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二話…side魔王

今話は魔王side、レナ達がダウンする辺りからです。

ブンッと大きく横薙ぎに振るわれる聖剣。それを俺は後ろに下がって避ける。


後ろから襲って来る炎を纏う剣は障壁で逸らすように避ける。


……もうかなりキレが鈍ってきているな。


「……もうそろそろ止めないか? 」


体力的にはもう限界が来ているだろう。


なのに勇者は、彼女は攻撃を止めようとしない。意識も混濁してきているようなのに、その剣を振るう。


「はっ、誰が、止めるかっての」


そう言って縦に振り下ろしてくる聖剣を横に避ける。さっきまで絶え間無く飛んできていた流星含め遠距離魔法は既に止まっていた。


そちらを見れば既に魔力枯渇や聖力枯渇で気を失っているようだ。


彼女ももう、気絶していてもおかしくないのに、と言うより普通なら気絶しているだろうに。まだその眼は光を失わず、真っ直ぐに俺を見ていた。


聖剣に灯る聖力の光はもう消えようとしていたが。


何故、そこまでして。何に焦っているんだ?


……そう疑問に思った時、ふと、彼女の姿が昔の自分に重なって見えた。


……ああ、成る程。彼女も誰かに認めて貰いたくて、それで……。


「っもう、いい加減に、当たりなさいよ! 」


彼女はそう言いながら剣を振るが、もう足もフラフラとおぼつかなくなっていた。


限界、か。


「っ! 」


「っと」


振り下ろされた剣を後ろに避けると、彼女はその勢いで前のめりに倒れそうになる。俺は短剣を放り投げ、その体を慌てて抱きとめた。


ったく。


「もう、これ以上無理をするな。焦っても良いことはない。今は休め」


そう言いながら彼女の頭を、手に持っていた剣を床に置き、その手で撫でる。少しすると彼女の瞼が落ちて、その体重が更に腕に掛かる。気を失ったか。


俺は一つ、深い溜息を吐いた。なんでもないように見せてはいるが、俺もかなり疲れている。主に身体面より精神面だが。


っと、さて。


「お前はどうする? まだやる気か? 」


俺は後ろにいるまだ立っている大剣の男に声をかける。その問いかけに彼は首を横に振る。


「いや、俺ももう限界だ。それに、うちの勇者様を盾にされちゃ敵わんからな」


肩を竦め、彼は飄々とした感じでそう言う。


全く、


「俺はそんな事しないし、そもそもする意味がないんだが」


「だろうなぁ。さっきの言葉が本当なら」


そう言いながら彼は大剣をしまう。俺も床に置いた剣を鞘にしまう。片手でやるのは意外に難しいな。


さて、取り敢えずあそこで倒れている彼らを含め、このままにはしておけないな。


「セン。あの東棟は? 」


隣に転移してきた執事服で赤い髪赤目の男、俺の側近のセンに問いかける。


「既に使える状態です」


常に綺麗に保ってありましたから、と言うセン。全く、本当にみんなよくできたかぞ……いや部下だな。


「リン、ロン。あそこで気を失っている二人と一匹をそれぞれ部屋まで運んでくれ」


『はーいっ!』


俺がそう言うと、いつの間にか部屋に入ってきていた赤い髪赤目のお互い顔立ちの似た少女と少年……リンとロンはぴったりハモって返事をする。


そうしてリンは聖女と妖精を、ロンは魔導士を抱えて転移していった。恐らく東棟まで直接転移したのだろう。


「お、おい。二人……と一匹をどこに連れて行ったんだ? 」


大剣の男が慌てて聞いてくる。ああ、説明しておかないと不安にさせるだけだなこれは。


「人間の客人専用の宿舎スペース、東棟だ。こんな所に放っておく事はできないからな。取り敢えず、居心地は……まあ、人間の所の高級宿並みに良いと思う」


俺はそう説明しながら、勇者の少女をそっと抱き上げる。


「取り敢えず、こっちに来い。部屋の前まで転移するから」


「お、おう」


彼はそう返事をすると、戸惑いながらも近くまで寄ってくる。俺は彼が範囲内に入ったのを見ると、複数人用の転移魔法を使い、一気に東棟に転移した。


「お前の部屋はここ。で、こっちの左隣の部屋がこの子、勇者の部屋だ。……と、そういえばお前、名前は? 」


部屋の場所の説明をして、ふと、まだ彼の名前を知らないという事を思い出した。名前が分からないと話すときに困るだろう。


「ん? ……ああ、名乗ってなかったか。俺はバルカ。バルカ・スタンドだ。見ての通り大剣使い。で、お前は? 魔王でも名前くらい、あるだろ? 」


彼、バルカは簡単な自己紹介をし、俺の名前を聞いてくる。名前、か。


「ルナ。俺の事はルナと呼んでくれ。本名とは少し違うが、皆からはそう呼ばれているからな。よろしく、バルカ」


「おう、そうか。よろしくな……って、勇者パーティの俺が魔王とよろしくすんのっておかしいような気もするが……まあいっか」


じゃあ、部屋使わせてもらうぜー、と言いながら部屋に入っていったバルカを見届ける。彼はその勇者パーティの中じゃあ一番話し易いみたいだな。魔族に対する偏見があまりないように見える。


そんな事を考えながら、俺は隣の部屋……勇者用の部屋に入る。


そして、抱き上げていた勇者を部屋のベッドの上に寝かせる。


「モモ、彼女の世話を頼む」


俺は部屋の入り口からこちらの様子を見ていた桃色の髪に赤目の少女……モモに彼女の世話を頼む。流石に男の俺だと出来ないことが多いからな。


「はい、承知いたしました。……ただその、陛下……出来ればその人が持っている聖剣をどうにかして貰えませんでしょうか? 」


ああ、忘れてた。俺は急いで勇者の握りっぱなしの聖剣をその手から外し、その腰に差してあった鞘に収め、すぐ横の壁に立てかける。


その際に聖剣を持った時、少し発光したような気がしたが、見なかったことにした。全く、今出て来ようとするなよ。


「なんと言いますか……陛下はやっぱり規格外ですね。聖剣に触れても(・・・・・・・)何ともないなんて」


「そうか? 聖剣を触るくらいなら父さんも出来ていたはずだが」


驚愕の目線を送ってくるモモに俺はそう言う。が、モモは首を横に振る。


「確かに、陛下のお父様……前魔王陛下も聖剣に触れる事はできましたが、それでも少々火傷が有りましたよ。その前の魔王陛下は触ることすらできなかったらしいですし……ましてやそんな物を持つなんて事をして何ともない魔族は陛下だけです」


よく考えてみると、確かに魔族としては本来あり得ない事だな。


「そう言われると何も言えないな……。まぁ、取り敢えず。彼女の事は頼んだぞ」


「はい」


はぁ、これでようやくひと段落か。疲れたな……。


……明日辺りもっと疲れそうだが。


女性の部屋に長居するのも良くないので、俺は部屋を出ようとドアまで行く。


ふと、部屋を出る前に勇者の少女を見る。そして、少しだけ、微笑んだ。


やはり、似ているな……あの人に。


結構規格外な魔王……ルナ。


次の日からは暫く疲れる日が続くでしょう。

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