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プロローグ…side勇者

今話は勇者sideのプロローグです。




これは、今から二十年以上前の話。


その頃は魔族の動きが活発化していて、なのに何百年もの間勇者が現れなかったらしい。


そしていつ魔族に侵攻されるかという怯えから、痺れを切らしたエスクラル王国(魔族領に接した国)は、勇者を異世界から召喚する事にした。


最初からそうしろと言いたいところだけど、その召喚魔法は魔力を膨大に使う禁術の一つ且つ使える者も滅多にいないという超高難易度の魔法。使うことの出来た魔導士もその後しばらくして亡くなったと言うし。


そんな状況でこの世界に召喚されたのが先代勇者、この世界では珍しい黒髪を持つ女性、ユナ・プローヴァーだった。


彼女は聖力がとても高く、召喚から数日後、十七歳の若さで聖剣に選ばれ勇者となった。また剣の腕も高く、エスクラル王国年に一度の大行事、武術大会ではぶっちぎりで優勝したとか。


そんな彼女はその年の冬、王国聖騎士団のうち数人と共に魔王を打倒せんと魔族領、カルラナタルへと向かった。本人曰く、


「本当は一人で向かったんだけど、途中で勝手に追いついてきたのよ。聖騎士団辞職したとか言って」


という事らしい。

その中には聖騎士団長や期待の新人もいたとか。


そしてそのまま魔族領に入って、見事魔王を倒して来たという。


ただし、帰還したのは魔族領に入って十数年後のこと。そして無事帰還したのは勇者である彼女と、一緒に向かった彼女と同年齢の聖騎士、計二人だけだった。


その空白の十数年、一体何があったのか。帰還した彼女らはそれについて、誰にも話さない。









それは、娘の私も例外ではない。


私はレナ・プローヴァー。勇者ユナと、帰還した聖騎士リクトの間に生まれた。


二人についての話は、学び舎の授業や近所の大人の雑談、図書館の本など色んなところから知った。そして、そのどこでも知ることができなかった空白の十数年間について、何度も両親に聞いた。けど、答えてはくれなかった。


いつも、「まだ早い」「話してもいいと思ったらね」と言ってはぐらかされた。


私は二人に認められる為、毎日勉強や剣の稽古に励んだ。


そして十五歳の時、私は母さんの持つ聖剣に選ばれ、勇者となった。


皆が私を祝福してくれた。両親もだ。けれど、私の知りたいことはまた、はぐらかされた。


まだ何かが足りない。そして私は気付いた。

私はまだ聖剣に選ばれただけ。何もしていない。


母さんと同じように魔王を倒せば分かるのではないか。


それから私は聖剣を携え、魔族領へと向かった。


幸い、冒険者登録は済ませてあり(しておくと何かと便利)、旅の上での心得は小さい頃から母さんが何度も教えてくれていた。


決して近くない道のり。その間に私には信頼できる仲間ができた。


熟練冒険者のバルカ・スタンド。


魔導士のティート・セクターナ。


聖女のシェルナ・リルム。


妖精のウィリス。


色々あった。それはもう色々と。このメンバーもその他出会った人たちも妙に個性強かったし。このメンバーで言えば、バルカは腕は立つけど戦闘狂な上馬鹿、ティートは真面目なツッコミ役だけど極度の方向音痴、シェルナは天然ボケにドジっ子属性付きだったり、ウィリスは真性ドM。


何度もケンカして別行動になったりして、でもまた自然と集まって、いつの間にか誰よりも安心できる仲間になっていた。









そして私達は魔族領カルラナタルへとたどり着いた。


魔王のいるであろうどでかい城まではかなり距離がある。それなりに時間がかかりそうだ。


と思ってたら、


「それじゃあ、転移魔法でも使う? 」


ティートがちょっとした爆弾発言を落とした。


「ちょっと待って。転移魔法って確か王都の学者さん達が長年研究し続けて未だに成功したことがないやつよね? 」


私は思わずそう聞き返す。今言った通り、転移魔法はあったら便利だけれど未だに成功したことがない夢の技術だ。


けど、


「へぇ、王都じゃあそうなのか。まあこれは、僕の家の秘術みたいなものらしいからなぁ…」

「マジかスゲェ!! 」


流石というべきか大魔導士家系。バルカが興奮している。あ、シェルナも嬉しそう。ウィリスもシェルナの頭上でワクワクしている。


とまぁそんな感じで、私達は長そうな道のりを歩かずに転移魔法でパッと城の敷地内まで行くことができた。


目の前にあるどでかい城、ここでは魔王城としておこう。魔王城は王国の王城の倍は大きいように見える。造形は意外に似ているかも知れない。色は黒が主色だけれど、想像していたおどろおどろしさがあまり無い。きっちり手入れされてるし。横でシェルナが「綺麗…」と呟き、急いで口を手で覆っていた。


「安心しろ。俺も同意見だ」


「なんというか…イメージと全然違う」


唖然とした様子で隣の男性陣も魔王城を見上げていた。


とそんな中、ウィリスだけがあまり驚いていなかった。というより注目しているところが違うというか。


「ウィリス? 」


「そこにいるのは、だれです? 」


私が声をかけると、ウィリスは目線の先…魔王城の門の上あたりに声をかけていた。


私は同じようにそこを見てみる。すると、そこにはなんとも言えない小さな違和感が…


「やっぱバレちゃうか。流石、感応妖精と勇者だね」


そんな声とともにその違和感が実体を持った。


それは、ウィリスと同じくらいの大きさ…大体身長二十センチくらいの女の子。但し、背中にコウモリのような羽が有り、細長い尻尾も、頭には角も生えている。どう見ても魔族。それも…


「あ、私はイク。種族はサキュバスだよ……あんま魔力無いから小っちゃいけど。今日は魔王陛下から勇者御一行の案内役に任命されたんだ」


そんな事を、ウィンクを決めながら言う魔族…イク。


イク以外、私を含めて全員が十数秒間ほどフリーズしていた。


取り敢えず、一言。


「何で態々魔王が勇者に対して案内役なんでつけるのよ」


明らかに罠ね。そうとしか思えない。


だけどイクはケラケラと笑いながら、


「あーそれはねぇ、この門を入ったところから先は異空間みたいな感じで、最早迷宮アスライルがイージーモードだと思えるくらい広くて複雑なんだよねー。オマケに私たちが仕掛けてる悪戯()も多いから、案内無しだと絶対今日中にはたどり着かないよ? 」


「それは城というよりもう迷宮なんじゃあ…」


「うん、私もそう思う」


ティートと呟きにイクが頷く。


因みに迷宮アスライルというのは迷路系統ダンジョンの最高難易度。それの上をいくダンジョンとなると確かに、案内役がいるとありがたいね。案内自体が罠じゃなければ。


「どうする? 」


「俺は案内役についてったほうがいいと思うぜ。これは俺の勘だが、此奴は多分本当に魔王のところに連れてってくれそうだな」


この意見はバルカ。バルカは馬鹿だけどこういう時に言う勘って言うのはかなりの確率で当たる。冒険者は嘘をついてるかどうかを見極められるかどうかで生存率も上がるらしい。偶に依頼者が危ない奴だということがあるから。


まあ、そういう事で。


「それじゃあ、案内頼むわ」


「OK頼まれた! 」


ノリのいい魔族。毒気抜かれたわ。


ティートとシェルナが不安そうにしているけれど、二人もバルカの勘の良さはしってるからね。ウィリスも賛成だったみたいだし。


パタパタと飛ぶイクを先頭に私達は城内の廊下を歩く。うん、確かにこれは迷宮だわ。さっきから何回角を曲がったか忘れたし、眼を凝らすと廊下の彼方此方に違和感を感じる。アレがさっきイクの言っていた悪戯なんだろう。


「いやー、私はいつも遊んでるから慣れてるけど、普段ここで働いてる魔族でさえ一歩間違えたら迷うんだよねー」


イクが笑いながら教えてくれる。悪戯もかなりの頻度で更新されているらしく、毎日のように被害者が出ているのだとか。


あ、少し離れたところで一人の魔族が逆さにぶら下げられてる。近くにいた違う魔族が降ろそうとして違う罠にかかってる。これは仕事とかに支障が出るんじゃあ…。


と思ったけれど、どうやら罠に掛かったのがこの城で働く人なら一時間で自動的に解除されるんだそう。無駄にハイテクな罠。


と、歩き始めて一時間。目の前には綺麗な装飾のされた大きな扉。


「さて、この扉の先に居られるのが魔王陛下だよ。……まあ、今代の陛下はちょっと変わってるから驚くかもね」


こちらに振り向いてイクはそう告げる。


「ん? それはどうゆー事だ? 」


「いやー、何せ陛下はにぎゃっ」


バルカの問いにイクは何か答えようとした。が、それはイクの頭上から降ってきた何かによって遮られた。


カコーンッ、という軽い音と共に降ってきたソレ……タライはイクの頭に直撃した。行くはそのまま床にタライと共に落ちる。


それを見て私達は言葉を失う。ふと、私はタライが降ってきた方を見てみると、そこには何かの魔法陣があった。って、あの陣どこかで……


「転送魔法!? 始めて見た…」


ティートが驚いてる。でもこれ、道理で見た事があると思ったら、前に母さんが使ってたわ。確かこの魔法、使う魔力(母さんの場合聖力)が多いのにできる事が少ないから廃れてもう知ってる人も少ないとか聞いたな……。なんて魔法の無駄遣い。


そしてタライの直撃を受けたイクは痛そうに頭をさすりながらも起き上がる。


「イタタタ。もう、陛下のいけず。オシオキならタライより電撃の方がビリビリして気持ち良いんだけどー」


前言撤回。なんか気持ちよさそうにしていた。と、


ゴゴゴンッ!


今度は三つのタライ(オシオキ)が連続してイクの頭に直撃。音がさっきより重く響いてたから鉄製なんだろう。


イクもかなり堪えたのか床で悶えてる。しかし、さっきの様子を見るにイクは……


「私、なんかイクと仲良くなれそうです」


「やめて」


横でそんな事を言うウィリス(ドM)に私は拳骨を落とす。嬉しそうに殴られた頭をさするウィリスにさっきのイクが被る。やっぱりイクはウィリスと同類(同じドM)だ。


そもそも相手は魔族、敵なのに…って早速握手交わさないで。


「戦う前から疲れた気がする」


「あー、もう無視しよう」


「えっと、あの」


「見ちゃダメ。これは目に悪過ぎる」


オロオロとしているシェルナの目をティートが塞ぐ。


もう置いて行こう。ウィリスとイク(ドM共)以外全員がそう思った。


私は二匹を無視して目の前の扉を両手で押して開ける。


と、いきなりヒュンッと私の横を何かが通った。そして


「ぐぇっ」


「うわっ」


後ろからイクの呻き声とウィリスの驚いた声が聞こえてきた。


そして振り向く前にまた横を扉の奥に向けて何かが通った。


私は改めて扉の向こうをみた。


そこにいたのは二人の魔族。そのうちの一人、執事服を着た赤髪赤目の魔族の手にイクが握られているところを見ると、さっき横を通ったのはその魔族らしい。


その魔族は隣の魔族と少し言葉を交わし、魔法陣を展開して何処かへと消えた。…転移魔法ってそんなホイホイ使えるものじゃないと思うんだけど。


「部下が見苦しいところを見せたようで悪かったな」


そして問題はもう一人の魔族。


そう言って謝った其奴が、さっきイクが言っていたことから考えると…


「あんたが、魔王? 」


「そうだ。それで勇者御一行、何の用だ?」


その魔族…魔王は正直に言って魔王っぽく無かった。いや、魔王なのはその体から感じる魔力の大きさから分かる。けれど思ってたのと全然違っていた。


私が予想していたのは、見るからに邪悪って感じの顔をした化け物(昔子供向けの本で見た絵)、そうでなくともそんな雰囲気の奴だったんだけど…。


実際の魔王は全然違う。深海のような、澄んだ青色の髪に青と赤のオッドアイの、顔は少し幼さの残った青年。頭に二本の角と背中に蝙蝠のような羽が生えている以外、人間にしか見えなかった。表情は無表情だけど雰囲気も普通の青年。後ろでもみんな少し驚いてるみたい。


閑話休題。


魔王の問いかけ。これに対する答えは決まっている。


「魔王、あなたを倒しに来たわ! 」


勇者の言う、お決まりのセリフ。母さんもそう言ったらしいし。


「…それは、俺と殺し合いにきた、という事か?」


何を当たり前のことを聞いてくるんだろうか。


「そうよ。それ以外にないわ! 」


私はそう言って腰から聖剣を抜き、構える。後ろでもバルカは大剣を構え、ティートは杖を構えて呪文を唱え、シェルナは聖書を開き聖句を唱えていた。ウィリスもシェルナの方へ飛んでいき、肩に乗っている。基本的にウィリスはみんなのサポートだからね。




だけど、魔王は何故か私たちの様子を見て溜息を吐いた。


そして、


「断る」


「は? 」


魔王のその言葉に、私達は思わず固まることになった。


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