六話…side勇者
サブタイトルはside勇者と書いていますが、途中からモモの視点に変わります。
さて、朝食後すぐに東棟と呼ばれている建物を出たはいいけど……。
……魔王、何処にいるんだろう。
「モモ、魔王が普段何処にいるか分かる? 」
自称案内役のモモに聞いてみる。けれど、彼女は少し困ったような顔をした。
「その、いつもならこの時間は執務室にいらっしゃることが多いのですが、しばしば外へお出かけされることも多く、正確な場所は……。今日は外出していることは無いと思いますが」
ふーん、なるほど。それならまず、
「まずその執務室からね。すぐに案内して! 」
「レ、レナさん!?って、ちょっと待ってください!そっちは違います!」
正確な場所は分からない。なら可能性の高いところからしらみ潰しに調べていけばいい。
ちなみにモモの様付けが無くなっているのは、私がちょっとお願いしたから。あーゆーのはなれないからね……。
うん、すぐに探し出せると思ってたこの時の私をぶん殴りたい。
まずは執務室へ行ってみた。ドアを指の太さくらいだけ開けてそっと中を覗いてみる。
そしてまあ、期待はしてなかったけど。
「居ないわね」
「居ませんね」
ドアを閉めながらはぁ、と溜め息をつく。やっぱりそう簡単にはいかないか。というかあの時すぐにあとを追いかけていれば良かったと今更に後悔してしまう。後の祭りだけど。
それじゃあ、次に高い可能性は……。
「あ、外に出るのはダメですよ。今日ばかりはどんな事があってもダメです」
「まだなにも言ってないんだけど」
「さっき可能性の中で思わず口にしてしまいましたから、レナさんなら言い出しかねないと思い……ってなんで窓に足をかけてるんですか!? 」
「え、そりゃあ外に出るには1番近道で手っ取り早い方法だから」
「え、ちょ、ちょっと待っ」
私は背後で慌てるモモの声を聞きながら、そこから外に飛び出した。
いや、飛び出したはずだった。
「痛っ…………え? 」
その窓の位置は、上った階段の回数からすれば地上5階以上はあるはずの場所だった。
けれど、私は窓から飛び出してすぐ、多少の落下から一秒も経たないうちに何処かの面に衝突した。
これは……石畳?でも何でこんな早く地面が……っ!
そう思いながら上を見上げれば、そこには空がなかった。
いや、正確に言えば、地面と同じ素材の空……つまり天井があった。
さっきは確かに窓から外が見えていたのに……。そして、ついでにさっき飛び出した窓も見当たらない。
そこまで確認して、思い出したのは昨日、イクという小さな魔族が言っていたこと。
ここは迷宮顔負けの罠だらけ脇道だらけの異空間だということだった。
……つまり……思いっきり迷ったということ。
無策で窓から飛び出したのはマズかったと内心頭を抱えたくなる。というか抱えてる。何だか最近、考えるより体が動くほうが早くなることが多くなってきてるような気がする……。
……取り敢えず起きてしまったことを後悔しても仕方がないし、適当に歩いてみよう。ここは見た感じ何処かの通路のようだから、歩いていけば何処かにつくはず。うん、流石にこの通路が永遠に続いている、なんていうことは無いよね。無いと信じたい。
side……モモ
うわぁ―――――――――――――――どうしましょう……。
私は廊下の窓枠にもたれかかり、思わず頭を抱えてしまいました。
何に対してか。レナさんが窓から飛び出したと思ったら、どこか違う場所につながる切れ目の向こうに行ってしまったことにですよ。
しかも追いかけようとしたら、その切れ目は一瞬で閉じてしまいますし。試しに同じところに向かって跳んでみても、さっきの切れ目は現れません。
はぁ。誠に遺憾ですが、このお城で長い年月働いている私でも、残念ながらお城の全てを把握しているわけではありません。
ただ、いつも使う道だけは自分で目印をつけているのでわかります。
しかし、そこから逸れてしまうと私でもどこに繋がっているのかわかりません。毎日のように道は変わっていますし、あの悪戯好きの方々が大量の罠を仕掛けてたりしますから。
「あっははははは! 早速逸れちゃったみたいだねぇ! 」
そんなとても楽しそうに爆笑している声が、私のすぐ背後から聞こえてきました。ああ、この声は……
振り返ってみれば、案の定小さなサキュバスが目に涙を溜め、お腹を抱えながら笑っていました。
「これはあなたの仕業ですか? イクさん」
私がジト目で問いかけると、イクさんは心外だというような表情で手をパタパタと振りました。
「まっさかー! 私なんかがこんな高度な落とし穴作れるはずないじゃん。それは罠じゃなくてその辺にもある脇道の一つだよー。それも移動型のね」
移動型とは、その脇道への入り口があっちこっちに移動しているという物です。よりにもよってそんな厄介な所に……。
「そうですか。ならどこに繋がってるのかわかりませんか? 」
ああ、いつもの質の悪い罠じゃなかったのかとも思いながら問いかけますが、首を横に振られます。
「そりゃわかんないよ。いくら私でもこの城の道全部把握できるわけないじゃん」
「まあ、そうですよね。いくらこの城を好き勝手遊弄ってるイクさんでもそれは無理ですよねー」
こんなちっちゃな体しているくせに、このお城に仕掛けられている罠のほとんどがイクさん作なんですよね。それならと思ったんですけど、やっぱり駄目でしたか。この役立たず。
「あ、なんか馬鹿にされたような気がする」
「気のせいです」
はぁ、結局振出しに戻りましたか。本当にどうしましょう。どうにかして早く合流しないと、もしレナさんの身に何かあったら……。
「……おーい大丈夫? 顔真っ青だよー? 」
「いえ、ちょっと地獄に行く未来が見えただけです」
「……モモが言うとシャレになんないなー。でも大丈夫だと思うよ? 」
「な、何を根拠にそんな楽観的な事を」
「いざって時は陛下が何とかしてくれるよ。陛下ならここの構造全部把握できてるもん」
「それは……」
確かに陛下ならすぐにレナさんの居場所を探し出すことができるでしょう。ですが、陛下からレナさんの事を任された身です。お手を煩わせるわけには……。
「ま、そんな所でうじうじ悩んでいても仕方ないし、テキトーに探してみようよ! ひょっとしたらすぐに見つかるかもしれないよ! 」
「本当にイクさんは……事態を楽観視しすぎです」
……ですが、確かにこんなところで悩んでいても何も解決しませんね。それはイクさんの言う通りです。
「よし! それではこの階から探してみますか! ………ってうわぁっ! 」
そうして気合を入れて探しに行こうと走り出しました。が、いきなり足元から床が消え、一メートルほど体が床より下に落下し、尻餅をつきました。
こ、これはどう見ても落とし穴……。
後ろを見れば案の定、先ほどのように大爆笑しているイクさんの姿。
………………。
「こんっの、傍迷惑魔族はっ!!! 」
叫びながらぶん投げた渾身の魔力弾はイクさんに綺麗に直撃しました。ピクピクと痙攣しながら嬉しそうに悶えているのが見えましたが、全力で無視しました。
sideout