四話…side勇者
今話もレナsideです。
「……そこで何をぼさっと突っ立っている。入るなら入れ」
そんな、ため息混じりの声に、ようやく私とバルカはフリーズ状態から戻れた。逆に今気付いたらしいティートとシェルナはフリーズしたけれど。
目の前では魔王が、食堂の扉を開けてこちらを見ていた。エプロンをつけ、三角巾を巻いたその姿は何というか、魔王としては実にシュールで、でもどこか似合っている様な気がした。
というか魔王って、こう改めて見ると綺麗な顔してるんだね……。イケメンというよりかどちらかというと女顔だけれど、って何を考えてるんだろ私。
それよりも、
「いや、何してんの魔王?」
さっきから疑問に思ってることを率直に聞く。いやほんっと、訳が分からないから。
「朝食の準備を手伝っているだけだが」
さらりとそう言ってのける魔王。いや、そう当然とばかりに言われても。
「……おい、あんた。魔王だよな?」
バルカが思わずといった様にそう聞き返した。バルカが聞かなければ私が聞いてただろうけれど。
「そうだが……まあ、言いたいことは分かる。ただこの時間帯、人間が食べられる食事が作れるのは俺と料理長しかいないだけだ」
「というか何でお前が作れんだよ」
「息抜きによくやっているが。何か問題が?」
「魔王としては問題有りでしょうに……(主に威厳の問題で)」
そんな問答をしていると、ようやくティートやシェルナ、あとウィリスが復帰した。
「え、ええ?あれ?」
「あわわわっ」
「あははは……どういうことです?」
分かりやすく狼狽えたり混乱している様子の二人と一匹。うん、分かるよその気持ち。
その様子を見てはぁ、とまた溜息を吐く魔王。
何ていうか……けっこー人間っぽい所のある魔王だなと思った。ただ、ここまでずっと無表情だけど。何を考えているのかイマイチ分からない。
因みに用意されていた朝食は、トーストにスクランブルエッグ、焼いた燻製肉に玉ねぎスープで、けっこー美味しかった。
「取り敢えず一度、状況を整理しよっか」
用意されていた朝食を食べ終わり、私は同じく食べ終わっていた仲間達にそう切り出した。
因みに魔王は少し離れた席で私たちと同じ料理を食べ、完食するとすぐに何処かへ行ってしまった。やっぱり魔族の王様となると色々忙しいのだろう。
モモやみんなについていた魔族達は少し離れた席で談話していた。モモ曰く、
「内緒話を盗み聞きする趣味はありませんので、ご安心を♪」
との事だった。基本的にこちらに探りを入れるつもりはないという事で良いのかどうか。
ま、それはともかく。
「まず最初に、昨日……昨日?まあ、私達は魔王と戦った。けど私、どうも最後の方の記憶が曖昧なの。どういう風に気絶したかも分からないし……誰か覚えてない?」
私がそう言ってメンバーをぐるりと見回すと、みんな少し気不味そうに目を逸らしていた。あーこれは期待できそうにないなぁ。
「僕はどうやらこの中で一番最初に魔力枯渇起こして気絶したみたいだ。その辺ほとんど覚えてない」
というのはティート。まぁ、それは……
「あんなに最上位魔法連発してたらそうなるよ」
「むしろよくあれだけの時間保ったな」
流星はティートの持つ魔法の中じゃあ一番威力の有る魔法かつ魔族に最も有効な光魔法。だからこそあれに絞って使い続けたんだろうけど……。
「因みに合計どのくらい撃った?」
「一回三〜五個で……二十発ちょい?」
「流石セクターナ家の神童……」
少なくとも六十個って、相変わらずとんでもない魔力量、ってちょっと待て。
「ねぇ、確か直前に転移魔法も使ってなかった!?」
「あ、実は実家から魔力結晶二〜三個持ってきていてね、転移魔法はその一つを使ったんだよ。でなきゃ使った時点で魔力枯渇起こしてたし、戦ってた時も持ってた結晶全部使ってどうにか少しの間は保ったんだよ」
魔力結晶というのは名前の通り、魔力でできた結晶の事。専用の器具を使って空気中の魔力や自分の中の魔力を固形化したものだ。そこに込められた魔力の量は多ければ多いほど結晶の大きさが大きくなる。
因みにティートが持ってきていたのは、器具の限界まで貯めたものだったらしい。
「あ、あと器具も一つ持ち出してきた。それで今まで作ったの合わせると全部で4個かな」
って事は魔王と戦った時は三つ使ってあれだけの魔法を撃ってたのか。それでも充分とんでもないけど……って器具持ち出してきた!?
「おい、持ち出してきたってそれ自分家とはいえ泥棒だろ」
「うん、まあ帰った時に地獄見るの確定したけど」
魔力結晶を作る器具は途轍もなく高価な代物だ。魔導士の家でも一つあればいいところをティートの実家には幾つかあったらしくその一つを黙って持ち出したということらしい。
あぁ、帰ったらティートがあの家のご当主様に魔法で吹っ飛ばされる未来が浮かんだ。ついでにこっちにまで飛び火してきそうで寒気がした。
まぁ、閑話休題。
「シェルナは何か覚えてる?」
「わ、私もティート君と同じくらいの時に聖力が枯渇してしまって……気が付いたらお布団の中でした……」
まぁ、シェルナの聖力はティートみたく馬鹿げた量ってわけじゃなかったから仕方ないっていうかその量で魔力結晶使ったティートと同じくらい保ってる時点で凄いけどね。
「みぎにおなじく、です!きづいたらシェルナに、ぎゅーっとだきしめられてたです。ちっそくするかとおもったです」
「あわわわっ、ごめんなさい!」
「なぜあやまるです?きもちよかったです!」
「ふぇっ!?」
「こらそこのドM!シェルナに余計なこと言わないの!」
シェルナは純粋だからウィリスはある種毒なんだよね……。
とにかく、シェルナとウィリスもダメと。後は……。
「バルカは?」
私の覚えてる中じゃあ最後まで一緒に戦っていたのがバルカ。なら……
「いや……俺もあの後すぐダウンしちまったからな。ちょっとそこら辺は……な?(流石に、あの状況はレナには言えねぇよな……)」
……なんか言い方に違和感を感じたけど……気のせいか。
という事は誰も最後の方は覚えてない、と。まぁ、しょうがないっか。
「取り敢えず、そこら辺の事は誰も覚えてないし置いとこう。じゃあ今の状況について。説明はみんなされた?」
「ん?自由にしてて良い的なことは教えられたな。それ以外のことはよくわかんねぇから、あまり聞いてなかったけど」
バルカ、よく分かんないのは同意するけど話は聞こうよ。
「僕もまあ、そういうことは聞いたかな。あとは、今日だけは城から出れないっていうのとか」
「出れない?」
そういえばモモも今日以外は自由に〜とか言ってたような。
「なんでも今日はいろいろゴタゴタしてるから、街に行くのは少し危ないかもしれないんだってさ。ゴタゴタってのは多分僕らが来たからだろうけど」
まぁ、魔力もすっからかんだから無理も出来ないし……というティートに確かに、と頷く。私の聖力もほんの少ししか回復出来てない。そもそもこの魔族領内はどうやら聖力の回復スピードが普通より遅くなっているみたいで。シェルナもまだ全然回復出来てないようだ。
「ま、それはこの城内なら好きにして良いってことだろ?なら自由に探索させてもらおうぜ!」
あ、そういえば城の外に出ることはともかく中でのことは何も言われてない。っていうか確かに自由にして良い的な事を言われてたっけ。
「じゃあ、今日はそれぞれでこの城の中探ろっか」
「レナの場合は城の中というより魔王探しに行きそうだな」
バルカのその言葉は当たりだった。流石というかなんというか。
「当たり前でしょ。私は魔王倒すために今まで頑張ってきたんだから。昨日は手も足も出なかったけど……こうして生きてて、自由に動けるんだから。魔王付け回して弱点見つけてやるわ!」
「うわぁ、ストーカー発言だな」
まあ、確かにこれじゃあストーカーだけど、いずれ再戦するための事だし。何を言われても私はやるって決めたし。私はこういうの一度決めたらやり遂げる。有言実行!
そうと決まったからには、まずは対象の居場所を突き止めないと。
ティートの実家であるセクターナ家は、昔から腕の立つ魔導士を輩出していてかなりの名家。だけどティートはとある理由から家出したつもりなので、帰らないつもりで色々まずい物まで持ち出してきてしまった模様。けど、今思えばあれがあったらよかったなというのも多いのでいずれ帰る羽目になるでしょう。そして激怒したセクターナ家当主の父親にぶっ飛ばされるというレナの予想は……?