二十一~平穏な日常は物語を加速する~
ギリギリ週中で。ちょっと「あれ」な感じです。
暗躍が一つだけ。そう思うのは間違いであるとしても、それをクローゼが分からないのは、視点の違いで仕方ない事なのかも知れない。
表と裏の刻みが、極と獄――昼と夜――の回るのに併せて動いていく。その中で、物語の本流がその刻と場所に向かってそれ相応の流れを進めていた。
そして現状、基点となりうる特異なる者クローゼ・ベルグは、ジルクドヴルムに並んでいた塔の跡が見える場にいた。そして、起動した術式で盾を具現化し新たな転位型魔動堡塁の足跡の土台を作っている。
その作業をクローゼは、見るからに飽き飽きとして、その様子を眺めていたアレックスに確認を向けていく。
「もう、これ位で良いだろう。お前も戻るなら、取り敢えずこの数で終わりの筈だよな」
「そうだね。ユーインさんが派遣してくれた技師と術師に、大体引き継ぎしたし、運用の要員もグレアムさんが引き受けてくれたからね」
「よしユーリ、行ってくる」
「何処へでしょうか? 『暫くは待機』との国王陛下の御言葉でしたが。それに閣下、今は光ってないと思われますが」
日毎に出るクローゼの言葉に、共鳴竜水晶が反射の輝きだけが主張する様子にあわせて、ユーリの言葉が向けられていた。
クローゼが、今の彼になって凡そ二年に届く。その間で初めの半年程と同じ様に「普通の日常」を彼は、少なからず甘受していた。……当たり前に、領主としての仕事をこなしていたと言う事になる。
大方の者は、最終的な魔王軍との戦いに向けて動き出し、彼の周りにはいつもの様子はない。
既に、ランヘル攻略戦は始まっており、再編成を終えた王国軍の本軍がライムントが伴った帝国軍と合流しエストニア王国との国境に向かっていた。当然、それに連動した計画通りに事は進んでいる。その現状があった。
「仕方ないだろう。気になるんだから、それにしても遅すぎると思わないか」
「だから、通信機渡しておけば良かったんだよね。折角、急いで作ったのに。何でそういう所気づかないかな。男って」
アリッサからの明確な呼び出しには、「答えても良い」を頑なに抵抗して了承を得ていた。取り敢えず、繋ぎからの生存確認だけはある。しかし、彼女意識での連絡は未だにない。その状況で、クローゼの言葉になる。
「『男って』。お前も男だろ。それは俺が悪いけど、いつでも行けたんだからそうなるだろ」
「まあ、飛び抜けてあれな人はって言い方に変えておくよ。イグシードなんか『これでもか』ってくらい『連絡がないけど壊れてないか?』て聞いて来たからね。自分からすれば良かったのに」
光景を思い返してアレックスは、呟く様に「流石に、魔解に入ったら駄目だったみたいだね」を続けていた。
――この辺りの見解が、働魔が戻らない現状が『疑問』に至らない原因かもしれない。一応に、多々の不在も含めてではあるが――
それはさておき、アレックスとしては戻る前に「ガンガン」――積極的に言えば――行けば、「目的地をアリッサの所へ変えられたんじゃないか」と思っていた。
その為、その都度イグシードには伝えていたが、彼のあの感じの積極性が、ライラに向けては無かったという事になる……
「まあ、確かにそれはそう思った。今もそうだけど、自分なら我慢できないしな。まあ、それであいつに八つ当たりされる魔王軍もあれだけどな」
クローゼの言葉通り、ランヘルに続く道は想像以上に近くなっていた。勿論、イグシードのそれによって……だが。
その為、クローゼの「虎の子」転位型魔動堡塁を運用する、ダーレン・マクフォール士爵麾下の竜擊機動歩兵大隊が活躍する場面が無かった。大隊長の選任は、騎乗が難しくなったダーレンが適任であると、クローゼが彼を口説き落としていた。
――通常の竜擊歩兵は、横列布陣による制圧竜撃が主戦術で現状の兵科と差異はない。
しかし、竜擊機動歩兵はその名の通り、分隊単位で「竜擊筒」の連動射撃と機動をあわせて小隊規模による機動的戦術を主としていた。
その為、彼の柔軟で見識ある所と統率力溢れる武人として資質が、クローゼの半端な知識の具現をなすのに、有益で現実的であった。
基本的には、クロセのクローゼが噛った知識になる。冒険者のパーティーの構成を導入したそれの延長に、クローゼのイメージが加わった物で、無論、魔動術式を使う者も当然組み合わせいた。
因みに、ヴィニー・ブルック率いる狙撃兵三個分隊が随行している。
ラグーンとパトリックが分隊長を務めて、量産不可能だった魔力増幅の術式を必要最低限して製造し、狙撃用の魔衝撃筒を配備している。対物魔衝撃筒はパトリックが使用していた。
当然、アーヴェントは承知だが公式発表まだである。これは、単純にクローゼの思い付きな趣味の域であり、ジルクドヴルムの技師や匠による、複製の技術の高さを示すものでもある……。
八つ当たりの発言に、単純な同意を見せてユーリの促す様な言葉が出てくる、
「閣下、これでご予定がなければ、執務室の方にお願いします。商会の方に人をやりますので。ロレッタさんから帝国軍に提供する物資の件て確認したい事があるそうです」
「ニコラスかクラークにでも、それかキーナ……はいないか」
「そうだね。いつものみんなが居ないのは、初めてだよね」
「そうです、なので閣下にお願いします」
勿論、ニコラスはその任からジルクドヴルムを離れる事はない。ただ、領主代行のキーナは、ヴァンダリア本軍と刻を同じく、ジルクドヴルムから出兵するクローゼの軍を指揮して、セレスタと共に既に出発していた。
付け加えるなら、暁の商会のクラーク・ドーンなど、ここには居なかった上に、確認をロレッタに指示依頼した側である。
若干ずれた感のあるクローゼの周りには、通常の警護の人員は随行しているが、ヘルミーネすらいない。一応の待機であるレイナードも、ヴァリアントいる幼年の弟子二人の元にいた。
「兎に角、クローゼの分の転位型魔動堡塁は仕上がってるから、一旦皆とヴァリアントに戻るよ。予定の刻には僕も集合には協力するからまたその刻だね。じゃあ」
アレックスの後ろに、多数の人が彼を待っていた様であった。彼がそう告げて、その一団を連れその場を後にしていく。それをクローゼは気重に見送っていた。
暫く、その姿勢のままクローゼはその方向を見ていた。ヴァリアントの方角に重なるその先、竜の背を越えた向こう側。……そこにあるその人を。
「閣下?」
「ああ。何でもない。……でもユーリ、ヘルミーネがいないと寂しいだろ?」
「と、とっ、突然、何を言われるんですか!」
動揺が流れを見せて、クローゼは僅かに微笑む。不謹慎であるかも知れない。そうクローゼは頭の片隅で思っていた。
「ウルジェラに聞いたぞ。欠片なら強くなれるか?って聞かれたと。……お前は今のままで十分強い。あれで一緒に行ってくれるかと聞いた刻に、即答したじゃないか。戦うだけが強さではないし、支えるのも強さだからな」
「閣下、私の話は確かにですが、話の脈絡が突然過ぎて……私は閣下の副官ですから当然です。通信要員でも何でも出来る事はします。それに自分の祖国ですから」
何と無く、ユーリの答えにクローゼは満足気な様子で、「仕方ない行くぞ」と声に出して歩き出した。
そして、それには唯一無二な「臨時で代理な人の副官」は聞き返す事も無く、自身の定位置でクローゼ・ベルグについて歩き出していた……
一方の「元人の代行ではない」副官の彼女は、ヴォルグの屋敷で魔族の彼女達と会話をしていた。
極天に対比する暗さの見える室内で、ビアンカとカルーラと共に、ある意味で決定的な事柄の結果を待っていた。
その彼女は、当然に吸血鬼になったアリッサである。容姿端麗な雰囲気は依然としてその様であったが、何処と無く「やはり」の様子で、単純に妖艶さが増していた。
「ビアンカ、体調はどうですか? フリーダ様は確かと仰ってましたが、一応医者に……人狼は如何様にするのでしょう。何れにしても事が成れば、貴女は唯一無二を成しているのですから」
「アリッサ様。間違いごさいません。確かにその様に。如何様になら、彼女は人と偽って生活しておりましたし、人魔なら人智の者でも問題無いかと」
二人の会話に置き去りのビアンカが、申し訳ないが見える表情をしていた。
「如何に、フリーダ様の命とは言え……」
「気にする事はないです。私自身がどの様な選択を持てるのか分かりません。ですが、もし、彼とそうなっても吸血鬼となった今ではそれは叶いませんから。それに、彼が今この選択をして、許されたのも貴女にあるがゆえですから」
アリッサが、本意か不本意かは別に吸血鬼になった事で、ヴォルグがフリーダの魔力を受けるのを要求した。
厳密には、クローゼ・ベルグが故にである。建前にフリーダの側で、永劫の刻みを持ちたいという話もあったのだが……。
勿論、フリーダが我が子と思っている彼にその選択をしない理由はある。簡単に言えば、魔力混成による弊害で知性の欠落が起きる為であった。
人智と魔解の魔力は厳密に言って同じではない。
吸血鬼は魔族の括りになるが、オリジナル―― 妖艶なる羨獄の嫉妬がなしたもの――なフリーダを含めて、吸血鬼は全て「元は、人」である。
その為に、魔力は人智の側に属する。魔力混成が引き起こした事象をフリーダは見てきた。その為になる。そして、アリッサの言葉に繋がっていた。
それは確証を持った生命の始まりが、それ以後の死ある生を越える選択の条件となり、ヴォルグの欲求を受け入れさせていた。
アリッサはそれを事後として聞き、この刻に至る過程でビアンカには祝福を向けていた。……アリッサとしては、であるのだが。
複雑な心境で、ビアンカは自身の境遇を受け入れ、不安の中でそれを待っていた。……それぞれにヴォルグの言葉を受けた彼女達の少なくない静寂をメイド長のルヘルの声が音を戻していた。
「皆さん、手当てを!」
無造作にそれを断り、あの四人の人狼に続いて、紫黒兵団の千人長らが併せて十名ほど彼女達の部屋に入ってきた。それなりの広さがある場所には、戦場かと思わせる擬態の人魔達の顔が見えてきた。
人狼に人虎や人熊。人豹や狒々から擬態した者など擬態を出来る者達になる。その様子に二人は声を出せず、カルーラがそれに答えを求めていた。
「如何になりました?」
「姉さん。どうもこうも、大将が正気を無くすなんてのはねぇっすよ」
「でも、なんか、最初すげぇ暴れて。『ぐおぉぉぉ』ってすげぇの、……です」
ザッシュとマッシュの言葉に一応の笑みをカルーラは向けて、一番冷静なアッシュの居場所を追っていた。彼女自身は、彼らの感じを受け入れているが、この場合、見たままに派手な事になったのは分かる。その上で事の前後の話に向けていく。
「アッシュ。フリーダ様はなんと?」
「そのままなら、『流石はヴォルグ』と。一度落ちたらしいのですが、戻ってきたと。ただ、森の中で暴れまわるのを押さえるのに、漆黒と鉄黒に俺達でやっとでした」
メイド長のルヘルが、ギリギリ卒倒を免れる程の打撲に裂傷が衣服に模様までつけていた。
それが物語る様に、壮絶な事の経緯を言えば鎖で拘束されたヴォルグが「初めの血」に至るまでの話なる。
フリーダの全力に、彼らとヒルデとノーガンらの側衆も含め数十名で一晩中の出来事になる。……旭光が見えて、燃える様に見える身体が超絶に回復する光景の最中、ヴォルグが自我を取り戻した上での事だった。
「それで?」
「フリーダ様が初めの血に。暫くは様子をと。そう言われていました」
カルーラの頷きの後ろから、透き通る冷ややかな声が唐突にその場の雰囲気に抜けてきた。
「ならば宜しい」
一瞬、フリーダの言動か? とその場にある従属者の全てが、声に視線を奪われていく。奪いいくその先には、妖艶さが加わったアリッサの容姿に紫色の瞳が映えていた。
半ばからとは言え、ヴァンダリアの近習の彼女。同格とも取れるカルーラが元々侍女であるを考えれば、既にこの場で最上位者である雰囲気を魅せていた。
続く労いと気遣いは、受ける者に入れる以外の選択肢を持たせない様子になる。……傍らにあるビアンカの鼻は、彼女が明確に魔族であるのを教えていた。そして、彼女の微かな不安が言葉になっていく……。
「ヴォルグ様は、どうなられたのですか?」
遠慮がちに出ている言葉には、紫色の瞳が四つ向けられている。そして、明らかに先達たるカルーラがアリッサの頷きを見て答えを返していた。
「魔解にあるなら、それを統べる程の御力を。魔王様に従う魔解の王たるを……恐らく超越した存在になられたと存じます」
クローゼ・ベルグの力を見て、自らそれを越えるべく混成の弊害をねじ伏せたヴォルグ。人狼の頂きにあった彼が、ある種の超越者になった物語の一頁だった……
カルーラに「魔王に次ぐ存在」と言わしめたヴォルグが境界を越え出でたのを、未だ知らぬ魔王オルゼクスは、魔解の洞窟の奥深くで獄炎の反しにその身を纏う鎧を輝かせていた。
彼は隣に立つアマビリスと共に、サイクロプスの名工――卓越した鍛冶技術を有する単眼で四本腕の大男――ブロスの座る背をその目におさめている。……いや、その向こうに立つミールレスを見ていた。
一応に言えば、状況に居心地の悪さをひた隠し、彼女を護衛するテンバスの後ろに立つ傲然たる豪獄が傲慢さを隠していた、となる。
起因について語るなら、オルゼクスがブロスに獄炎で鍛えし獄鉱石で鎧を作らせていた。そこに、本来は別の目的で来る筈だったミールレスが、やって来た事による偶発的な流れになる。
その状況で、ブロスがミールレスに造り渡した物について確認をしていた。
「肘が残っとったのと、神具の欠片を持ってきたのはよかったぞ。渡す以上は手抜きなどしておらん。より以上に手だ。どうだ?」
「貴方の腕に疑いなど抱けぬ。言うがままに、より以上な感覚だ。……ただ、欠片を使えるのには、驚きました。この欠片は特別なのです。感謝します」
ブロスの造りし物は、無くした腕の先、前腕部を覆い変わる籠手――ガントレット――になる。そこにあの欠片の欠片が嵌められていた。
見るからに、指を動かす仕草に違和感が無く、それを成しているのが欠片の力になる。
「大体がこれでも神の眷属だからな。それと、剣はまただ。魔王の鎧で獄鉱石の残りがないで、我慢しろ。ところで、感謝するならアマビリス、ワシの所に嫁いでこぬか? ……。がはははっ、冗談じゃ、ガルレスの借りはこれで無しだな」
アマビリスの驚きの顔とミールレスの複雑な表情に、ブロスは冗談と念を押していた。
そして、彼はそのままオルゼクスに言葉をむけていた。
「前の刻は、要らぬと大概じゃったが、今回はお前から来るとはな。まあ、生きておったのも大体が驚きだがな」
「死と言うものと知ったのと、あがなう物が出来たのだ。それの腕を斬った者……正確には共に戦った者か。それの為だ」
そう言って、オルゼクスは僅か隣に視線を落としていた。「死を知る」については、封印された事も含めて、あの槍と同類の竜硬弾を体感した事による。
「アマビリス。ブロスの言は冗談だそうだが……ならば、我の子をなさぬか? お前の求める最大の物を与えてやるぞ」
「御冗談を……」
「魔王……様それは……」
冗談としてやり過ごそう俯くアマビリスの仕草が、ミールレスの魔王に向ける言葉を呼んでいた。
「お前達は魔導の五体であろう。ならば、我の子を成せるのはお前以外にあるまい。不老にして長寿のその肢体が確たる証拠ゆえな」
「魔王様には、紫黒の妃様が……」
「そんな事を気にするのか、この意に関してはお前なら異存はないと言っている。……まあ、魔王が子をなそうなどと世迷い言か……んっ、誰だ?」
洞窟の造りで、大きな空間の中央に獄炎が立ち上がるその場所。そこに、幾つか繋がる横穴の一つから、炎に当てられた二体の影か現れていた。
受け入れざるかは別に、突然の訪問者が驚愕の表情を見せていた。その表情の出所は欲然なる烈獄になる。
そして、もう一つは「虚ろな表情」を見せる、蒼黒の炎を操る魔解六刃将の一振り、焔魔族のライラであった。
オルゼクスの鋭い眼光に、欲然なる烈獄の硬直する表情が見えている。当然に、逆からの視界には、魔王とミールレスを含む一団が見えていた。
――何でこんな所に……イジェスタの困惑の思考になる。
彼は単に、六刃をまとめ龍装神具の具現をブロスにさせようとしていた。その目的で訪れたこの場所で、出会した事態になる。
……その気になれば魔解にも追ってこれるであろう勇者の為に、ライラの心を一時的に奪い取り、あの馬車で刻を使いやって来た挙げ句にである。
その状況で初めに声を挙げたのは、テンバスであった。
「ライラか? そのフードの者は誰だ?」
「ライラ? ……六刃将の者……か?」
問いかけるテンバスに、イジェスタに眼光を向けたままオルゼクスは問いかけの重ね掛けをしていた。
その答えが出る前に、ミールレスの新たな右腕から出た魔力の刃が、瞬間的に距離を消す勢いでイジェスタの腹を捉えていた。
聞こえるのは「ぐっ」なり「がぁ」が続くイジェスタの呻きである。
「痛いか? 俺も痛いぞ。あの刻の傷が些かだ。……見物席から降りた気分はどうだ?」
「ぐぐぐぅがぁ、痛っ、貴様っ」
「痛いだろう、イジェスタ。俺も喰らったからな。まあ、自業自得だ。流石にあれは酷かったぞ」
前回辺りの事を踏まえれば、アロギャンは魔王との遭遇は想定外であったが、見たままの状況には自身を重ね合わせる事なくそう言っていた。
貴様の後に抉る動きで、言葉を出せぬイジェスタとミールレスの交錯が起こっていた。その呻きに、オルゼクスは侮蔑を見せてアロギャンの「あれ」に意識を合わせていた。
「ミールレス、動きが今少しだな。経緯は知らぬが好きにしろ。……アマビリス。ランヘルの件は我が行く。先程のサバルの話も合わせて、勇者ならフラルゴの残りを送った所で、どうにもなるまい」
オルゼクスは、魔刃を引き抜かれ、崩れ膝を着き項垂れるを見下ろすミールレスから、視線外してアマビリスを見ていく。
彼女は、人智の側の動きに残して来たインジニアムの者達――同郷のミールレスに従う者ら――の事を魔王に告げていた。勿論、アロギャンの百眼で得たものである。
「アマビリス。傲然たる豪獄を貸せ。我は流浪を通れる。無論、通じる穴も通す事が出来る。……そういう事だ」
妖艶と可憐の相反が同居して、際立つ雰囲気のアマビリスは、オルゼクスの言葉の最後の真意を捉えきれていない様であった。
そして、彼女は困惑な表情に妖艶さを混ぜる仕草をしていた。……オルゼクスを見上げながらに、であった。
次は、終末に。軽めの章の終幕の予定です。




