表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
序章 王国の盾と記憶の点
10/204

九~好奇心と点~

 ・から見るこの世界は、魔力で満たされている。クローゼである彼が驚きをあげた現象は、魔術であった。所謂(いわゆる)魔法になる。


 それは、人が()(さとり)、地に成した人智の理と言う事である。『魔力』それは、様々な事象を起こす、この世界の根幹を為すものと言えた。





 響き渡る音が、工房内の壁に当たり反響する中、俺は驚きで、「うふぉっ」思わず変な声が出てしまう。

 きっと、驚きの表情は隠せていないと思う。


 ――目の前で見せられると流石に凄いな……魔法。


「出来ない事はない」


 俺の表情に、少なくない間をおいて導師はそんな風を向けてきた。声をたどり見た先にあるのは、気難しいあの人の顔ではなかった。


 ――「出来ない事もあるんですね」と。初めて煽ったのは、数ヶ月も前になる。明らかに、その為だけにこれをやったのだろう。


 驚きを隠せない俺を、初めて見る様な笑顔で導師は満足そうに見ていた。――半ば「どや顔」だった。


「流石に、あれをあのままは無理だったがな」

「凄いです……」


 導師の『そうだろ』とも言いたげな態度も、俺の『凄いです』の次に繋げた言葉で、裏返っていた。


「……その魔法」

「はぁ?」

「ですからその魔法」

「違うだろう」

「えっ? 」


 若干噛み合わない会話から、何かかおかしい事に自分でも気が付いた。

 確かに、彼はあり得ない物を再現した事を『凄い』と言っている。ただ、こちらの返答が違うと言う事らしい。――たぶん。


 一応に考えて「確かに」と呟いて、自分の間違いに納得しておいた。それで、俺に言わせるなと言いたげな導師の表情を見る。


「申し訳ありません。確かに、これが凄い事は間違いありません。どうやって作られたのか、想像すら出来ないです」


 一度肯定を向けてから、袋を指して見せた。そして、何と無くの頷きが出たと思い、続けて言葉を出していく。


「只、こんなに小さなもので、導師の鎧に穴を開ける程の威力を出す、その魔法の方が私としては凄いと感じました」


 率直な感想だった。目に見えた『威力』で、導師の魔力の強さに正直な所、驚いた。まあ、職人でなく、魔導師だから当たり前のなのかもしれない。


 大体『魔術』と言われてしまえば、細かい記憶がないので『そうか』としか思わない。回りにはそれで動くものも多いし、当たり前にある。


 一応、若干の反省を出した感じに、しているつもりだ。 『確かに間違えました』を表したと思う。


 しかし、彼の反応は少し違った物だった。


「確かに変人だな」そう言って肩を軽くゆらして「君らしい。実に面白い」と続けてくる。


 言葉の後に、何とも言えない表情――不快ではない感じ――で、俺の顔を導師は見ている。その目は、何処と無く優しく感じるのだった。

 その感じと、彼の向こう側に見える、工具と呼ばれる物。それと、彼の格好がハマりすぎていて、思わず声をだしていた。


「何か、おかしな事をいいましたか?」

 

「いやそんな事ない。とりあえず、それに指向性を持たせてある程度の速度で打ち出すのに、いくつかの術式を組み合わせて呪文を唱えた。ああ、起動呪文は……と言うほどでもないな」


 こちらの突発的な言葉を軽く否定しながら、導師はそう答えてくれる。彼は、顎に手をやりながら、少し考えて何やら思い付いた様な顔をしていた。


「確かに、先程のは魔動術式が複雑になるから、ある程度の者にしか出来ないかもしれないが、威力をというのなら、君にでも出来る」


 導師はそう言うと、俺の目の前で、中空に小さな魔方陣を展開した。

 それは、魔術を学ぶときによく見る方陣の中に「魔動術式」の模様の様な形が浮かび上がる、魔方陣だった。


 確かにそれは複雑ではなく、寧ろ初歩的に見える。普段、皆が赤の竜結晶を摘まんで火をつける時に使う、誰でも「合わせれる」様な、呟きに似た術式だった。


「此ならとりあえず出来るだろ」


 そう言って導師は、袋から黒いそれを机の上に置いて、その前に俺を立たせるように、促しの動きをしていた。


「向きはこんなにものか?」と続けざまに、俺の両肩を手をかけて、鎧の方向に体を向けさせられる。


「呪文は?」

「起動か解放。言葉に出すほどでもない。火を起こすのと同じだ」


 合わせた流動を放つきっかけの言葉。『起動の呪文は何か?』 と問いかけて彼にそう言われた。


 それで、魔装具――魔力と魔量の調整用――を着けた右手をそれにかざし、流動を嵌め込まれた竜水晶に合わせる。

 そのまま、導師の頷きを確認して「起動」と声にならない呟きを出した。


 それと同時に、その黒い球体は勢いよく滑りだし、僅かに()れながら、鎧の肩口に激しい金属音と共に突き刺さった。


 先程とは違い、中で弾け回る感じではないが、確かにそれを貫いた。机の上の転がっただろう場所が、黒く焦げて木の焼ける匂いがした。


 呆然とする俺の肩を叩く手に、振り返る。


「アレックスが言っていたが、君は流動が特殊だ。だが、魔力も魔量も充分だ。その君なら威力はこんなものだ」


 導師に言われ、好奇心で顔が揺るんていたと思う。俺の様子を見て、何か思ったのだろう。


「術式は簡単に見えるが、本来はそれを破壊するつもりで組んだもの。それ以外には意味がないものだ。それに、今の現象はあくまでも副産物」


 何か見透かされているのか? まだ何も考えているつもりはないけれど。でも、何か良からぬ事を考えている顔でも、しているのだろう。


「念の為に言っておくが、初めのやつは残念だが君には無理だ。今のも、大道芸のつもりでやるなら止めはせんが、まともに飛ぶと思うな。手に持ってやるなど論外だぞ」


 導師の言葉と顔が、遠くになる気がする。多分、俺の顔は凄い事になっていると思う。 何か思い付いた気もする。いや、思い出したのかも知れない。よく分からない、明確な何かを……。



 クローゼ・ベルク・ヴァンダリア男爵を、一生懸命演じている自覚がある自分は、自分と言う者が何か分からないことが多い。

 だけど、この溢れる好奇心を抑えきれない自分は、数少ない本当の自分ではないかと、思ったりする。


「聞いているのか?」


 内向きを、語尾が若干荒く聞こえる声に、自分を取り戻していた。

 それで、体ごと導師の正面に立ち、姿勢を正していく。


「ジャン=コラードウェルズ・グラン魔導技師」

「やらん」


 ――即答ですか、まだ何も言ってませんが?


 そう思って、『知らん』の感じでいきなり振り返る、導師の後ろ姿を目で追う。歩きだした彼は、此方を見もしないで言った。


「君がそう私を呼ぶときは、この短い付き合いでも、特にろくな話にならない」

「まだ何も言ってません」

「やらんと言ったらやらん」


 導師のあとを追い縋りながら、話しかけるのを止めない。そう、導師が諦めて足を止めるまで。

 このまま外まで行きそうだが、案外嫌でもない気がする。俺も彼も多分きっと……。



 そのまま、導師との話で、楽しい時間を過ごしたと思う、俺は。

 ただ、導師も満更でも無さそうだった。工具や動機と教えられた物が多数並ぶこの場所は、嫌いではない。むしろ、見知った気もする。


 ――まあ、良いけど。


 思いの外長くなったので、フローラとの何時もの時間に遅れそうだ。――間に合うかな……。


 と、屋敷に向かう道を、来たときは違う二人連れて急ぎ足で歩く。面白いほど無表情な、彼ら? の一人は、竜結晶が詰められた瓶が無数に並べられた箱を持ち、もう一人は帯剣した、衛兵の装束をしていた。


 どうしてこうなったかと言うと、帰り際にその箱を導師から託され、アリッサとアレックスのいる部屋の窓から、二人に先に帰ると告げた。


 当然、アリッサは帰り仕度を始めた。でも、アレックスの名残惜しそうな顔を見て、アリッサにこう言った。


「アリッサ。此の調整をしてくれたアレックスに礼がしたい。悪いが、もう少し相手をしてやってくれ。屋敷には、夕方までに来てくれればいい」

 

 当たり前に、護衛やら従者ので、なんやかんやの展開を「命令だ……」の一言で、有無を云わさず。無言で唇を噛むアリッサを見て、妙な高揚感のままの自分に気が付く。


 ――アリッサ、そんな悲しい顔するな。アレックスに会うのを楽しみにしているのは知ってる。窓からこっそり覗いたら、なかなか見れない楽しそうな顔をしていたじゃないか。一応、女同士? というのなら全然大丈夫だ……気にするな。


 と、若干の思考にのる「はい、分かりました」と、赤面するアリッサの声に、「えっ、何処から漏れてた?」と自分に問う感じに声が出る。それで、若干雰囲気が可笑しいに気付いた、と。


 ――アレックスその顔はやめろ。可愛らしくニコニコしているそれが怖い。


「アリッサは女性として充分魅力的だよ。でも可愛い妹みたいなものだから大丈夫。勿論、僕は男だけどね」


 結局、全部駄々漏れだったようだ。ばつの悪くなった俺を、クスクス笑いながら、アレックスが外で作業していた働魔(ドーマ)を二体呼び寄せていた。


 見た目の問題で言えば、各部位が球体で出来た八頭身の人形のようなそれに、彼は命令する様に、呪文を唱えていく。

 でも、一連の動作で、魔法を使っている様には見えない。


 ――たぶん、複雑だろ。よく軽く合わせるな。


「従者と荷物持ちの出来あがり」


 僅かに内向きな思考をした後、アレックスの言葉通りにドーマは、二人の無表情な人になっていた訳だ……それが、ちょっと前の話になる。


 ――まあ、良いけど。


 と、屋敷の門が見えてきたので、改めて無表情な彼らを見て、気持ちを落ち着けるつもりで呟く。


「落ち着け。確かにあれだけど、少し落ち着こう」


 一呼吸の後。当たり前の顔で、屋敷の者にいつものそれだと荷物を任せて、同行者を見送る。


 ――というか、あの表情、わざとだろうな、きっと。


 そう、二人? の後ろ姿を置き去りに、屋敷の中に入った。勿論、警備の者もいるけれど、大概の所は無造作に出入り出来る。


 ――ただ、素通りでは無いらしい。謎だ。


 まあ、それはそれで。あと、あの二人も気にはなるけど、兎に角、フローラに会いに行くとするか。

――という感じだな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ