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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第六章 王国の盾は双翼の楯
156/204

九~転換の転換の様相~

遅くなりました。こんな感じに。

 クローゼはユーベンでの思考停止を経て、セレスタの元に戻り、吹き出す様な魔物魔獣に追撃を阻まれた南方連合軍に助力し「蓋をする」に至った。


 場景に「これで大体塞がったな」の……空中高くで下を見るクローゼの言葉が出ていた。

 彼は硬化機動楯(マヌーバ)で無数の石巌の盾を作り、露骨に空いた「魔解に通じる穴」に魔物魔獣を押し込んで蓋をする光景を作っていた。


 あらかたを見て、言葉を発したクローゼは自然落下し、瞬発で砂塵を上げて着地する。そのまま、主だった者が集まる先に歩いていた。


 馬上から見ていた、神聖騎士ミレイユ・リィズ・ド・ラクルテルは、あからさまな「魔導師然」に驚きの表情を向けていた。

 そして、横にいたセレスタに驚きのまま視線をあわせていく。


「あの方は、剣士ではないのですか?」


 一瞬の仕草から、自身に向けられた視線にセレスタは答えを返していた。


「本人は『魔術師擬き』と言っています。ですが、剣士と言えば『剣士』かもしれません。実は私にも分からないのです。ですから、彼はクローゼ・ベルグですね」


 その後ろのレイナードから「意味わからんだろ」と声が出ている。ただ、周囲は独り言の認識の様だった。


 歩き来る意味の分から無い男クローゼが、本陣の場所に着いて首を鳴らす仕草をしていた。

 中々に「振り戻し」が期待出来る状況を経て、彼は平然として見える。

 そして、上空から探していた男に声を出していく。


「レイナード、何処にいた?」

「今戻った。意外に進んで無かったな。あとあれだ、ミラナ殿は残った」

「……ああ、なんかクーベンがなんとかのか」

「そうだな」


 何とかのと言う楽観的な事態ではなかったが、本陣にあったセレスタ元に戻ったクローゼは、魔王の状況を踏まえてなし崩しに「蓋をする」の行動に行き着いていた。

 その上で、何と無くの事情を聞いてその会話になる。


 ただ、そんな事はお構い無しに、クローゼは全体の指揮を代行しているモーゼスに言葉を向けていた。


「状況が変わりました。一旦下がりましょう」

「些か唐突な事で、如何なされました?」


 一方的に、魔物魔獣を無力化して見せたクローゼから出た言葉が、不可解なものだとモーゼスは受け取った。

 彼のそのままの言葉に、クローゼは「魔王」の名前を出していた。


「『魔王の状況が不測』になったと言えば理由としては十分でしょう。ですので、一度仕切り直しを。状況については……」


 ……クローゼの続けられる話は、報告を聞いたフリーダの側にいたアリッサから受けたものになる。

 あからさまを見せ、ミールレスの怪訝をおいて部屋で二人になった時に聞いた事だった。


 結論から言えば、獄炎に現れたカーイムナスが、動き回っていた黒の六楯(クロージュ)のクローゼに、意趣返しを目論んだから始まった。


 勇者との戦いの後で、サバルによってブロスの元に連れられた魔王に彼は目をつけた。

 その身体を使い人智に「五体を持つ」を、カーイムナスは成そうとして、逆に抑え込まれたと言う事になる。


 ――カーイムナスは、獄の眷属神にして人智に現れた獄の眷属。勇傑なりのクローゼが、デュールヴァルトで斬った相手だった。

 人智に六体(じったい)で具現出来れば、万を十倍するかの神の息吹きになる。

 獄神 罪悪を御す煉獄の・(ガイアザーク)の息吹きにより生まれた眷属神だった――


 クローゼの話を聞いたモーゼスは、現状を見ての楽観から懸念に向かっていた。


「今の竜伯爵の力を目の当たりにして、貴方が引くと言われるならそれが正しい選択なのでしょう」


 見るからに、難しい表情で周りにモーゼスは確認を見せていた。それに、両翼に繋がる者の認識も追従していく。

 しかし、その中に怪訝みせる者があった。


「信じられぬな、カーイムナス様が取り込まれる等とは……」


 セレスタの頷きの後ろから、軍装の中、些か異質に見える「平装で騎乗」のウルジェラの疑念が出てきた。ただ、続く言葉を出さない仕草もみえていた。


 実際には、クローゼもう少し詳しく聞いている。ミールレスから、フリーダの促しが引き出した内容をだった。ただ、クローゼの言葉では、最後にアリッサが念を押した部分だけにウルジェラは声を向けた事になる。


「聞いた話だからな。ヴォルグを倒した俺にフリーダの目が逢われんでいた。だから、全く嘘と言う事も無いだろ」

「意趣返し云々はいいが、その話ならカーイムナス様は本気で実を手に入れようとしたのだな」


 余り表情を作らないウルジェラの眉間に、僅かな筋が見えている。見解はそれで正しいのだろうが、本筋は別にあった様にも見えた。

 クローゼは、それに追加の事情を見せていく。


「それもだが、六本腕(アスラ)を三体見た。一つは八本だった。……あと、レイナード。あいつ手が生えてた」

「誰の事だ」


 レイナードの言葉に続いて、「ブロスか……」のウルジェラの呟きが出て、レイナードに「ミールレスの事だ」が向けられていた。


 クローゼは、出した言葉の終わりに「ああ」を聞いて、ウルジェラの呟きに引っ掛かる。


「ブロスって誰だ?」

「魔解の鍛冶だ。奴も神の眷属だった筈ゆえ、獄炎の場の事ならそこで起こったのだろう……」


 クローゼが、ウルジェラの仕草に行き、話の流れが難しい方向に流れていった。ただ、雰囲気をお構い無しに、セレスタが単純な疑問をクローゼに見せていく。


「 いきなり飛び上がって聞けなかったけれど、アリッサが見えません」

「ああ、あれだ。……ユーベンに」

「えっ、 どうしてですか?」


 折角……の表情でクローゼを見るセレスタに、一応に弁明していた。


「通信器は俺のを渡した。転位型魔装具も俺の予備を渡してある」

「そういう話ではなく、何故まだユーベンにいるのですか? と言う事です。話した感じだと戻って来るものだと思ってました」


「大丈夫だ今なら使えるし、別で護衛もつく筈。連絡がついたからな……セレスタ、怒ってるのか?」


 彼女の眉に力が入る感じに、クローゼは伺う様子になっていた。誤魔化している風に見える彼に、セレスタの視線が刺さっている。


 ――魔王の情報を得る為と、ユーベンにある人智の者の為にアリッサは進んで残っていた。

 猛烈な後悔を経ていたクローゼは、当然反対したのだが、ユーベンを取り戻していないのを大きな理由に、容認の上でアリッサの行動になる。


 一応に、フリーダがアリッサを気に入っているのと、クローゼが彼女の誘いを曖昧にして、アリッサを預けた形だった。無論、ミールレスにも繋ぎがばれているのを知らずにであったが――


 無言で、凛としたセレスタにクローゼは益々の方向の違う弁明をしていく。既に、誤魔化しを越えて意味不明に近い。


「アルビダに連絡がついて、ベラーヌだったかにばれない様に護衛しろと命令――」

「怒ってはいません! 話が益々分からないので困っています」


「怒ってるだろ」にウルジェラの失笑が出ていた。


「セレスタには言うのだな」

「何の事ですか?」


「その男は、魔解の領主を服従させておる。黙っておれと言われたゆえ、何と無く良からぬ事でも考えておるのかと思っていたが……呆気なく言うところ見ると何も考えていなかった様だな」


 唐突な説明に、セレスタに困惑が抜けて、周囲には戸惑いが流れていた。そこで、読める男レイナードが声を漏らしてくる。


「引くなら早くしないと暗くなるぞ。話があるなら後にしろよ」


 軽く周囲にも分かるよう「俺は寝てないし飯も食ってないからな」と彼は、自身の乗る馬の首筋を撫でていた。


 区切りの言葉で、各々が行動を始めていた。クローゼの認識に沿って動いていたとなる。

 全体が世話しなく音を並べていく。戻る馬蹄に会話と取れる声が混ざっていた。


 会話の途切れで、クローゼがレイナードに向けて、真面目な顔を見せている。


「レイナード、導師の所に行ってくれ」

「ああ、あれか。……取り敢えず寝かせろ眠たい」

「そうか、なら回って旭光が出てからでいい。俺は陛下の所に行く。……何と無く不味い気がする」


 暗黙の先はあの槍になる。もて余す流れで「神具の心」は、クローゼを拒絶してレイナードでは形を魅せていた。


 クローゼは相討ちだと思っていた魔王が、そうでは無かったの認識に至っていた。情報として、音は届ける指示を出していたが、それだけでは足りないと彼は感じていたとなる。

 その先が、自身を貫いた槍にも至っていた……


 ……獄の入りには、彼らが現れた場で、防御陣を再構築し連合軍は何度目かの夜営に入る。

 クローゼは、セレスタとの名残を惜しみ、ユーベンのアリッサ思い、場を見定めた上で一度ジルクドヴルムに戻る事にした。


 アリッサを残した事に不安を持って、彼女の覚悟の上にと言う事になる。



 ――不安をならば、フリーダの元に残ったアリッサに、ミールレスが言葉を向けた一幕があった――


 三者の吸血鬼(ヴァンパイア)を前に、毅然として相応の鎧の男の出した言葉になる。


「情報を流していたお前が、この場に平然とあるのはなんだ? お前はどちら側だ」


 殺意とも取れる威圧感に、アリッサは平然を見せる。その瞳は確かに覚悟が見えていた。


「クローゼ・ベルグの意のままに、フリーダ様の眷族。……ここにある意と立ち位置ならそうなりますね。ミールレス殿、如何でしょうか」


 自分の我が儘を許してくれた男の名を出して、魔王が明言する「正妃たる」の名を連ねたアリッサの毅然だった。

 二の句をミールレスが出す前に、フリーダの言葉が出てくる。


「あの男が『屋敷をくれ』と言ったのを聞いていたであろう。魔王様に破れたら、『アリッサにすがる』と。それゆえ、アリッサはこの場にある」


「フリーダ……様は甘過ぎる。あの男にそれほど執心とは些か滑稽に見える。どれ程の価値があれに有るのか?」


 ミールレスは「あれ」と棄てたが、クローゼは不覚を取った相手だった。

 ただ、屠った欲然なる烈獄(イジェスタ)から奪った欠片に変えた籠手(ガントレット)の手を持ち。譲られた魔王の鎧を付ける今なら、微塵も後れを取るとは思っていない。

 その気概がクローゼの価値を問わせていた。


 それにフリーダは笑みを見せていく。


「お前と同等の価値があるゆえな」


 返答に困るの様子が、ミールレスの顔に出ていた。頷きを合わせられて、彼は益々の表情になる。

 それに乗るフリーダの言葉で、ミールレスは怪訝な様子を追加していく事になった。


「あやつは既に我らの側ゆえ」

「何を言われる。明らかに敵だと思われますが」


「クローゼの纏う魔力は、魔王様と同じだった。ゆえに、あやつは此方の側だと言うてあるのだ」


 フリーダの言葉の意味を知る三者の吸血鬼(ヴァンパイア)は平静であったが、ミールレスは言葉を探していた。


 意味合いは、フリーダの言葉ままだった。クローゼとアリッサが決意を持って部屋から出て、アリッサの立ち位置に至る話の折りに「誘いに乗る」をちらつかせた結果の事になる。


「経緯は言えないが、元々俺の魔力は魔解の物だから、心揺れないと言えば嘘になる。聞いた話だと魔王と類似してるらしい」


 ウルジェラとサバルの言葉をクローゼは、聞いた話として出していた。「自身の纏う」が正解だったが、敢えて興味を引く為にそう言っていた。


 その流れで、「魔力は通すなよ」と軽い感じで平静を装い、アリッサとフリーダの牙に肌を預けていた。大胆不敵であるが、一応クローゼは依然として人である。

 勿論、直ぐにセレスタに言えなかったのは、言うまでもない。


 事の経緯を聞いたミールレスは、計りかねるの思考に落ちる。フリーダの意とクローゼと言う男の事をだった。

 ――争っているのでは無いのか? 魔解と人智は相容れないのでは無いのか? ……疑いもしなかった事がそこに存在してた。


 ただ、フリーダにはオスゼクス以外の選択肢は無かった。魔王があれば良かったのである。

 近しい、愛しい等はあるのだが「魔王が至るところ」にあたっては魔も人も然して差異はない。


 魔王に近い力のミールレスとヴォルグが、魔王の両翼ならば、数の問題では無いとも考えていた……


 ――魔王が魔王として降臨した前の刻に、今以上の数で西方諸国を蹂躙し、破壊、殺戮、略奪の限りを尽くした。

 エルフの領域を侵食し、鉄の国を囲みイグラルードとは違う国だった王国西方辺境域を滅ぼして……それでも結果「イナゴが食い尽くす勢い」で、息切れを見せてフリーダにその認識をもたらした――


 ……ヴォルグがあの状態になったのを踏まえて、ことさらフリーダはクローゼを欲した。

 そして、当たり前に差し出された肩口に彼女は魅了されていた。

 恐らく、魔王の同質の魔力と敵である自分に投げ出された信頼の行動にである。


「簡単な事ゆえな。魔王様に仇なすに至れるは、勇者を除けばお前とヴォルグが並立つか、あの男に寄るであろう。ならば、取り込めば不測にも至らぬ」


 気にしていた精霊の王も、現状の魔王には届かぬとの妙な確信をフリーダは持った上でそこに至っていた。


「で、オルゼクス様はいつ戻られるのじゃ」

「扉の男次第かと。テンバスが戻ったばかりですが、距離的には何れにしろ刻は掛からぬとおもいますが。アマビリスが側にいるので、魔王なら戻りは早い筈なので」


 暗黒のサバルが死んだと言う報告は、まだ無かった。混乱の上の距離が遅れさせていたとなる。


 アマビリスの名が出て、フリーダの表情が固くなった。ただ、彼女の存在が魔王を越える存在にしたとも言えた。


「ならば、出迎えの準備をせねばな。カルーラ手筈を頼む。他の者にもそう申し伝えよ」


 指示の最期にフリーダはミールレスにヴォルグの代わりをする様に告げて、アリッサの補佐を受ける様に言っていた。

 ただ、思いは、恐らくオルゼクスに向いていた。


 ――羨むのは切ないが、アマビリスなら仕方あるまい。……複雑な気持ちでもあった。



 ……フリーダの思いの人オルゼクスは、獄炎の洞窟の入り口付近の空洞で、アマビリスに身の回りを任せ、カーイムナスの魔力を自身の物に変えていた。


 勇者との戦いは、生死に関わるほどの事態では無かった。しかし、カーイムナスの所業は、唐突で、オルゼクスの存在を消すほどだったと言えただろう。


 幸運だったのは、その場にアマビリスがいた事になる。甲斐甲斐しくオルゼクスに接するアマビリスはその様子のままを向けていた。


「魔王様、御身体は如何でしょうか?」

「そろそろ、お前の力に頼らずとも大丈夫だ」


 アマビリスの言葉に、オルゼクスは自身の魔力の流れに重なる彼女の力を感じていた。


 アマビリスの力は「魔力を御す」物になる。


 一応の制約と身を削る上ではあるが、眷属神カーイムナスの魔力を制御する程の力があった。

 その為、オルゼクスはオルゼクスたるを保てていたとなる。


「では、今暫くで離しますゆえ、その様に願います。魔王様、(わたくし)の散り行く花びらもあと僅かゆえ、当面は御力添えは叶わぬと存じます」


「最早十分だ。事が成せば、いや、あの獄属が戻ればお前の思いは叶えよう」


 オルゼクスは話の流れで傲然たる豪獄(アロギャン)の事を出していた。

 そして、唐突に暗黒のサバルに思いが至る。


「サバルは見ている筈だが、顔を出さぬのは今だに手こずっているのか。……眷属神の言に付いても聞きたい所なのだがな」


「テンバス……いえ、わたくしの手の者を使いに向かわせます。彼らなら然程の刻も掛からぬかと」


 アマビリスはそう言って、軽く手を叩いた。

 それに合わせ、突然、かがり火の返しに黒い三体の魔族が片膝を着く姿が現れる。

 彼らは、アマビリス小飼の魔族――鴉魔(アマ)族の者――になる。並びに、カンア、ギョウア、ランアで彼女が配下としていた。


 見下ろすオルゼクスの首が僅かに動いて、アマビリスは言葉を出していた。


「ギョウア、聞いておりましたね。魔王様がサバル殿の接見を所望です。早急に手筈をなさい、宜しいですね」

「承知致しました。では私が参ります。カンアとランアは引き続き警護しておけ。……では、失礼致します」


 ギョウアと呼ばれた男は、顎を引いたまま答えて消えていった。残されたカンアとランアの姉妹は、「では、我らも警護に戻ります」と同様に消えていった。


 光景に、オルゼクスは然程も興味を示していなかった。ただ、その場の入り口辺りからするブロスの声には意識をみせた。


「ワシも初めてにしては上出来だぞ。戻る時に、ミールレスに渡してやれ。貸しじゃと言っておったとな、がっはははっー」


 アマビリスの視線も掴まえたのは、ブロスの前に立つメイド服を着た自ら歩く人型だった。

 それは、メイド仕様の魔造従者(サーヴァス)の『神具の欠片の欠片」を(コア)に動く人型になる。


「ブロス様本当に作られたのですね」

「姿も変わるぞ、ミールレスのそれが今はわからんからこれだかな」


 雰囲気がアマビリスに似るそれを、鍛治であるブロスが創造し上で作り上げたのが、神の眷属であるの証明に見えた。

 ただ、その一因は、ミールレスが握りしめ魔力で包んだ事によってになる。その為、人型の反応する自我はミールレスの望む物になっていた。


 オルゼクスはそれを見て、微かに息を漏らした。


 ――ミールレスもこの様な者に執心するとは、勇者といい自ら不測を作るなどと。フリーダの言は確かに分かる『必ず捨て置いて欲しい』の意味が分かるな……ただ、我に、いや、我もあやつを捨てれぬかもしれんな。


 それなりに、物語の側面も進んで行く。そして、それが物語のうねりに色を添えて行くのだろう。


 急転するかの様相な「綴り」の光景だった。



ありがとうございます。

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