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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第五章 王国の盾と魔解の王
142/204

十七~特異なる者=与えられる強者~

タイトルNo.修正しました。

 大人の流れ――事情――という意味で、城塞都市ランヘルを攻略する意味合いは何処にあるか。勿論、出兵するのはイグラルード王国である。


 この時期に……いや、それ以前に動き出した事も含めて考えるとパルデギアード帝国支援の為であった。それは、アーヴェントがノエリアと対面し正式な支援を約束した流れになる。


 ……当然に若干の負い目があるあの彼が、ノエリアにそれを告げて繋いだ結果ではあった。


 明確に言えば、補給線の確保と本格的な「対魔王包囲」の連携の為になる。


 イグラルード王国の西の側――エルフの領域やドワーフの国がある北側と「竜の背」と呼ばれる山脈をはさんで、その南側にパルデギアード帝国がある。

 その為、亜人の領域を使い、帝国の西方域側からの支援を考えると相応の距離があった。


 そこで、エストニア王国と国境線を除き、僅かに国境を接する王国西方辺境区と重なるイグラルード王国側からの支援を考えるに至る。


 現在、西の帝国の主戦場である、帝都アルエテルに進む先に城塞都市ランヘルを中心としたその地域がある。そこが丁度ルートに当たり障害になった。


 結果的に辺境だった所が、イグラルード王国側から見て重要地域となったと言う訳である。


 勿論、本格的包囲を行うにあたり北側――エストニア王国国境――のからの侵攻ルートの側面を晒す形になり、魔族一万以上に魔物が数万は数として無視出来ない、と言う事もあった。


 それもノエリアからの情報時点であり、放置すればその数は増えるばかりである。……そこで、アーヴェントの即決即応の勇断で、中央に戻っていた王国第四、五、六軍にランヘル攻略の王命を出した。


 ランヘル攻略に向かうのは、動員数五万二千、兵力四万二千――騎兵六千になる。正規軍を主軸に行軍過程で、攻城兵器を集約していた。……この数年で実戦兵力として、王国軍の中ではこの三軍は群を抜いて精強である。


 それを率いるフィリップ・ケイヒルは先のゴルダルード帝国との戦で、「鉄壁の知将」の異名で呼ばれる様になる。また、鳳凰(フィーニクス)の称号を王より賜り、フィリップ・ケイヒル・フィーニクス伯爵となっていた。


 この件に関しては、グランザの「親の仕事」の一環であり、大人の事情であった。本来ならケイヒル伯爵らは予備兵力の換算の筈だった。


 その状況で、ランヘル攻略の話を彼らは本線から外れるものではあるが、「竜伯爵だけに頼っては、大人の面子に関わる」と建前を述べて受け入れていた。当然十分に準備をして、そこに向かっている。


 基本的に、この話はクローゼには関わる物では無く、フィリップもそのつもりであった。当然、魔弩砲(バリスタ)なりの対魔族、魔物の想定し装備を整えていた。


 しかし、クローゼが、ランヘル近郊からユーベンでの一連の事情を王都に報告したおりにアーヴェントやグランザから「派手にやるとばれる」的な言動を受けて言い出した事になる。


 クローゼにして見れば、現実的な問題から逃げたいのかもしれない。フリーダに、暫くアリッサに会わない様に言われて渋々受け入れていた。


 そして、アロギャンはランヘルにあり、ヴァニタスはランヘルへ向かっていると言う情報を得ていた。それに六本腕(アスラ)もその近郊にあると言う事実の確認が取れており、それならば連携したほうが良いのではないかの思考であった。


 そして、もう一つの要因がイグシードを連れて向かった先にある。


「それで、これはなんだよ?」

転位型魔動堡塁(フォートレス)。ロンドベルグで試合った時、何個か塔を壊しただろ。あれを転位できる様にした」


「『した』って、クローゼがした訳じゃないよね」


 冒険者用に拡張した区画に、並び立つ円形の塔それに大勢の人が作業をしていた。それを眺める彼らにアレックスが声を掛けてきた。


「あ、アレックス……」

「レニエさんに聞いた。僕が何とかするよ。絶対」


 若干目を反らすクローゼにアレックスは当たり前を向けていた。近しい者達も複雑な感じになっていた。


「なに? みんなして。大丈夫、僕は天才だからね」

「自分でいうのか」

「アレックスがそう言うなら、心強いのでは」


「カレンお疲れ。レイナードもお疲れ……二人とも相変わらずヤバいね。と言うかみんな酷いよ。まともなのユーリ君だけだからね。全く」


 何時もの感じを出そうとしているのが、アレックスから出ていて、何人かは当たり前に気がついていた。ただ、イグシードは僅かに下がり距離をとり、クローゼは「そうだな」に感謝の雰囲気をのせていた。


「取り敢えず、師匠とバルサスさんに仕上げに入って貰ったから、それを見せるよ。……あと師匠機嫌がよくないから、みんな気を付けて」


「どうしてだ。急に呼んだからか?」

「違うよ。僕の弟子だけじゃなくて、マーリア先生の所の生徒も来てて、『大師匠』の連呼だったからね、それで。まあ君の顔を見たら機嫌直るかもね」


 軽くそんな雰囲気で、アレックスはその塔の方向に向かいながら、何人かの「これは?」の顔に答えを出していた。


 ――転位型魔動堡塁(フォートレス)――


 ……直径十二メーグ――十二メートル――程の円形の塔で、高さ六メーグ程立ち上がりがあり上部は城壁構造になっていた。側面に秘匿された入り口が通常運用に一つと緊急用に二つある。


 内部は直径十メーグ程の空間があり、螺旋階段が二つ上部城壁構造に抜ける扉に続いていた。


 中央には大型の転位型の魔動機――紺碧竜水晶と魔量充填(チャージ)の併用魔動力を使う――があり、四本の柱で支えられた空間になっている。

 その柱の中に一応の生活装備と個室空間があった。


 天井高は二メーグと少しで、中間に五十セーグ――五十センチ――程幅の収納庫があり、上部の突き出し部分の城壁は、一メーグ半程になっていた。


 銃眼は可視化の魔動術式を施して、円錐形で死角が無いように竜擊用の穴が設置されている。その部分は壁面とは別に、更に防護術式が刻まれていた。


 転換魔法の魔力結合により壁面は特種構造――圧縮硬化結合した混凝土(コンクリート)の様な物質――をしており、幅は、一メーグ程で多数の防護術式が刻まれていた。


 また、多連接続型中継用の通信用魔動機と竜擊筒の魔衝撃連動操作魔動機を各々二機、搭載する。


 特種な武装としては、多身式回転連続竜擊筒(ドラゴンラッシュ)――箱型弾倉式のガトリング砲――と、爆裂の筒、通称「黒」を装填発射する魔動大筒――榴弾砲――を装備する。併せて、同型で携帯可能な魔動中筒――迫撃砲――もあった。


 搭載魔動機の術者を含めて、実質戦闘員一個小隊――二十五名――と併せて三十数名前後で戦術運用が可能である。


 簡単に言えば、移動する砦になる。


「まあ、どこでも行ける訳でも無いけどね。目印(マーカー)の魔動器を設置したとこだけだから、クローゼ、ありき何んだよね。たぶん」


 説明の感じに適当な風もあったが、その言葉あたりで凡そそんな内容だと思われていた。その終わりに、アレックスが歩み止めて見上げる感じ「師匠」の声を出していく。


 暫くの沈黙に見上げる一団。十数名の視線の先で狭間から、ジャン=コラードウェルズが顔を出してきた。


「遅いぞ、クローゼ。私は、忙しいんだ、試すなら早くしろ」

「おお、小僧来たか、凄いのが出来たぞ。早く上がってこい」


「バルサス殿。この間はありがとうございました。素晴らしい逸品ばかり――」

「くう、この、見えん。まあ、いいから早くこい」


 下が見えないバルサスに急かされる感じで、アレックスが促しを見せて軽く口を開いていく。


「兎に角、こっちだね……でもさ、始めに『塔ごと転移出来ないか』って聞かれたのには、流石にあれで、言葉が無かったけどね」


 歩きだして入り口辺りで、後ろについた剣士と騎士の二人にそんな感じを彼は見せていた。何と無くその場面を想像したであろう二人は、苦笑いの様子に見えた。

 それにクローゼは口を挟む。


「でも、実現したアレックスも凄いよ。本当に天才だな」

「まあ、……よければ……だけどね」


 そのまま、言われたままの構造を、順番に上がっていき上部の城壁の構造になった円形の場に十数名ほどが立っていった。


 ……既にライラは状況が把握出来ずに、何故か無言で、時折イグシードを睨んでいた。サフェロスに至っては、「何故こんな所に?」の感じを丸出しにしている。

 勿論、帝国騎士二人は、その獄属を完全に視界に捉えており、王国最強の二人にも、抜かりはない状態だった……


 そんな様子を従えて、アレックスの隣にクローゼとイグシードが並んでいた。そこに待ちかねたバルサスの顔が出てくる。


「小僧、作ってやったぞ。なるほど、面白いこのガタリンク何とか」

「一応、ガトリング砲ですね。公には違いますけど。……これも、連動ついてますよね……導師」


 明らかに不満な感じで、「ああ」の声がしていた。そして、見たままの試し撃ちの後がある壁の向こう側、遥か遠くをジャンは指差していた。


「取り敢えず、彼処に目印(マーカー)を置いた。だから先に転移を試せ。と言うのか先ず、お前のそれで城壁の外に移動させてくれ」


 それと指し示す先は腕の魔装具だった。


「導師、それはどういう事です」

「ここで、爆発したら困るだろう」

「爆発するんですか?」

「知らんぞ、そんな事はやってみないと分からない。……もしかして、今までのもポンポン出来たと思っているのか?」


 怪訝に怪訝が被さって、「やれやれ」の言動がジャンにでていた。ただ、一応の感じにクローゼが出した言葉にジャンも困惑する。


「これ普通のですけど、飛ばせるのですか?」

「大型のはどうしたんだ」

「壊れて、修理中ですのでここには……」


 クローゼの表情に、彼の導師は周りを見回す感じに視線を走らせて、ため息をついてそこに言葉を流していく。


「まあ、いい『働魔(ドーマ)』を使う。どうなっても良い者は残っていいぞ。クローゼは残って体感の報告を頼む」

「分かりました。……イグシード、お前も残るか……て、行くのか」

「わしは残るかの」


 残ると言ったバルサスは取り敢えず、レイナードとカレンに連れられていった。当然の様にそれに皆が併せて降りていった。それを横目に、クローゼは待機状態(アイドリング)入っていく。


 クローゼには、当たり前に出来上がって来るもの。自身の使う術式以外は……それも基本的な部分以外はどうなっているかも分からない。


 ――まあ、思った物が何の苦労も無く出来て来る訳ないか。……言うのは簡単、自分でやって見ろか。


 そんな思考の流れで、転位型魔動堡塁(フォートレス)の魔動機の輝く感じをクローゼは見ていた。そのまま、いつものとは微かに違う雰囲気が抜け去る様子を体感して、軽い……いや、衝撃と分かる揺れを受けていた。


「成功したのか?」


 思わず働魔に話掛けて、クローゼは頭を掻く仕草をみせる。そのまま螺旋状の階段、とまではいかないと彼は思ったそれを上がり……ジルクドヴルムの城壁を外側から見ていた。


「凄いなこんなのも出来るんだ」――まあ、自分で頼んだけどな。……ちょっと狭いが使い方か。


 今回のこれは、たまたま初テストだった。クローゼなら死なないだろうは、毎回誰かが思う事の様である。その上で、クローゼは自分が恵まれているのを実感していた。


 折り返しを成功させて、その後の試射はおおいに盛り上がりを見せて、その威力驚愕を呼んでいた。僅かに、クローゼはベイカーの言葉を思い出して苦笑いをしていた、となる。


 純粋な意味で、何かが欠けているのをクローゼは感じていたが、必要な時間経過を費やすのに目先の物事に目を向けてい行くことになった。


 クローゼは、残りの転位型魔動堡塁(フォートレス)のテスト要員を勝手出でその操作と作業にを手伝う事にする。そして、六本腕(アスラ)の件をイグシードに任せる事にした……


 その為、翌日には初号機をランヘル近郊に送る為目印(マーカー)を設置するのに、イグシードとサフェロスにライラを連れて、あの小屋付近に飛んでいた。


 一応に、只の軍装のクローゼとほぼ、半身竜人の様相が長くなったイグシードといった感じてあった。少し異質と言う事が有るなら、クローゼがライラにドワーフの一振りを選ばせてあった事だろう。


「サフェロス。六本腕(アスラ)の位置は分かるか?」

「……普通に行けば、半日位の距離にいるな」

「取り敢えず、ここは不味い。見せたあれならその小屋の後みたいにはならないから、ここの奴に見つからない所に扉を開けてくれ」


 クローゼの言葉に、表情を難しくするサフェロス。


「我に、その目印(マーカー)を置いてこいと」

「俺も行くさ。この後の事もあるから、飛べる場所は多いほうがいいから、何ヵ所より道して少し協力してほしい」


「……勇者は恐らくだが、人智の人も魔解の者も通れぬぞ」

「ウルジェラのは通れたから、大丈夫だと思うが」


 単純に、「はっ」の音がサフェロスからもれて、掛かる黒色のフードを彼は後ろに落としていた。

 露になる顔は、小さな角が二本に赤い顔で顔面に縦線が白く何本が通っていた。


「お前は何だ?」

「突然どうしたんだ。……ライラも俺かいれば通れるから心配しなくていい。……一応、クローゼ・ベルグだが」


 ここでも、クローゼは獄属に感情らしきを引き出して見せた事になる。素の感じ 激然なる威獄(サフェロス)の 憤怒をイメージさせる顔が僅かに緩んで見えていた。


 サフェロスが仕方ないを見せようとした時に、ライラが「ライラ」と呼び捨てられた事に剣を抜きクローゼに向けていた。


「お前は、……お前らは私を何だと思っている。ふざけるな、剣を渡した事を後悔させて――」

「やるなら、黙って切ったほうがいい。君は、イグシードの大事な女性だろ」


 彼女言葉よりも、クローゼの動きが速かった。彼は、ライラよりも先に彼女の語尾を捉えていく。彼女の持つ手は反されて首筋には刃か当てられていた。……駄々漏れだった行く気は、今のクローゼには無かったのである。


 イグシードですら、初動が追えなかった様である。ただ、途中て彼はクローゼのそれに気がついて動く事は無かった。……瞬間に挟まる刹那的な事で言えば確かにそうであった。


 諦めと好奇心に「昔に戦があった所を」の言葉で、サフェロスの流浪の扉が開かれて不可侵領域(フィールド)によって、その領域を越えるクローゼとライラが追走する事になった。


 クローゼの何ヵ所かの満足の後、彼自らが操作した転位型魔動堡塁(フォートレス)が武装解除の状態で、絶妙な地点に転位をしてくる。それに、隠蔽工作を施して色々な意味で拠点とした。


 固有の呪文で開かれた扉から、クローゼ促しを向けて、四名なら広く感じる内部で彼は露にサフェロスに確認を向けていた。


六本腕(アスラ)はどんな感じになっている」

「気が付いたみたいだったな、順にたどってくるまでは見えた。……中に入ったらぼやけてきたがな」


「誘う時は、外にその剣を出して置けばいい。中なら恐らく追えない筈だ。だから、誘うタイミングはこちら次第だな」

「一つ良いか、クローゼ・ベルグ」


 クローゼに伏せられて、傷心気味のライラをイグシードがもて余している様子の上で、クローゼは淡々と作業的に会話を併せていた。それに、サフェロスが確認の言葉を出してきたとなる。


 激然なる威獄(サフェロス)が、獄の六体に触れてから、いや、永劫の始まりから「こんなのも」にあった事がない。その感覚の上での言葉だった。


「別に構わないが、難しい事は答えられないぞ」

「お前はどちら側の者だ? 極か獄か?」


「人智の人……う~ん。ばれたらこまるか」

「勿体つけるな。……宿す者をあしらえる人などいるわけがない」


 ことさら、クローゼは出し惜しみをしている訳ではない。ただ、彼自身が自分を特定出来ていないのかもしれない。


「自分の知識で言えば、特異なる者らしい。……そう考えるとどっち付かずなのか」

「『らしい』とは何だそれは……」


「まあ、そういう事だ。……イグシード、後は頼む。サクッと片付けてくれ。何か有れば、その働魔(ドーマ)に言って通信繋いでくれれば、一応は来る……必要無いと思うが」


「任せろ」と状況をもて余していたイグシードは胸を叩いていた。それに応じる感じをクローゼは出して「まあ、戻るから、何かあったら連絡してくれ」とそのまま外に出て、何度目かの転位をしていた。


 以前に比べると、クローゼは既に紺碧の青色を気にしていない。……まあ、魔王との対峙を考えると、驚く事ではないかもしれない。


 ……残された三者の微妙な空気感が、閉鎖空間の雰囲気を重くしていた。可視かが拾う光と魔動器の灯りが室内と言うべきの陰影を作っている。


「サフェロス。私の中の力は虚偽か?」

「そんな事はない、我が与えうる最上だ」

「ならば、何故この体たらくなのだ。……私が元から弱いと言うことか」


 ライラの言葉に、サフェロスは最後答えを返す感じをみせなった。それに、イグシードが声を入れていく。

「まあ、あれだ。六本腕(アスラ)がどれ程かだけど、あいつは、俺と魔王の次には強い。だから、その、君が弱いとかでは無いと思うが」


 掛けた言葉には、殺意のおびた瞳が帰ってきた。ただ、僅かに潤んでいるように、イグシードには見えていた。


 ――まあ、勇者だからな俺。……約束だけは守ってやるか

 ……こんな転機から続く、次の流れが見える狭間の一幕であった。



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