一話…side勇者
今話も勇者のレナsideです。
「断る」
「は? 」
魔王の放ったその言葉に、私達は思わず固まった。
私は間抜けな声を出してしまったし、後ろではバルカがずっこけそうになった。ティートは唱えていた呪文が途切れたし、シェルナはこの空気に飲まれてあたふたしてる。ウィリスは完全にフリーズしてるなぁ……。
閑話休題。
「どーゆー意味よそれ? 」
「言葉通りだ。俺は、お前らと殺し合うつもりはない」
私は意味が分からず、魔王に問いかけるとそうきっぱり答えて来た。
更に、
「お前に問おう、勇者。そもそもこの戦いに、何の意味がある? 何故、お前は俺を殺しに来た? 」
そう、聞いて来た。
何を聞いてくるのか。そんなの決まってる。だって魔族は……
「これ以上、貴方達魔族に好き勝手されるわけにはいかないからよ! 」
人をたくさん、殺して来た。たくさんの村が魔族によって滅ぼされた。最近消えた村の跡を見た。魔王がいる限り、これからもそれは続く。だから、
「貴方が戦う気が無くても関係ない。私達が貴方を殺すだけ! 」
私はそう言い放ち、聖剣を構えた。そして靴の踵を鳴らすことで後ろに合図を送る。
「先手必勝!『流星』っ! 」
そして、後ろからティートの光属性魔法、流星が放たれ、複数個の光弾が魔王の方へと飛んで行った。
流星は光属性魔法と呼ばれる物の一つ。魔法には属性があり、種類は火、水、風、土、雷、光、闇の七つ。その中でも光属性魔法と闇属性魔法はその全てが最上位魔法に分類される。
何せこの二つに属する魔法は全部魔力の消費量が多いし、威力も他より桁違いに高い。使える人もあまりいないそうだ。
それと、今挙げた七つの属性の他に、無属性と呼ばれるものがある。障壁や治療から始まり転移もこの無属性魔法。七属性に当てはまらないもの全てがここに入る。未だよくわかってない属性で、でも分かっているものは全てが中位魔法から最上位魔法のものだ。
因みに私は魔法とは相性が悪く、下位魔法位しか使えない。
そもそも聖力を使うことのできる人間(勇者、聖騎士、聖女、神官)は他の人間に無い聖力を持つ代わりに、魔力が通常より少ない。聞いたところによると、聖力と魔力は相性が悪いのだとか。だから使えてもほとんどの人は下位魔法までだ。まあ、聖力を魔力に変質させるなんていう芸当ができるイレギュラーもいるけど。
閑話休題。
ティートの流星は一つの光弾だけで最上位魔法な上、複数あった。
まあ、そんな物を一斉に放てば威力はとんでも無いことになる。
……だけど。
「いきなり最上位魔法、しかも流星か……随分と容赦無いな」
「ちょっ、マジか……」
それを受けた魔王は無傷だった。その周りにうっすらと違和感を感じるから、恐らく魔力障壁(無属性魔法の一つ。魔力で作る盾)で防いだんだろうけど……そんななんでも無いように防ぐなんて。
「ハハッ、すげぇな……」
そう言ったのはバルカ。手に構え持つ大剣はその刃に炎を纏っている。
バルカの持っているものは炎龍剣と呼ばれる剣で、火龍の中でも上位種である炎龍の牙で作られたんだとか。聖剣ほどでは無いにしろ魔族に有効なのは経験済みらしい。
バルカはそれを構えて魔王に向かって、大剣を持っているとは思えないほどの猛スピードで走り、
「どりゃーあっ! 」
炎龍剣を魔王に振り下ろす。しかし、刃は魔王に届くこと無く途中で弾かれる。何度斬りつけ、叩きつけても全て弾かれた。
マジかー!あの剣って確か防御結界ぶった切った事もあるのに。
「悪い! 俺のは全然効かないみたいだ!まずはあの障壁壊さねぇと……! 」
そう言いながらバルカが一度下がってくる。
「大丈夫よ。私がやるから」
さて、私も行こう。
聖剣を構え直す。聖剣から聖力があふれて眩しく青白い光を放つのを見ると、私は魔王に向かって走った。
こうしている間も、ティートが流星で援護してくれている。これでも全くビクともしないなんてね……。
でも、聖剣は魔法を無効化する能力がある。あの障壁では防げないはずだ。
私は魔王に向かって聖剣を振り下ろす。聖剣は思った通り障壁をすり抜けた。けどまあ、
キィンッ
魔王はいつの間にか左手に持っていた短剣で聖剣を受け止めた。うん、そう簡単にはいかないよねやっぱり。
「くっ! 」
「筋は良いが、剣に振り回されている感があるな。重心をもう少し安定させろ」
魔王はそう言いながら剣を押し返す。確かに聖力を込めたときに重くなったりして扱いづらくなってたりするけど……
それを敵である魔王に指摘されるとか……!
「よそ見してんじゃねぇぞ! 」
と、バルカが魔王の後ろから剣を振るが、それはさっきと同じ障壁に阻まれる。
けど、それは想定済み。
「はぁっ! 」
だから私は反対側から剣を振る。それを魔王は横に避ける。
私は技量が足りないけれど、聖剣は障壁を無効化する。バルカは障壁をどうにかする力が無くても剣の技量は私よりある。だから、二人で同時に攻撃すればどうにかなる!
後ろからはティートやシェルナ、ウィリスが遠距離魔法で牽制してくれている。これなら……
「自分に足りない所は仲間で埋める、か。まぁ、良い判断だ」
魔王は私たちの様子を見ながらそう言い、いつの間にか腰に差してあった長剣を右手で抜いた。
その剣は全体的に紅い金属でできているシンプルな十字剣。それを短剣と一緒に構えるのを見て、私達は魔王に向かって剣を振るった。
けれど結局、私達は魔王に一撃も当てることが出来なかった。
魔王は私達の攻撃をいとも簡単に受け止め、躱し、なのに私たちに向かって攻撃することは一度もなかった。
しかも戦い始めて約一時間後、私とバルカは体力切れで、ティートは魔力枯渇、シェルナも聖力枯渇でダウンしてしまった。
そして、気がつくとそこは私の知らない部屋のベッドの上で。
「あ、おはようございます。勇者様」
隣にはピンク色の長髪に赤い目の、魔族の女の子が笑顔で座っていた。
えっと。これは一体どういう状況?