Episode 1
桜舞う季節。
…要するに、僕達高校生にとってはかなり重要なクラス替えがある季節だ。
貼り出されているクラス別の名簿を片目で見て、仲がいいやつの名前を見つける。
よかった。今年もぼっちにならなくて済む。
心から安心した。僕は生来、友達を作るのが苦手な人種なのだ。
名簿を見て、こいつは1年の時同じだったなとか、一緒になったことないな、などと考えていた。
そこに、一つ見慣れない名前を見つけた。
「桜井…春花、か。」
この時期に転校生…?
高3にもなって、それはないだろう。
不登校だったとか?
それで単位落として一つ上の学年の人とか?
んーー。その可能性は捨てられないな。
実は僕の見落とし…?
親の離婚で苗字変わったとか……?
軽々しく聞けることじゃないな。
うーん……どうなんだろう、気になる。
そうやって僕が頭を悩ませていると、
いつの間にか、騒がしかった廊下には誰もいなくなっていた。
否。僕が違うところへ行ったのか。
しまった。
自分が極度の方向音痴なのをすっかり忘れていた。
……ここ、どこ?
今まで…2年間か、通ってきた高校の教室の位置さえ頭に入っていないのは、自分でもどうかと思う。
高校の構造が、迷路みたいなのが悪い!
僕は自分の方向音痴を、高校のせいにすることにした。
自分のせいにしても、高校のせいにしても、とにかく道に迷ったことに変わりはない。
途方に暮れていると、前に人影が見えた。
あの人に道を聞こう。
男として情けないな…
と思いながら、その人に近づいていく。
先生……じゃないな。生徒か。
制服きてるからね。
小柄な身長に、細長い四肢。
そして何より目を引くのは…
「髪ながっ……」
僕は自然とそう口に出していた。
脚の関節近くまである、真っ直ぐでつやつやの黒髪。
それが僕の目を一番引いた。
……あの子何か言ってる。
お経?
いやいや待てって、絶対ない。
頭つるつるじゃないし、出家は……してないんじゃないかな?
「……は、…せなかった。いつ………ションで……れるのに……。……袖にならなきゃ……まあ、いっか」
んーー。なんともコメントしづらい。
なんて言ってるのか、さっぱりわかんない。
それに……
す ご く !話しかけにくい…
どうしよう……このままここで餓死するのか…?
1人でパニックになっていると、女の子がこっちを振り向いた。