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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第三章 王国の盾と英傑の碑
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二十三~開かれる扉…王者と覇者~

 始まりの戦い。――その遡る点から今を綴る点に至り、戦いは一応の終焉を迎える。

 それは、ビーゼル・ベルグの見せた終着点で、彼の弟であるクローゼが、ライムントの眼前に剣先を煌めかせた事によってだった。


 ただ、クローゼが今見る視点は、ゴルダルード帝国領要塞都市ヨルグガルデのそびえ立つ城壁を映していた。彼の後ろには、彼を将帥とする四万に届く者が同じ光景を見ている。


 呆然と眺める。まさにその言葉を、クローゼの顔は表していた。その表情を隣に立つ男に見せる様に、彼は顔を向ける。


「これは無理でしょう……流石に。いや、お嬢さんにはやられましたよ」


 クローゼのその言葉に困惑を見せるその男は、ヘルベルト・ヴェッツェルだった。勿論、武装は解除されていたが、それ以外に彼を束縛するものはなかった。


「貴方に無理な事があるとは思えませんが、この数では些か難しいでしょう」


「私は閣下に、何度も確認致しました。ですが『間に合うなら、それはそれだ』と。それに、テレーゼ殿を警戒した上で、『やられましたよ』はないと思われますが」


 ユーリの言葉に、クローゼは『おう』という顔を見せる。――そのまま、撤退させれば何かしらする。その認識で拘束したにもかかわらず、ライムントの眼前に迫った場面で、クローゼは彼女に全てを持って行かれていた。


 それを見て「クスクス」と笑うセレスタ。そんな彼女の様子は、前方の城壁とは対称的に見える。だだ、それは彼女が不謹慎であると言う訳ではなかった。

 ――戦局自体は『やられた』の流れで王国軍の物になった。幾ばくかの時間と流れる血があったのは事実であるが、結果はそれに至る。その上で、クローゼの現状を知るからだった。


 また、ライムントの眼前に至る直前。その場面で、対峙した牙を見て『もう、殺すな』と、クローゼの両翼に立つ、王国最強の剣と剱に告げていた。

そして、レイナードの剣勢にギュンターの蒼白な顔とカレンの剣擊と剣圧で、ヘルミーネが恐怖を帯びた涙目を振り払うがあり。それらもまとめて、テレーゼによって取り逃がした状況があった。


 それを含めて『やられましたよ』になる。


 その話の流れで、クローゼは若干開き直りを見せる。僅かに、子供じみた顔が覗いていた。


「もう、終わった事だろ。殿下は『大丈夫だ』と言ってくれたし。……陛下にも話はついてる。まあ、実際そうだから、ユーリは正しい。そうだけどさ……あっ」


 言葉の途中で、背中に優しい手のひらを感じて、クローゼは言葉止める。拗ねた感じになるのを見たセレスタがそうしていた。

 ……暖かさは、黒の六楯(クロージュ)のそれを通るのかは分からないが、彼女の気持ちはクローゼに伝わる。


「言を(たが)えましたね。先ほど御話した通り、乗り越えるつもりで、皆を連れて来たわけではないのです。この件は、皇帝陛下に御会いしたら了承願う……つもりです。では、ヴェッツェル伯。御手数ですがお願いします」


 クローゼは、ヴァンダリアの本軍の参戦で決着をみた、この戦いの幕ひきをアーヴェントに願いでていた。

 取り逃がしたライムントの件も含めて、ダドリーが持って来た魔量充填(チャージ)を使いロンドベルグを何度か訪れて、アーヴェントとの時間を持っていたのだった。


 勇者カイムの一件から、ゴルダルードの侵攻の流れで、客観的にクローゼ程の功績を出した者はいない。本人の自覚とは別にである。


 当然、勝敗を決した判断力でゴルダルード軍を打ち破ったオーウェン。その状況を作り出した、フィリップも功労者であるのは言うまでも無い。しかし、戦場を司るヴァンダリアの将。そして、クローゼ・ベルグの『個人』としての実績は、結果的に群を抜いていた。


 勇者カイムを倒し、カーイムナスを退けた。その一連の後に続く道。――この戦においては、北側の第三軍団長ギードを天極に送りその軍を退ける。サーカムでは、牙二人を瞬殺して見せて、究極の牙(エントリヒ・ファング)を追い詰めた。武功だけでいっても、王国最強の二人にひけを取らない。


 無論、彼の名の元にその覚悟を示したヴァンダリアの功績も、言うなれば彼の者になる。


 そして『個』としては、最も多くの帝国兵を天極の地に(いざな)ったのは、間違いなくクローゼ・ベルグ・ヴァンダリアであった。


 その彼が、自身の王アーヴェントにこの戦いの決着の具申した。その答えを持ってクローゼは、ヨルグの地を越えて来ていた……。



「なるほど、クローゼらしい。私が断るとは思っていないだろう。面白い男だ。お前に任せる、好きにするがいい。こうして、二人だけだとあの時を思い出す。驚きが先でなかなか理解しきれぬが、そうしたいとは思うぞ」


 期待に違わぬ彼の答えに、我が王アーヴェントを選んだ目だけは確かだったと、クローゼは自身を誉めていた様であった。その上で、ライムントの話をアーヴェントに向けた時に、彼の嫉妬を誘っていたのは彼ら二人だけの話になる。



 そのアーヴェントが嫉妬を向けた相手。……逆説的には、優越感を持ったその相手。――ゴルダルード帝国皇帝ライムント・ファングは、ヘルベルトから、眼前に剣を向けた男を使者として紹介されていた。

 決して、ヨルグガルデの城壁に寄って、この場にいた訳ではないが、彼はクローゼをこの場に招き入れていた。――敵陣のただ中に単身で赴いて来た、クローゼ・ベルグをである。


 恭しく跪き、明確に顎を引いた黒装の男。クローゼに横からの声がかかり、彼は凛とした姿勢でライムントを見つめる。そのまま、恭しく一礼を挟んでライムントの促しを待っていた。


 ――二度目の対面は、この様相か……あの時の覇気は何処にある。そんな感じなのだなこの男は……


「余が、ライムント・ファングである」


「皇帝陛下。謹んで、謁見の義賜り感謝致します。ヴァンダリア竜男爵(フライヘルヴルム)クローゼ・ベルグに御座います」


「であるか。……では、赴き件をのべよ。許す」

 

 どちらが主導しているのか。ライムントの覇道か、クローゼの気質なのか分からないが、剣を向けた者と向けられた者の感じではなかった。


 居並ぶ者も、その男が魔王の如くを見せた雰囲気と、究極の牙(エントリヒ・ファング)と渡り合い、その他の牙をも砕いた者の覇気ではないのを感じていた。


「感謝致します。では、我が王よりの言。御伝え致します。『和睦の道。対座にて言を交わすを望む』……委細については――」


「――何を申す。貴国は戦勝中。前面の兵と卿の力量なら。ヨルグガルデを陥落させるのも可能であろう。その為の進軍ではないのか?」


 クローゼは、ライムントに言葉を遮られ『あっ』とした顔になる。そして、ライムント向き直り……その瞳に自身のそれを併せる。


「皇帝陛下。……その件については……えっと。申し訳ありませんが、公用語での……あっ」


「許す。……好きにせよ」


 ライムントは一瞬、クローゼを侮蔑する様な目をした。彼自身が、この覇気の無い男に眼前に迫られたのを甘受出来なかった様に見えた。それを感じたのか、クローゼは戦時の表情をして見せる。


 それを見て取った。ライムントの表情が動くのに併せてクローゼも表情を声にする。


「王国軍を伴ったのは、和議が我が王の意であると御理解頂く為……それと私の我が儘を許して下さった。我が王の意」


 クローゼはそこまで言って、ライムントの目を改めて見つめる様に確かめて、彼の欲している物を言葉にのせた。


「また、我が軍をヨルグガルデに向けたのは、皇帝陛下の剣を除く為です。簡単にこの地に来た訳ではありません。大小に依らず、意識ある剣を持つ者を少なからず排除致しました。無論、皇帝陛下への忠節とは別に、意識なきを甘受せざる得なかった者は、その様に致しております。その様な無理を押してこの地に私が軍を進めた本流は、ヨルグの地に散ったヴァンダリアの同胞の為にです。その裁可を皇帝陛下に頂きたく参りました」


 続けられるクローゼの言葉に、ライムントは眉をひそめてそれを受けていた。また、クローゼの視線がヘルベルトに僅かに動くのを見て取った。それでヘルベルトが同意の仕草をするのに……微かに厳しい表情を見せていく。


「ヨルグを制すれば、余の裁可など要らぬだろう。その意識有らば、余ごと排除すれば良い。卿の力量ならこの場で、余を害するのも容易かろう――」


「――無理にでも……恐らくは可能だと……」


 促され――遮る。そのクローゼの言葉に場が殺気立ち、クローゼも間を置く様に沈黙を挟んだ。そこに、ライムントの片手が入る。それ――ライムントの覇気――が牙を含む彼らを沈黙に向けさせて、クローゼの言葉が表れる。


「……ですが、私には皇帝陛下は害せません」


「何故だ?」


 怪訝な顔のライムントに、クローゼは真っ直ぐそのままの言葉を出した。それは、いくつもの思いのままであった。


「私は、人を見る目がありません。陛下が向けられた間者を丸々信じておりました。ですが、我が王を見て、王道を辿る覇者の見る目は確かだと自覚しました。その上で、ライムント・ファング。――ゴルダルード帝国皇帝。それと戦場で対峙した時に、我が王のそれと同じ物を感じました。それ故です」


 媚びる……聞えの良い言葉とその逆説。その言を聞いてライムントは、益々怪訝な……いや、不快な顔をする。


「そのような、戯れ言――」


「――皇帝陛下……いえ、我が皇帝(マインカイザー)竜男爵(フライヘルヴルム)の言に嘘偽りはありません。思いままの言と思います。ただ、言い違いがあります。王国の王が我が皇帝(マインカイザー)の覇道を辿る覇者のそれに類似している。その点だけは、竜男爵(フライヘルヴルム)の言の間違いです」


 唐突な声の主は、テレーゼ・ファング。彼女は、父親ヘルベルトの驚愕の表情は見えていない。彼女の瞳は真っ直ぐに、ライムントに向けられていた。


 受けた視線に、ライムントは僅かに表情の動きが見えた。青くなるヘルベルトにライムントは軽く手を向けた。

 そして、その状況に呆然の雰囲気をだし始めたクローゼには、テレーゼの得意気な顔が向けられていた。――その二人をライムントは瞳を動かして交互に見ている。


「テレーゼ・ファング。何故そう思う」


「彼の想い人の言により。また、自らの身をもって……それをファングの名と我が皇帝(マインカイザー)に捧げる忠誠心にかけて」


 ライムントの問いに、テレーゼは美しい透き通る声で答える。そのまま「皇帝陛下より覇者たるはいません。絶対に……」な呟きを入れていた。それに、ラファエルが同調する。


「我が皇帝(カイザー)ライムント・ファング陛下。私も。テレーゼ・ファングの言に同等のそれを。その男は、些か……ではありますが、表裏はないかと。戦の最中に陛下に会おうした程の……ですが、その時の様子から――」


「――ラファエル。はっきり言えよ。馬鹿だと思ってるんだろ」


「ああ、そうだ。……皇帝陛下、奴は馬鹿ですが、嘘はつかないかと」


 ラファエルの言動に、クローゼが乗り掛かる。それを投げ捨てる様にラファエルも切り返した。見合わせる二人に、テレーゼが更に被さる。


「少し変わっていますが、私は部下を救われました。獄属の様だけど、嘘付きではないと思います」


「獄属って。言い方が酷いよ、テレーゼ。それに助けた君に『してやられたました』と言ったら、陛下に笑われたんだぞ。……それも思い切り」


「卿らは、まとめて馬鹿なのか。いや、馬鹿だ」


 その会話に、ヘルミーネがその全員を自身の言葉で認定して行く。それに、三人が『はぁ』の表情を三様に見せていた。


 既に、ここがどこであるか、彼らの会話からは分からない。恐らくは、要塞都市ヨルグガルデの中、その広間の(いず)れかであると思われる。その帝国らしい様式の厳格さとは似つかわしくない、会話が流れていた。


 その場景は、ライムントさえをも困惑に誘っている様に見て取れた。その流れをマインラート・ヴェッツェル・ブリューム方伯が絶ち切る様に声を発し、彼の言葉が響いた。


「皇帝陛下の御前である――控えよ」


 その場の様式に(たが)わぬ彼の声に、三人は勿論、クローゼも反省の色を出していた。その場景で、クローゼがこの場にいる本来の目的からずれているのが分かる。しかし、その感じが、クローゼの特異なる者たる流れだったかもしれない。


竜男爵(フライヘルヴルム)クローゼ・ベルグ・ヴァンダリア。お前に問う」


 獅子の様で虎の如き様相――覇王にして孤高――な皇帝(カイザー)ライムント・ファング・ゴルダルードの覇気を纏う言葉が、クローゼに見せられた。

 その彼の声は方伯のそれとは違い、出した言葉だけで場を把握していた。


 お約束の展開――全力片膝、跪き――クローゼは床に引かれた皇帝に続く朱色の道を視界におさめて、意思を込め短く『は』の音を出していた。


「我が牙となれ」


「天極を跨いだその時は」


 短い言葉に――即答。クローゼは『生まれ代わったらその時は』と微塵の躊躇もなく言って見せた。


 ――二度目か。あの男は、その後に縁がついていたが……


「皇帝陛下。畏れながら……この場だけても、これ程の忠誠の眼差し。その上でとなれは、些か我が儘かと。何れも『道』を惹く方は、そうではありますが……」


 クローゼの続いた言葉。無礼とも取れるそれに、テレーゼが僅かに動いたのをライムントは視線で制した。両脇の列の最上位の場所。向かいには、彼女の叔父と父があった。


 ライムントは、彼女の隣あるラファエルの顔に納得の顔を見せる。そして、自身の両隣の牙に意識を向けていく。そのまま、全体をその覇気で包む様にそれを感じていた。


「良かろう。お前の王に会おう。委細は任せる」


 ――剣か手か……出すのは何れか。だが、それほどであったかあの男は……。


 ライムントの言葉の後に、クローゼの恭しい「承りました」の声が、ヨルグガルデの広間にはっきりと通り抜けていた。



 結果的に、アーヴェントとライムントは約束の戦場で会談する。無論、王と皇帝が会う感じではなかった。――対面による立ち話である。


 クローゼが連れたライムントの護衛に、テレーゼとヘルミーネが付き従い。アーヴェントは、カレンと共にローランドを伴って来ていた。その彼らが見守る中、暫く王者と覇者はその空間を彼らだけで作っていた。


 そして、それなりの時間と空気が流れて、クローゼはその二人に呼ばれる事になる。見たままのアーヴェントの手招きで、彼はその場に背中晒してその空間に溶け込んでいった。


 クローゼが繋いでいた側の場所では、少なからず緊張が流れて、ヘルミーネがそれに耐えかねた様に声を出す。


「もし、この場で皇帝陛下に何か有れば、命に変えても――」


「――何も起こらない。仮に……有り得ぬ事だが、私がその気でも、彼の庇護下の御二方には何も出来ない。気にするなら、魔王が来た時位では」


 ヘルミーネの必死の顔を、カレンが遮る様に柔らかな顔を見せる。

 あの流れのカレンが、真紅の黒の六楯(クロージュ)により彼女に刻んだ赤い戦慄。その兜の中身が『美しい』女性だったのは、この場に来たヘルミーネの驚きだった。


 些かなヘルミーネの瞳に映るカレンは、言葉の後に小さな声で「例え、魔王が来てもそんな事にはならないのでは」とその場の三人を見て続けていた。


 ヘルミーネにすれば、クローゼよりも真紅乃剱(グリムゾンソード)の方が現実であった。――王国最強の騎士であるカレンは、帝国の第三の牙(ドリット・ファング)を倒して、第一の牙(エーアスト・ファング)を恐らく、再起不能にしていた。

言ってしまえば、帝国最高峰の騎士を圧倒していた場面をヘルミーネは見ている。それに続く、フリートヘルムをあからさまに斬った……その一連もである。


 そして、彼女自身が対峙して、赤い仮面の様相から出た剣擊と剣圧の狭間の優しい剣筋。それに、もたらされた屈辱と絶望と恐怖。――その彼女が、クローゼの壁を超えられないと言っているのが、ヘルミーネには信じられない所であった。


「ヴァンダリアの魔術師。それほどですか」


黒の六楯(クロージュ)殿は、『魔術師』と言うと否定なさるがな」


 ヘルミーネが魔術師と呼んだ。その場で背中を向けているクローゼについて、ローランドが本人の代わりにそれの見解を言っていた。


「クロージュ()殿? クロー()殿ではないのか? ……貴殿の言。人智の言調(アクセント)と違う感じだけど」


「これの事だ。この装備を黒の六楯(クロージュ)と。クローゼが彼に初めにその名を乗ったのが、そのまま、彼の認識になっているのでは」


 テレーゼがローランドの言葉の反応して、そう言ったのに、カレンがそう答えた。三人に若干のずれを強引にカレンがまとめた感じに見える。

 単純にそのカレン言葉で、二人は認識を合わせる会話を入れていた。――他意はないが……の感じにはなる。


 因みに、ローランドはまだ、カレンを『ジャンヌ=シャレ』とは呼ばない。勿論、彼女がモンテーニュ公爵令嬢ジャンヌ=シャレらしい。その記憶がカレンにあるというのは、ローランドも知っている。


「それでは、魔術師でなければなんですか?」


 ヘルミーネ自身の言葉と認識――クローゼの見方を違うと言われた――から見たあの時のそれは、魔術師だった。情報からもそうなるのだが、本人は違うと言っているとの横槍であった。


 その代弁者は、テレーゼと何やら会話している。それを見るヘルミーネの感じが、あの時の感じに変わっていった。――ラファエルの印象のそれに……。


 ――お前はいつも、皆に好かれる。私と差して変わらないのに。……生まれが違うからか。初めからなど卑怯ではないか。


「ヘルミーネ・ファング。質問に答えても」


 カレンは彼女を呼んだ。出した言葉と意識が別の所に向いていた彼女をカレンの言葉が併せていく。

 視線と頷きをヘルミーネは見せて、彼女はカレンの声をきいた。


「『クローゼ』そう呼んでほしいと言われている。だから、ヘルミーネの問の答えはそうなるのでは」


「それは彼が誰かであって。何か? の……」


 その言葉の途中で、カレンの視線がクローゼの背中の向こうにあるのに気がついた。勿論、彼女の『王』アーヴェントに向けられていた。

 その視線をヘルミーネも辿って自身の皇帝を見る。そして、唐突に真紅乃剱(グリムゾンソード)に『ヘルミーネ』と呼ばれたのに気が付いた。


 その瞬間だった。クローゼがその視線の先の二人に、一礼をして振り返りこちらに歩き出して来た。それが彼女の瞳に映る。


――覇者と王者を従えるかの如くな英傑な(さま)――


「力だけではない……」とヘルミーネの印象にカレンの言葉が、それを確定するかのように入ってくる。

 そう彼女達に映るのは、クローゼ・ベルグ・ヴァンダリアであった。


「カレン。どうしたら良い?」


「急に、どうしたのだ」


「陛下が……いや、こんなの考えるのは、子爵しかいない。カレンどうしょう。こまったよ」


 思いもしない事を聞いて、要領得ないクローゼのその様子に、カレンは笑顔を見せる。勿論、その話では何かは分からない。

 しかし、その向こう側のアーヴェントも笑顔を見せていた。それで、カレンクローゼに声を出す。


「クローゼ。それでは答えようがないのでは」


「おう」と言って、子供の様な顔を見せていた。そう、彼は何者でもないだだのクローゼであった。


 少しだけ、クロセ タケルが根本にあったりするが……である。





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