐息(ちから)任せな属と――」


 ウルジェラの言葉が終わる前に、ミールレスの「純然なる速さ」が現れて瞬間で距離が消えた。

 彼にして見れば、「獄属ごとき」の言葉通りの何度目かの体現だった。


 ただ、片手を添えてのびる魔刃の剣は、強烈て透き通る金属音を奏でウルジェラの前で止まる。

 驚愕が場景を流れるは、純然な領域の刃にヘルミーネが――ガルサスの逸品の――高速の抜剣を合わせていた光景だった。


「我の剣筋が見えるのか?」

「分かるだけだ!」


 捌き流すから、つばぜり合いの感じに受けるヘルミーネが「領域の剣は」を知っていると言っていた。


 ――どちらかと言えば、ミールレスは対個に寄る。二刀を使い武を行使するのが彼である――


 力任せに押し込みながら、ウルジェラの飛び退く感じにミールレスは視線を向ける。

 その瞬間レイナードが、柄をいっぱいに使った振り下ろす斬撃を見せて「各々に距離を取る」の場景を作り出していた。


 場景に挙げる声の最初は、レイナードだった。

 最強の領域は『これである』と見る者の眼前に示した男の「やるか?」な言葉。

 取り敢えず「やるか?」……で第二幕ではある。



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