表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第五章 王国の盾と魔解の王
139/204

十四~物語は唐突に、紫の瞳と切り札を見せる~

 想いの人の名を呟き、そのある先にクローゼが魔方陣の煌めきを映し出して、それを置き去りにする光景を見せていた。……ままに、探し行く瞳の先には場景として人だかりがあった。


 勿論、それらは人ではなく魔族である。ただ、そんな事は、クローゼには重要ではなかった。


 申し訳程度の魔動器の灯りが、浮き立たせるその場に、唐突に現れた黒の六楯(クロージュ)の様相に視線が集まる。

 警戒と威嚇がその場に出たが、見知った者はそれが誰だか理解していた様である。


 その状況――魔族の直中――を無視して、クローゼの視線を釘付けにしたのは、横たわるアリッサを寄り添い座り抱えるフリーダの喪失な光景だった。


 傍らでは、自身を完全な形で現し呆然と立ち尽くすヴォルグに、泣き崩れる擬態のビアンカに声と手を掛けるカルーラの様子があった。


 その場景に無言のまま、クローゼは歩き出していく。顔を晒したまま、恐らく思考と言う言葉はその様子にはなかった。……歩み行く先には、息せぬ塊が此処彼処にある。そんな場景になる。


  殺気立つ鬼魔族の者の物々しさを、カルーラがヒルデに掛けた声で逸らしていた。その彼女は、明確にクローゼを見て声を掛けてきた。


「クローゼ様……」


 掛かる声に、無理矢理クローゼは片手を合わせた。それにカルーラの促しが道を作り、彼はアリッサをしっかりと瞳に捉えていく。

 そして、顎が上がり見上げる感じのフリーダに、クローゼの短い言葉が通っていった。


「どうした?」

「クローゼか……」


 雰囲気は、いつもの逆に見える。狼狽(うろた)え叫ぶ感じがクローゼには無かった。その対比のフリーダにも、普段ほど高貴で余裕な感じは見えなかった。


 対比する彼も、来る前から、不測なのは見当がついていたのだろう。我が儘で呼び出す事などアリッサはしない。むしろ、これが初めてであった。

 そして際立ったアリッサの眠る様に横たわる姿が目に入ったのだった。


 突き抜けた感じに、問いかけを絞り出したその雰囲気を、クローゼはフリーダに向けたままだった。


「仕方なかった。……ビアンカの全力じゃ、後悔はせぬしお前に文句も言わせぬ……と言いたいが、妾の落ち度だ、すまぬ」


「死んだのか?」

「死ぬ他無かった。お前を呼んだとアリッサが言った……ならば、そのまま逝せる訳にいかぬゆえ……」


 曖昧なフリーダに、核心の問いをクローゼが向けようとしていた。その瞬間にアリッサの目が開かれ、瞳が紫色に光る。……それで、あらかたをクローゼは察した様に見えて、僅かに顎を引いていく。


「クローゼ……」


 アリッサは、自身の死に直面して躊躇の後に魔力を併せていた。遠くなる意識にフリーダがヴォルグに叫ぶ何かが聞こえて……次に視界が戻った時にクローゼの何とも言えない表情を見る事になった。


「アリッサ、帰ろう」


 既に、過程などクローゼには関係無かった。目の前にフリーダの魔力を通された、紫の瞳の彼女がいるのだ。刹那的な決断は「何とかする」だったのだろう。

 自身の知識を除いても、王国最高峰の知識に手が届くそれに、ウルジェラとアウロラが彼の範疇にはあった。その上で当然の思考だったと言える。


 既に、クローゼの意識の外にある、その経緯に触れればヒルデに対する報復の流れである。


 勿論、オブラスの狙いはヒルデであってアリッサは眼中になかった。ただ、手筈を整えたのはヴァニタスである。アリッサがクローゼ――黄色い薔薇の起因の者――の所謂「女」である認識で彼の報復も隠れていた事になる。


 帰り行く馬車に、護衛の人狼と騎乗で随行の鬼魔族が追従して屋敷を出た所での襲撃が起こる。


 馬車を引くそれが斬られ、咆哮に擬態を解く人狼の姿。何処に隠れていたかの「多数」の賊に護衛は併せても二個分隊程であった。


 騒然とする馬車の周りに、中から視線を走らせるビアンカの様子を――アリッサは落ち着いた感じで見ていた。


「ロッシュ、 呼んで!」そう窓越しにビアンカは叫んで、そのまま側に座る冷静な女性に向き直していた。そして、遠吠えに重ねる様に、彼女はそのまま声をだしていく。


「アリッサ様此方へ」


 僅かにアリッサが動いて……ビアンカには、その身体を貫き出る剣先が見えてきた。それは、馬車の後ろから壁ごと突き出た刃の光景になる。


 百眼(オキュラス)で正確にアリッサを捉えて、紛れさせた魔造従者(サーヴァス)によって突き刺された剣の刃であった。


 突然の光景に、動揺の文字がビアンカを襲ってくる。彼女の周りの場景が止まっているように見えていた。……倒れ掛かるアリッサを彼女は支えて、振り絞る様に思考を回していった。


 その後の光景は、ヒルデとオブラスの激しい交錯が起こりる。不意と有意に欠片がその差を産んで、刻の流れで若干の不覚が起こっていた。

 その周りでは、屋敷から続く怒号で、その場景は混線に流れていく。


 掛けられた刻に、遠吠えでヴォルグが尋常極まる勢いを見せて、アッシュの反応をカルーラがフリーダの動きの促しに続けていた、となる。


 その終演である、クローゼの見るこの光景に繋がる最中には、肉片となったオブラスのあった場所で返り血を浴び震わせる両手の拳を握り立つ……ヴォルグの姿を挟んでいた……


 混濁(こんだく)の様子を見せるアリッサに「帰ろう」と掛けられた声に続く刻の音は、フリーダの否定の言葉だった。


「クローゼ、すまぬがアリッサは妾が暫く預かるゆえ、それはできぬ」

「何故だ?」


「暫し間、極光にあがなうのに妾の魔力が必要ある。それゆえ、少し待てクローゼ。悪い様にはせぬ……今度は妾が明言する」


「俺が何とかする。だから……」

「ごめんね、クローゼ」


 怒りの感情に気付いてきたクローゼに、アリッサの謝る声が響いて彼は顔を上げて視線を外していた。広がる視界に、紫色の反射が見えてその光がクローゼの意識入ってきた。


「紫竜水晶?」――またそれか……。


 徐々に思考を戻したクローゼに見えた光は、彼には分からないがその認識は間違っていなかった。四散した肉片の中にあったそれである。


 声自体は微かで、本人のみが聞こえていた。そして、謝罪を向けてきた彼女にクローゼはそれを否定していく。


「謝る事なんかアリッサはしてない。悪いのは俺だ。あの時、無視してでも帰えさなければこんな事にはならなかったんだよ」


 語り掛けた「こんな事」の言葉に、アリッサが自身の様子に意識を向けた様に彼には見えていた。

 その認識は正しく、彼女は耳に入って来ていた声を繋ぎ併せていた。それと、自分の感覚と記憶を重ねて自身を理解していく。


「私、吸血鬼(ヴァンパイア)になったの……ね」


 彼女の赤を基調としたドレス。その中心から腹部にかけて鮮血の跡で深みをましていた。その様子が、アリッサの言葉でクローゼに突然の対比を見せる。


 肌の白さが際立ち、感覚から現実へとクローゼを誘っていった。……彼の項垂れる様子に起こり、それとは別の安堵と葛藤がその続いていった。


 アリッサの声を聞き、顔を上げたビアンカ。その受けたアリッサの鮮血で幾ばくかの怪訝が場に出たが、立ち並ぶ上位者がそれを封殺していた。


 彼女が人であると知る者は勿論、ヒルデにしても、フリーダの行動で流れたそれで察したのだろう、黙認していたとなる。


 人智の人で、最も魔族と関わりの深くなったアリッサが、仮初め魔族ではなく本当の魔族となった、一幕であった。

 ――色々な要因と獄属の手によってなされたそれを、今のところ二人共に知る事はなかった。


 クローゼには思う所もあったが、アリッサの言葉には返す声をその時は出せなかった。と言う事になる……


 騒然から静寂に至り場景を変えていた。付近の屋敷から出てきた遠巻きな魔族の輪の真ん中で、クローゼは立ち尽くしたまま黒色の空を見ている。……普段なら息の合う感じのヴォルグにさえ、掛ける言葉処か意識にすら入れていない。


 クローゼとアリッサの間に何かしらの刻が流れて、取り巻く輪にざわめきが起こっていく。その中心に向けたヒルデの声が、その場の方向を決めていた。


「魔王様……」


 オルゼクスが、ノーガンとインパルスを従えてその声の先に立っていた。それが場の視線を鷲掴みにしていく。それほどの存在感が魔王オルゼクスにはあった……ただ、一点を除いてだったが。


「何事だ……等とは言わぬが、なかなかの光景だ」


 出した言葉に意味があるかは、集まる視線には分からない。しかし、それで空気感が変わっていった。……その雰囲気に、徐に振り返る黒の六楯(クロージュ)のクローゼが魔王の視線に入っていく。


 向かい合い、対峙する両者の距離は取り巻く輪と中心の幅があった。互いの認識が双方で起きて、別の意味で場が変わっていった。


 咄嗟に、フリーダはカルーラにアリッサを任せて立ち上がる。その両者の距離感に不測を見て、彼女は動き出そうとした。その時だった。


「ヴァンダリアか、久しいな」……オルゼクスの声が、クローゼの顔を捉えていく。相応にして、その雰囲気はまだ覇気を伴う物ではなかった。


「魔王。今は茶番に付き合うほど余裕がない。要件があるなら先に言え」


「要件? 珍しい者がいると思っただけだ。茶番などするつもりも無い」

「なら後にしろ」


 そう言って、クローゼは無造作に羽織る裾を(ひるがえ)して、その背をオルゼクスに向ける。そこにあるフリーダの顔は驚きを纏っていた。……それにノーガンが「ふざけ――」の言葉辺りで、インパルスの衝撃的な魔力発動が起こる。


 当たり前に煌めきの魔方陣で、それを四散させてクローゼは散らばる爆音を作っていた。それで、覇気なり闘気なりが上がるのが、その背を見る魔王の雰囲気に見えていく。


 往々なざわめきに、インパルスの飛び出す様子をクローゼの支配せり者の視界は捉えていた。――そっちかよ……と若干の認識の上には、勇傑なり者それである。


「先に手を出したのはそっち――」


 感覚で出す言葉の一語一句に、身体を返しての迎撃の動作が見えていた。無論後ろにはアリッサがそのままである。


 瞬間的一連の動作では、双剣を――交互の持ち手で――抜き放ち右側に魔力を通す。ほぼ同時に魔装甲楯麟(スケール)を起動していた。

 ――その勢いで体を返しインパルスの打ち出される右の拳を、クローゼは、右腕の剣を領域の剣勢で走らせ、全力の反発を煌めきと共に合わせていた。


 無論、合わせる相手は魔王のつもりだった。


「発動魔力六分の一魔王」にして「合算魔量は魔王と同等」その上「大幅揺り戻し増加中」……そして反発を留め置く(アンカー)の魔力魔量は、術式で膨大にして多重。


 特異なる者、クローゼ・ベルグ。


 ――勇者と試合(しあ)うに至るの現状で、恐らく、初めての躊躇(ちゅちょ)無しな彼の全力である――


 言い終わる前に交錯するそれは、インパルスの打撃に纏った魔力ごと、その腕を有らぬ方向にねじ曲げ破裂させるかの勢いと「だ」の声を見せる。


 それで、体制を崩し堪えるインパルスの目の前で、全力の勢いのままコートを靡かせて回転し「逆手の左」を開いた脇に突き立てる。――そのまま乗せる魔力の移行と「起動」の呪文を併せていった。


 起こりあるのは、衝撃音と弾け散る血肉の飛沫(しぶき)と破片に、砂塵を巻き上げ吹き飛ばされるインパルスの身体(からだ)。――その終着点で、塀にめり込み動き止め……舞い上がる破片に埋まる場景であった。


 周囲に轟く衝撃的な音が静寂に向かう(まで)に、クローゼの雰囲気が、双剣を鞘に収めて自然体で構える様相な黒の六楯(クロージュ)になっていた。


 静寂に至り光景が騒然を呼んでいた。後ろから見ていたヴォルグとヒルデも魔王の横にあるノーガンも呆然であった。


 光景としては、魔王の前に立ったインパルスの結果と「ある意味」同じと言える。……それは、魔王は殺す気は無く、クローゼはそのつもりだった、と言うだけになる。


 その差の認識が見つめる強者らにあったかは別に、僅か初擊で、ここまでには至れないとの思いは持ったであろう。……視線の先の男程は、となる。


「フリーダ『様』危険ですから、アリッサを安全な所に移してください」


 一角だけ……否、魔王だけはその光景に高揚感を見せていた。それにクローゼは当たり前を向けて、それと対峙のままフリーダに声を向けていた。


「成る程。強ち大言壮語でないと見える」

「まあ、それなりに。一応、正当防衛と言う事で」


「覇気が……いや、怒気か。落ちた様だが」

「まあ、冷静でないと流石に相手が魔王なので」


 あからさまに上がるオルゼクスの口角に、フリーダは諦めを決めて、その場から「下がる様に」の仕草をして見せた。集まっていた彼らは、ある意味「相当」であったのだが……。


 取り巻く魔族の輪が広がりを見せて、半端な灯りに二者の影が不規則に伸びていた。空間には、向かい合うクローゼと魔王のそれだけだった、となる。


「やると言うのだな」

「まあ、帰っても良いのならそれで」――流石になし崩しだしな。


「帰えれるならだが、帰ればあの女は殺す」


「……先ほど、正妃様から言質(げんち)を頂きましたが」――その顔は……言うだけ無駄か。


 会話の最中に、オルゼクス失笑とも取れる仕草がみえていた。そして、改めて魔王然として、クローゼに「らしさ」を見せてきた。


「我は誰だ?」


「まあ、魔王でしょう」――これは無いな。関係無いって事か。


「ならば、そういう事だ。『魔族の法』だったか……それに従えだ」


「成る程、そう言う事か……」――成り行きでだけど、アリッサに『手を出す』とか言うなら、全力であがいてやる。ふさけるなク○野郎だ。


 遠巻きでも、会話と雰囲気は聞き取れる。その状況で、挟む言葉を出せる者など、フリーダも含めている筈も無かった。


 何時の間にか、そこに紛れる魔解大公でもになる。ただ、出来るとしても、秘匿な様相を見る限り、するつもりは無かっただろう。


 観客(ギャラリー)の感じになった、取り巻く輪の様子に関係無く、対峙するクローゼは魔王を見据えていた。……何処までやれるか分からないが、選択肢等ないと理解するしかなかった。


 ――行ける所まで行く。簡単に殺れると思うなよ。


「どうする、来ぬのか? ならば――」

「やるさ」――ノープラン、俺らしい。


 クローゼの返す言葉で一瞬の間が出来る。魔王自体は、高揚感を見せて「楽しむ」であった。


 その上での隙間を、クローゼは魔量充填(チャージ)の連続使用で消化する。――併せて相対的な距離を持ったままに走り出し、投げ捨てる腕の流れを腰に据えた双剣に掛けて行く。


 合わせる様に、クローゼを追う魔王の身体が翻っていた。立ち位置はそのままのオルゼクスに、クローゼが抜き放った剣先がその姿を標的として捉えていた。


 一応に、現状を見るなら、クローゼ自身は持てる最大戦闘能力を行使出来る状態にある。その意のままで、彼は呟きを見せていく。


 余裕すら見えるオルゼクスに、増幅で全力の魔力が乗った竜硬弾が刹那に届き――振り上げる腕の強さで弾かれる。魔力を掻き消す魔力の衝突に、渦巻く四散が音と血飛沫(ちしぶき)を出していた。


 逸らされた軌道で微かな傷口、続いて相互に見るそれは、離れた距離だけの当たり前とクローゼに認識をもたらした。

 ――その感じのままに、クローゼは回り込む様に自身を走らせる。空間防護(スペース)を抑止展開し、切り裂く意図の水平展開も見せた。


 具現化した魔力の刃を見せて、動き出すオルゼクスの姿をクローゼの「勇傑なりの目」は捉えていた。――抑止展開で僅かな揺らぎを見せるオルゼクスは、切れる魔方陣すら瞬時に避ける。「がする」それは微々たる鮮血の色を見せていた。


 場景の移りに魔装甲楯鱗(スケール)の輝きが、僅かな魔動器の灯りの中で彼自身の加速を見せていた。合わせる様に相対の距離をオルゼクスが潰してくる。


 剣擊の距離で、連擊と斬擊の交差で魔方陣の煌めきと弾く魔力の衝撃を見せて、クローゼの踏み締める力を出させていた。


 衝撃と空間を走る音が高速で交錯して、足を止める距離を作っている。――振り絞るクローゼの食い縛る表情とは反対に、オルゼクスには余裕すら見えていた。


「――その程度か?」

「お前もな――」


 纏った魔力と溢れる魔力。――それを越えて裂き散る布と何れかの破片。続く鮮血は双方の身体から、飛沫を上げていた。……必殺を全力であわせて魔方陣の盾を見せるクローゼも、オルゼクスの身体に刃で鮮血を強いている。


 時折来るオルゼクスの魔力発動に、アンカーとなる魔力魔量の壁さえも越えて、クローゼの魔装甲楯鱗(スケール)の輝きが再生を強要されていた。


 しかし、双剣の奮う流れに挟む竜硬弾はオルゼクスの血肉を見せていく。しかし、魔王の感情は高揚と上がる口角に現れていた。


 ――無理ゲーかよ。どんなパワーだ。カウンターで魔力反射(リフレクション)当てれんって、ノーリアクションとかなんだよ。


 速さではなく、「純然な強さ」がクローゼから余裕を奪っていた。ただ、この状況は初めてではない。殺意は無かったが、相応の次元を経験していた。


 ――でもだ、勇者(あいつ)とやってて良かった。一か八か倒しに行く。


 一瞬の思い直しに、五番目の盾を発動する。


 硬化機動楯(マヌーバ)――空間魔力に干渉出来ないなら物質に――唐突に実体化して空中に現れる円形の盾二つ。継続的に、剣と魔力に起動の応酬の直中で、その硬高度で圧縮された盾が意思を持つようにオルゼクスを叩き、突き当てていた。


 突然のそれに、一瞬オルゼクスの表情が厳しくなる。それにあわせて、クローゼは相互間に地面から伸びる盾を作り出した。


 砂や土を彼の魔動術式が、圧縮連結硬化して強固な盾をオルゼクスの眼前に打ち立てた。


 僅かな眉の動きにオルゼクスがとらわれて、クローゼは後ろに飛ぶように距離を取る。合わせる様に円形の盾もクローゼを追従する。


 オルゼクスの斬擊が隔て打ち立てた盾に、数度響きを奏ていく。その光景のままに、クローゼは最後切り札を切った。


 彼は瞬間の刻と距離に困惑を与えて――双翼神乃楯(イージス)の発動に至る。


 胸当ての様に、クローゼの胴衣装甲の前で双翼をあしらった盾が現れる。――絶対的範囲内防御力と神をも拘束する力を持つ。持ちうる六楯最強の魔動術式。

 ……クローゼの感覚では、メドゥーサを付加したアイギスの楯であった。それは、魔導師ベイカー・シュラク子爵の渾身の魔改造になる。


 砕ける砂の盾が、クローゼとオルゼクスの隔てを無くして、双方の様相の認識を持たせていった。


「種明かしは一度で十分だろ」


 クローゼの発した言葉に、オルゼクスは初めて怪訝な表情を見せる。そして、見つめる先の翼が光るのをみた。


 そして、オルゼクスを渾身の魔力が襲っていた、となる。



いきなりクライマックスな所で。……まだ続きますが。色々と失礼致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ