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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第六章 王国の盾は双翼の楯
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参~黒衣の王~

 ヴルジェラの驚きを引き出した、クローゼの高速の飛び出しは、地面から突き出した岩石の柱に阻まれていた。


 クローゼが、盾魔方陣の反発で瞬発力を見せ、自身を加速し、領域の双剣を走らせるを見せるから、それは始まる。

 同時に、サバルの人差し指が上向きに上がり、突き出す岩石の柱の連続が起こっていた。

 その連続をクローゼが刀身に魔力通し、砕いて、回転から加速する場景に続けていた。


「言うほどの事か――」


 勇傑と支配を制御し、サバルに迫る最中に体感をクローゼは口にする。

 砕き飛散する破片に、魔方陣の煌めきを魅せながら、言葉の最後に、領域の勢いで剣擊がサバルを捉えるかに見えた。


 しかし、斬れる前にサバルの体は砕ける様にバラけて、刀身を送り流して行く。

 流された剣筋の勢いで体勢を崩し、クローゼはサバルの表情が不敵なのに舌打ちをする。そして、その身体が戻り行くのを見ていた。


「言うほどの事は御座いませぬな」


 暗黒から、返された言葉に返す身体。

 下から突き出る岩石の柱を、魔方陣の発揮で潰し砕きながら、魔力を叩き付ける竜硬弾をクローゼはサバルに放った。

 しかし、近距離を瞬間で越える筈が、またもや岩石を砕くに至る。


 飛び退く動作で距離を取るクローゼが、自然体で構えて、サバルに視線を向けて後ろに声を出していた。

「ウルジェラ、破った所を押さえろ。そろそろ魔砲撃が始まる。何も入れるな、何も出すな、いいな」


 見送った場所に立つウルジェラは、その声に何かを言おうとして、そのまま入って来た場所に下がっていった。

 その動作にサバルは、異様な容姿を誇示する様にクローゼに声を掛けていく。


「何を言われておいでですかな。これは私の結界にて、貴方にそんな権利はない筈ですが」

「どうでもいい」


 相応の距離で、異様に剣先を向けてクローゼがサバルの問い掛けを切り捨てる。その瞬間で、宣言通りに彼の後方では、黒の筒の爆裂音が始まっていた。


 音に意識を向ける、強大な雰囲気の暗黒のサバルに、クローゼは平静を見せて自身の「どうでもいい」に言葉を続けていく。


「中々の奇術だ。魔導師になれるんじゃないか」

「御冗談を、魔導師ごときと私の魔力発動を比べて貰っては困りますな」


 軽く鳴らす首と奇妙な笑いが、交錯していた。


「冗談じゃない。誉めているつもりだ」


 会話を続け始めたクローゼは、当然『瞬殺』のつもりだった。平原の中から唐突に出る柱は、厄介だったがそれだけになる。

 また、竜硬弾を吸い込む様な岩の柱は、想定外だったが致命的ではない。

 しかし、何にもましてサバルの身体を、剣がすり抜けたのが、クローゼには「面倒くさい」になる。


「どうしたのですかな、会話を御所望の様で。交渉などには応じぬのはお分かりだと思いますが」


「ただ、面倒くさいと思っただけだ。それに勝ち誇った雰囲気を出しているだろう。お前が観客に自慢話をしたいのかと思っただけだ」


 あくまでも、対象はサバルだった。その認識にクローゼは至っている。

 ドーム状の結界の中には、広さに反して百ほどの魔族がいるだけだった。クローゼ自身も、初見で相応と見た強者の側付き達である。

 それなりであろうが、実際には相応も含めて、三下扱いで観客認定だった。


「ふっ、別に自己顕示の欲望はありませんな。ただ、餓属を取り込んで、絶え間ない渇望が有るのみ。その対価は想像を越えましたが」


「餓属? 獄属の間違いだろ」

「クローゼ、 暴然なる餓属(エダリプス)は我らとは違う。初めから天獄の側だ」


 餓属の単語に、ウルジェラの声が届いてクローゼは僅かに顎を上げた。――設定が面倒くさいぞ。なら意味的に獄属でいいだろ。


「強いのか? ってまあ、説明はいい」――魔力を喰うって事はそう言う事か。まあ、俺も食えると言えば食えるけどな。


「強いかと言えば、強かったですな。まあ、相性が良かったので私の糧となりましたが……故に私は強いですな」


 徐々にサバルの表情が、明確な高揚感を出して異形さがまして行く。それにクローゼは僅かに笑みを出していた。


「一つ教えてやろう。この世界の強さの真理だ」

「真理? 斯様な物は。まあ、知識にも渇望しておりますので、教えて頂きたい所ですな」


「後付けの強さは偽物だ。取って付けた奴もだ。強い奴は純粋に強い。やって見れば解る。勇者にしても、魔王にしても『強い』だ。それ以外は、あれだ。ところで、魔王は死んだのか?」


 突然向けた、魔王の生存確認は狡猾さが有った訳ではない。只の成り行きの言葉で意味は無かった。しかし、サバルは反応を見せる。


「魔王、魔王とうるさいぞ。魔王のお気に入りだとて、殺すなとは言われておらんぞ。見ていた。時折消えるが、お前の魔力は魔王に相似だ。だから見ていた。故に私はお前には負けぬ。魔王にもな」


死んだのか(・・・・・)? と聞いている」


「対と殺り合って無事で済むまい。今は魔解で暫くは戻らぬ。お前が死ねば、後はミールレスと死に損ないの勇者だけだ。それで私が魔解の君主となる」


 サバルの身体が、貼り付いていたエダリプスを完全に取り込み、暗黒色で幻影の人型になっていく。

 頭には巻いた大きな角が両側に伸びて、背中には翅脈(しみゃく)か伸びて昆虫の(はね)が四枚出来ていた。

 見開いた目は、目であったのが辛うじて分かる変化を見せていた。


 その「どうだ」と言わんばかりのサバルに、クローゼは呆れる表情を見せる。


「ビンゴ、だな。(たか)ってるあの黒い奴の親玉だな。大体、そうだと相場は決まっている。まあ、安い設定だ」

「何を訳の分からぬ事を。まあ良い、その魔力ごと喰らってやる」


「大概俺も強いぞ」クローゼのそれが合図だった。覇気と行く気を見せる何時もの雰囲気は消えて、その魔力が消失したかに見えていた。


 サバルが自ら脚を踏み出し、クローゼに向かい突き出し指差すが――そのまま伸びていった。

 鋭く伸びる指先。ただ、思考する余裕をクローゼが「なんか馴染んだな」に乗せていた。


 鋭さと交錯が起こる寸前に、クローゼは爆発的な反動で指先を交わし、気配も出さす相手の懐に飛び込んだ。

 視界を互いが占める距離感で、瞬間的に減速しクローゼはサバルを見上げて笑顔を出した。


「遅いな、今の俺にこんな余裕与えたら、魔法使いでは勝てんな」


 サバルの反対の腕、いや、身体その物が細かく細分化した魔力を喰う個体であるサバルの正体が、その距離感を勝利と認識していた。


「馬鹿が、自ら死にに――」……そうサバルが出した声に、クローゼの明確か詠唱が入っていた。

魔動妨害(ジャミング)。取って置きの秘密兵器だ。残念だったな、多分これで終わりだ」


 その言葉通り、サバルの動きが止まる、いや、止まって見える程鈍くなった。サバルの大きな目がゆっくりと、自身を認識する為に動くのは僅かに分かる。


「眷属取り込んだのが致命的だったな。この距離で全力ロックだ。いくら魔力魔量があっても動けやしない。聞こえてるか? やる気なら初擊で『全力魔力発動だ』余裕かましたのが敗因だ。抉り出してやる。そのデカい目で見てろ」


 悪魔の微笑みをクローゼはサバルに向けて、剣をコア辺りに向けて突き刺し抉り探っていた。


  魔力に干渉し「弾き防ぎ無効無力化する」操作可能型自動防護式アクティブプロテクションの第二の楯対魔力防壁(ウォール)の派生。

 魔量吸収(アブソーバ)魔力反射(リフレクション) に並ぶ三つ目の盾魔動妨害(ジャミング)その起動呪文の通り魔力発動を妨害する。


 魔力を吸収し、生体活動なく存在を維持している神の眷属は、魔力で動いている。その為、五体がありコアがあれば永劫に生を紡げる。その理で、魔動妨害(ジャミング)の効果を諸に受けたと言う事になる。


 クローゼの言葉通りに、喰らう個体で彼の魔力を「全力で」奪いに行けば結果違っていたかもしれない。ただ、選択は肉体機能を停止させて……だった。

 そして、現状その連結の制御さえ妨害されていた。


「全く、三つ目だぞ、一体、何個出て来るんだ。まだ崩れんからまだあるのか? ウルジェラ、どうなってる。だいぶ気持ち悪いぞ。おらっ、あっ固い。下にもあるのか……」


 魔族が遠巻きに見るなか、中々のグロテスクでスプラッタな光景が見えた。それが……サバルが幽魔族の姿に戻り、暴然なる餓属(エダリプス)の抜けらが分離し風化するまで続いて行く。


 途中からは面倒になったのか、竜硬弾が通るに気が付き「この方が楽だな」と半笑いで、撃ち込んでいた。その為絶命したサバルは、見るに絶えない……であった。

 結界が独立型だった不幸で、その最中に動く者は竜硬弾の餌食となり「次はお前な」と魔王さながらの恐怖をクローゼは振り撒いていた。


「七個か、大量だな。まともにやってたら結構強かったんだろうな。外も流石にもう増えないだろ」


「最初に、我か倒したので連鎖は止まっている。こちらに近付くのもいなくなった。後は向こうでも時間の問題だけだ。どれ程掛かるか分からぬが」


 ウルジェラの言葉を聞きながら、クローゼは軽く足蹴にするを見せて、気丈と虚勢のベラーヌとマーグナスに眼光を向ける。


「あの二人は、お前の魔眼で拘束は出来ない部類か、 面倒くさいな。仕方ないヤっとくか」

「恐らく効かぬが。クローゼ・ベルグ、冷静か?」


「まあ、冷静だ」

「既に決着はついているぞ。取り敢えず縛り上げて隷属の鎖(スレーブチェイン)と言うでもあるが」


 クローゼはウルジェラの促しに、肩を鳴らしていた。単純に「面倒くさい」そのままの感覚である。――どうするかな。捕虜にするにしても、絶対大丈夫って事はないしな。でも半分近くこれ女だろ。余計面倒くさいな。まあ、聞くか。


「おい、どうする抵抗するか、と言うか魔族だからやるよな。大丈夫だ多分一瞬だ。楽に殺してやる」


 既に言動が魔王であるが、恐らく現状で最も魔王な男であると思われる。

 魔王不在の今、魔都ユーベンにある、ミールレスかヴォルグの何れかで、一騎打ちなら結果が不測である。その為、インパルス以下では相手にならない。


 その認識が無くても、目の前で見せられた光景にベラーヌは心折れていた。

 未だに崩れない結界を作り方出した、暗黒のサバルの無尽蔵に見えた魔力の力をたった一言て抑え込んだクローゼにである。


 マーグナスは、まだ、虚勢を張れていた。称号に掛けて引けないのである。先ほどは三下扱いされて既に、示すしかなくなっていた。


「者ども、我に続け――」……「パン!」


 マーグナスも決して弱くは無い。ただ、彼が最後に聞いた音はクローゼの空間防護(スペース)を自分で砕いて飛んだ音になる。

 瞬間で距離詰められて、彼自身の視界を回した双剣の剣筋は、マーグナスには見えなかった。そして、転がり行く視線で、クローゼの美しく流れる足捌きを見たのか最後だった……


 ……「さて、そっちはどうする?」一連の剣舞を終えて剣先をベラーヌに向けて、クローゼは首を鳴らしていた。


 既に、力関係は明確についていた。凡そ、三十名程が、ベラーヌに従いクローゼに膝をついて跪いてくる。それを、クローゼは頭を掻きながら見ていた。


 そのまま当たり前に、ベラーヌの言葉がクローゼに向けられてくる。


「この状況では、我らに抗う術はありませぬゆえ、如何様にも。……存命を賜れるなら、黒衣の王に忠節を向ける所存。また、寛大を頂けるなら我の命をもって、配下の安堵を頂きたく――」


「――面倒くさい。それに俺は王じゃない。ウルジェラ、どう思う」

「我に聞くな。無益にせぬならお前の好きにしろ」


 ウルジェラに勝手にしろと言われて、一応に考える仕草をする。跪いている自分には慣れているが、されるのは慣れていなかった。

 ――マジで面倒くさい。後で何かあったらまた、後悔するんだよな、きっと。と言うか、こいつら何で女ばっかなんだ。


「取り敢えず、お前ら何だよ。獄魔族じゃないよな。それに、見た感じ女ばっかだよな」

「我らは、妖蛇の一族です。括りでは人魔族に。今は擬態ゆえ斯様で獄魔に類似しております。『女』の容姿は、我が一族は女型のみゆえ」


 単純な興味を向けて、クローゼは、返答を受けたが実際には、それがどうしたの雰囲気だった。

 ダーレンの件の現実から、目を背けるのに今回の王命は丁度良かった。

 ただ、単にその為だけに来ていた。

 勿論、全力でやってはいたが、レニエを付けられたのも、アーヴェントとの謁見での挙動とウルジェラが懸念示していたからになる。


 一通り考えた様な雰囲気を出して、頭を下げる一団に回答をむけた。


「好きにしろ。期待しないが取り敢えず、返してやる。適当にそれらしく魔王軍をやってろ。俺にあったら逆らうな。俺の命令にも逆らうな。いいな。それと、お前名前は?」


「ベラーヌと申します」

「立て、無傷だと不味いだろ」


 言うが早いか、ドーム結界の東側に全力で魔力を乗せた竜硬弾で風穴を開けて見せた。

 弾道が刻まれた大地が、帰りの道筋を示すのにベラーヌは視線を送り、クローゼの前にたった。


 彼女は既に、クローゼを魔王然として見ている。そんな雰囲気があった。


「食いしばれ。気を抜くなよ」

「存分に」


 ベラーヌの声に、クローゼは肩を掴み躊躇無しに衝撃の拳を腹に叩き込んだ。

 背中に抜ける衝撃に、ベラーヌは口から鮮血を吐き「ぐはぁっ、ぐぐぅっ」と連続した呻きを続けていた。

「手加減はした。恨むなよ。前言撤回だ、忠節は期待するぞ」


 ベラーヌは、混濁に意識を揺らされ支えられクローゼの声に意識に刻まれていた。


「全員、撤退しろ。行き先向こうだ。……命が危なそうなら、これを使え。急げ」


 言葉で急かして、ベラーヌらをクローゼは送り出した。その様子を見つめるクローゼに、ウルジェラの視線は刺さっていた。

 それを感じたのか、クローゼは視線向ける事なく、刺るそれを切り捨てる。


「支配者に文句があるのか?」

「彼女らに。いや、自身の王にも言わぬつもりか」


 ウルジェラの言葉に、クローゼはアリエテル側に起こる破裂音と爆発音が意識に戻っていた。


「まあ、遊びだ。余計な事は言うなよ、心配させたく無い。魔族の忠節なんか信用してないしな」


 そう言って、自身の携帯様子の通信機を渡した、アルビダと言う。魔族の名前を心の中で復唱していた。


「そんな事より、ウルジェラ、魔王を追え。何なら俺の魔力を嗅がせてやろうか」


 無言のウルジェラに「頼む。取り敢えず戻るぞ」と告げていた。うっすらと上がる口角に、クローゼは思考が見えていた。


 ――さっさと、魔王を倒せば終わる。今がチャンスだ。他にも気になる事はあるけどな。まあ、それはそれだ。……取り敢えず面倒くさい。


 なんだこの感じ。少し嫌だ……。



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