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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第四章 王国の盾と精霊の弓
103/204

壱~過ぎ去った風、移り行く先~

 物語の頁を飾った争乱の風が、王国と帝国を駆け抜けていった。そんな劇的な刻が終わり、それぞれが新たな物語を綴り始めていた。


 ひとつの舞台であった。イグラルード王国の王都ロンドベルグ。そこで、一連の流れの終焉を見て、アーヴェント王の戴冠式から始まる式典の嵐と社交の波を、クローゼは文字通りすり抜けていた。


 全く自身の舞台では無いのを、操り人形の様にこなしたという事になる。無論、人形使いはヴァンリーフ宮中伯令嬢 ――レニエ・フロム・ヴァンリーフであった。


 その彼女は、ヨルグガルデで行われた、正式な帝国様式のその席でも、クローゼを完璧な王国貴族として成さしめ、帝国貴族の所作を体現させていた。

 その一連から、彼女が何者であるかを明かした上、皇帝ライムント・ファングの感嘆をレニエは引き出していた。


 際立つ美しさを奥ゆかしさで隠して……クローゼを立てるレニエ。その姿は、列した帝国騎士や貴族から、クローゼが羨望の眼差しを向けられるに値していた。


 そんな人形のクローゼは、戦場ではセレスタに丸投げし,実務はアリッサにそれを。社交や政治的式典は、レニエに全てを委ねていた。


「俺……何も出来なかったな」


 あてがわれた屋敷の一室で、膝枕、耳掻き、爪切りのフルコースの上、髪をとかれながらクローゼは、レニエの膝に頭を乗せて彼女の顔を見上げていた。


「ご立派でした、クローゼ。素敵でしたよ」


 白い肌に微かに見える赤らみが、益々レニエの美しさを際立たせていた。それにクローゼは、あからさまな赤い顔を見せて「そうかな」と呟きを向けていた。


「閣下。お邪魔なら退室いたしますが」


 全くな二人の空間を醸し出していたクローゼに、ユーリの声が刺さる。それに、クローゼ『おっ』とした表情が表れた。


「大丈夫だ。正装、正装、また、正装でさ……疲れたんだ……よっと」


 そうユーリに向けてクローゼは、言葉通りに軽く身体を起こして立ち上がった。その勢いで、レニエの髪が少し流れを見せていく。


 クローゼはその姿勢から、その視線の先。眉間に力が入った表情の女性にそのまま声をかけた。


「ヘルミーネそんな怖い顔するなよ。美人が台無しだぞ」


「名前で呼ばないでと何度も。殿方でいいのは、皇帝(カイザー)御一人。フローリッヒとお願いしている」


 レニエの銀髪(ホワイトブロンド)とは対象的な暗い金髪(ダークブロンド)のヘルミーネ。彼女は、帝国貴族ヨルグ領伯 クローゼ・ベルグ・ヴァンダリア竜伯(ブラーフヴルム)付きを皇帝の勅命により賜り……全くの不本意ながら、ロンドベルグに随行してきていた。


 テレーゼと同じ年で、伯にも満たない下級貴族の家名の彼女は、紋様の発現で一族の期待を背に牙となり、皇帝ライムントの傍ら迄登ってきた。


 その最中で、訳も分からない男の特別な爵位の叙爵を見て、それにあてがわれた感じになっていた。皇帝の護衛、常に傍らに。そこからのこの状況は、彼女にとって……以外はない。そんな感じになる。


 ただ、帝国の一般的な見方をすれば、皇帝自身の護衛の信認は特別であった。そんな立場の者を付けるとなれば、クローゼの信認も計り知れない。皇帝ライムントの意思は、他の残る牙の何れであっても、ヘルミーネ以外では体現出来ないと思われる。


「カレンが言ってたぞ。そんなに気負わなくて良いからって。カレンも初めて……レニエそんな感じしたか。初めて見た時の事。俺あんまり覚えてない」


「『真紅乃剱(グリムゾンソード)たる』そんな印象だったと思います」


 レニエのその言葉――カレンの称号――にヘルミーネは、若干身構えた感じを見せていた。


「ほら、それ。えっーと、フローリッヒ。……もっと肩の力を――」


「――閣下は、力を抜き過ぎです。……それと、その無造作に相手の領分に片足突っ込まれるのは、相手を見られた方が宜しいかと。まあ、それが閣下の良い所ではありますが」


 ユーリの遮りに、クローゼはレニエに『そうか? 』の顔を向けて、微笑みを得ていた。そして、ユーリに視線を経由させて、唐突にヘルミーネに謝意を表してみせる。


「悪かった、フローリッヒ」


 出した言葉と共に、クローゼ自身が寛いでいた、ソファーの様な長椅子から離れて、テーブルにヘルミーネを促した。彼女は、若干複雑な顔をしていたが、それに構わずに、クローゼはレニエを通して紅茶を二つ用意させていく。


「とりあえず、座っていいよ。職務の話だからな」


 彼女の受諾と行動の合間に、クローゼは「ユーリお前も、飲むか」と声をかけていた……。そして、その流れのまま、ヘルミーネに話を始める。


「諜報員の件だけど、名簿の内、捕まって無い者は俺の下で諜報員として使う。残りは、フローリッヒ家の者の誰かの下で、表の業務に付かせるから。その人選は君に任せる。詳しくはユーリと詰めてほしい。皇帝(カイザー)には、御裁可頂いているから、精細が決まったら君から皇帝(カイザー)に報告をしてくれ。……通信用魔動器は、もう運ばせてるんだろ」


 一旦、クローゼはユーリを見て、その認識を共有していた。ヘルミーネはそれに、真面目な顔を向けていた。


「当面の仕事は、魔装術の提供と交流になる。その辺も踏まえて、フローリッヒの家名から……統括はフローリッヒの父上がいいのか。実務の方はそれなりの人選を。あ、でも身内で良いよ。王の意向にある分は全て提供する。だから、結構あるし出来る人にしてくれたら助かる。皇帝(カイザー)の意向で、それはフローリッヒの家名に一任されてるから。でも、ヘルミーネは駄目だ……あ。ごめん」


 いつになく、まともな内容をクローゼは話していた。その勢いで、彼女の名を呼んで言葉を止めてしまう。しかし、その内容に意識を向けていたヘルミーネは、クローゼの仕草を理解出来ていないような顔をする。


「君は、俺とその繋ぎを……と言うか、皇帝(カイザー)からフローリッヒの家名に実績をって言われたからな。俺が、それを提供できるのはフローリッヒの者だけ……あ。なんだ。えっとそれに、君は俺付きだから……」


「私は竜伯(ブラーフヴルム)に家名の為。買われた言う事ですか……」


「閣下。残りの説明は私が後程。……フローリッヒ殿は、皇帝陛下に大事にされている。と閣下は仰りたいのです。私も他国の者ですが、竜伯には一族共に助けて頂いてます。勿論、祖国もです」


 ヘルミーネの言葉に『ああっ』となるクローゼに、ユーリはそんな声を彼女にかけていた。


 少し悲しそうな顔になったヘルミーネに、クローゼが掛ける言葉を探してレニエをみた。僅かに頷く彼女は、ヘルミーネに微笑んで見せる。


「その場には、私も有りました。皇帝陛下は、貴女を預ける旨『よろしく頼む』と言われておいででしたよ。竜伯爵 クローゼ・ベルグは、その時点で、貴女を身内と考えております。ですから、対価など貴女に求めておりませんよ。それに、貴女の一族の方も当然そう考えていますから。……クローゼはああ見えても、帝国貴族の末席にあります。余計な心配は為さらぬとも宜しいです」


 レニエ自身は、グランザ――彼女の父親に『行け』と、ある種、その意味で彼女はクローゼの元に送られた。そして、クローゼの思いのままの姿に、自身を照らしあわせて、彼女はクローゼをそんな感じで見る様になった。


 そして、何時しか父の思惑が、彼女の気持ちになり、あの時の少女の様な笑顔に続いていく。


 そう言われてヘルミーネは、複雑な感情を表情に出していた。彼女感覚では、一応に理解が追い付かない様に見える。


「私のクローゼは。国王陛下を信頼しております。それゆえ、国王陛下が認めた皇帝陛下も無条件で信じています。ですから、皇帝陛下に『頼む』と言われれば、ヘルミーネも貴女の一族もそのままそう思っています。好きな事しかしませんが、先ほどの話は頑張った方ですよ。……クローゼは素敵でした」


『おう』となったクローゼは、レニエの顔をまじまじと見て、ちょっと得意気な顔をしていた。それを見たユーリが、先ほどの言葉を繰り返しそうな顔をしているとヘルミーネが声をあげる。


「分からないのだ。肩の力を抜けと言われても。ここに来るまで、皇帝陛下の隣に立つまで……気など抜けなかった。上を見ても、下を感じても争うそれしか……登った所からは、降りられない。人など信じていられなかった……」


「じゃあ良いよ、そのままで。それが、フローリッヒならそれで良い。その内分かるさ。焦らず、ゆっくり行こう。まあ、人それぞれだもんな。ごめん」


 突然のヘルミーネに、クローゼはそう言った。そのままレニエに、そんな感じの顔を向けていく。そして、レニエの笑顔に何故か軽く拳を握っていた。


「閣下は、誉められたくてそんな事を……」


「いや、違う……でもなくもない。ちょっとあった。ユーリお前は、いちいち……あってるからそうだけと。でも違うぞ。フローリッヒ、言ってることは本心だ。……そう本当だ」


「わかりました。竜伯(ブラーフヴルム)お気持ちは頂いておきます。その上で、職務は全力で賜ります。期待に添える様には努力致します」


 その会話に、レニエの優しい顔が向けられて、ヘルミーネはなんとなく笑顔を作る仕草をしていた。以前として、硬いままであったが……。


 その後、クローゼが出された紅茶に熱さを訴える一幕を挟み、彼が話題を大幅に変えた。――単純に彼は出かけると言っているのだが、その場所は、アリッサの元にと言う事であった。


「レニエ準備してくれ。ちょっとアリッサの所に言ってくる。黒の六楯(クロージュ)で行くから。それとユーリ。セレスタの件は『絶対駄目だ』と言っておいてくれ。手伝いは仕方ないけど、近衛の団長とか、第一騎士団の副団長とかあり得んからな。それに、俺が困る……」


「最後のを強調しておきます」


「それで良い。……違う。ヴァンダリアのそれが、困るんだ……そうだからな」


 セレスタは、今回の件でアーヴェントから、騎士爵の叙任を受けて騎士となっていた。また、魔衝撃の武器を王国で正式に採用する事になり、その助言をする立場にもなっていた。勿論、クローゼ付きなのは、彼の意向でそのままなので、セレスタのヴァンダリアでの位置付けは同じではある。


 その上で、半壊した近衛騎士団を第十騎士団から補充して再建するにあたり、その人選にも関わっていた。また、それが終わるまで、第一騎士団が王都に駐留する事になり……クローゼの言葉に繋がる。


 あの、ライムントに迫った時の彼女を、シオンが認めて、アーヴェントに具申したという流れがあった。


 当然、クローゼはシオンに文句を言いに行った。しかし、シオンの「私は、見たままを陛下に具申しただけだ。 それに、決めるのはクローゼでなくセレスタではないのか」と返されて、アーヴェントに泣きつき……「本人しだいだな」と保留されていた。という事があっての会話になる。


 そんなクローゼの様子を見て、ヘルミーネはレニエに疑問を投げ掛ける。


「レニエ殿……。レニエ殿は、好いた殿方が他の女性の所に行くと言っているのに……その……貴族の嗜好だから……」


「宜しいですよ。レニエと呼んでください。仰りたい事が、私のクローゼの事なら大丈夫です。私も彼にとっては一番ですから。それに、貴族の嗜好でクローゼがそうであれは、私もそう思うだけです。ヴァンダリア竜伯爵(グレイブ・ヴルム) クローゼ・ベルグには、その価値がありますので。……ですが、爵位を好いている訳ではありません。勿論、他のお二方もそうだと思います」


 当然の顔なレニエに、ヘルミーネの方が僅かに恥じる感じを出していた。それで、顔が赤らむのが見えていた。そこに、ユーリの声が入ってくる。


「逢瀬と言えば、そうなりますね。なんと言っても想い方がみえるのが、魔都ユーベンですから。自分もそんな人が出来たら……。まあ、それでも魔王の前に出るのは出来ませんね。あの時……レニエさんであっても、閣下は躊躇なくしたでしょうけど」


「何時の話だよ。まあ、するけどさ……ユーリだってするよ。その時が来たら」


 クローゼは、レニエの言葉を聞いていたのか分からないが、当たり前にそんな事を言っていた。


 また、ヘルミーネも、その場所とクローゼがその地から帰って来たというのは、情報として知っていた。だが、話の流れで実情はもっと複雑だったのだと思い始めていた様だった。


 ――魔王の前に出る? ……あの伝承の勇者。その魔王。それと対峙したの竜伯(ブラーフヴルム)は……


 そんな彼女の思考とは無関係に、クローゼの思いのままに、その刻が費やされる。そして、彼は仮面をつけて再び現れる。――目の回り覆う始めの仮面のそれである。

 黒の六楯(クロージュ)で有るがゆえか、それなり雰囲気と顔立ちを見せていた。しかし、レニエに一応の直しを受けていたクローゼは「一人で着れたぞ」と得意気な顔を見せて、彼が望むものを彼女から受け取っていた。


「まるで、子供なのだな」


「まあ、あのままですね」


 見合わせる二人の会話に、馴れないメイドはその声に同意の感じを見せていた。ユーリが、ヘルミーネに言った、見たままのクローゼは、いつもの様に突然切り替わりを見せる。


「ユーベンの動向はどうなっている?」


 その言葉に、ユーリはレニエの頷きを待って答えを提示した。


「繋ぎの確立に若干掛かりましたが、アリッサさんから、情報得られるまでは出来ております。勿論、魔族には秘匿した上でになりますが。あーと。……アリッサさんは元気だそうです」


「そうか。……でなくて、いや、それもだけど。その他の具体的な事だよ。とりあえず……」


 わざとらしい追加の言葉に、クローゼは反応したのだが、まさかそこから来るとは思ったいないようだった。その様子に、ユーリは軽くレニエを見てそのまま話を続ける。


「現状、ユーベン自体は一応の平穏にあるとの事です。決定的に違うのは、後から現れた魔族に『強力な個体が現れた』という事になります。それが、派閥を形勢して、表立ってはいませんが魔王と確執があると。情報では、準魔王級の魔族だそうです」


「なんだそれ」


「こちらの文献を調べさせた感じでは、周期的にそちらが魔王ではないかと」


 その話を聞きながら、クローゼは長椅子にドンと腰を預けて、足を組んでみせた。そして、あの感じの顔を見せていく。


「準魔王級の魔王ね。それ、魔王じゃないだろ」


「クローゼ。アリッサから、止められているので駄目ですよ。そんな顔をしても」


 レニエの指摘に、「しないから」とクローゼは声を返して、ユーリに続きを促していた。ただ、魔王オルゼクスには、クローゼは少なくない縁がある。その辺りを含めて、彼はそんな物言いだったが。


「強さに関しては、パルデギアード帝国領域でそれなりの様子だと。本格的な軍はまだ中央なので、些かですが。後、派閥の関係だと思われますが、死黒兵団はすべてユーベンに駐留しているそうです。その為、南部は、エストニア王国軍が『優勢』との事です」


 ユーリの報告に、感情が乗るのが場に出ていた。悲願である祖国解放は、目の前に希望がある。ただ、結果的に事が成れば、過程は何れでも問題ではない。例え、パルデギアード帝国がそれを成してもになる。


「南部はそれなりに、てこ入れしてるからな。ミラナもいるし。……そう言えば、あっちの帝国にも強い奴いるんだろ」


 立ち位置を変えたレニエが、クローゼの肩に軽く手を掛ける。それと同時に、クローゼはそんなを事言っていた。


 ――勿論、パルデギアード帝国の事になる。イグラルードには、六剱の騎士(シックスソード)があり。ゴルダルードには、皇帝十三の牙(カイザー・ファング)がある。その事を言っていた。


「まあ、エストニア王国にエバン・クライフがあった様に当然います。レグロ・ロイバル、マルシオ・ビジャル、フェルナンド・モリエンテス、エルシリア・カーサス辺りが七つの剣士シエテ・エスグリミスタとして有名ですね。あと皇女のノエリア・パルデギアード・デ・テルセーラは、武勇優れる女傑として有名です」


「うむ。……覚えられんから、必要なら聞く。まあ、カレンは別格かもしれんが、レイナード位の奴はいるんだろうな。どっちでもいいけど」


 段々とふんぞり返る様に、長椅子に埋まって行くクローゼがそういった。正面に立つユーリは、『いや』と否定の顔をして、テーブルの側にあるヘルミーネは怪訝な顔をする。その感じのまま、二人は互いに見合わせ……ユーリが疑問を向ける。


「レイナードさんも別格かと。ただ、そうであれば、或いはこのまま――」


「――無いな。無理だよ。まあ、レイナードが別格と言わなかったのは謙遜だ……。大体、その位で倒せるなら今から行くよ。オルゼクスが強いのは、俺が一番分かる。正直、本物の勇者が現れないかと思ってるくらいだ」


「閣下でも無理ですか?」


 先ほどの感じが、クローゼの言葉で消し飛んだユーリのか細い声が、『無理だよ』に向けられる。それに、体重を前にかけて座り直したクローゼが、両手を合わせて顎を乗せた。


「倒しには行くよ。玉砕せずに行けると思えるまで、準備出来たら。それでも、相当な覚悟がいる。でも倒す。最悪は封印する。帝国と戦って思ったんだ。『魔王なら』ってね。多分、魔王一人でも勝ったよ。帝国にも王国にも……」


 ヘルミーネが、その言葉に反応する。


「そんな馬鹿な強さがあるわけない。それにフリートヘルム様……」


「悪かった。倒してしまったな。……テレーゼにも言われたよ『フリートヘルム様が負ける訳が無い』ってね。でも、彼は勇者でもなんでもない。ただの心の弱い男だった。これは、皇帝(カイザー)には内緒だけど……彼は、獄属に魅せられいたんだ」


「そんな、嘘を言って――」


「――本人がそう言ったんだよ」


「えっ」


 ヘルミーネは、前に向かう感じをクローゼに向けていた。だが、予想外の言葉と思われる返してに言葉を止めた。その顔には、驚き以外はなかった。


「生きてるよ。現実を突き付けられて、灰の様に。見た目と同じ真っ白だけどな。それでも、厳重に拘束してるけど。まあ、それもなんとかするよ。……紫色の暗い竜水晶。連続してみたな」


 クローゼの雰囲気が、変わっているのをその場の者が感じでいた。既に、ヘルミーネも次の言葉が無いようで、黙ったままになっている。「なんだ、みんな。そんな暗い顔するなよ」とクローゼが何もなかった様に、その場には向けていた。


 そして、徐に彼は立ち上がってレニエに向く。そこに差しだされる双剣を彼は腰に据えて、ユーリに促しを向ける。


「兎に角、一度ユーベンに行く。ユーリ。さっきのなんたらの名前書いてくれ。手ぶらだとあれだ。それと、フローリッヒ。うちの領主代行(キーナ)の手を逃れた優秀な諜報員はレニエにつけるから、引き継ぎに皇帝(カイザー)の代理として君が立ち会え。……俺が顔を知ってると漏れる、と思うから。ちょっと別件で調べさせたい事がある。その辺も含めて、レニエの補佐も頼む」


 見るからに、変わる雰囲気にヘルミーネは「はい(ヤー)」と頷いていた……。


「庭から飛ぶから、見送りは良いよ。それに長居はしないから」


 そんな調子で、クローゼはまわりに告げて……その場を後にした。――多少、軽やかな足取りであった。




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