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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第四章 王国の盾と精霊の弓
124/204

二十二~もう一つの憂い。現実的な物語~

勢いで。

 巨大樹の森を後にして、城塞都市ジブリールに向かい干渉地帯を進む、一軍とも呼べるそれが歩みを進めていた。それはクローゼ達と同行する、完全武装のエルフの戦士、二千名――風の旅団の一つ――であった。


 颶風の弓士(アルクス)のスキロ=デュシスとリプス=ゼファーの二人がその列の先頭で一角獣(ユニコーン)に乗るのが、アルフ=ガンドの本気の現れであった。


 最終目的地は、エストニア王国の南部、クーベンになる。ユーリの話を受けて、この状況になるが、準備を含めて年刻の変わりを見ていた。その流れになる。


 その荷車を引き連れ、歩みを続ける列から少し離れた所で、転位型魔装具の魔方陣の展開が輝きを見せて、当然の顔でクローゼがその列に戻ってきた。


 今回は一人のクローゼが軽い伸びの後で、レニエに「ただいま」と声をかける。 すると、その並びの馬車の前に座るウルジェラが、露骨に嫌な顔をした。勿論、人智の人の容姿で「獄属である」彼女に感情などさして無いはずであったが……


 その流れで、自身の馬に乗ったクローゼにユーリが近付いて、その結果を催促する表情を微かに見せていた。


「ああ、『ジブリール』に用意させる。『ゴルダルード帝国の利権は大きいぞ』と言ったら即答だったぞ、レンナントの奴」


 クローゼの言葉に、安堵と懸念を見せるユーリのそれは、風の旅団を運ぶ馬車の事になる。エルフの戦士が徒歩であるのと、その想像以上に数で「転移」や「走破」による移動を諦めての結果。現実的な方法を選んだと言う事であった。


「ヴォーベック商会だけで、数百も馬車を用意できるんですか……と言うよりも、そんな資金……」


「数は、冒険者運ぶ奴が有るから、まあ、大丈夫だろ。途中の手配はロレッタに言って暁の商会(うちのところ)でやるから……ああ、資金な。お前の録から引いとくから気にするな」


 クローゼの言葉の最後は、冗談のつもりであったのだろうが、ユーリはそれに、真面目な表情をしていた。


「閣下。それで足りるならいくらでも。貯めている分も全部出します。……でも、足りるわけないですよね。今まで……今も、王国に投じた分は、既に、凄い事になってますよ」


 そんな、ユーリは深刻な顔を向けた先に、当然レニエもいた。彼女はそれでクローゼの表情に自身のそれをむけていた。


「……レニエも、そう思う? 。大丈夫だよ。まだ、ニコラスは怒ってない。それに、ロレッタから聞いたけど、俺は金持ちらしい。暁の商会は半分俺のだし。まあ、クラークの奴も俺の名前思いっきり使ってるからな……」


「ですが、今回の分はそれでも、今までの……」


「まあ、毎回、クーベンに行くと……財務の担当の何とか子爵が小さくなるからな。あんな大きいのに。……確かに、レンナントが言ってたけど、このまま行くと王国買えるらしいからな。それだったら、俺でもそうなるよ」


 ユーリの懸念に、これも最後の言葉は冗談じみた言い方をしたが、ユーリには勿論、レニエにもそう思えてはいなかった。


 レニエに関しては、ヴァンダリア・ヴルム=ヨルグの家名家門として、資金の流れを把握しており、ユーリ関しては、私的副官なので、公私も含めてそれを見れる立場にあった。その上で、「分かっているから尚更」になる。


 極光樹の地(アースヘイム)がそう言った部分遠い為、そこを離れるにつれて、現実的な世界に戻った感じになる。


「深刻な顔するな。考えがあるから、大丈夫だ。大体、妹みたいな王女にその事で、『娶って貰うしかない』的に言われたら考えるさ。……まあ、レンナントにそれをいったら、ニコラスもあきれるだろって言ってたからな。……でも、怒られるけど……」


 ――じっとりとした目で、明らかに怒っている感じの無言なニコラスが、思慮の末に出す「まあ、良いです」がクローゼには、何故か行動を全て否定されたような恐怖を感じるのだった。怒られているかは別にして、ではあるが。


「どんな手だ」


 話を端で聞いていたウルジェラが、そんな声を上げてくる。それに視線が集まり、クローゼは驚いた顔をしていた。……道中、あまりにもウルジェラに質問を向けるので、暫く無視を決め込まれていたからである。


「なんだ……気になるか。教えてやらない事もないぞ。ウルジェラ」


「ならいらん。黙っておれ」


 御者の隣に座るウルジェラの顔を背けるそれに、馬体を並べる三頭の真ん中で「なっ」となるクローゼ。それに、間に馬体を入れるレニエの「聞かせて貰えますか」の柔らかい声が向けられていた。


 それに、「仕方ないな」のクローゼがそれを口に出してきた。


「エストニア王国を無くせば良いんだ」


 その言葉には、流石のユーリもクローゼと同じに「なっ」となっていた。明らかに、レニエに向いていたクローゼは彼女の表情でそれに気が付く。そして、ユーリの表情を確認して足らない言葉を出していた。


「いや、無くすではないな。……名前を変える。それも違うな。戻すか……イースティア王国にするんだ。それで、国璽(こくじ)も変えてしまえば、ジルクドヴルムにある借証の書類は、行き先がなくなる。エストニア王国は滅びたんだからな。それて、俺が貸した資金は無しって事だな……」


 ……ニナ=マーリット・フィーナ・イースティア。その名が示す様に、一般的に王族たるは、名前に国号――国の名称――が入る。エストニア王国において女性の王族は古の通り名である、イースティアが当てられていた。なので、彼女が国権を戻し女王となれば、国名の変更もおかしくはない。まして、現状、魔王の国との曰く付きならなおの事である。


「そんな事されたら、呆れる処ではないと思いますが……」


「大丈夫だ。他で稼ぐ。……いや、実際はジルクドヴルムの生産性が上回てっるらしいから、初めから無かったと思えばいい。……そうニコラスに『言う』って言ったら、レンナントがそう言ってたな。本当にそうかはしらん……」


 そう言って、クローゼはレンナントとロレッタ――本来は、チャンスを物にした男、クラーク・ドーン――の話をまとめて大丈夫だと言っていた。……興味のある話なのと、先程まで彼らと話していたのであろう。以外と詳しい話になった……


 ……ウォーベック商会がばらまいている、彼の街の商品のからの利益は、全部彼の私財にあてられる。当然、それを運営しているのは、彼なのだからである。また、租税は別なのだが、人の増加に伴い生産性や人に物の流通が多くなり比例して増えていた。その点も彼の私財を増やす一端になる。


 その私財を使って、エストニア王国に提供される、冒険者の体の人員や物質。流入する国民の食料や用品を担っているのは、クローゼ自身及び、ヴァンダリアであった。その為に、ウォーベック商会のダミーから、王女の国璽が押されて帰ってくるそれは、クローゼの範疇を出ない。


 この流れでわかるように、クーベンで小さくなってしまう大きな子爵が、震える感じで押しているそれの額面ほど、クローゼには影響はなかった。例えば、百が五十になるのを彼が『良し』とすれば、ニコラスも呆れはするが、文句は言わないとなる。


  僅かな平和と冒険者による魔獣や魔物に対する早期の対策で、人口の減少が抑えられた結果。ジルクドヴルムに人が集まる土台が維持できた。集まったのは冒険者の体の術師や匠の類いだったが。


「それに、ゴルダルード帝国と国交が回復して、流通の往き来もはじまったけど。そこは、俺の一人勝ちだ。クラークは『忙しくて死ぬ』って言って半笑いだったな。『機密の流出』を盾に、ヴィニーに言って、王国側からガーナル平原の通行には、アホみたいに税かけてやったからな。まあ、向こうからは無税だけどな」


 王国第七軍とヴァンダリア騎兵が警戒する、ガーナル平原の事になる。 当然、国事の行為という裁可はでていた。


 いつになく、機嫌よく彼は声をあげている。引き連れるエルフの一軍の為に出来た時間で、彼は四者の連合の集結に飛び回っていた。その都度、ユーリをつれ、ヘルミーネを伴いなすべきを成していた。そして、バルサスと共にルーカスに会い報告を兼ねて……承諾も既に得ていた。


 一連の流れで若干の興奮が彼にはあり、ロンドベルグでの出来事に、携える新たな双剣のそれ。また、アレックスから得た新な術式に、魅せられた導師の新兵器の形……等々が助長をしていた。


「何故それほど小国に入れ込む」


 ユーリの頷きから始まった。何と無く納得の空気をウルジェラの声が抜けていた。


「何でかな。……守る自身があって、目の前で人が死んだ。自分の事が分かってなくて、守るつもりで、その人は死んだんだ。別に、生きていた時には特別だった訳でも無いんだが、それで特別になったのか。……理由か? 。そんなのは出来るからだ。力がなかったら、俺だって見てるだけしか出来ないだろ。違うかウルジェラ? 」


「それで、魔王を倒すと」


「出来たらな。ただ、俺は勇者でもなんでもないし。目的は別だしな。要するに、格好つけたいだけの小さい男だよ。好きな人にそう思ってもらいたい。ここに来たのもそうだしな……別に女性限定じゃないぞ」


「勇者か……」


 ウルジェラは、クローゼの言葉に軽い呟きを見せていた。クローゼはそれを見ることなく、ユーリにむけて、「おれは、女好きじゃないぞ」と何故か念をおしていた……


 ……不毛な流になりそうな、その空気をヘルミーネの言葉で戻すことになった。彼女の「竜伯。通信用魔動器が反応しています」の後の流れは、言うまでもなく、魔王の話になる。


 その光景を間近で見た、ヴォルグの興奮と驚愕が混じった話をアリッサがまとめた内容であった。


「本気になりそうな相手を一瞬で。ついでに、目の前にいた凄い数の殆んどを……魔王は倒した」


 ヴォルグの言葉に、周りの人狼の話をアリッサの見解がまとめて「凡そ」あの光景に近付いていた。その認識の上で、以後の流れのような話が続いた。


 ……七つの剣士シエテ・エスグリミスタらしきは全滅。それに魔王オルゼクスのみで十万以上は倒されたと……死黒兵団三つがユーベンに戻り、魔王オルゼクスは、魔解に通じる穴を開け勢力を増しながら、魔族の一軍と魔王軍なる魔物と魔獣をつれて、パルデギアード帝国領をゆっくりと進攻中との事がもたらされた、となる。


 震えるユーリの肩と声に、ヘルミーネの悲しげな表情が向けられていた。その光景をレニエはクローゼに視線を送りながら見ていた。


「少し休憩だ。……伝えてくれ」


 馬なりのまま、動けないユーリに代わりヘルミーネは小さく声を返して、馬を走らせていく。


「ユーリ。予想通りだ。……最悪だが予想外じゃない。確かに、あわよくばはあった。あっちの帝国には悪いけど、こっちは四倍だ……それに俺がいる」


 若干の期待があっただけに、ユーリの失意は目にみえる形にその場にでていた。僅かな頷きが返せたクローゼの言葉に、ウルジェラはその瞳をむけていた。


 全体が止まるのに併せて彼らも止まり、ヘルミーネが颶風の二人を伴って戻ってきた。それで、クローゼはレニエに促しを見せていた。納得に続けて、レニエの説明が二人に驚愕の表情を引き出していた。


 その雰囲気をクローゼは、軽くしようとしたのだろう。その事を簡単に言ってのける。


「何、眷属神も獄属も倒したんだ。魔王ぐらい何とかなるさ」


「神の子だぞ。我らごときと同じにするな」


「いや、魔王だろ。それにお前、魔王倒そうとした奴に手貸そうとしてたんだろ。何だ、魔解なんとかって、準魔王の……そんな話だったよな」


 その言葉にウルジェラは無表情を向けて、クローゼの荒い感じを引き出していた。 追従するこの道すがら、ウルジェラにとって、鬱陶しいという感情を理解した話の内の事になる。


「四大精霊の極光風の精霊(シルヴェルスト)こみの話だ。大体、ミールレスに精霊の王を隸属させるのが契約だった故な。それに途中で、精霊の方は無理と分かったのだ。それと……戦士のは余興だ……魔王を倒せるなどと思ってもおらぬ」


「なんだよそれ……」


 ユーリの手前、強がって見せただけのクローゼであった。それに、ウルジェラの言葉が乗って強がりに陰りが見えていた、となる。そこで、彼は深呼吸をする。そして、腰の剣に手をかけてヘルミーネにむけて声を掛けていた。


「フローリッヒ。今日はまだ振ってない。休憩中で悪いけど、また、つき合ってくれ……ウルジェラお前もこい」


 ヘルミーネの「はい(ヤー)」の後に、ウルジェラの無表情の顔が動いて、彼女達は、クローゼの後をついて列から離れていった……。


 ――クローゼの腰に下がるのは、新しい双剣で、勿論、バルサス制作の風切り(アンウィル)を施したレイナードが使うあの剣の比較的短い刀身(ショートソード)であった。勿論、極鉱石(リミットタイト)製である。


 魔衝撃の部分に、導師の魔力増幅の術式が施され、刀身の部分には、マリオン・アーウィン大魔導師の弟子達に依頼した特殊な魔動術式が、バルサスによって刻まれていた。


 ルーカスの元を再び訪れるのに、クローゼはバルサスを頼った。その時、この剣を受け取っていた。風切り(アンウィル)の存在を知って彼に依頼していのだが、「いや、出来ないなら仕方ないです」「出来ん等といっとらん」の流れになる。当然、今回も戻る時は手荷物の山であったが――


 ……腰に下がる、形の変わったの握り感触を確かめる感じに、クローゼは無造作に歩いていた。勿論、失意のユーリから離れるに為にと……自身を落ち着かせる為に彼は歩いていた。


 ――ヴォルグが本気になりそうだった。なんてな。多分、本気だったんだろ。なら、あの二人に近い相手だったんだろうな。そいつ。……マジか。と言うか万単位でどうとかなんだよ。


竜伯 (ブラーフヴルム)。 何処までいかれるのですか? 」


「あっ。ああ、悪い」


「それで、話は何だ」


 行きなりのまま、歩き続けるクローゼは、ヘルミーネの声に我にかえっていた。そこに、ウルジェラの真意を見透かした感じが向けられていく。軽く、首を傾げるヘルミーネにクローゼが軽く手を上げていた。


「あっ。フローリッヒ。悪いが、この辺りをちょっと警戒していてくれ。こいつと話したい事があるんだ。すまない」


 苦しい感じをヘルミーネは悟ったのか、会釈程度で二人から距離を取っていく。それをウルジェラは、眺める様に見ていた。


「言ってあるが、お前達が知らぬ事で、・の理(しんり)に触れる事は話せんぞ」


「分かってる。じゃあ、簡単に聞くぞ。俺は魔王をなんとか出来るか? 」


「倒せるか? とは聞かぬのか」


「無理だろ……」


 クローゼは、ウルジェラの返しに折れた心を自覚した。恐らくそうであると思われる。出た言葉が、それを表していた。


「力ずくでは、無理やもな。もう少し早ければ或いは……だったな」


 その言葉が、クローゼが「無理だろ」と言ったままの光景に、冷たい風の様に抜けていた。ただ、当たり前を、神に近い永劫を刻ざんだ存在に指摘されてそんな顔をしていた。


 明らかな落胆なのかも知れないそれに、ウルジェラは、ため息をする仕草をして見せた。


「我の感情はこうする感じだな。……仕方ない。特別だ。……お前達は、死ある生(むくろより)。我らは、生ある生(かみのためいき)。眷属の神は、意ある生(かみのいぶき)。そして、魔王も勇者も『神の子(かみとどうぎ)』だ。人智で巫女なるは違うぞ」


「分かる様に言ってくれ。何が言いたい? 」


「『ままよ』という事だ。人智が成すなら、十の層(けんぞくしん)を超える力を持たねば無理だと。不断(ふだん)なら、そんな層の存在は人智にはでてこれない。魔王と勇者と云われる者はその域。お前も特異な感じだが、六層までが精々よ」


 茫然(ぼうぜん)の クローゼに、ウルジェラは視線を向け直して「それでも十分怪異(かいい)――化け物――だな」と呟きを見せていた。


「お前に分かる様に言うなら、カーイムナス様なりが五体を持って人智に有るのだ。倒せるなら、それは、神なりだろう。対なら、勇者と云われるものだな」


 カーイムナスの名がでて、その魔力体と戦ったクローゼは何と無くの認識が出来て、ウルジェラに視点を合わせる事が出来てきた。


「じゃあ、勇者はどこだよ」

「知らんな」

「はあっ? 」

「知らん。と言った」


「お前、獄属だろ。長く生きてたんだろ。知らんてなんだよ」


「今の勇者の所在など知らん。聞き方が間違いだ。まあ、これまでのは、見たことも、会った事も、勿論、目合(まぐわ)った事もあるぞ」


「『目合(まぐわい)』って、お前いきなり何の話だよ。なんか、ずれてるぞ」


「ずれておるのはお前だ。……ただ、手はあるぞ」


 瞬間的に、ウルジェラの雰囲気が変わって、ヘルミーネが二人を気にする素振りを見せていた。無論、ウルジェラはその動きも分かったようであった。また、別の何かも気付いた様にもみえた。


「どんな手だ」


 真顔のクローゼに、ウルジェラは自身の胸元を指して魅せる。彼女は突然、妖艶さをまして、従属の首輪(サブジュゲーション)の首輪を揺らして見せた。それで詰まる距離から、艶っぽい響きがクローゼの耳をついてくる。


「此なら、貴方の思いはなります。……代償など無しに。妾は既に貴方の奴隷。この隸属の首飾りがその証。想像を絶する不遇など、貴方に求めずとも、思いのままに……妾の全てを捧げます。お手にお入れ下さい……ぐっ」


「はっ、っておい。『蠱惑(コアク)の魔眼』使おうとしたな。油断した。何で解いたの分かったんだ。仮面も無しはヤバかったぞ」


「特異なるお前の魔力の変化など、探るに造作もない。だが、あそこまでさせて最後が駄目とは、これは通りで――おい女。見えておるか」


 妖艶な皮をかなぐり捨てて、ウルジェラは突然、ヘルミーネの立つその向こう側を指差した。ヘルミーネはその先に目を凝らしていく。釣られるクローゼもその方向に顔を向けていた。


「なんだ? 」


「……馬? 騎兵? ――騎兵が一騎きます」


「その後ろに、遅れて二千と少しだな」


「二千って軍かよ。何だ。……おい、何で分かる」


 全体的な、状況認識に視線を動かしていたクローゼが動きを止めてウルジェラの顔を覗き込む。若干の臨戦態勢を見せるヘルミーネのそれは、クローゼには入っていた。


「見えるからな」


 起動呪文の呟きに合わさって、先程とは違う素っ気ない声がウルジェラからは出ていた。それを気にする素振りもなくクローゼは集中していく


「ウルジェラ。剣、抜いてるよな、あれ」

「そうだな」


「フローリッヒ。近付いて来たら、全力でやれ」

「なにを突然怒ってる」


 ヘルミーネの頷く感じに、騎影が大きく見えてきた。光の反射でその騎兵が握る剣が浮き上がっていく。その合間にウルジェラが僅かに下がる。


「明らかに、狙いはこっちの隊列だろ。南から来るのはあれだ。大体、一騎駆けするなんてのは、馬鹿か強いかどっちかだ……」


「何か気にさわったか? 」


「ヘルミーネ。俺が許す。やれ」


「後ろから」「二千の軍」の言葉を聞いていたヘルミーネは、迎撃体制のまま、彼女はゴルダルードの軍装に向けて声を響かせた。ただ、響くのは全体である。


「敵襲だ――総員戦闘用意――」


 言葉と共に、彼女は全力の抜刀を魅せる。相対的距離で、虚空を走る剣身から魔力の刃が伸びていた。

 カレンが言った「騎士は刃」……彼女の今の主君はクローゼである。


 その言葉には、この時ヘルミーネは躊躇しなかった。そして、美しい輝きが走っていた。となる。




次で、四章終幕の予定です。……勢いは息切れしてます。

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