参~神の眷属たる龍の巫女~
投稿遅れました。
私的要因で「書けない症候群」に。
元から中二病は全開ですが、今さら気が付いたのに「もう、あれです」と。
ありがとうございます。
エルデダール王国の国教である、中央龍翼神聖霊教会。人智の流れで派生的に広まった、他の教会と区別の為に中央の冠が付いている。
その最高指導者にして、人智での神の代弁者。龍の巫女アウロラは両翼を広げた競技場の翼の下の一室で、イグラルード王国の国王 アーヴェントと対面していた。
「……儀礼的御挨拶は頂きました。これよりは真意に重きをおいて御話出来ればと思います。この様な『斯様な所で』との意も、イグラルード王国の聖導正義をお示し下さるとの事ですので、お気に為さらぬ様に」
大きめの部屋で、僅かばかりの者のみでの対面ではあるが、アーヴェントの目には入るアウロラはその容姿以前に、神々しさが全面に出ていた。見た目には短く整えられた金髪の小柄な女性になる。そして、その後ろには勇者らしき男が控えていた。
アーヴェントの後ろには、カレンとローランドの二人と少し離れた所に、グランザの代わりにレニエがいる。……現状の流れでは、アウロラの配慮に対してアーヴェントの謝意を最後に、彼女は話を切り出していたとなる。
「エルデダール王国と貴国の盟約を証する立場として、イグラルードに不穏な影を感じました。ゆえに、突然ではありますが真意を確める為に自らやって参りました。不作法については後程弁明を致しますが、先ずは本題から。……魔王と約定を結ばれたのは本当ですか? 」
「形式上は左様に」
アーヴェントにしてみれば、戴冠前の出来事である。それに、わざわざアウロラ本人が来て話をする内容ではない。その認識がアーヴェントにはあった。その上で彼女が何をしに来たのか、その辺りが問題であると考えていた。
「で、アウロラ様。本題は何でありますかな? 」
アウロラの思案のする素振りが見えたアーヴェントは、続けて自身の考えを向けていた。ウルジェラが言った事が間違いないのは、彼の中では確実であったからになる。
目の前のこの女性がウルジェラの対となる、神の眷属であるその事実であった。極神正義を司る純潔の・の六体に触れた極属なのである。
「何かしら、お心当たりがあるご様子ですね。ならば、思いのままを。……貴国には魔解に与する者が在るようですが、国王陛下はそれをご存知と言う事で宜しいですか? 」
「……その為の勇者殿と言うなら、既にその偽勇者は倒しました。それ以外であれば、隣国との戦のおり臣下の内に『魔王』と恐れられた者がおりますので、その辺りをお耳に入れられたのでは」
無論、アウロラが最終的に百眼で確認したのはクローゼである。しかし、ウルジェラの話ではクローゼ自体を明確に把握するのは無理だと言う事だった。勿論、飛び回る彼と厳重な防護によってであった。彼女も結局は、アロギャンを見ていた流れになる。
「魔王? ……ですか」
「そちらは勇者殿ですかな」
余裕な顔を見せるアーヴェントに、アウロラは「何故? 」と言う顔をしていた。……彼も、何も知識がなく唐突にエルデダールの龍の巫女が来たのなら、もっと違った対応をしたのだろう。
しかし、ある程度の情報があった事と王たる彼は、「何でもあり」のクローゼ・ベルグを御せる男であった。無論、魔王に対する協力者の体のクローゼを知った上で平然として見せていた。
「アウロラ様、聡明な貴方ならお分かりだと思いますが、先王たる我父を「勇者を騙る者」に害されております。我国において勇者の名は些か難しい。先ずは真意を願えればと」
カイムは、自ら勇者を語った訳ではない。その点を「聞いた話」としてアーヴェントは無視した言動をしたことになる。当然その後の事も、聞いた話ではあった。そんな彼の感じに、アウロラははっきりと困惑を示していた……
「奴は極属の域を出る事はない。明確に人智の側だ。やましい事がなければ堂々としていればいい」
アウロラの正体を語った最後に、ウルジェラはそうアーヴェントに告げていた。それが彼の根幹になり、アウロラの表情を引き出していた。勿論、全てを丸呑みして、やましい事などないと思っていた。
彼女の事を明確にするなら、本当の意味での龍の巫女の起源であり、至極神 天界を司る起源の・を絶対的信仰の対象としての龍翼神聖霊教会を作ったのは彼女である。
逆の意味での暇潰しになるのではあるが、触れた六体が彼女の意識となっていた。
一応に、会話の流れがアウロラには「おかしい」と感じられていた。普通であれば、相手の驚きが起こる筈である。しかし、目の前のこの王は驚いた様子すらなかった。突然扉を開いて現れる「奇跡」に人は驚く物である。今回は違う形であったが。
――突然に単身の接見なれど、全く動じぬとはどういう事だ。間違いなく一連の出来事はこの地のはず。……まあ、いずれにしろ極光にそって正すまでなのだが……。
……そんな、僅かに困惑を見せるアウロラを連れてきたグランザは、ヤル気満々の三人を監視する為に別室で主だった者と待機していた。
「あの勇者らしきを、ジーア殿は普通だと言ったぞ。お前は、兎に角何でも力ずくで考えるな。その女も王には危害は及ばないと言っているのだろう」
「まあ、そうですが、こいつは獄属ですから」
「話の筋道は通っている。お前たちのやる気よりもよっぽどましだぞ」
眺める感じにグランザは、彼らの姿に視線を送っていた。勿論、クローゼは完全武装でクリフもネビルもその様な出で立ちであった。アーヴェントをクローゼがロックした上で、当然、何かあれば行く気であった。その感じになる。
「恐らくは助力であろう。融通は聞かぬがな」それがウルジェラの見解であった。勇者については明言は避けたが、神具の欠片を持つ彼女らは、それを与える事ができる。最低限その辺りになるだろう。
ウルジェラにしても、自身で使う龍装甲を具現化出来る程の物はもう一つだけだが、それ程ではない物ならまだ幾つかは持っていた。
また、ウルジェラが唐突にその事を話したのは、一重にマーリア・ジュエラの存在が大きいかったと言えた。
「良くも調べた。と誉めるべきか、我らの口が軽いのを謗るべきか。難しい所だな」
依頼の件で、ロンドベルグに来ていたマーリアの相応量の精細な資料に目を通したウルジェラが言った言葉になる。一応に、興味深くウルジェラと話すマーリアが事の最後辺りで「貴女が神の眷属なら、恐らく、お会いしたのは二人目ですね」と納得の感じを見せていた。
その件で、龍翼神聖霊教会についての確信めいた記載をウルジェラの認識が拾い、開示的な行為に繋がっていた。――要するに、彼女が夢の中で語っていた事を、他の彼らが小出しに流していた事実に気が付いたからと言えた……。
一連の経緯を含めて、グランザの見解がウルジェラを肯定して、彼を含む四者が特筆して緊張感を出している場に、もう一人の龍の巫女 コーデリアがセレスタに案内されてやって来た。
当然、アウロラが来ているので、立場上コーデリアはこの場にやって来たと言う事になる。一応に儀礼所作から始まったその場への挨拶の最中に、コーデリアは怪訝な顔を見せる。
「皆様、些かお声が乱れておられるようですね」
声を向けた側の殺伐とした雰囲気と反応で、コーデリアは更に困惑な感じになった。そこで、一番目についたウルジェラにその表情を向けていく。
「そちらの方は? 」
平静を装う感じにコーデリアはグランザにその確認をしていく。彼女の感じでは以前に何処かで合った気がしていた。そんな彼女に、難しい顔のグランザを通り越してクローゼは当たり前に声を出していた。
「淫靡なる夢獄と言う獄属です」
はっとする雰囲気がその場に抜けていた。グランザの「なっ!」と漏れた言葉にウルジェラの言葉が重なっていた。
「ご紹介頂きましたウルジェラと申します。西域龍翼神教会の龍の巫女なるコーデリア様に、拝謁がかない心嬉しい限りでございます」
軽く会釈をして、ウルジェラはその場の雰囲気を更に特種にしていた。獄属との説明にコーデリアは思い違いを認識しそれを受けて、僅かに葛藤が表情に見えていた。
それは、初めてクローゼに会ったあの場面に近い衝撃だった。――獄属って。何でここにいるのよ。……あたりになる。
極力、龍の巫女たる顔を保とうとしているのが、ウルジェラに伝わったのか重ねる様に自身の説明を向けていく。軽く容姿に反する首輪を指して声を出していた。
「獄属と紹介を受けましたが、今はクローゼ・ベルグ様のお付きをしております。ゆえに、左様な御配慮はご不要に願います」
「何言ってんだウルジェラ。お前は――」
「クローゼ、とりあえず止めろ。話がややこしくなる。……コーデリア様。説明は私の方から……」
コーデリアの登場で、雰囲気がおかしくなったその場に、セレスタの慌てる感じか付加されて収受がつかなくなりそうな様子が見えた。そこに部屋の扉が開いて人の気配がしていた。
ユーリとヘルミーネが場所を開けた所を、アーヴェントに付き添われる形でアウロラが入ってきた。アーヴェントは、その場でまっていた側近らしきに「警備は任かせて良いと、二人を呼び戻せ」と指示を向けていた。
何故か笑顔のアウロラに、すっきりとした顔のアーヴェントが見えて、続く勇者らしい男があった。その後ろには、苦笑いの見えるローランドと難しい顔のカレンがおり、遅れて入ってきたレニエはグランザに耳打ちをしていた。
一連の光景に、クローゼは何かを察した感じになる。それにコーデリアの神妙な顔つきの会釈が重なった。
「陛下。どの様に? 」
当たり前に、声を出したのはクローゼであった。その後ろの二人も軽く顎を引いている。それにまとめて笑いかけるアーヴェントの表情が見えてきた。
「喜べ。勇者殿が、お前たちの覚悟を見てくれるそうだ」
彼の言葉と出された手が、アウロラの後ろに付く男を勇者と断定していた。それに、耳打ちを受けたグランザの「はっ? 」の短いそれが起こっていく。
「極光の神より『魔王を倒せ』の啓示を賜り、アウロラ様と共にこの地に至りました。勇者などとは些かですが、アウロラ様が自身を称するのなら『勇者』であると。ゆえに、その様に」
口上を述べて、自身をイグシード・ヴァーニルと名乗った。その声を聞いていたクローゼは、アーヴェントの瞳だけを見ていた。
「陛下が、勇者であるとならその様に。我が王には我ら臣の言、お受け頂き感謝します。この上は王の名を汚さぬ様に、存分に覚悟をお見せ致します」
顎を引くいつも男の真逆な言動に、アーヴェントの様子も一変する。基本的には、自由人なアーヴェントもクローゼの態度に含みがあるのに気が付いたと言う事になる。
やましい事など何もない。目の前の男が正道をと言ったそのままを彼はしているつもりであった。相手が神の眷属であろうが、龍の巫女であろうがどこにも隠しだてする必要など更々ない。
その言動の上で、勇者だとアーヴェントは言っていた。事の流れは、アウロラがウルジェラの体の女首輪に視線が行っている事でも分かる。勿論、クローゼもアーヴェントの言動でその事を察した。
アウロラが彼にとって尊敬の対象でなくとも、アーヴェントとライムントの立ち話の流れで、自身の王が小手先の誤魔化しで、断定の台詞など言う訳がない。それを十分理解していた。
――それが勇者ならそれで良い。でもだ。極だか何だか知らないが、神の眷属を名乗るなら尚更聞かないと気がすまない。
クローゼは思考の流れで、アウロラを一瞥する。その思いは、既に自身の事になっていた。
一方のアーヴェントは、唐突なクローゼの次を待っていた。明確に意見を繋げる時のクローゼが、いつもの勢いだけの彼ではないのも理解していた。そして、その男の視線の動きも認識していた。
視線の外れた二人の間に、刻の壁が出来ていく。
――同じ壇上に立っていたコーデリア様はいい。二人で話した時の陛下も『仕方ない』と言っていたし。でもだ。そう、でもだ。
「我が王」と壁を砕くクローゼが、待ち構えるアーヴェントに自身の意思を明確にする。そして、美しい動きでその場で片膝を床に着けて、軽く息を吐いていた。
「……現状の認識が陛下の通りであれば、勇者殿と我らの正道は同じ。ならば、今一つ……この場の龍の巫女様に正さねばならぬ事があります。僭越ながらその言を向けるを御許し願いたい」
視線の動きから、アーヴェントにはどの巫女であるかは分かった。しかし、床に視線を置くクローゼの意図が若干不明瞭であった。ただ、それにグランザは気が付いて、少しずつ前に出る感じをレニエの腕が阻んでいた。
「私の認識の話ならついていると思うが」
グランザの動きよりも早くアーヴェント視線が、クローゼの頭部から全体に流れていった。勿論、「捨てられた」カレンの事だとアーヴェントは思っていた。しかし、レニエを見るグランザは、別の認識でそれに割って入ろうとしていた。
阻んだレニエは、クローゼの向ける言葉を知っている。その上で自分の父を止めていた。アーヴェントの後ろの逸れた場所で、同調のセレスタと驚きを並べる二人の先で親子のそれがあった。と言う事になる。
その瞬間に、流れる事態の中でアーヴェントの返しが出ていたのであった。その場景に困惑を見せるコーデリアが入って、クローゼが言葉を出す前にアウロラがそれに声を向けていく。
「その黒い様相の貴方は、『王国の盾』にして救国の英雄。戦場では魔王なりと呼ばれていたとお聞きしました。その貴方が私に何を正すと言うのでしょうか? ……国王陛下。宜しければお聞かせ願いたいと存じます」
アウロラの促しでアーヴェントも頷き見せるしかなく、クローゼは単純な思いを表していった。
「感謝します。……単刀直入に、儀式に混じりし異なる者を、純潔の名で捨て置くは如何な物かと。有り体に正道。いや、聖導正義に外れる物ではありませんか? 」
アーヴェントの苦い顔にグランザの右手が額に掛かり緊張の雰囲気がその場に流れていった。
「貴方が、斯様な事を唐突に仰るのか分かりませんが、『聖導正義に外れる』と言われるのは寛容なるには至りません。当然、事由なりが御有りかと思います。その点もお聞かせ願えると嬉しく思います」
白々しい……そう向けるクローゼの感じが、背中には見えてきた。当然その理由は母親の事になる。その気持ちのままに、周りを考える事なく彼はそれを口にした。
「私の父はハンネス・ベルグ。母の名はクローディア。聡明で神の代弁者なるアウロラ様ならこれでお分かりか思われますが」
状況が分かる者も分からない者もその場にはあった。反応は様々であったが、一応に困惑が雰囲気を作り出していく。そこにアウロラの思い返す様な、僅かに動く顎の仕草がでていた。
言葉の最後から、暫しの間がそこに流れてアウロラの声がクローゼに届く。
「有り様が異なるなら、異なる場に有り様を求めやるも、また至極なるの光の思し召し……その捨て置かれた者とやらは『不幸』でしたか? その場には。その後には。有り様がなかったのですか? 」
ただ捨て置いたのではないと、アウロラは言っていた。それも天なる・の意思であると。
若干の思考停止を見せるクローゼは、僅かに……いや、顔を上げてグランザを見る。そこには、首を僅かに振る彼の姿があった。それを見て何と無くの感じがクローゼを包んでいく。
――要するにあれか……二人が会って俺が生まれるまでが異世界に飛ばされた不幸中の幸い的なのか。あの人が母親が不幸じゃなかったと言うなら、そうなんだろうな……
「不幸ではなかったし、居場所も出来た……」
呟くクローゼは、上げた顔をゆっくりと動かして、カレンの頷きを拾っていた。ただ、「殺されなかっただけまし」の聞いた言葉が、僅かにクローゼには引っ掛かっていた。そして、また視線を落としていく。
落とした先で、空白の刻をクローゼは床の汚れで埋めていた。そこに近寄る気配が現れる。膝をつきクローゼの肩に手をかけて、耳元で呟くアウロラの声。それが彼の空白に色をつけていく。
「私の名付けを名乗ってくれていたたようですね。この様に貴方に問われるのもまた、極光の為せるゆえでしょうか。『ウルジェラを支配する者なら、私が何かお分かりでしょう。王との間での話で、龍の巫女のままで願います』。これで宜しいですか? 」
立ち上がるアウロラが、アーヴェントに向いて会釈を交えて「誤解があったようです。国王陛下、御手数をおかけ致しました」そう告げていた。
取り残される形に、膝を付くクローゼが視線を落とした姿が、項垂れているようであった。その時の彼の思考は……
――言われてみれば……であった。




